「さてパレードも終ったし、次は何に乗る?」
 「ちょっと待って由乃さん、ディズニーランドの夜はもう1つイベントがあるのよ。」

 エレクトリカルパレードもいいけど、この後のイベントも私、大好きなのよね。

ブゥトン、ネズミの園へ行く第10話

 「イベント?」
 「そう。パンフレットにも載っているでしょ。ディズニーマジック・イン・ザ・スカイ。」
 「アラ、それって花火でしょ?ミッキーの形のとかがある。」

 そう、ディズニーマジック・イン・ザ・スカイはディズニーランドの最後を飾る打ち上げ花火。

 「でも、花火ならどこかのアトラクションに並びながらでも見れるでしょ?」
 「それは違うわよ、由乃さん。」

 軽い気持ちで言った由乃さんの言葉を、志摩子さんは否定した。

 「ただ花火が上がるだけなら確かにどこからでも見る事が出来るけど、ここの花火は少し特別なのよ。」
 「特別?」

 志摩子さんの言葉を聞いて、頭に?マークを浮かべる由乃さん。確かにその説明だけだと解らないよね。焦らしても仕方が無いのでここで説明を。

 「ディズニーランドの花火はディズニーミュージックにあわせて上がるの。これが本当に音楽とのタイミングが合っていて凄いのよ。」
 「私も前は知らなかったのだけど、パレードの後に周りの人達がシンデレラ城の前に移動し始めたからなにかしら?と思ってついて行って、初めてこの音楽と花火のコラボレーションを見た時はあまりの素晴らしさに震えが来たのを覚えているわ。」

 よほどこのイベントが好きなのか、志摩子さんはうっとりしながらそう言った。そう、まるで銀杏の話をしている時のような表情で。

 「そう言えば蔦子さんもエレクトリカルパレードの場所取りの時に、後の事もあるからもう少しシンデレラ城拠りの方がいいって言っていたよね?」
 「そうよ。シンデレラ城前にスピーカーが設置されていて、そこから流れる大音響のディズニーミュージックとシンデレラ城の斜め後ろに上がる花火がとても綺麗だから、今日のように混んでいる日はなるべく早く行っていい場所を取りたいと思ったからね。」
 「なるほど。」

 少し離れた場所でもディズニーミュージックは聞こえるけど、やっぱり体に響くような音楽と花火の破裂音を同時に浴びようと思ったらシンデレラ城前で見ないといけない。

 「待って、ならこんな所で話をしている場合じゃないじゃない。」
 「そう言うことよ。」

 蔦子さんと由乃さんが話している間に私と志摩子さんで敷物をたたみ、いつでも動ける準備は整っている。

 「準備はいいみたいね。それじゃあパレードの音楽が聞こえるうちに移動しちゃいましょう。」

 思い立ったら猪突猛進、行け行けGO!GO!例のごとく今回も由乃さんが先頭を切ってズンズンとシンデレラ城前を目指して歩き出した。

 流石に中央広場の周りをまだエレクトリカルパレードが廻っているからか、私達が着いた時はシンデレラ城前は混雑と言うほどでもなく、一番いいであろう場所付近に陣取る事に成功。

