「心こそ心惑はす心なれ心の駒の手綱許すな」良寛
「いかにせば誠の道にかなはめとひとへに思へ寝ても覚めても」良寛
二作品ともに六尺×六尺の屏風に書きました。
作品作りはまず歌を昧読して揮毫の紙を決めるのですが
今回は良寛の無垢な気持ちと強い意志を表そうと白い素紙を用いました。
また大字かなは鑑賞する場の広さや鑑賞者の視点を考慮しなくてはなりません。
2014.11.26.
「真盛りの花の夜空の雨もよひ身にしむ色を見するものかな」尾上柴舟
「さしそむる光にうごく葉のありて朝のひびきは林よりする」尾上柴舟
第31回読売書法展出品作品
大石隆子先生の師匠にあたる尾上柴舟先生の歌を巻子の形式でまとめました。
ここ数年巻子の作品を勉強しております。
十数首の歌を3mの紙に散らし書きすることはなかなか難しいことです。
文字の大小や太細、字間や行間、行の高低、墨継ぎ、墨色の濃淡などの
配合により作品が形成されるのですが、良い作品はやはり日頃の稽古あってのものと
反省するばかりです。
2014.11.26.
「しら露も時雨もいたくもる山は下葉残らず色づきにけり」古今集 紀貫之
今年の夏も暑くはありましたがお盆を過ぎたころから幾分凌げるようになり
九月も半ば過ぎとなり朝夕やや肌寒くなって参りました。
今年は久しぶりに秋を楽しめるように思われます。
晩秋の景色を心に描きながら、人口にも膾炙されている紀貫之の歌を書きました。
2014.9.20.
「雲ひとつなき大空にそびゆるはさくら衣の不二の山かも」自詠
第60回東方書展出品作
春に催される展覧会にふさわしく春の富士山を詠んだ歌を書きました。
この歌は友人が桜につつまれた富士山を見に行こうと誘ってくれ、
富士山に行った時の歌です。
残念ながらまだ寒く花を見ることはできませんでしたが、
目の前にそびえる富士山を眺めているとこの歌が湧いてきました。
80p×60pの作品で料紙作りが大変でした。
2014.5.12.
「春霞色のちぐさに見えつるはたなびく山の花のかげかも」藤原興風
第23回春駒会書道展出品作
春の歌を書きたく古今集をひもとき読み進み
この歌を読んだ瞬間に料紙のイメージが湧きました。
しかしながらイメージは湧いたものの料紙作りは上手くいかず
三度作り直したものがこれです。
右上方に藍と紫をごくうすくぼかし左下方は紅梅色でうすくぼかしました。
どうにか思うような作品ができました。
2014.5.2.
「何となき草の花咲く野辺の春雲にひばりの声ものどけき」
「山もとの鳥の声より明けそめて花もむらむら色ぞ見えゆく」永福門院
第60回栴檀社書展出品作
学生時代に永福門院の歌を知り、心のままに詠むという歌風にひかれ
歌作りの手本となりました。また機会あるたびに作品や手本を書いています
この度の栴檀社書展では十首を巻子にまとめてみました。
料紙は自作にて錆白緑に染め切り箔野毛霞を施しました。
2014.5.2.
「雪ふりて人もかよはぬ道なれやあとはかもなく思ひ消ゆらん」凡河内躬恒
高校時代岩波文庫の尾上柴舟先生校訂による古今和歌集を購い、読み耽りました。
この歌は、深々と降り積もる雪の中只一人も尋ねる人もなく私のことを忘れているのだろうと云う
切なさと雪がもつ静謐さが渾然と表現され、とても感動したことを覚えています。
なかなか思うようには書けないもどかしさのまま書き上げてしまいました。
2014.2.16.
「慶 寿」
この言葉は江戸時代の国学者本居宣長の年賀の消息文の
「新年之慶寿萬々目出度申納候…」より頂戴したものです。
慶にはめでたいという意味があり、寿には長命の意味があります。
まさに新年を飾るにふさわしい言葉と思い書きました。
2014.1.26.
「山茶花のしろき初花咲にけり母にそなへん冬は来たりぬ」自詠
玄関先に一本の山茶花の木が植えてあります。
母は生前この白い花が咲く山茶花を好んでおりました。
この歌は少し前のもので、なにげに山茶花の木に
目をやったところまだ芯はうす紅色をしているものの
ひらいている花を見つけたので母にお供えをいたしました
ときの歌です。
静かにひっそりとした作品に仕上がりました。
2013.10.22.
「なみ音」
この作品は十数年前に卒業した生徒が
長年の料理人の修行の後お店を構えるに至り
その折に屋号の揮毫を頼まれ書いたものです。
海が好きでサーフィンの名手の彼を思いながら
書きました。
これはお店の玄関に置かれているものです。
2013.10.22.
「春の道見知らぬ子犬のをどり来ぬ疾く帰りませ母の御許に」自詠
第41回日本の書展出品作
ある時家の近所を歩いていたら一匹の子犬がとび出して来て、
ぼくの足に跳ねながらそばえ始めました。
あまりの愛くるしさにしばらくの間じゃらしていましたが、
ふと母犬が心配していることに気づき、
子犬に「おかあさんのところにおかえりなさい」とうながしました。
ある晴れた春のことでした。
60p四方の自作の料紙に春らしくクリームイエローの裾ぼかしに
紫とグレーの破り継ぎを施しました。
また全体に銀や金の砂子や切り箔を撒きました。
2013.8.22.
