「ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~」
第112話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<三重魔法詠唱者>



「ロクシー様、私がいるからと言うのはいったいどう言う? 何かの比喩ですか?」

「文字通りの意味ですわ、アルフィン様」

 いやいや、文字通りって意味が解らないから。
 私がいるからフールーダ卿が来ない訳がないと言われても、私にはさっぱり解らないのだから説明してもらわないと。

 頭にいっぱいハテナマークが浮かんでいる私は、とりあえずこれを聞けば答えてくれるかな? と言うワードを搾り出してロクシーさんにぶつけてみる。

「文字通りと言われましても解りませんわ。フールーダ卿は強力な魔力系マジックキャスターなのでしょう? ならば信仰系マジックキャスターである巫女の私とは系統が違うので、わざわざこの様な所まで出向くと確信するほど興味をもたれると、なぜロクシー様がお考えになられたか、私には理由が解らないのですが」

 そんな私の質問に対し、ロクシーさんは一瞬、おや? っと言うような顔をした後、なにやら一人で納得したかのように頷いた。
 う~ん、あの感じからすると、私はフールーダ卿に対して何か決定的に情報が足りなかったみたいね。
 そんな私の考えを肯定するかのように、ロクシーさんは口を開く。

「てっきりアルフィン様はご存知かと思っていたのですが。でも確かに正確な情報をどうしても集めなければならない敵対している国でもなければフールーダ卿の強大な力を持ったアンデッドを召喚する魔法や、帝国にとって脅威になるようなモンスターを何度も単騎で退治したと言う功績を伝え聞いているのであれば魔力系マジックキャスターと思われても無理はないですね」

「と言う事は違うのですか?」

 今の話からすると魔力系マジックキャスターとしか思えないんだけど。
 私と同じ信仰系のマジックキャスターではアンデッドモンスターを倒すのには有利だろうけどその他のモンスター相手ではそれ程の強さを持たないだろうし、精霊系は戦闘に比較的向いているけど、もう一つの系統である精神系のマジックキャスター共々、今挙げた3系統ではアンデッドの召喚ができない。
 そう、アンデッドの召喚ができるのは魔力系か死霊系マジックキャスターだけなんだよね。

 なら魔力系でなければ死霊系と言う事になるんだけど、基本死霊系マジックキャスターは忌み嫌われるし、何より私のような信仰系マジックキャスターと真逆の存在だから、そもそも私に興味を持つはずがないのよ。
 う~ん、やっぱり魔力系マジックキャスターとしか思えないんだけどなぁ。
 
 と、こんな風に思考の泥沼にはまった私を、ロクシーさんはあっさりと次の一言で助け出した。

「いえ、違いませんよ。魔力系は魔力系です。ただ、それだけではないというだけで。フールーダ卿は魔力系マジックキャスターであると同時に精神系と信仰系のマジックキャスターでもある、所謂トライアッドなのです」

 トライアッドと言うと三重魔法詠唱者と言う奴よね? なるほど、3種類の系統魔法を操れるから魔力系ではないと言ったのか。

 しかし、位階魔法の使い手で3系統の魔法を収めるというのは何とも凄い話ねぇ。
 ユグドラシルではジョブのレベル上限は15だから100レベルキャラクターなら3系統を使えるようになるのはそれほど難しくはないけど、特殊ジョブについたり高価なマジックアイテムを使わない限りは位階ごとや全体の魔法習得数の上限は変わらないから、系統数が増えれば増えるほど使える魔法の選択肢が狭まってしまうもの。

 例えば1位階が20種類覚えられるとして、魔力系魔法を10覚えてしまったら信仰系と精神系では合計で10しか覚えられない事になる。
 ただでさえ位階ごとに数ある魔法の中からどれを覚えるか悩むのに、それを3系統も取るなんて事は私からしたら考えられないんだよなぁ。
 私だって一応魔力系職業を取ってはいるけど、あれはフライとかの便利魔法の為だけで、覚えた魔法の殆どは信仰系魔法を選んでいるもの。

「なるほど、それならば解ります。魔力系だけでなく、信仰系マジックキャスターとしても優秀ならば私の魔法に興味を示すのも納得ですね」

 聞いた話が嘘でなければフールーダ卿は6位階まで使えるらしいし、ユグドラシル的に言えば魔力系ジョブを10、信仰系を10、精神系を10とって残りの6+アルファをそれぞれに割り振っているって所かな? いや、アンデッド召喚やモンスター討伐のことを考えると魔力系ジョブを15レベルとって、残りを二つに別けていると言った所かも。
 でも、そうなると覚えている魔法はどのような比率にしているんだろう? ちょっと気になるわね。

