「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第130話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<辺境候の新たな情報>



 紆余曲折あって、なんとかリーナという受付嬢に接客を担当してもらえるようになった。
 その決め手になったのがギャリソンが言った次の言葉だ。

「あなたを指名したのは私です。その理由は今日、アルフィン様がこの冒険者ギルドを訪れたのはお忍びの行動ですからギルド長に対応して頂く訳にも参らず、かと言って見ず知らずの方に対応してもらうのも不安が残ります。しかしカルロッテ様のお知り合いである、あなたならば信用にたると私が判断したからです」

 こう言われたリーナさんは、やっと土下座の体制をといて私たちの対応をしてくれる気になってくれたと言うわけなのよ。
 まぁ、それでも未だにちょっと腰が引けてるんだけどね。

「そっそれではアルフィン様、今日はどのような情報をお求めでしょうか?」

「そうねぇ、一応報告は受けてはいるけど、まずはおさらいとして前回まるんが聞いた話を聞かせてもらおうかしら。中には新たな情報が加わった物があるかもしれないもの」

「畏まりました」

 そう言うと、リーナさんはなにやら手元のバインダーのようなものを開いた。
 たぶんあれは顧客情報みたいなもので、前にどんな情報を売ったのかとかが書かれてるんだろうなぁ。
 だってすぐに説明を始めずに、しばらくその書類を見続けた後、新しいバインダーのようなものを開いてやっと私たちに説明を始めたんですもの。

「前回まるん様に一番最初にお話したのは、このイーノックカウの警備を担当している兵士が、戦争を前にして少し減っていると言う話です」

 リーナさんが言うには、毎年この時期になると帝国と隣の王国とが戦争をする為に兵士が減ってしまい、そのせいで裏路地などまで警備の目が届きにくくなって治安が少し悪化するからあまり近づかない方がいいらしい。
 でもさ、それって変じゃない? だって、今回特別編成の部隊を送り出すまではイーノックカウからは兵士を送った事が無かったんでしょ。
 なら戦争が起こるからと言っても、去年までは兵が減るなんて事は無かったはずなんだけど。

 その事をリーナさんに聞いてみると、ある意味当たり前な答えが帰って来た。

「バハルス帝国では普段、主要街道の警備は中央の帝国軍から兵士を出して担っています。これは平時にも兵士たちに仕事を割り当てる為なのですが、しかしこの時期になるとその兵士たちの内、ある程度の数が出兵の為に中央に戻されてしまいます。ですから毎年その補充の為にイーノックカウ駐留軍からそちらにまわされるのですが、今回は新設された爵位を叙爵なされましたアインズ・ウール・ゴウン辺境候様の歓迎の為に6万もの大軍団を戦争にと投入するとの事で、主要街道だけじゃなくこの周辺の街道警備兵まで中央に呼び戻されている状況でして。そのような理由から、今年は近辺の街道警備にまでイーノックカウの駐留兵士が狩り出されています」

 なるほど、戦争には行かないけど、国軍がやってる仕事が回ってくるから街の中の警備がおろそかになるってわけね。
 それなら納得するわ。

「続いて、前回はアンデッドの出没例が増えているという話をお伝えしましたが、この件に関しては定期的な見回りによってすでに収束しております」

 その話を聞いてホッとした表情を浮かべるまるん。
 なんだろう? たとえゾンビ映画みたいに大量発生したとしても、私たちからすればこの世界の兵士でもなんとかなる程度のアンデッドなんて物の数ではないと思うんだけど。
 う〜ん、もしかして現実世界になってお化けが怖くなったとかなのかなぁ? でも、図書館の首なし伯爵とかは平気みたいだし。
 今度聞いてみるかな?

