2月9日

 昨日のことで授業と授業の間に由乃さんと作戦会議。

 「祐巳さん、何かいい案は浮かんだ?」
 「それが何も。」

びっくりのツケは(後編)

 昨晩も遅くまで考えていたおかげでちょっと寝不足気味。あ〜あ、どこかにいい案が落ちていないかなぁ。

 「はぁ、祐巳さんもか。私もさっぱりなのよね。こんな事なら祐巳さんからあんな話聞くんじゃなかった。」
 「今更言われても。」

 まぁ、確かに引き込んでしまったような形になってしまって悪かったとは思うけどね。

 「そう言えば志摩子さんはどうするんだろう?」
 「やっぱり乃梨子ちゃんにあげるんじゃないの?」
 「何かひらめくかもしれないから、後で聞いてみない?」
 「そうね。」

 流石に授業の合間では違うクラスの志摩子さんとゆっくり話せないと言う事でお昼を食べながら話をする事に。そこで薔薇の館でのランチタイムに志摩子さんを誘ってたずねてみると・・・

 「別に変わった事をする必要も無いんじゃないですか?」

 と、乃梨子ちゃんが発言。志摩子さんとお昼をご一緒しようとしたら当然のようについてきたわけで。

 「そう言う訳にも行かないわよ。ちょっと考えてみて?もし志摩子さんが何か趣向を考えて欲しいなぁなんて思っている事が解ったら、乃梨子ちゃんはどうする?」
 「そりゃあ・・・なにかやろうと思いますね、やっぱり。」
 「そうでしょ。」

 実際に自分に置き換えられてやっと納得した乃梨子ちゃん。しきりに考え込んでいる所を見ると自分も何かやろうなんて考えているのかもしれない。

 「でも何も浮かばないのでしょう?」
 「そうなのよね。ねぇ志摩子さん、何かいい案は無い?」
 「そう言われても・・・。」

 確かに急に言われて考え付くものでもないよね。

 「薔薇の館の物置に隠してお姉さまに見つけてもらう、なんてウルトラCは無いか、やっぱり。」
 「それは結果的にそうなってしまっただけで・・・」
 「えっ?志摩子さ・・・じゃなかったお姉さま、なんの話です?」
 「ああ、それはねぇ、」
 「由乃さん!」

 ああ、となりで昔話が始まってしまった。まぁ、他の話に逃避したい気持ちも解るけど、私達には余り時間が残されていないのよ由乃さん。

10日

 「ああ、もう私は去年祐巳さんがやったびっくりチョコレートをやるからいい!考えるのは、これでおしまい!」
 「えぇ〜、由乃さん、それはちょっとずるい。」
 「いいの、もうそう決めたから。祐巳さんも早めに決めた方がいいよ。時間がなくなってしまうから。」

 うう、とうとう由乃さんが考えるのを諦めてしまった。だからと言って、私まで去年と同じと言う訳にはいかないしなぁ。

 「そう言えば乃梨子ちゃんも何か考え込んでいたけど、何かやるつもりかな?祐巳さん、ヒントになるかもしれないから聞いてみたら。」
 「もう、他人事だと思って。」

 でも案外いい考えかも。人の意見を聞いてふといい案が浮かぶ事ってよくあるものね。と言うわけで、早速次の授業の合間に1年生の教室に出向いて乃梨子ちゃんに聞いてみることにした。

 「私ですか?いろいろ考えたのですが、チョコレートのマーブルケーキを送る事にしました。」
 「ピンク地で白薔薇模様の包装紙に包んで?」
 「そうです。」

 なるほど、去年志摩子さんが聖さまに渡したのをそのまま再現するんだ。

 「本当は後でうかがった時にお願いするつもりだったのですが。」
 「えっ?まさか志摩子さんに目で合図するって言うのまでやるの?」
 「いえ、流石に合図だけでは伝わらないだろうから、直接お姉さまに1階の物置に私からのプレゼントがあると伝えて欲しいんです。」
 「なるほど。」