「いえ、どうやらそうではないようで、やはり魔力系の要素が一番強いようですよ」

「そうなのですか? ではやはり私にそこまでして会いに来る理由が思い浮かばないのですが」

 信仰系にそれ程力を注いでいないのならば、研究するにしてもそれこそこの国の神官の魔法でも事足りるだろうし、私が使った魔法の中にはこの世界ではあまり一般的ではないものもあったのかもしれないけど、それだとしても資料を取り寄せさえすればすむのだから、わざわざこんな辺境まで足を運ぶ必要はないもの。

「はい。フールーダ卿も巫女としてのアルフィン様にはそれ程興味は持たれないと思います。フールーダ卿がアルフィン様に興味をもたれるとすればクリエイト魔法の方でしょう」

「クリエイト魔法、ですか?」

 クリエイト魔法と言うと、儀式魔法と偽装して小屋を作ったあれよね。
 でも作ったのってただの浴場よ? 別に要塞を作ったというわけじゃないし、大規模な壁を作ったわけでも無いんだからそんなに興味を引かれることかな?

「ええ。フールーダ卿は弟子たちに常々、皆が覚えたがる戦闘にしか使えない攻撃魔法よりも、軽視されがちな汎用性の高い生活魔法を覚えるほうが事人生においては重要だと語っていたそうです。そんな彼の事ですからアルフィン様のクリエイト魔法を耳にすれば会いに来ないと考えるほうがおかしいでしょう」

「そんなものでしょうか?」

 確かにクリエイト魔法は色々と便利だと思う。
 特にこの国は人が生きて行くのに絶対に必要な塩もクリエイト魔法で作っているくらいだから、そのような考えを持つ方ならば一度私にあってみたいと思ってもおかしくは無いかもね。

「はい。あの魔法キチ・・・魔法に深い愛情を持たれているフールーダ卿ならば、我が国にはない建築物を創造すると言うアルフィン様のクリエイト魔法に、必ず興味をもたれるはずですわ」

 きっキチガイ!? ロクシーさん、今キチガイって言おうとしたよね? さっきの話でフールーダ卿はかなりの人格者だと思っていたんだけど、もしかしてやばい系の人なの?

「そっそんなに私のクリエイト魔法に興味をもたれると、ロクシー様は思われますか?」

「はい。フールーダ卿がここを訪れれば、間違いなくアルフィン様にその儀式魔法を使った建築物を創造するクリエイト魔法を見せて欲しいと頼み込む事でしょう。ああ、目を血走らせて迫るフールーダ卿の姿が目に浮かびますわ」

 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ! 何よそのホラーな爺さまは。
 それにクリエイトマジックをその場で見せて欲しいなんて頼まれたら大事じゃない! だってあれ、ただのでっち上げ儀式魔法だもの。
 実際にそれだけの魔法オタクならば、周りの子たちはただのにぎやかしで、私一人だけでも小屋が創造できるって見抜かれるに違いないから、絶対に見せる訳にはいかない。

「そんなにですか?」

「ええ、それ程です。未知の魔法に触れたりする機会があれば、アレは普段の姿など想像もつかない化け・・・いえ、熱心な研究者の顔をのぞかせるはずですわ」

 今度は化け物ですか。
 ロクシーさんの中のフールーダ像が大体解ってきたわね。
 普段の口調が思わず崩れるほど、フールーダ卿は魔法に関してはかなりの困った人物と言う事なのだろう。
 と言う事は実際にここに来ていたら、なんとしてもクリエイトマジックを見せて欲しいと懇願されていただろうし、その時はとても困った事になったのも簡単に想像できるわね。

 ああ、皇帝陛下に同行してこなくって、本当に良かったわ。
 でも、それ程の魔法オタクだとすると・・・。

「ロクシー様の言葉からすると、フールーダ卿が皇帝陛下と共にこの地を訪れなかったのは確かに不思議ですね」

「アルフィン様もそう思われますでしょう。わたくしには、どう考えても異常事態としか思えません。ですから先程のように、アルフィン様の前だというのに考え込んでしまったのですわ」

 可能性があるとすれば私のクリエイト魔法以上に興味を惹かれる魔法の存在を知ったと言う事なんだろうけど・・・そんなの一つしかないじゃない。
 となると、フールーダ卿はアインズ・ウール・ゴウンを名乗るマジックキャスターと対面して、その魔力に魅了されたと言う事なんだろうなぁ。

