「即席で踊れる?」
「即席って?」
「日舞と関係無い、振りの無い曲でも自分でどうにか踊れる?」
「知っている曲なら何とか。」
「OK。当日私たちが用意した音楽に合わせて踊ってもらう、っていうのでいいことにしよう。」
事の始まりは白薔薇さまの一言だった。
「土曜日?もうすぐじゃない。祐巳ちゃんは何をするの?」
「何っ、て?」
「隠し芸」
「か、隠し芸!?」
これは昨日の白薔薇さまとの電話の内容。白薔薇さま曰く、一年生が薔薇さま方のお別れ会で隠し芸をやるのは毎年恒例なのだと言うのだ。そして・・・。
「マジな芸で感心するより、私は心の底から笑いたい。」
とも・・・。その話を受けて次の日、早速由乃さんに聞いてみたところ、令さまからは何も聞いていないとの返事が帰ってきた。でも白薔薇さまの話の内容や、令さまの性格からして、恥ずかしくて由乃さんに話せていないだけと言う可能性もあり、絶対に嘘であるとも言い切れない。それならば無駄になっても当日に焦るよりはましと出し物の練習だけはしておく事になり、私は宴会芸、由乃さんはマジック、そして志摩子さんは日舞をやっていると言う事で、由乃さんの用意した音楽に合わせて踊る事になった。
そして土曜日当日。
「ありがとうございましたー!」
由乃さんと志摩子さんがペコリとお辞儀をしてマジックショーは終了。続いて志摩子さんが扇子を広げた。由乃さんがマジックで使っていたあっぱれと書かれた日の丸の扇子を。
「(由乃さんたら、芸術を極めてもらうと言っていたのにしっかりと笑いを取らせようとするんだから。)」
そして由乃さんがさも楽しげに笑いながらカセットデッキのスイッチをオン!そしてそのデッキから流れてきた音楽と言うのが・・・。
チャッ!〜チャッ!〜チャッ!〜♪
こ、この音楽って、まさか!
叩けボ〜ンゴ、響けサ〜ンバ、踊れ南のカルナバルゥ〜♪
「(マツケンサンバUだぁぁぁぁ〜〜!)」
そう、この曲は巷で(特におばさんの間で)話題のマツケンサンバU。しまった、あの時代劇大好き由乃さんなら松平健の歌うマツケンサンバUを知らない訳が無いし、自分で曲を選んで当日に聞かせるといった時点でこうなる事も十分予想できたのに。
「ちょっと由乃さん、いくら志摩子さんでもこの曲で踊れる訳無いじゃない!」(小声)
「でもほら、あれ。」
そう言って指差す先では・・・志摩子さんが華麗に舞ってる!?
「うっ、うそぉ〜〜!」
会場は爆笑の渦。それはそうだ、ちゃんとマツケンサンバUの振り付けも取り入れて踊っているのだから。当然腰のふりまで入れて。
「でもあの振りで顔は真剣そのものというのが志摩子さんらしいね。」
真剣な顔で踊る志摩子さん。しかし曲と振り付けが陽気なものなのに対して、その真剣そうな顔がより一層笑いを誘う。白薔薇さまなどは目に涙を浮かべながら笑っているほどだ。
マ・ツ・ケ・ン・サァ〜ン〜バァ〜・・・オレッ!♪
そしてフィニッシュ!扇子を振り上げ、決めのポーズをとる志摩子さんは、ここで始めて満面の笑みを浮かべた。
「やるようになったね、志摩子。」
「はい、お姉さま、恐れ入ります。」
笑いながら声をかける白薔薇さまに笑顔で答える志摩子さん。もしかして真剣な顔をしていたのも演出だったとか!?確かにこのおかげで薔薇さま方を送る会は大成功に終ったけど、この一件で私の志摩子さんを見る目が変わった事は言うまでも無い。
あとがき
皆さんはマツケンサンバUをご存知でしょうか?これは暴れん坊将軍などでおなじみの松平健が自分の舞台公演のラストにやる派手なステージで使われる曲です。なぜかこの曲が私の周りでは人気があるんですよ。かく言う私も名古屋の栄にあるナディアパークのヤマギワソフトで流れていたPVを見て一発で気に入ってしまったのですが。(なぜか演歌のコーナーではなく、アニメや映画のDVDが売られている所に繋がる通路で流れている所を見ると、アニメファンの感性にあうだろうと判断しているんでしょうね、店側も。まぁ、それにみごとに引っかかっているのですが。(笑))
そしてアニメ版マリみての「いと忙し日日」を見た私の頭にこのネタが浮かんでしまいました。「やっぱり志摩子さんファンは怒るかなぁ。」と思いながらも浮かんでしまったものは仕方がありません。きっちり書き上げました。
なお、この話にはパート2(?)があります。それも近いうちにアップするのでそちらもよろしく。(今度の被害者は志摩子さんではありませんが。)