注:この話は由乃さん視点です。

 剣道の交流戦も終わり、令ちゃんのお見合い騒動を経て、奈々を本気で妹に迎えようかと考えていたある日のお昼時のこと。今日は珍しく薔薇の館には私と祐巳さんの二人だけで食後のお茶を楽しんでいた。

 「祐巳さん、私の妹は奈々に決まりそうだけど、それが知れたら祥子さまの突き上げが厳しくなるんじゃない?」
 「そうなのよねぇ。どうしたものかなぁ〜。」

 まったく、もう瞳子ちゃんしかいないのだから早く妹にしてしまえばいいのに、なんて思いながら祐巳さんをたきつけていると不意に、

 コンコン

 と、ノックの音が私達のおしゃべりに割って入ってきた。

可南子ちゃんの決意

 「あれ?誰だろう?」

 普通、志摩子さんたちならノックなどせずいきなりドアを開けて入ってくるのに?と思い、祐巳さんと二人でドアの方に顔を向けると少しお久しぶりの顔がドアを開けて現れた。

 「ごきげんよう。こちらに祐巳さまはいらっしゃるでしょうか?」
 「ごきげんよう。どうしたの一体?」

 突然の訪問者は可南子ちゃん。少し前までは祐巳さんの妹候補と言う事でこの薔薇の館に出入りしていたのだけれど、文化祭の手伝いの後、ほとんど顔を見せなくなった子だ。祐巳さんが言うには姉(グランスール)にあたる人が出来たからもうここには来ないだろうとの事だったけど。

 「あの、祐巳さま、今よろしいでしょうか?」
 「えっ?うん、かまわないけど。」

 なにやら深刻そうな可南子ちゃんの表情に思わず、

 「私、席を外そうか?」

 などと聞いて席を立ちかけたのだけれど、

 「いえ、由乃さまも立ち会ってほしいです。」

 の一言で私はもう一度席に座りなおした。

 「で、どうしたの可南子ちゃん。」
 「祐巳さま、私を・・・私を妹にしてください!」
 「えっ?あっ、うん・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!!」

 あまりの事にびっくりして目を白黒させる祐巳さん。あたりまえよね。だってオーディション受け付けの時、妹にはなりませんと宣言されて、それからまだそれほど時間が経っていないのだから。

 「うん、と言う事は、妹にしてくださるんですか!嬉しい・・・。」

 片や、思わず祐巳さんが言ってしまった「うん。」と言う言葉に飛び上がらんばかりに喜び、これ以上無いほどの笑顔を見せる可南子ちゃん。でも、そのうんはちょっと違うような?

 「ちょっと待って、可南子ちゃん。前に話した時は誰の妹にもなる気はないといっていたじゃないの?」
 「あの時は本当にそう思っていました。でも、あの後夕子先輩にそのことを話したら怒られてしまって。」
 「怒られた?」

 つい聞いてしまった私の顔を見て可南子ちゃん話を続けた。

 「はい。心から尊敬できる人が出来たのでしょ?一緒にいたいと思える人が出来たのでしょ?それなのに自分から距離をおいてどうするの?って。」
 「その夕子先輩と言うのが祐巳さんの言っていた可南子ちゃんのお姉さまにあたる人なのね?」
 「お姉さま?そう言われるとそうなのかもしれません。いえ、たぶん由乃さまの言う通り、私はそう感じていたんでしょうね。だから祐巳さまの妹にはなれないと思ってしまったのかも。」

 なるほど、可南子ちゃん自身はわかっていなかったのか。

 「由乃さまに指摘されて夕子先輩に言われたことがより深く解った気がします。夕子先輩はその後こうも言ったのです。私は私、祐巳さんは祐巳さん、それぞれあなたにとっての立場が違う存在なの。それなのにどちらかを選ぼうと思うのは間違っているわよ。って。」

 なるほど、夕子と言う人はリリアンの生徒ではないのにスール制度と言うものがどういうものか理解しているみたいね。

 「それを聞いて私、あらためて考えてみたんです。祐巳さまの事をどう思っているか。」
 「で、どうだったの?」

 横では相変わらず祐巳さんが自体を把握しきれていないようなので私が話を進めてしまう。祐巳さんは時間さえあればしっかりと噛み砕いて正解を導き出せるけど、パニックを起こしている時はまったく頭が回らないから私が状況を整理してあげないとね。本来なら志摩子さんがこの役には適しているのだけれど、いないものは仕方がない。

