平凡ないつもと変わらぬ薔薇の館での昼休み。その日は珍しく祐巳さまと私二条乃梨子、そしてなぜかくっついて来た瞳子の3人でお昼ご飯を食べていたのだけれど、そこで口を開いた祐巳さまの何気ない一言でいつもとは違う昼休みになってしまった。

あくまでついでと言う事で

 「ねぇ、瞳子ちゃん。」
 「なんですか?」

 食事中の雑談の中、祐巳さまがふと思いついたように瞳子に声をかけた。

 「クリスマスプレゼント、何にするの?」
 「えっ、なっ、なんですか急に!そんな事祐巳さまに言える訳が無いじゃないですか。」

 いきなりの言葉にどぎまぎする瞳子。でもねぇ、祐巳さまのあの口調からすると瞳子が思っているのとは少し違う意味だと私は思うのだけど。

 「どうして?祥子さまにあげるんでしょ?クリスマスプレゼント。」
 「えっ?あっ、そうですけど・・・。なぜそれを祐巳さまに教えなければいけないのですか!」
 「そんなに怒らなくても。私はもし瞳子ちゃんとプレゼントが同じ物だとお姉さまが困るんじゃないかな?と思っただけなんだから。」

 あらあら瞳子ったら、顔を真っ赤にしてしまって。あの表情からすると案の定、祐巳さまから何をくれるの?と聞かれたと思ったみたいね。

 「怒ってなんかいません!」
 「怒ってるじゃない、顔が真っ赤だよ。」

 お姉さまから祐巳さまは案外鈍い所があると聞かされているけど、このやり取りを見ていると案外ではなく本気で鈍いんじゃないかと思う。あれはどう見ても怒って赤くなっている訳じゃないと言う事くらい解ると思うんだけどなぁ。

 「そんな事はありません!」

 そう言ってぷいと横を向いてしまった瞳子を、

 「そんなに怒らないでよ。」

 などと言いながら必死になだめる祐巳さま。いつもの光景だけど、う〜ん、瞳子もそろそろ素直にならないと祐巳さまを可南子さんに取られてしまうよ。


 食事も終わり、睡魔と戦わなければならない午後の授業もやっとの事で乗り越えて今は掃除の時間。同じエリアの掃除を担当している瞳子を見ていたら、昼間の事が頭の片隅をよぎったのでつい、

 「瞳子、祐巳さまにはなにを上げるつもりなの?クリスマスプレゼント。」

 などと余計な事を聞いてしまった。すると案の定、

 「なっ、なぜ私が祐巳さまに!」
 「あげるんでしょ?それとも本当にあげないつもりなの?可南子さんは当然あげると思うわよ。」
 「うっ!」
 「祐巳さまは鈍い所があるから気付かなかったけど、昼間祐巳さまに聞かれたクリスマスプレゼント、紅薔薇さまにではなく祐巳さまへのプレゼントを聞かれたと思ったんでしょ?」
 「そっ、そんなこと・・・。」

 強がって反論しようとしても、語尾が小さくなってきてるよ。

 「私が気付かないと本気で思ってる?怒って真っ赤になる人は瞳子みたいに耳まで真っ赤になるなんて事は無いわよ。」
 「・・・・。」

 そこまで指摘されては流石に何も言えなくなってしまうわよね、瞳子さん。でも、これくらい言わないとこの子は素直にならないからね。

 「あげるんでしょ、プレゼント。あげるならちゃんと考えないと。」
 「でも、どんな顔をして差し上げたらいいんですの?」

 おっ、ちょっと前進。否定はしなくなったわね。

 「普通にあげればいいんじゃないの?祐巳さまなら喜んでもらってくれると思うよ。」
 「あの方はそうでしょうね。でも、今まで私が祐巳さまにして来た事を考えると・・・。」

 なるほど。確かに祐巳さまはいまだに自分は瞳子にとって紅薔薇さまのおまけだと思っている節がある。瞳子が薔薇の館に現れるとまず最初に、必ず紅薔薇さまがいらっしゃるかどうか言うものね。

 実際問題、出会った頃の瞳子は祐巳さまに対して敵意剥き出しで紅薔薇さまにくっついていたから、あの頃の瞳子と祐巳さまだけを知っている人が今の二人を見たらお互い腹の中では何を考えているのかと疑ってしまうでしょうね。でも、

 「う〜ん、それは考えすぎじゃない?春先ならともかく、今の瞳子からなら何をもらっても喜んでもらってくれるわよ、きっと。」
 「そうだとは思うのですけど・・・。」

 少なくとも私の目から見た祐巳さまは裏表の無い人だと思う。そんな祐巳さまだからこそ、今、瞳子に接している祐巳さまの態度を素直に信じられない瞳子がちょっと意外だった。