 確かにあれまで再現しようとすると、志摩子さんが来るまで薔薇の館の玄関で待っていないといけなくなってしまうものね。

 「ところで祐巳さまはどうなさるか、もう決められたのですか?」
 「それがなかなか。」

 結局乃梨子ちゃんの案もヒントにならなかったしね。

11日

 祭日と言うことで一日中この事を考えていたけど結局何も浮かばず、その上ずっと唸っていたから祐麒にうるさいと怒られてしまった。うう、お姉さんがこんなに苦しんでいるのに怒るとは、なんて心の狭い弟なんだろう。悩んでいる姉を見たら、普通は怒るのではなく何かあったの?と心配するものじゃない?と文句を言ったら

 「どうせ祥子さんに送るバレンタインチョコの事だろ。」

 だって。そんなに解り易いかなぁ、私って。

12日

 放課後の薔薇の館はいつもと違い、珍しく2年生の3人だけが額を突き合わせていた。まぁ、本当は今日の集まりは無いにもかかわらず、私の為に志摩子さんと由乃さんが薔薇の館に来てくれたと言うだけの事なのだけど。

 「さてさて、本当にどうしようかなぁ。」
 「まだ決まってないの?バレンタインはあさってよ。」
 「うん、でも明日は日曜日だし、今日中に決めれば何とかなるよきっと。」

 というか、今日中に決めないとどうにもならないんだけどね。

 「祐巳さん、あまりいい案が浮かばないのなら、無理はせずに普通の手作りチョコレートを送ってみては?」
 「確かに志摩子さんの言うとおり、無理に考えすぎておかしな物を送ってしまったら本末転倒だしね。」
 「う〜ん、でもやっぱり何かしたいし。」
 「ああ、それなら。」
 「なになに?なにかいい案があるの?」

 由乃さんの思わせぶりな態度に、藁にもすがる思いで飛びついたのだけど・・・

 「祐巳さんにリボンをかけて、その上ほっぺにチョコを塗って私がプレゼントです、食べてくださいって。」
 「あのねぇ。そんな事では喜んでもらえないわよ、令さまじゃないんだから。」
 「ああ〜、祐巳さん今さらっとひどい事言ったぁ!」
 「あら?そうでしたかしら?」

 この後はお互い大爆笑。でもこのおかげで、悩んでばかりいてちょっと堅くなっていた頭が少しすっきりしたみたい。ありがとう由乃さん。

 「でも祥子さまなら間違いなく喜んでくれると思うけどなぁ。」
 「まだ言うか、この子は。」

 そんな事で喜んでもらえるなら苦労はしないわよねぇ。

 「そうなるとやっぱり去年のような当たり付きのチョコくらいしかないんじゃないの?」
 「でもそれ、由乃さんがやっちゃうんでしょ。それに去年と同じと言うのはやっぱり芸が無いし。」
 「祐巳さん、祥子さまはチョコレートそのものではなく、祐巳さんがどうやってデートに誘ってくれるかを楽しみにしているのでしょ?ならそこから考えてみたらどうかしら?」
 「!?」

 そうか!何か変わったチョコとばかり考えていて、本来の目的を忘れてた。確かにお姉さまが何かを成功させたらデートってのでいいんだよね。となると・・・

 「ありがとう、志摩子さん!やっぱり持つべきものは親友だね。」
 「あら?私には何も無いわけ?」
 「当然由乃さんにも感謝してます。」(ペコリ)
 「うむ、解ればよろしい。」

 その後は3人とも大爆笑。ああ、やっぱり友達っていいなぁ。

2月14日

 昨日は結局夜遅くまでかかってしまったけど、何とか間に合ってよかった。でも去年同様失敗したチョコを量産してしまって、それを無理やり祐麒に押し付けたのは悪かったかなぁ?祐麒は学校で友達と食べるからいいと言っていたけど。

 「ごきげんよう、祐巳さん。目が赤いところを見ると昨日は苦労したみたいね。」
 「ごきげんよう。そう言う由乃さんこそ、ドラキュラみたいよ。」
 「祐巳さん、そう言う時はウサギみたいと言ってよ。」
 「それは失礼しました。」