 「ここでは敷物は敷かないのね。」
 「イベントと言っても花火だからね。」

 基本的に立ち見。だからある程度人が来ても大丈夫なのだけれど、流石に今日はいつもより混んでいるからか見る見るうちにシンデレラ城前は人で溢れてくる。

 「混んできたわね。早めに来て置いて正解だったわね。」
 「うん。でも、いつもはこんなにも人は集まらないんだけどね。」

 確かにいつもある程度人は集まるけど、今日は本当に人が多いらしく、整理係のキャストの人が危険防止のための縄をひいてこれ以上人が入れないようにしている。

 「色々な乗り物があるのに、それに乗らないでここにこれだけの人が集まるってことは、よほどいいのね。」
 「期待していいと思うわよ。」
 「楽しみぃ。」

 由乃さんは志摩子さんと楽しみだと言うのを全身で表現しながら笑顔で、そしてちょっと興奮気味に話をしている。

 「あら、祐巳さんも十分興奮してるじゃない。顔がにやけてるわよ。」

 そう言いながら1枚パシャリ。あのねぇ蔦子さん、にやけてるは無いでしょ、にやけてるは。


 しばらくするとエレクトリカルパレードの時のように周りの街灯が消え、前方のスピーカーから大音響が流れ出した。

 「始まった!」

 由乃さんの言葉を合図に見上げると、空に向かって一筋の光が登っていき、炸裂。真っ黒な空に大輪の光の花を咲かせ、シンデレラ城を照らした。

 「綺麗ね。」
 「うん。」

 志摩子さんの言う通り、音楽に合わせて上がる花火は曲調に合わせていくつもの火の輪が回転したり、バチバチと音を立てて銀色の光がはじけたりと、いろいろな光でシンデレラ城を照らしている。

 「あぁ〜、みっきーのはなびだぁ!」

 近くにいた小さな女の子が空に広がる赤に光の輪で出来たミッキーマウスの花火に大喜び。そして、

 「あっ、あれって逆さじゃない?」

 と、由乃さんも次に上がった緑のミッキー花火を見ながら、その子に負けないくらい大はしゃぎ。

 「ふふふ、そうね。」

 その由乃さんにつられたのか、志摩子さんまでちょっとはしゃぎぎみの表情で微笑んでいる。

 「こんな表情の志摩子さん、他では撮れないわね。三奈子さま辺りが見たら大喜びなんじゃない?スクープだって。」

 そう言いながら蔦子さんは志摩子さんや由乃さんの写真をパシャリ。

 「蔦子さんは花火よりも写真?」

 そんな蔦子さんに呆れ、花火からは目を離さず聞いてみると、

 「あら、ちゃんと花火も見ているわよ。でも、ディズニーマジック・イン・ザ・スカイはまた後日見に来ることが出来るけど祐巳さんたちのこの一瞬一瞬の表情は今しか撮れないもの。」

 そう言いながら今度は私をパシャリ。そして移動して私達3人がファインダーに入るようにしてパシャリ。

 「でも写真はこれでおしまい。さぁ、花火もラストスパートに入るわよ。」

 そう言いながら夜空を見上げる蔦子さんの表情は、由乃さん達と同じように最高の笑顔だった。私がカメラを持っていたら思わずシャッターを押してしまいそうなほどの。


翌日、薔薇の館にて

 「昨日は本当に楽しかったわよね。」
 「うん、またみんなで、今度はディズニーシーに行きたいね。」
 「ふふふ、そうね。」

 春休みと言う事で、1年生3人だけでこまごまとした仕事を片付けながら昨日のディズニーランドの話に花を咲かせていたら、

 「ごきげんよう。」

 蔦子さんがビスケット扉を開けて入ってきた。

 「す、すごいわね、それ。」

 由乃さんが驚くのも無理は無い。なにせ蔦子さんの両手には40冊ほどのアルバムが抱えられていたのだから。

 「ははは、ちょっと撮りすぎちゃったわね。」
 「撮りすぎちゃったって・・・。」

 一体何本撮ったんですか、あなたは。いくら現像代があまりかからないからと言って、これではフィルムだけでかなりの額なんじゃ?

 「確かにそうなんだけどね。あっそうそう、祥子さまが何処からか今回のディズニーランド行きを知ったらしくて、この写真が現像できたら見せて欲しいって電話があったわよ。」
 「えぇ〜、おねえさまが!?」
 「うん。後、いいのがあったら一部焼き増しして欲しいと言われたからOKしておいたけど、よかったよね?」

 お姉さまが私の写真を!?