 でもフールーダ卿ってバハルス帝国どころか、この周辺国一のマジックキャスターなんだよね? そんな人が魅了されてしまって、この国は大丈夫なのかしらん?
 まぁ私としては好都合なんだけど、後々おかしな事にならないといいんだけどなぁ。

「あっ、ロクシー様が仰られていた皇帝陛下の様子がおかしかったというのは、もしかして」

「ええ、フールーダ卿の事もあるのでしょうね」

 そりゃあ、自国の最大の魔法戦力とも言える人が自分以外に魅了されてしまったら心中穏やかじゃなくなるってものよね。
 私だって、シャイナやまるんが別の人に魅了されたりしたら嫌だもの。

 でもまぁ、皇帝陛下は終始不機嫌と言う訳ではなく、笑ってはいたから大丈夫なのかも。
 ある意味戦力の一つとして割り切るのならば、味方の魔法戦力が増した上に派閥争いも起こらずにすんだとも言えるのだから、噂のアインズ・ウール・ゴウンが人格破綻者でないのならそこまで深刻に考えるほどの事ではないのかもしれないものね。

「ロクシー様、フールーダ卿に関してはきっと皇帝陛下にも何かお考えがあるはずです。こちらに滞在している間、思い悩むようなしぐさが見られなかったのならば私たちが心配するほどの事も無いのかもしれませんよ」

「そうですわね。陛下も戦勝パーティーの話題まで出しているのですから、戦争を前に国に不穏な空気が流れていると言う事も無いのでしょう。そんな状況で私たちが情報も無くあれこれ考えても仕方がないことなのかもしれません」

 そうそう、厄介事は偉い人たちに任せましょう。
 私たちはこの辺境の地で、気楽にお酒でも飲んで楽しんでいればいいんだから。

 と言う訳で難しい話はこれで終了! 私も懸念材料である辺境候についてはこれ以上詳しい情報をロクシーさんも持っていないみたいだから頭から追い出して、今日の晩餐を楽しむことにしましょう。
 まぁロクシーさんは本音の所ではそうも言っていられない立場なのかもしれないけど、今日くらいは心の荷を降ろして楽しんで欲しいものね。

「話もお済みのようですので、ワインセラーより届けられたスパークリングワインをお持ちしました」

 私たちの様子を見て、いつの間にか帰ってきていたギャリソンが6本のワインが乗ったワゴンを押してテーブルの横へと運んできた。
 この様子からすると、話に割り込む訳にはいかないとずっと待機していたのかも。
 悪い事をしたなぁ。

「ありがとうギャリソン。それでは説明をお願い」

「畏まりました、アルフィン様」

 ギャリソンはそう言うと、次々とスパークリングワインをあけていく。
 そしてそれぞれを少しずつワイングラスに注ぎ、私とロクシーさんの前に並べていった。

「まずは一番右から」

 そして順番に私たちにテイストをさせながらそのワインの説明をし、私とロクシーさんが選んだ2本を残して残りをワゴンに乗せて下げさせた。
 一度栓を抜いてしまったのだから飲まなければ炭酸が抜けてしまうのだけど、流石に飲まないものをここに置いておく訳にもいかないからね。
 うん、きっと誰かが消費してくれるのだろう。

 捨てたりしないよね? 

「新しいワインに合わせたオードブルも用意してございますが、そちらをお持ちしても宜しいでしょうか?」

「ええ、お願い」

 最初に持ってきたオードブルは赤ワインにあわせたもので、強めなチーズや生ハムを使って作られたものだったから白のスパークリングワインには、特にロクシーさんが選んだ甘めなものには合わないから用意してくれたのだろう。
 でもこれはギャリソンらしくないから、きっと料理長の指示なんだと思う。
 あの子、お酒を飲めないのにこう言う所はちゃんと気が付くのよね。

 少しだけワインを楽しみながら歓談した後、スープを経てお待ちかねの魚料理の皿へ。

「これがエビフライですか。見たことのない食材ですが、ポワソンの皿に乗せられていると言う事は水生生物なのですか?」

「ええ。甲殻類と言って、私の国で取れる蟹や海老と呼ばれる生き物がそれにあたりまして、大変珍重されています。かく言う私も大好きな食材なんですよ」

「まぁ、それは楽しみです。では早速」

 そう言うとロクシーさんはエビフライにフォークを刺し、ナイフを入れて口に運ぶ。

 サクッ。

 噛んだ瞬間に広がる微笑み、それはまさに至福を味わった表情で。

「大変美味ですわ。香ばしい衣の歯ざわりの後に来る程よい弾力。そして最後にプツっと気持ちよく噛み切れたと同時に何とも言えない旨みが口いっぱいに広がって。なるほど、話を聞いたカロッサ子爵が一度味わってみたいと言うのもうなずける味ですわね」