 そんなたわいも無いことを私が考えているうちにも話はどんどん進んで行ったんだけど、前にロクシーさんが話してくれたフールーダとか言う魔法使いの噂話とか、どこかの野盗が帝国の名前を騙って村を襲っていたらしいけど、ガゼフと言う戦士長によって退治されたとか、どうでもいい話が続いたのよね。

 でも次の話で、私はとても驚く事になったのよ。

「そう言えばカーミラと言う吸血鬼の情報をノービスの冒険者が伝えたって話、しましたよね。王国の冒険者ギルドからの情報によると、彼、その吸血鬼を倒した功績で大出世したらしいですよ。おまけにその師匠に当たる人がなんと、今回この帝国の新しい貴族として迎えられた辺境候様だと言う話です」

 なんと! まさかこんな所でアインズ・ウール・ゴウン辺境候の新情報が聞けると思っていなかったから、ホントびっくりしたわ。
 その上、辺境候の情報はこれだけじゃなかったのよね。

「その上辺境候様は帝国の名を騙る野盗たちの討伐にも手を貸したと言う話ですから、元は王国にいたマジックキャスターなのかもしれませんね。それを帝国に寝返らせたと言う事ですから、皇帝陛下も辺境候様が帝国貴族に名を連ねた事を今回の戦争で大々的に広めようと大軍団での出兵を決断なされたのかもしれません。王国にとっては、対外的に見てそれだけの存在を敵国に奪われたと恥を晒す事になるのですから」

 なるほど、私のようにギルド拠点と共になのか単独でなのかは解らないけど、噂のアインズ・ウール・ゴウン辺境候と言うのは王国側のどこかに転移してきたって事か。
 なら帝都にさえ近づかなければそうそう接点を持つ事はなさそうね。
 リーフさんの説明からそんな事を考えていた時に、ふと隣を見ると、まるんがなにやら難しそうな顔をしていたのよ。
 一体どうしたんだろうって思ってたら、変な事を聞きだしたのよね。

「リーフさん。私の記憶違いで無ければモモンでしたっけ? 情報を伝えたその銅の冒険者の名前」

「ええ、そうです。記録では黒いフルプレートアーマーの戦士で、名前はモモンとなっています」

 へぇ、モモンか、ん? モモン? どっかで聞いたような。

「それで、そのモモンですが、小さなころに吸血鬼に村を滅ぼされたんですよね? で、アインズ・ウール・ゴウン辺境候の弟子であると」

 えっそうか、弟子! 物凄く大変な情報なのに、アインズ・ウール・ゴウンの名前が出てきたことでそっちに気を取られて気が付かなかったよ。
 でも、転移してきたはずのアインズ・ウール・ゴウンが弟子を取るなんて事はありえないから、そのモモンって冒険者もギルドアインズ・ウール・ゴウンのメンバーかNPCって事で・・・ん? モモン? それって、もしかしてギルド長のモモンガさんの偽名なんじゃないの!?

 いやいや、うちのNPCたちの態度を見るとギルドメンバーへの忠誠度や好感度は振り切ってるみたいだから、もしかしたらNPCが潜入するのに使った偽名をギルド長であるモモンガさんの名前から一部頂いたって事もあるか。

 でも、どちらにしてもこれってある意味凄い情報よね。
 モモンがモモンガさん本人ならアインズ・ウール・ゴウンは別のギルドメンバーって事だしNPCだったとしても単独転移ではあり得ないと言う事になる。

 そっか、そのどちらだったとしてもナザリック大地下墳墓もこの世界に転移してる可能性が高いって事なのか。
 ますます触らぬ神に祟りなしって状況になったって訳ね。

 よし、帝都にはたとえロクシーさんに誘われたとしても近寄らないようにしよう! 私はこの時、そう硬く心に決めたんだ。



「あるさん、そのモモンって言う冒険者」

「ええ、間違いなく関係者よね」

 どうやらまるんも私と同じ結論に達したみたいね。

「そっか、と言う事は帝国と王国、どっちにも手勢を送り込んだって訳ね」

 ・・・どうやら違ったみたいです。
 でもそっか、そう言う考え方もできるんだね。

 私はどちらか片方、またはその両方がギルドメンバーなんじゃないかな? って考えたけど、言われて見ればその両方がNPC(手勢)である可能性もあるって事よねぇ。
 いや、もしかするとその可能性の方が高いかも? だってあそこは異形種ギルドだからギルドメンバーはみんな人型をしてないだろうし、その点ホムンクルスとかドッペルゲンガーとかなら人に混ざるのは簡単ですもの。
 それに、前にメルヴァが言ってたわよね? 私が1人で外出すると身代わりになって死ぬことができませんって。
 もしナザリック大地下墳墓が一緒に転移してきているとしたら同じ様な考え方を向こうのNPCだってするだろうから、少なくともモモンの方はNPCって事か。