 「祐巳さまは一緒にいてとても気持ちがいい人。包容力があって明るくて、頭のいい人。たまに頼りない時もあるけど、いざという時は誰よりも頼りになる人。そして何より、一緒に居たいと強く思わせる人。」
 「そうだね。」

 多分可南子ちゃんは祐巳さんのいい所を全部解っているんだ。今可南子ちゃんが上げた所は私も常日頃から思っていることだし、他の仲間たちも、瞳子ちゃんだってきっと同じ思いだと思う。

 「そう思ったら涙が出てきて。何であんな宣言をしてしまったんだろうと思ってしまって。」
 「で、今日ここに来たわけだ。」
 「はい、夕子先輩にも背中を押してもらってですけど。」

 可南子ちゃんは先ほどの笑顔とはうって変わって泣き出しそうな顔でそうつぶやいた。

 「うん、解った。」
 「わっ!」×2

 もう!今まで沈黙を保っていた祐巳さんが急に横から声をかけるから、ついびっくりして私も可南子ちゃんも間抜けな声を上げてしまったじゃない!

 「で、何が解ったのよ。」
 「そう言う意味の解ったじゃなくて、可南子ちゃんの気持ちが伝わったって事。」
 「それじゃあ!」

 と、また満面の笑みを作る可南子ちゃんと、それに対してあっと言う顔をして顔が引きつる祐巳さん。さては、

 「可南子ちゃん、ちょっと待ってね。」(小声で)「祐巳さん、最初に可南子ちゃんが妹にして欲しいと言った時につい、「うん。」と言ってしまった事、忘れてたでしょ?」
 (同じく小声で)「じつは・・・。」

 まったく、こう言うところは抜けてるんだから。

 (小声で)「で、どうするのよ?」
 (小声で)「う〜ん・・・。」

 ちらりと見ると心配そうな顔で可南子ちゃんがこちらを見ている。それを見た祐巳さんは意を決したような顔で、

 「うん、これもきっといい機会なんだと思う。こんな事でもない限りずっと決まらないかもしれないものね。」
 「それじゃあ!」

 泣いたカラスがなんとやら。心配顔がぱぁ〜と言った効果音付で明るくなった。まったく、この子もよく表情が変わる子だ。祐巳さんの妹には丁度いいのかもしれないわね。

 「うん。可南子ちゃん、これからもよろしくね。」
 「はい、祐巳さま・・・じゃなくて、お姉さま。」

 まだロザリオの授与も済ましていないのに気が早いことで。

 「それじゃあ、お邪魔虫はこれで退散するわ。この場でロザリを首にかけるもよし。新しいロザリオを買って来てマリアさまの前でというのもまたよし。でも、どちらにしても二人で話さないといけないでしょ。」
 「あっ、由乃さん!」

 祐巳さんが何か言いたそうだったけど、何かを言われる前にさっさと席を立って扉を開けた。

 「そうそう、可南子ちゃん。長々とノロケ話を聞かされたのだから、お茶のカップくらいは洗ってくれるわよね?」
 「あっ、はい!由乃さま。」

 そんな嬉しそうな可南子ちゃんの言葉を背に私は扉を閉めた。

 「さて、これから面白い事になりそうね。」

 と、小言でいいながら。


あとがき
 ぽてとさんのキリ番リクエスト、祐巳ちゃんと可南子ちゃんがスールだった場合に答えたSS、如何だったでしょうか。

 このリクエストには本当に参りました。なにせ私の中にはまったくない設定ですから。今回のSSで本当にSSと言うのは自分の煩悩の垂れ流しだあると思い知ったものです。

 本当にまったく動いてくれないんですよ、キャラが。特に今回は祐巳ちゃんがまったくと言っていいほど動いてくれない。と言う事で第三者の由乃さんを登場させた所、これが(私の中の由乃さんが)面白がってくれたのか思った以上に動いてくれました。おまけになにやら最後に余計な一言まで言ってくれて。(笑)

 というわけでこのSSには続きがあります。瞳子ちゃんの逆襲と祥子さまの復讐の2本が(笑)いや、別にこのような題名にはなりませんが。

 瞳子ちゃんの逆襲は当然この結果を良しとしない瞳子ちゃんの話で、祥子さまの復讐は当初私が頭に描いていた祥子さまと可南子ちゃんの嫁姑バトルの話しです。この手の話はテンポがいいほうがいいので早いうちにアップしたいと思います。と言う訳で、他のSSはストップの方向で。(爆)

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