 お互い目は赤いものの、顔はすっきり。どうやら由乃さんもチョコは上手く出来たみたいね。

 「でも、そんな目をしているところを見ると祐巳さんのチョコ、相当大変なものみたいね。」
 「そうでもないよ。チョコ自体は去年作ったトリュフの発展系。去年はプレーンだったけど、今年はアーモンドトリュフとオレンジリキュールの入ったトリュフの2種類を作っただけ。でも去年同様失敗作を量産した結果、時間はかかるは大量の材料を無駄にするわ。」
 「なるほど。変わったチョコを作るのは諦めたわけね。あっ、でも何か考えついたんじゃないの?」
 「ふっふっふ。それは秘密です。」
 「まぁいいわ。成功したら教えてね。」

 う〜ん、成功と言うかあれをお姉さまがどう思ってくれるかはわからないけど、ここまで来たら当たって砕けろ。とりあえず渡してみてダメだったらその時はその時よね。

 放課後、今日は由乃さん達は部活、志摩子さん達は委員会のお仕事で遅れてくるとの事だから(乃梨子ちゃんは委員会じゃないけど、きっと気を使ってくれたんだよね。)薔薇の館にはお姉さまだけが来るはず。だから早めに行って紅茶の準備をしなきゃ、などと考えて急いで薔薇の館に行ったのだけど、そこにはすでに先客がいた。

 「おっ、お姉さま。お早いですね。」
 「3年生はもうこの時期、やる事が少なくなっているもの。」
 「なるほど。」

 多少予定は狂ったものの、この二人きりと言うのは絶好のチャンス!

 「お姉さま、受け取っていただきたい物があります。」
 「なにかしら?まさかロザリオじゃないでしょうね。」
 「ロ、ロザリオ!?」

 全然考えてもいない単語が出てきてびっくりしたけど、してやったりと言った顔で笑うお姉さまの顔を見て去年のバレンタインの事を思い出した。

 「お姉さま、脅かさないで下さいよ。」
 「ふふふ。ごめんなさいね、祐巳があまりに真面目そうな顔で言うものだからつい。でも反応まで去年と同じなのね。」

 そう言えば去年も同じ言葉を口走ったような気がする。

 「それで何がもらえるの?」

 そう言って両手を前に出すしぐさをするお姉さま。解っているくせに。

 「はい、バレンタインのチョコレートです。」
 「ありがとう、ありがたく受け取らせていただくわ。」

 私の差し出したチョコをうれしそうに受け取るお姉さま。その顔を見る事が出来ただけで、昨日の苦労が全て報われるって物です。

 「今、いただいてもいい?」
 「はい。」

 赤い包装紙に緑のリボンをかけた包みをほどいていくお姉さま。この中にある物をどう思ってくれるだろう?ちょっとドキドキの瞬間である。そして包装紙をほどき終り、蓋を開けたところでお姉さまは怪訝そうな顔をした・・・。

 「これは・・・紅いカード?」

 そう、そこにあったのは山百合会のゴム印が押してあり、ハッピーバレンタイン!福沢祐巳と直筆で書かれた二つ折りの紅いカード。

 「はい紅いカードです。」

 これは一体何の意味だろうと少し考えた後、お姉さまは

 「なるほど、さっきのロザリオの話のお返しをされたみたいね。」
 「えっ?」
 「これは去年の宝探しのカードでしょ。」

 流石お姉さま、説明しなくても解ってもらえてうれしいです。その通り、これは去年のバレンタインに新聞部が企画した宝捜しのカードと同じ物。

 「と言う事は紅いカードを見つけた私には、何か特典があるわけね。」
 「そうです。ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンとの半日デート券がもらえます。」

 そう言ってこれまた私のサインの入ったデート券を手渡した。

 「ありがとう、使わせてもらうわ。」
 「はい、私はいつでも時間を空けて待っています。」
 「では今週の日曜日の午後なんてどうかしら?」
 「もちろん!喜んでお受けします。」

 喜んでもらえたようでほっと一安心。ああ、今から日曜日が楽しみ!