 確かめてみるべきかなぁ? でも、外にNPCを派遣してるって事は何かしらの意図があるって事だし、それがもし他のプレイヤーをあぶりだそうとしているって意図があったとしたら調べるって行為自体が私たちにとって命取りになりかねないし。

 うん、これに関しては一人で考えるべきじゃないと思う。
 所詮私はその手の専門家でもなんでもないし、元エンジョイ勢のデザイナーでしかないんだから、この手の事でユグドラシルの最前線で他の上位ギルドと抗争を繰り広げていたガチ中のガチ勢であるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーとの知恵比べをして勝てるわけないもの。
 どちらかと言うとメルヴァとギャリソンに争いは避けたいと伝えて、その上でどうしたらいいかを丸投げした方が絶対にいい結果にたどり着けると思うのよね。

 と言う事で、私はこの事について考えるのを放棄した。
 なんか、私っていつもこうだよなぁ。
 でもまぁ、下手に突き進んで失敗するよりはいいか。



「アルフィン様」

 とその時、不意に私の右肩に手が置かれた。
 どうやら私自身、いつの間にか思考の海に捕らわれて周りの声がまったく聞こえていなかったみたいで、それに気が付いたギャリソンが私の意識をこちらに戻すために声を掛けてくれたみたいね。

「ごめんなさい、少し考えに耽ってしまっていたわ。それで今は何の話になっているのかしら?」

「はい。現在はこの国の冒険者事情の話を、リーフさんから説明をしてもらっている所です」

 ああ、確かエル=ニクス陛下の政策で街道警備や弱いモンスターの討伐を帝国軍が行うようになって低級の冒険者の仕事が無くなっているって話を聞いたって言ってたっけ。
 エルシモさんたちが野盗に身を窶す事になったのも、確かそれが原因だって話よね。
 この国に住人にとってはいい事なんだろうけど、それによって野盗が増えると言うのならそれはそれで考え物のような気もするなぁ。

 まぁ、私が考えてどうなるって物でもないけど。
 と言う訳で、私はその話に興味がないとリーフさんに伝える事にする。

「解ったわ、ありがとう。でも、冒険者の実情については私が聞いてもどうにもならない事ですから、再度説明して頂かなくてもいいわ」

「解りました。では、他にお知りになりたい事はございませんか?」

 これで前回まるんが聞いた内容は全て説明し終えたようで、リーフさんからそんな事を聞かれてしまった。
 他に聞きたい事かぁ、そうだなぁ。

「もうすぐリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国との戦争が始まるそうですけど、今はどのような状況なの?」

「戦争ですか? そうですね、例年通りですと会戦はもう少し先になります。先日もイーノックカウから部隊が出発しましたが、ここから戦場になるカッツェ平原までは帝国国内を縦断しなければいけないので馬車での移動だとしても半月以上かかりますし、中央から戦地に赴く兵士でも重歩兵などは装備が重いのでそれを運ぶ馬車の速度も遅く、そう簡単にたどり着く事が出来ないのでかなりの時間を有するのです」

 そっか、取り合えず戦力がそろうまでは戦争なんてできっこないし、別に奇襲作戦とかじゃないからお互い悠長に構えていて、両方の戦力がそろってからさぁ始めましょうって感じなのかな?
 特にバハルス帝国にとってこの戦争は、収穫期にリ・エスティーゼ王国の労働力を動員させて国力を削ぐと言うのが目的だろうから余計にのんびりと戦争の準備をしているのかもしれないわね。

「なるほど。じゃあ、戦争の流れはどんな感じなの? 開戦前にお互いから戦士を出して一騎打ちをさせるとか、弓の的当てとかをしたりもするのかしら?」

「いえ。どのような情報をお聞きになられたのかは解りませんが、戦争ですからその様な事はいたしません。お互いの戦力がそろい次第、両軍がカッツェ平原に兵を進めて陣形を整え、その後どちらかが進軍を始める事で戦争が始まります」

 そっか、なんか日本の昔の合戦みたいなイメージがあってそんな事を聞いたけど、いくらのんびりとした戦争だと言ってもお互いの兵士自慢をするなんて悠長な事は流石にしないか。
 どっちかって言うと、中世ヨーロッパっぽいもんね、この世界の戦争。