 「だめだった?」
 「えっ?いや、だめって事は・・・。」(てれてれ)
 「ならOKだね。」

 そっかぁ〜、お姉さまが・・・。(デレデレ)

 「(どうやら、蔦子さんのスポンサーは祥子さまのようね。)」
 「(どこからかって言っているけど、案外蔦子さんが話を持ち込んだんじゃない?)」
 「(あら人聞きの悪い。別に私から話したわけじゃないわよ。)」
 「(ちがうの?・・・ああそうか、令ちゃんが!)」

 私の写真を欲しいだなんて・・・(クネクネ)

 パシャ

 「はいはい祐巳さん、そこで悶えてないで写真見てよ。せっかく今朝早くからがんばって現像したんだから。」
 「もう、言ってくだされば・・・えっ?ああ、うん、見せてもらうね。」

 早速一番上に乗っているNo.1と書かれているアルバムを開いてみると・・・あっ、私と由乃さんが駅で待っているところまで数枚撮ってある。まったく油断隙も無いなぁ。

 「でも流石蔦子さん、これだけあるのに全部綺麗に撮ってあるのはすごいわね。」
 「ふふん、もっと誉めていいわよ。」
 「よっ!写真部の大エース!」
 「ふふふ。」

 由乃さんに持ち上げられて鼻高々の蔦子さん。ところが、

 「あれ?これって・・・。」
 「どうしたの志摩子さん?」

 何か写真に不都合でもあったのかと思って聞いて見ると、

 「いえ、勘違いかもしれないし。」
 「いいから言ってみて。そんなんじゃ気になっちゃうじゃない。」

 そう由乃さんに言われて志摩子さんはある一枚の写真を見せた。するとそれを見た由乃さんはすごい勢いで他のアルバムをとっかえ引返しながら見ていく。そして・・・、

 「あった!やっぱり。」
 「勘違いじゃなかったのね。」
 「何々?一体どうしたの?」

 一体何が起こったのか解らないけど、とにかく大変な事があったみたい。蔦子さんに至っては、自分の写真に何か不都合でもあったのかとちょっと不安そうだ。

 「あっ、蔦子さんの写真は悪くないわよ。むしろ綺麗に撮れすぎてるくらい。」

 それを聞いてほっとする蔦子さん。

 「まぁ綺麗過ぎるからこそわかった事なんだけどね。ほらこれ見て。」

 そう言って由乃さんから渡された写真の片隅には・・・。

 「もう、令ちゃんたら!」

 小さく柱の影からこちらを伺っている心配そうな令さまが写っていた。心配で着いてきちゃったのね。その気持ち、解らなくはないけど・・・今晩怒られるだろうなぁ令さま・・・。ホントご愁傷様です。


あとがき(H18/6月4日更新)
 少々長くなりましたが、ブゥトン、ネズミの園へ行く第10話、完結編を書き上げる事が出来ました。

 第1話が17年の4月12日アップだからまるっと1年以上かかってしまったわけか。ただの旅行記だったはずなのに本当に長々と書くことになってしまったのは全て私のさぼり癖のせいです。すみません。因みに、前から書いているとおり本編はこれが最終話ですが外伝があります。内容は皆さんお察しの通りです。題名は「薔薇さまもネズミの園へ行く」です。(笑)こちらはそれほど長くならないと思います。出来たら1話で終らせたいくらいですし。

 さて、あとがきと言う事で今回の内容の話を。ディズニーランドの花火。何度も行ったことがある人でもシンデレラ城前で見た事がある人は少ないんじゃないかな?各言う私も10回くらい行って初めてあの場所での音楽と花火の競演を経験しました。その時の感想は本編で志摩子さんが述べているとおりです。とにかく、凄いんですよ、これが。

 上がっている花火はミッキーの形の花火が上がるくらいで後は普通なのですが、コンピューター制御されているからか、花火が曲にあわせて開くんですよ、それも連発で。よく花火大会とかでバックに音楽を流しながらあげている所があるけど、あんな完璧に音楽にあわせたものは見た事が無かったので最初見た時は本当に感動しました。

 まだ一度もシンデレラ城前で見た事が無い人は1度見てください。アトラクションを一つ乗るのをやめる価値は充分ありますから。

 さて、長々と続いたブゥトン、ネズミの園へ行くは少し寂しいですがこれで最後です。でもまだ外伝があるので、もう少しだけお付き合いくださると幸いです。それでは皆さん、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。引き続き、外伝の方もよろしくお願いします

薔薇さまもネズミの園へ行く 第1話へ(工事中)

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