「気に入っていただけたようで、私も嬉しいです」

 甲殻類は人によっては好き嫌いがあるしアレルギー体質の人もいるから少し心配したけど、どうやら気に入ってもらえたようで一安心。
 そして、その後に出されたソルベでは、

「えっ? もしかしてこれは氷菓子ですの?」

「はい、柑橘類を使ったシャーベットですが、お口に合いませんでしたか?」

「いえ、大変美味しく頂いています。頂いていますが、まさかこの様なタイミングで氷菓子が出るとは思わなかったもので」

 といった一幕が。

 ロクシーさんが言うには帝都でもアイスクリームを口にする事はあるらしいんだけど、かなりの高級品らしくてコース料理に組み込まれることは殆どないし、あったとしても国賓を招いた時のデザートに出されるくらいで魚料理の口直しであるソルベに出るなんて事は考えられないんだって。

 そう言えばこの世界には手軽な電気冷凍庫なんてないから、シャーベットやアイスクリームを作ろうと思ったら高価なマジックアイテムを使うか、周りに被害が出ないよう完璧にコントロールされた冷凍の魔法が使えるマジックキャスターが居ないとダメなのよね。
 そう考えたらこのシャーベットが、かなり貴重な料理と言われても納得するわ。

 この後も先程のエビフライの話から気を効かせてくれたのであろう、肉料理の皿にハンバーグが付いていたり、

「これは・・・何と美しいデザートなのでしょう」

 本来はもっと単純なもので占められるはずのデザートの皿の代わりに、生クリームやアイスクリーム、そして各種フルーツをふんだんに使って作られたとても豪華なプリンアラモードが出て来てちょっとびっくり。
 でも流石にこれはちょっとやりすぎ、後で叱っておかないといけないわね・・・なんて思ったんだけど。

「わたくし、アルフィン様のお持ちになられた物を食べるまでは甘すぎて少々お菓子が得意では無かったのですが、此方のデザートはいくらでも食べられそうです。でもどうしましょう、こんなに食べてしまっては体型が崩れてしまうかも。ああ、でも幸せ」

 そう言って嬉しそうにデザートを頬張るロクシーを見て、やっぱり褒めてあげるべきかな? なんて考えるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 作中に料理長の話が出てきますが、本当ならこのキャラでも外伝を書くつもりだったので詳しいキャラ設定がしてあります。
 実はまるんと同じくらいの外見年齢の小さな男の子のキャラクターで、種族はハーフエルフ。
 パティシエの小さな女の子とセットで作られたNPCと言う設定でした。

 その他にも厨房には何人か名前付きのNPCがいるのですが、ボッチプレイヤーの冒険ではもう外伝は書かないのでこの設定は別の話を書く時に流用しようと思っています。

 さて、位階ごとに覚えられる魔法の上限があると言うのはD&Dでも確かそうだったと思うのでこうしました。
 因みに、よく位階魔法は位階から1を引いたものに7をかけて1を足したレベル、6位階なら5×7+1で36レベルになれば使えるようになると考察されてますよね? これはあくまで私の考えなんですけど、これってレベルなら何でもいいと言うわけじゃなくてマジックキャスター系のジョブの合計がそのレベルにならないと使えないと今は考えています。

 実を言うと、今回フールーダを出すに当たって調べ直すまでは信仰系なら信仰系ジョブの合計が上の数式に当てはまらないとその位階の魔法が使えないんじゃないかなんて思っていたのですよ。
 でも、その理論だと6位階が使えるフールーダのレベルが感想返しによると40以下である(オーバーロードwikiより)と言う事に説明がつかなくなるんですよね。
 流石に信仰系と精神系のレベル合計が5以下と言うのはありえないですから。

 と言う訳で、そのような考察の元、今回のような話になっています。
 因みに1位階の覚えられる魔法数が20としてというのは、ユグドラシルの一般的なマジックキャスターが100レベルでも200ちょっとしか魔法が覚えられないという私のおぼろげな記憶からきています。

 一応書かれている場所を探しては見たんですが、見つかりませんでした。
 どこかにあったはずなんだけどなぁ。


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