「なるほど。それで会戦した後はどんな感じなのかしら?」

「そうですね。例年ですと、まずはバハルス帝国軍が先に進軍し、リ・エスティーゼ王国側がこれを受け止める形で戦いが始まり、その後数日間当たっては引き、引いては当たるを繰り返してお互い大被害を出さないよう慎重な戦いをおこなった末に、ころあいを見て両軍が兵を引いて戦争が終わると言う流れでしょうか」

 そっか、本当に一当たりして簡単に引くって言う貴族のお遊びみたいな戦争なのね。
 いや、実際に貴族のお遊びで戦争をしてるのかも。

 リ・エスティーゼ王国にとっては戦争で農民を多く失う様な事があれば、それすなわち労働力の多くを失うって事だし、バハルス帝国にしたってこんな戦争で職業軍人を失っては面白くないだろう。
 特に帝国は育てるのにかなりのお金をつぎ込んでいるであろう兵士を、ただ農民を減らして王国を疲弊させるなんて事の為に失うなんておろかな事はしないだろうから、変な言い方になるけど死者は本当に最小限しか出さないように、安全第一で戦争してるんじゃないかなぁ?

 でも、と言う事はそう簡単に決着は付かないだろうから、結構長い間戦争してたりするのかなぁ?

「そうなのね。では、戦争してる期間はどれくらいになるのかしら? バハルス帝国の意図から考えると、あまり短くても意味がないような気がするけど」

「はい、アルフィン様の御察しの通り、本格的な戦闘が行われないにもかかわらず会戦してから短くても1週間以上、長ければ半月ほど続きます。そして戦争終結時も、お互いがお互いに睨みを利かせながらの撤退になるので完全に撤兵するまではそれ以上に期間を要しますね」

 そっかぁ、と言う事は兵士は移動の期間も考えて最低でも2ヶ月以上拘束されるってことなのね。
 収穫期に毎年こんな事をしてるって言うのに、専門の兵士を育成せずに毎年農民を徴集してるって言うのなら、王国って言う国は本当に無能しか居ないって事なのかも? 帝国側の意図なんて子供でも見抜けるだろうから、こんな方法に何時までも付き合うなんて事は普通はしないものだからね。
 そしてそんなお遊びのような戦争だけど、今回はアインズ・ウール・ゴウンを名乗るマジックキャスターが参戦する。

 今回の戦争が王国にとって最後の戦争にならなきゃいいけど。

 外見は異形種だからと言っても中身は普通の人だから現実の戦場に出て大魔法を放って大量虐殺をするなんて事、アインズ・ウール・ゴウンを名乗る人物がプレイヤーならそう簡単にはやらないだろうけど、もしNPCだったら大変な事になるかもしれないわね。

 でもまぁNPCなら超位魔法は使えないし、大規模魔法なら一発受けた時点で何百人も死ぬだろうけどそんな被害を受けたら流石に即敗走するだろうから、そのNPCがよっぽどの無茶をしない限りは大丈夫かな?
 大丈夫だといいなぁ。

 遠い戦場に思いをはせて、願わくば動員されただけの多くの農民たちが無事、自分の家に帰ることができるよう祈るアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 この世界での行軍は戦国時代の日本みたいなもので、かなりの時間が掛かるから戦争が始まるまでにもかなりの時間を有すると思うんですよね。
 それに戦争自体も相手が動くまではじっと見ていたり、挑発の為に隊列をわざわざ変えてみたりとかなりのんびりと行うようなので、これまた戦国時代の戦争のように時間が掛かることでしょう。

 ただ、今回は・・・。

 さて来週なんですが、土日に用事があるので平日の内に書く事になります。
 しかし土日ほど多くの時間が取れないので、いつものように長文を書く事ができません。
 ですから多分3000文字くらいになると思いますが、ご容赦ください。
 また、日曜日は朝早くに出て深夜に帰ってくるので、ハーメルンのように予告投稿ができないこのページでは早朝か深夜にしか更新が出来ません。
 日曜の昼間に読みに来てもまだ更新されていなかった場合は月曜の朝の更新になるかもしれませんが、その場合もご容赦いただけるとありがたいです。


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