「ごきげんよう、由乃さん。」
「ごきげんよう。あれ?祐巳さん、ちょっと痩せた?」
私の顔をまじまじと見た後、由乃さんが私に問い掛けた。
「顎のあたりが少しほっそりとしたような?」
「へへへ、解ってくれた?」
これから薄着になる季節を迎える。その前に少しでもとダイエットを始めていたのだ。
「ちゃんと本を読んでダイエットしたのよ。カロリー計算とかもして。」
「へぇ〜。」
「おかげで2週間で4キロの減量に成功しました!」
「それはすごい!がんばったんだね。」
甘いものとかを我慢したのは少し辛かったけど、こうして誉めてもらえるとやったかいがあったなぁと思う。
「でもそうなると、この話はお流れかな?」
「えっ?何の話?」
ちょっと迷ったような顔をしてから由乃さんは口を開いた。
「実は令ちゃんが新しいケーキの本を買ってきたの。それを明日の日曜日に作るから、せっかくなら甘党の祐巳さんも誘って意見を聞きたいって言っていたのよ。」
「えぇ!令さまのケーキ!」
令さまのお菓子作りはプロ顔負けの腕前。薔薇の館でのお茶会では、令さまの焼いたクッキーをよく食べさせてもらっているけど、これがケーキとなると流石に学校に持ってくる事は出来ないからまだ食べた事が無いんだよね。食べてみたいなぁ。
「令さまが作るのだから当然おいしいよねぇ。」
「あたりまえでしょ。令ちゃんが作るケーキなんだから。」
「そうよねぇ。」
うぅ〜、どうしようせっかく苦労して痩せたのに・・・。でも、これを逃したら次はいつ食べる機会がまわってくるかわからないし。
「う〜ん・・・。」
「どうする?やめておく?」
「決めた!行くことにする。少しくらいなら大丈夫だと思うし。」
「そうそう、今まで我慢したんだし、自分へのご褒美と思えばいいのよ。」
こうして決まったケーキの試食会当日。
「ごきげんよう令さま。今日はお招きいただき、ありがとうございます。」
「おっ、来たね祐巳ちゃん。いっぱいあるから遠慮なく食べてね。後、意見のほうも遠慮せず、思った事を思ったとおり言ってね。」
「はい!」
そんな話をしながら通されたリビングでは、すでに由乃さんがテーブルについていた。そしてそのテーブルの上には・・・。
「わぁ、すごい!試食って話だったから1種類か2種類だと思ってたに!」
「ホント令ちゃんって考え無しなんだから。解ってる?今日は3人なのよ。」
「ははは。」
そう言いながら頭をかく令さま。そして口では怒っているような事を言っている由乃さんも顔はほころんででいる。なにせ目の前には10数種類のケーキが所狭しと並んでいるのだから。
「ついつい楽しくて作りすぎてしまったの。仕方ないでしょ?」
「でも、全てホールでこの量では流石にねぇ。」
「まぁまぁ。全部食べなければいけないという訳ではないのだから。」
でも、これだけのケーキが並んでいるとついついいろいろな物を食べてみたくなり、結局全種類少しずつ食べてしまった。
「流石にこれだけいろいろな物を食べると、くどくなってくるわね。」
「そう?私はまだ大丈夫だけど。」
「はぁ、祐巳さんの甘党は筋金入りだから。」
あきれながら言う由乃さんも、くどくなってきたと言いながら食べるのをやめずに、紅茶を少し飲んでから次のケーキに手を伸ばしてるし。
「どう、祐巳ちゃん。出来の方は?」
「はい、凄くおいしいです。」
「よかった。そう言ってもらえると、がんばって作ったかいがあるよ。」
そう答えると令さまは満面の笑みを浮かべてそう言った。でもほんと、お世辞抜きにおいしかったぁ〜。
そして次の日。
「ぎゃあ〜!」
次の朝、乗った体重計のメモリが2キロも増えていた・・・。
あ〜あ、これをもとにもどすにはまた1週間かかるなぁ。(泣)
あとがき
これ、実は私に起こった話です。(苦笑)私の場合は当然ケーキではありませんが。
石像の戯言のページにも書きましたが、先日の入院で私は体重が減りました。そこでその体重を維持しようと思っていたのですが、入院中ずっと禁欲生活を送っていたので、つい出てきた次の日(火曜日)に焼肉に行き、その次の日も友人宅にお酒を飲みに行ってしまったのです。
その結果、二日で2キロ太ってしまいました。入院中にカロリーを大幅に減らしていた為、吸収率が上がっていたのでしょうね。(入院前では同じ事をやっても、ほとんど体重は増えませんでした。)
この2キロを元に戻す為に、結局4日もかかってしまいました。一時の暴飲暴食は後で高くつくというお話。