「それでは、今までの話を踏まえて魔法陣の勉強を続けるわよ」
「うん!」
全部の意味が解んなくても魔法陣を書くことができると解って一安心。
とりあえず今はいろんな魔法陣を見なくちゃって思いながら、僕はバーリマンさんのお話を聞く事にしたんだ。
「今から書くのは最初に話した通り、放出系の一番簡単な魔法陣よ。この中心に魔法の呪文に当たる文字記号とその魔法に準じた記号を書き込めば、魔法陣は完成するの」
そう言いながら、バーリマンさんはすらすらと羊皮紙の上に記号を書いていく。
でね、その魔法陣の真ん中にはさっき言った通りまだ何も書いてなかったんだ。
とりあえずこの魔法陣をお手本にすれば、いろんな放出系の魔法陣を書けるようになるってことだよね。
そう思った僕はその魔法陣をしばらく眺めた後、バーリマンさんに気になってる事を聞いてみたんだ。
「今日は何の魔法を書くつもりなの?」
「そうねぇ。放出系で文字記号の数が一番少ないと言えば代表的なのはやっぱりライトの呪文かしら」
そっか。そう言えば僕も魔法の練習で一番多くやったのは、呪文が短くって唱えやすかったライトだったもん。
魔法陣だって書く文字記号が少ないほうが簡単だろうから、ライトが選ばれるのは当たり前だよね。
「そっか。じゃあ真ん中に書く属性記号は光?」
「そうねぇ。ライトの場合は無属性でも発動はするけど、今回は光属性の記号を使おうかしら」
魔法によって属性記号を変えるのは、それによって効果を高めたり必要な魔力を少なくする為なんだって。
だからライトの魔法だと光の属性記号を使えばいいんだけど、この魔法はいくら注ぐ魔力を強くしたって光りの強さは一定だし、元々発動するのに必要な魔力も少ないから一番簡単な無属性の記号を使ってもあんまり変わんないらしいんだ。
でもね、今回はお勉強をしてるんだから、ちょっと難しい光の属性記号を書いて見ましょうねだって。
後、話の流れからなのか、バーリマンさんは魔道具を作る時のちょっとしたコツもついでに話してくれたんだ。
「これは実際に魔道具を作る時の話なんだけど、中央の記号だけじゃなく刻む魔石や宝石、それか素材の属性がその魔法にあっているものを使えば効果をより高めたり使う魔力をもっと少なくても済むようにしたりできるのよ」
「えっと、属性って魔石だけじゃなくって宝石とか素材とかにもあるの?」
「ええ。だから魔のうの武器とかを作る時は、その素材が結構大事だったりするのよ」
バーリマンさんは宝石や魔物の素材、それに魔法金属にもそれぞれにあった属性があるって言うんだ。
例えば宝石は火の属性なら赤いルビー、水の属性なら青いサファイアと言った感じで、色によって属性が違うんだって。
それに魔物の素材だって丈夫なブラックボアは土だったり早く飛ぶブレードスワローは風だったりと、その魔物に合った属性だと思ってれば大体あってるんだってさ。
「それにね、宝石ならその種類によって属性の強さが違ってくるし、魔物の素材も当然強い魔物のほうがより属性が強くなる傾向があるわね」
「そうじゃな。宝石だとルビーは火の属性がガーネットやレッドスピネルなどに比べるとかなり高いからのぉ。そして当然他の属性にもそれぞれ特に魔力を高める効果が高い宝石が存在しておる。じゃからこの様な宝石はな、値段も他の物より高くなる傾向にあるのじゃよ」
ルビーとかだと、小さな物でも買おうと思ったら金貨で1000枚、1億セント位するんだって。びっくりだよね。
でも、バーリマンさんやロルフさんから言わせるとブラウンボアの魔石を買おうと思ったら同じ位するから、魔法の武器を作る時とかには普通に使われるよって言うんだもん、僕、それを聞いてもっとびっくりしちゃった。