 「ところで祐巳。」
 「あっ、はい。」

 体全体で喜んでいるとお姉さまから声をかけられた。

 「このデートは後でレポートの提出はしなくてもいいのよね?」
 「えっ?えっ?それはどう言う・・・。」

 お姉さまの言っている意味がよく解らず右往左往していると、そんな私を見てお姉さまは「冗談よ。」と言って面白そうに笑った。

 「あっそうか!」

 なるほど、宝探しの景品のデートにはレポート提出義務があったんだっけ。う〜ん、流石お姉さま。結局最後はしてやられてしまったみたいね。


あとがき(H17/2月18日更新)
 2005年版バレンタインSS、どうだったでしょう、楽しんでもらえたでしょうか?いやぁ、それにしても長かったぁ〜。今回のは本当に苦労しました。

 まずオチがなかなか決まらなかったんですよ。始めは当たり付きチョコパート2の方法をひたすら考えたものの思いつかず、でもデートにはもって行きたいからなぁと考えた結果このようなオチになりました。今思うと、元々がウァンティーヌスの贈り物からの発生型のSSだからこのオチになったのは良かったんじゃないかなぁなどと自分では思っています。

 あと、それぞれのキャラの台詞回しにも結構気を使いました。私のSSの場合、セリフの前にキャラの名前が無いからセリフの雰囲気で察してもらうしかないので、簡単にセリフでも何回か書き直したりしているんですよね。正直言って今の状態でもちょっと気に入らない部分もあるのですが、これ以上遅くなるのもなんだし、考えすぎたからと言ってそれが前よりよくなるとも限らないのでこの状態でアップしました。

 次に小道具の話。

 まず紅いカードですが、文中に山百合会のゴム印とあります。これに関しては、原作の方には書かれていません。でも、こう言うものが無いと祥子さまに宝探しの紅いカードと解って貰えないかもしれないと思い、入れました。後、ゴム印となってますが、始めは山百合会のプレスの入ったと言う文章だったんですよ。(プレスと言うのは金型で押し出して立体的に文字が浮き出す、あれです。)でも普通の学校には生徒会の印までプレスを作ってないだろうなぁなどと思いゴム印にしました。でも、山百合会なら普通にありそうだなぁなどとも思ってみたり。

 続いてトリュフチョコの話。本編で(今回のSSでも)祐巳ちゃんがいろいろ試して失敗作がかなり出来たとかいてますが、トリュフってそれほど難しいチョコレートじゃないんですよね。

 作り方はと言うと、沸騰寸前まで熱した生クリームを金属製のボールに入れ、それに刻んだチョコと溶かした(またはやわらかくした)バターを入れて、堅めにしようと思った時はチョコが解ける程度に、やわらかい物を作りたい時はしっかりと泡が立ち、光沢が出るまでかき回してガナッシュを作ります。ここで凝った物を作ろうとする場合はオレンジリキュールやクラッシュアーモンド、きざんだラムレーズンなどを入れます。そして、少し冷ました後ホイップクリームをしぼるような要領で直径15ミリくらいの球体にして冷やします。(固めに作る時は、一度冷やしてからゴムヘラなどで練らないと口どけが悪くなります。)それがしっかり固まったところで、お風呂よりちょっとぬるいくらいのお湯で湯煎したチョコレートを手に塗り、その上に先ほど作ったガナッシュの球体を転がしてコーティング。それを一旦冷やして再度同じ事をし、それにココアパウダーをまぶして出来上がりです。

 長々と作り方を書きましたが、読んで貰えば解る通り祐巳ちゃんの言う「味は最悪」なトリュフチョコと言うのは作るのがかなり難しいんですよ。香辛料や洋酒とありますが、令さまが渡したレシピの本だからブランデーの分量とかも載っていただろうから極端な量を入れたとかは考えづらいし、香辛料と言っても祥子さまに差し上げるものにまさかハバネロとかパクチーは入れるはずも無いですからね。一体何を入れたんだろう?

 さて最後に、このSS発生型のSSがあるのでそれもち近々書きたいと思います。まぁ、そちらはネタ集と言った感じになりそうですけどね。でもとりあえず今週末は初めての合宿も含めてSSは休ませて。この話に苦労したおかげでここしばらくゲームしてないのよ。久しぶりにFFがやりたいので許してやってください。m(_ _)m

追記
 11日が祭日なので日にちを一日ずつずらしました。まぁ、実際に変えたのは前編の9日→8日だけですが。

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