 次の日。昨日の話が引っかかっているのか、瞳子の表情がちょっと暗い。あの顔は「もし手渡したプレゼントを祐巳さまに要らないなんて言われたらってどうしよう。」などと悩んでいる顔ね。そんな事、祐巳さまが言う訳無いのに。

 「ごきげんよう、瞳子。」
 「ごきげんよう、乃梨子さん。」

 流石自称女優。私が声をかけるとまるで何事もなかったように、いつもの瞳子の表情になった。でも、

 「何プレゼントするか決まった?」

 と、私のこの一言でとたんに元気がなくなってしまう。

 「何?まだ難しく考えているの?」
 「そういう訳ではないのですけど。」

 そう言う瞳子の顔には、難しく考えていますと書いてある。

 「瞳子は祐巳さまが自分を偽って瞳子と接していると本気で思っているの?」
 「祐巳さまに限って、そんな器用な事ができる訳が無いですわ!」

 あらあら。言い方は素直じゃないけど、あの瞳子がこんな剣幕で祐巳さまを弁護するなんてねぇ。

 「解ってるじゃない。そんなにムキになって祐巳さまを庇わなくてもいいよ、私もそう思っているから。」
 「うっ。」

 流石に自分の態度に気付いたらしく、瞳子はまた黙ってしまった。

 「とにかく、考えすぎない事よ。ただ祐巳さまに喜んでもらう事だけを考えたら。」
 「祐巳さまに喜んでいただく?」
 「そうそう。別に婚約指輪を渡すとかじゃないんだから、気楽にすればいいのよ。」
 「それもそうですわね。」

 ここまで言われて、やっと肩の力が抜けたみたいね。

 「あっ、でも別に私は祐巳さまだけにプレゼントをお渡しするわけではないんですのよ。あくまで紅薔薇さまのついでに祐巳さまにもお渡しするだけで。」
 「まだ言うか、この子は。もうちょっと素直にならないと祐巳さま、可南子さんに取られてしまうわよ。」
 「だから別に私は!でも可南子さんに負けるのはしゃくですわね。」

 そう言った瞳子の顔は本当にいい笑顔だった。そして数日後のクリスマスイブのこと、

 「祐巳さま、これはえっと、その・・・。」
 「あれ?瞳子ちゃん、私にもプレゼントをくれるの?」

 薔薇の館で行われたクリスマス会で瞳子が祐巳さまにプレゼントを手渡した。

 「いや、あの、これはつまり、その、紅薔薇さまにだけプレゼントを差し上げると言うのも・・・。」
 「ありがとう、瞳子ちゃん。」

 本当にうれしそうに、満面の笑みで受け取る祐巳さま。それなのに瞳子ったらうつむきながら、

 「つっ、ついでですよ、祥子お姉さまのプレゼントを買いに行ったので、あくまでそのついでに。」

 なんて言ってるし。でも、

 「それでもうれしいよ、瞳子ちゃん。」
 「(ボン!)」

 あらあら瞳子、そんなに真っ赤になったら、いくら鈍い祐巳さまにも解ってしまうよ。でも、よかったね、ちゃんと渡せて。


あとがき(H16/12月31日アップ)
 クリスマスSSなのにアップが大晦日になってしまいました。すみません。

 さて、私の今までのSSの傾向からして祐巳ちゃんと祥子さまの話だろうと思っていた人が多いのでは?祐巳ちゃんと瞳子ちゃんの話を予想していた人でも、まさか乃梨子ちゃんの一人称の話になるとは思っていなかったのではないでしょうか?

 私も始めは祐巳ちゃんと瞳子ちゃんだけが出てくる話を書こうかななどと思ったのですが、ふと、そう言えば1年生同士の話を書いたことが無いなと思ったんですよ。私は乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんの友人関係が結構好きで、いつかこの二人の話を書いてみたいなぁなどと考えていたので、このことが頭に浮かんだ瞬間、乃梨子ちゃんから見た話になり、書いて行く内に(祐巳×瞳子のカップリング話にもかかわらず)祐巳ちゃんがほとんど出ないと言う変わった話になってしまった訳です。

 でも、実際祐巳ちゃんの妹が決まる時は瞳子ちゃん、可南子ちゃんのどちらに決まっても乃梨子ちゃんが選ばれなかった方のフォローをするんだろうなぁ。なんか泣いている瞳子ちゃんをなだめる乃梨子ちゃんの画が浮かんで嫌なんだけど。(笑)

 最後に、今回の題名の「あくまでついでと言う事で」ですが、本当は違う名前にするつもりだったのですが、アップが大晦日と言う事でクリスマス関係の名前でマリみてSSページにアップするのが恥ずかしいのでこうなりました。それなら早く書けよ、自分。

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