「それにのぉ、ミスリル銀やオリハルコンは火や風など、多くの属性に適正があるがその分値段が高いからのぉ。それらの金属を使って武器を作るとなれば、その程度の出費など誰も気にはせんよ」
「そうですわね。前に低との武器矢に飾ってあった火属性魔法が付与されたミスリルの剣などは、金貨10万枚以上の値が付いておりましたから、それを作ろうと思うのであれば金貨1000枚などたいした金額ではありませんね」
金貨10万枚って……そんなのを買える人、いるんだ。
金額があんまり大きすぎて、僕は何がなんだかよく解んなくなって来たよ。
「まぁ、そのような武具を求めるのは高レベルダンジョンに潜るような極一部の者たちだけじゃからのぉ。そのような品を例にあげたところであまり意味は無いがな」
そんな僕を見たロルフさんが笑いながらそう言ったもんだから、僕はちょっとだけ安心。
だって魔法陣を使った魔道具がそんなのばっかりだったら僕、絶対材料を買えないもん。
「そうですわね。私たちはもっと安価な物しか扱いませんもの」
そしてそんなロルフさんにバーリマンさんもそうだよって言ってくれたから、僕はやっと本当にホッとしたんだ。
「ちょっと話がそれてしまったわね。それじゃあ、中央部分も書いてしまいましょう」
これで宝石とかのお話は終わり。
と言う訳で、バーリマンさんはかきかけの魔法陣が書かれた羊皮紙を僕がよく見えるように置くと、ちょっと複雑な記号をすらすらと中央の開いた所いっぱいに書いたんだ。
「これが光の属性を表す記号よ。複雑な形でしょ」
「うん。僕、こんな記号、うまく書けるかなぁ?」
「フフフッ、それは大丈夫。私は慣れているからそのまま書きましたが、普通はこの様な線を引く道具を使う書き方の練習から始めますからすぐに書けるようになりますよ」
僕にはできないかも? って言ったら、バーリマンさんはテーブルの上に乗ってた道具を持ち出して、こういうのを使うから大丈夫だよって。
そっか。僕があんなにいっぱい線を書いたら絶対変になっちゃうって思ってたけど、道具を使うならきっと大丈夫だね。
「さて、それでは最後の仕上げをしてしまいましょう。これから書くのはライトの呪文を表す文字記号よ」
僕がホッとしたのを見てにっこりと笑ったバーリマンさんは、魔法陣の最後の仕上げとさっき書いた光の属性を表す記号の真ん中に3つの文字らしき物を書き始めたんだ。
「あれ、これってライトって書いてあるんだよね? なのになんで3つなの?」
ところが書き終わったライトの記号を見てびっくり。だって文字っぽい物が3つ並んでるだけだったんだもん。
「フフフッ、懐かしい。私も初めてこの文字記号を学んだ時は驚いたわ。これはね、私たちの文字とは違ってこの一つ一つが一つの音を表しているのよ」
僕たちの国の言葉は前世で言う所のローマ字のように二つの文字で一つの音を表してるんだ。
でも、この呪文を表す記号はこの一つで一つの音を表すんだって。まるでひらがなやカタカナみたいだよね。
「確かに驚くじゃろうが、一度おぼえてしまうとこれが中々使いやすいのじゃぞ。何せ我が国の言葉で書くよりも半分近く少ない文字数で書くことができるからのぉ。じゃが、この文字記号は数が多い上に運用方法も我が国の文字とは大きく違っておるから普及させるのはほぼ不可能じゃろうがな」
それはそうだよね。
ひらがなやカタカナと同じだったらローマ字に使われてたアルファベットなんかより覚えなきゃいけない数が倍くらいあるんだもん。
でもね、僕はきっと、この文字を他の人たちより覚えやすいって思うんだ。
だってロルフさんが言ってた一番難しい一つ一つの音の文字記号をを覚えるのなんかは、僕の記憶にある”あ”とか”い”とかの文字に当てはめちゃったらいいだけだもんね。
書き上げた事に満足して、アップするのを忘れてたw