「いよいよ真打登場ね。」
 「由乃ちゃん、あんまり張り切ると失敗するわよ。」

 ビリヤード対決、3回戦は由乃さんとお姉さまの対戦だ。

初めての合宿39

 最初はこれまで通りバンキング対決。二人並んでキューを構えて・・・

 スカッ!

 「わっ!今の無し、今の無し!」

 やってくれました由乃さん。力んでしまったのか、キューが手玉の上を通って見事に空振り。なんと球に当てる事すら出来なかった。

 「なんと言うか・・・。」
 「流石由乃ちゃん、外さないわね。」

 頭を抱える令さまと、手を叩いて喜ぶ江利子さま。それを聞いた由乃さんがぷぅ〜と頬を膨らませたものだから、令さまがフォローに入ったのだけれど、

 「令、あまり由乃ちゃんを甘やかせてはダメよ。」

 なんて江利子さまが言うものだから由乃さんと喧嘩が始まってしまった。まぁ、傍から見ると由乃さんが食って掛かっているのを江利子さまがからかっているだけにしか見えないのだけれど。

 「まぁまぁ、二人とも。」
 「黄薔薇ファミリーはほんと楽しそうでいいわよね。」

 と、慌てて止めに入った令さまを見た蓉子さまがあきれて呟いてしまうほど、楽しそうに三角関係を作ってる。本当に仲がいいなぁ、黄薔薇は。こんな事言ったら由乃さんに怒られそうだけどね。

 「そろそろ再開した方が良いのではなくて。このままでは時間が無くなってしまうのではないかしら?」

 このままではいつまでたっても先に進まないと思ったのか、祥子さまが止めに入ったので喧嘩は中断。改めてバンキング対決と言う事になったのだけど、興奮してしまっている由乃さんは力を入れすぎてしまって大きくクッションから跳ね返ってしまった。

 「あら由乃ちゃん、やり直す必要は無かったようね。」
 「キィー!」
 「おっ、お姉さま、それは・・・。」

 江利子さまの言葉に由乃さんご乱心。またも夫婦漫才(この場合は祖母孫漫才かな?)が再開してしまった。

 「江利子ったら、本当に由乃ちゃんが可愛いのね。」
 「ホントホント。」

 蓉子さまと聖さまはそれを見てもまったく止める気なし。お姉さまも、先ほど止めたばかりなのにまた始めてしまった黄薔薇ファミリーを見て呆れ顔だ。こうなると、

 「祐巳さま、何とかしてください。」

 やっぱり。私が瞳子ちゃんに止めるように言われてしまった。確かに1年生では止められないし、志摩子さんはただ楽しそうに笑っている。こうなると言われるまでも無く止め役は私にまわってくるよね。

 「えっと、由乃さん、そろそろ・・・。」
 「何よ祐巳さん、あなたも江利子さまの味方!?」
 「いや、味方とかじゃなく・・・。」

 流石に私が江利子さま相手に仲裁するのは変じゃない。でも、暴走状態の由乃さんはこの程度じゃ止まらない。おまけに江利子さまが、

 「祐巳ちゃんも呆れるわよねぇ。あんなに練習したのに空振りするは、力任せに突くは。」
 「あっ、呆れるなんて、そんな。」

 なんて火に油を注ぐ発言をするものだから、ますます由乃さん大暴走。

 「お姉さま、お願いですからこれ以上由乃をからかうのはやめてください。」
 「あら令、からかってなどいないわよ。」

 頼りの令さまも、江利子さまがやめる気にならない限りはどうにもならないみたいで、ただ々々おろおろするばかり。そこで、

 「志摩子さんも笑って見てないで手伝ってよ。」

 と、だめ元で志摩子さんに助けを求めたら、

 「祐巳さん。」
 「な、何?」

 志摩子さんがいきなり真顔で返してきた。何事かとびっくりして聞き直したら、

 「夫婦喧嘩は犬も喰わない。対岸の火事。こう言う物は傍から見ていたほうが面白いのよ。」
 「・・・・。」

 なんて言いながら、一転して今度はにっこりと天使の笑顔。おまけに横で聖さまがうんうんと頷いているし・・・。あまり似ていないと思っていたけど、こう言うところは聖さまと志摩子さん、流石姉妹と言うくらいそっくりだ。

 「でもお姉さま、いいのですか?」

 この様子を見て不安になったのか、乃梨子ちゃんが志摩子さんにそう尋ねたので、「いいぞ乃梨子ちゃん、がんばれ!」などと心の中で応援したのだけれど、

 「いいのよ乃梨子。あれは普段逢えない由乃さんを江利子さまが可愛がりたくて仕方が無いというだけなのだから。」
 「ああ、なるほど。」

 と、あっさり丸め込まれてしまった。まぁ、志摩子さんの言いたい事は私にも解っているんだけど、でも流石にこのままじゃ・・・。

 「まぁまぁ祐巳ちゃん。これも一種のイベントみたいなものなんだから素直に楽しもうよ。」
 「聖さま、またそんな無責任な事を。」

 確かに江利子さまや他の人から見れば楽しいかもしれないけど、当の由乃さんはたまったものじゃ無いと思うのだけれど。

 「本当に楽しそうね。」

 そんな時、不意にそうつぶやいたのは祥子さま。

 「そう言えば在学中、いつもつまらなそうにしていた江利子さまも由乃ちゃんがいる時は楽しそうだったわ。久しぶりに由乃ちゃんと遊べて本当に嬉しくて仕方が無いのかもしれないわね。」
 「祥子の言う通りかもしれないけど、後でそのとばっちりが来るのは私なんだけどね。」

 いつの間にか止めるのをあきらめた令さまが、祥子さまの横でため息をついた。

 「この対決で由乃が優勝できなかったら、今晩も朝のように延々とこの愚痴を聞かされるのかぁ。」

 なんて、言いながら。


あとがき(H17/9月25日更新)
 ビリヤード対決第3回戦とか最初に書いておきながら、ブゥトン、ネズミの園へ行く同様脱線してしまいました。

 このバンキングでの由乃さんのミスですが、当然私はやっていません。と言うか、1人でビリヤードに行ってバンキングなんてしないし。(笑)これはこのビリヤード対決を書き始めたときから由乃さんの時にやろうと思っていたんですよ。でもまさか、それがこんな結果になるとは。

 書いている時は面白かったけど、本当にこれでよかったのかな?という気持ちも半分あります。この対決の結果が早く知りたと言う人もいるでしょうから。でも、書いてしまった物を消してもう一度書くというのもなんだし、ただただ試合を続けるだけと言うのもつまらないので、こんな話があってもいいんじゃないかなぁなどと思ってもいるわけで。

 やはりSSである以上、イベントみたいな物もあった方がいいよね?などと、あとがきを自己弁護で締めてみたり。

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