2月8日

 午後の授業の後、薔薇の館はまだ少し時間が早い為か珍しく私と由乃さんの二人きりだった。

 「由乃さん、今年のバレンタインはどうするの?」
 「どうって?」

びっくりのツケは(前編)

 「今年は令さまに何を差し上げるの?」
 「う〜ん、そこが問題なのよね。」

 由乃さんのお姉さまである令さまはお菓子を作らせても一流、手芸をやらせてもこれまた一流と言う顔に似合わぬ女性らしいお方。このせいで由乃さんは去年のバレンタイン、何を送るか悩んでいたのよね。

 「まぁ、何とかなるでしょ。私の作ったものなら何でも喜んでくれるし。」
 「はいはい、ごちそうさまです。」

 令さまなら確かに由乃さんの作ってくれたものなら何でも喜んでくれるだろうなぁ。

 「そう言う祐巳さんはどうするのよ。」
 「う〜ん、それがねぇ。」

 実のところ、始めは普通にチョコを造って渡すつもりだったのだけれど、ある事があって悩んでしまっている。それは・・・


昨日の午後

 「祐巳ったら、こんな所で寝てしまって。」

 ん?お姉さまの声が聞こえる。

 「まぁまぁ。疲れているんだよ、きっと。寝かせておいてあげなよ。」
 「そうね。」

 いえいえ、寝ていませんよ・・・お姉さま。そう、ちょっと・・ウトウト・・・しているだけです。

 「そう言えば祥子、バレンタインはどうするの?」
 「そう言う令は由乃ちゃんにあげるのでしょ。」
 「当然。去年は間に合わせっぽいものになってしまったから、今年はちゃんとしたチョコレートケーキを焼こうかと思っているよ。」

 良かったね由乃・・・さん、今年は・・特大みたいだよ。

 「去年ねぇ。ああ、そう言えば去年のバレンタイン、祐巳ったら面白いチョコレートを持って来たのよ。」
 「面白いチョコ?」
 「そう。おいしいトリュフチョコと、あまり出来のよくないトリュフチョコを一緒に入れた当たり付きチョコ。祐巳曰く、びっくりチョコレートらしいわ。」

 ああ、去年の・・苦し紛れ・に言った・・・言い訳のことだ・・・。

 「それは面白そうだね。でも祐巳ちゃんにしては珍しく凝った事をしたんだね。」
 「そう。私もてっきり普通のチョコをくれるものとばかり思っていたわ。」

 はい、私も・・その・つもりでした。

 「でも折角祐巳が考えてくれた事だし楽しませてもらったわ。」
 「ふ〜ん、それで。」
 「残念ながら私が引いたのははずれ。でもちょっと悔しいから当たりの方だったと言ったのよ。」

 えっ?はずれだったん・・です・か?

 「当たりだとどうなったの?」
 「当たりと言ってよかったわよ。だって祐巳との半日デートが出来たもの。」
 「ごちそうさまです。」
 「いえいえ。」

 わぁ〜・・お姉さま・・・そんな風に思っ・てくれて・・・いたんだぁ。

 「今年も何か趣向を凝らしてくれるのかしら?」
 「半日デートできるように?」
 「そうよ。」

 えっ!?えっ!?お姉さまったらそんな。って、びっくりして目がさめてしまったけど、これは起きるに起きられない・・・。

 「半日デートがしたいなら祥子の方から誘えばいいのに。」
 「でも、誘っても来てくれないかもしれないじゃない。」
 「それは無いと思うけど。」

 はい、誘ってくださればいつでも!って言いたいけど、言えないのがもどかしい!

 「でも去年のお正月、祐巳が私の家に泊まりに来た時に「またいつでもいらっしゃい」と言ったのだけれども、あれから一度も祐巳から泊まりたいと言ってこないのよ。」
 「おやおや。でも、それもまた祐巳ちゃんらしい。」

 えっ!?でも、流石にそれは言いにくいと言うか、なんと言うか・・・

 「そんな事もあるし、私が誘ってもし行きませんなんて言われたら嫌じゃない。」
 「無い無い、そんな事。」

 はい、絶対に無いです。

 「いいのよ。ちゃんと祐巳が今年も趣向を凝らして私を誘ってくれるだろうから。」
 「そうしたら、はずれを引いても当たったと言い張ってデートするわけだ。」
 「そうよ、悪い?」
 「いえいえ。重ね重ねごちそうさまです。あ〜あ、由乃もそんなお茶目なことやってくれないかなぁ。」
 「あら、令の場合はそんな趣向がなくてもデートするのでしょう?」
 「当然!」
 「うふふ。ごちそうさま。」

 これはなんと言うか・・・テレテレ。

 ドタドアドタ、バタン!

 「令ちゃんいる!」
 「わっ!」
 「由乃、騒がないの。ほら祐巳ちゃんが起きちゃったじゃない。」
 「あっ、ゴメンね祐巳さん。」
 「いえいえ。」

 ありがとう由乃さん、起きるタイミング作ってくれて。

回想終わり


 という訳で、今年も何か考えなければいけないんだけど、なかなかいい案が思い浮かばない。そこで苦し紛れに由乃さんにバレンタインのネタを振ってみたりしたわけだ。

 「祐巳さんも何にするか悩んでいるんだ。今年も令ちゃんにレシピ聞いてみる?なんなら私から言っておくけど。」
 「レシピとかの問題でもないんだよなぁ、これが。」
 「えっ?どう言うこと?」

 一人で悩んでいても仕方が無いので由乃さんに昨日のいきさつを話してみると・・・

 「なるほど、去年のツケが今年に回ってきたわけか。」
 「ツケって訳じゃないけど。」
 「でも苦し紛れの言い訳が招いた種でしょ。」
 「ごもっとも。」

 確かにその通りだ。

 「おまけにその流れだと、令ちゃんも私に何かしらの趣向を求めているみたいだし。」
 「あっ、でもそれは希望みたいなものだし、私への期待とはちょっと違うよ。」
 「それはそうなんだけど、こんな話を聞かされると何か考えないといけないかなぁ、なんて考えてしまうものよ。」

 大好きなお姉さまが期待していると聞いては、妹としてはかなえたいと思うものよね。

 そんな感じで二人して頭をひねっていると・・・

 「ごきげんよう、祐巳さま、由乃さま。」
 「ごきげんよう、瞳子ちゃん、乃梨子ちゃん、可南子ちゃん。」

 ご存知1年生3人組の登場。

 「あっ、そうだ。乃梨子ちゃんは志摩子さんにバレンタインのチョコをあげるんでしょ?」
 「はぁ。そのつもりですが。」
 「で、瞳子ちゃんと可南子ちゃんは祐巳さんにあげると。」
 「なっ、なっ、なっ、何故わたくしが祐巳さまに!?」

 どうせだから乃梨子ちゃんに意見を聞こうと思っていたら、すかさず由乃さんがチャチャを入れてきた。

 「祐巳さま、私からはちゃんとお渡しします。」
 「ありがとう、可南子ちゃん。そっかぁ、瞳子ちゃんはくれないのか。」
 「いっいえ、別に差し上げないとかそういう訳ではなくて・・・そう、そうですわ!祥子お姉さまのためにチョコレートをお作りしますからそのついでに祐巳さまのチョコも作って差し上げますわ。」
 「ありがとうね、瞳子ちゃん。」

 う〜ん、ちょっと意見を聞くような雰囲気じゃなくなってしまったなぁ。そんな事を考えていたらお姉さまと令さまが薔薇の館に入ってきたのでこの話は中断してしまった。

あとがき(H17/2月15日更新)
 かなり長くなってしまったのと、今日中に書ききれそうに無かったので前後編にしました。あと、題名はまだ仮ということで。

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