「かなしみをつゝみもちつゝ人は皆其をたづさへて今日も旅ゆく」自詠
「朝日子に勇気賜りこの道をほがらかにありて歩まんと思ふ」自詠
第56回東方書展出品作
今年は初めて審査員の命を受け、その記念に自詠の歌を二首書きました。
思い入れの強い二首ですから、ついもう一枚もう一枚と書き込みました。
料紙は自作で、一枚目は散らし書きに沿って青くぼかし軽やかさをだし
二枚目は一枚目のぼかしが続くようにクリーム色でぼかしました。
また破り継ぎをほどこすことで重厚さをだしました。
2013.6.25.
「あたゝかき人の言葉につゝまれて春の巷をゆくが楽しさ」自詠
第22回春駒会書道展出品作
この歌は十五年ほど前に作ったものです。
その時は体調を崩しており前途も不安な折りに
身近な方々から励ましや温かい言葉をいただき
随分と安堵した記憶があります。
ですからこの歌への思いも強く、
より良い作品をと枚数を重ねて書きましたが、
なかなか満足のいく作品にはなりませんでした。
芸術とはこういったものなのかも知れません。
2013.3.29.
「今日もまた花待つほどのなぐさめに眺めくらしつ峰の白雲」後徳大寺左大臣
第59回栴檀社書展出品作
後徳大寺左大臣(藤原実定)の歌集「林下集」より九首撰び
天女が空を舞うようなイメージで散らし書きをしてみました。
穏やかで悠々とした趣のある歌に巡りあえたことを嬉しく思います。
料紙は自作で白の具引きに散らしにあわせて
蒲公英唐草の蝋箋を施し、銀の切り箔砂子を撒きました。
2013.3.29.
「えさ頂戴戸を叩きをるそと猫にいそぎ馳けゆきて鉢を満たせり」
第7回 獣医とその仲間達の猫のアート展出品作
ぼくの家のあたりには飼われていない猫がいて、時がくると
お勝手の戸をトントンと叩き、餌の催促をします。
その音がすると戸口に置いてある器にキャットフードを盛ります。
最近では見知らぬ猫も来ているようです。
そんな絵をそえてみました。
2013.3.3.
「ほの白う夜をふりしく雪を眺めおもむろに猫は庭に下り立つ」
第7回 獣医とその仲間達の猫のアート展出品作
飼い猫が雪明りのする庭をしずかな眼差しで眺めていたので
戸をあけてやったところ庭に下り、うっすらと積もった雪を眺めておりました。
なにげに風情のある様子でした。
自作の白い具引きの紙に、簡素で静謐な雰囲気を出せたらと思い書きました。
2013.3.3.
「しらみゆく元日の空に真向へり勇む心を拳にためて」
一年のはじまりの意気込みを詠みました。
僕にとって書道そのものが生の営みであります。
でもひとりでは生きて行けません。
みなさんに支えられていることの感謝を忘れず
怠ることなく倦むことなく書の道に励もうと思います。
2013.2.14.
「養 生」
心やからだが疲れ痛んだときは
無理をせずによくよくいたわり癒すことが
大切に思います。
この作品は先日お世話になった鍼灸の先生に
お贈りしたものです。
2012.11.24.
「世の中の憂さもつらさも情をもわが子を思ふゆゑにこそ知れ」良寛
「植えてみよ花の育たぬ里もなし心からこそ身は癒しけれ」良寛
この良寛さんの二首は、お弟子さんがパーティーを催された際
ご依頼を受け揮毫し舞台を飾った屏風です。
パーティーの主旨にのっとり、この歌を撰んだところ
皆さんに大そう喜んでいただけました。
親の子を思う深い愛情と共に
親自身が如何にあるべきかを思いながら書きました。
2012.11.24.
「朝日子に勇気賜はりこの道をほがらかにありて歩まんと思(ふ)」自詠
十年ほど前の拙詠です。
始発の新幹線に乗った時、朝日が徐々に昇り
日の光を強く受けたことに感動しました。
朝日はいのちに活力をあたえてくれるものと知りました。
2012.10.1.
「目覚むれば朝明けの空晴れ渡り湖は今富士を映せり」自詠
三月のおわり頃富士山に行った時詠んだものです。
朝早く目が覚め宿の窓から富士山を眺めると
湖に富士山が映っていてとても感動しました。
当たり前なことかも知れませんがとりわけ神妙な思いがしました。
写真を撮りその上に作品をのせてみました。
2012.6.13.
「橋を渡ると水しぶきの音よるの河に人魚はおどるあざけりながら」自詠
第55回東方書展出品作
ある夜自転車で橋を渡ろうとした時ポチャンと水しぶきの音がしました。
河をのぞいてもただ黒く光るだけ。奇妙な想像にかられてしまいました。
こんな歌もたまにつくります。
料紙は紫に染めた後薄墨で暗くぼかし銀の焼き箔の砂子を撒き
河の淵に見立てました。
2012.6.13.
「とりつなぐ人もなき野の春駒は霞にのみやたなびかるらん」藤原盛経
第21回春駒会書道展出品作
春駒会の名は25年ほど前に大石骼q先生よりいただきました。
今回は会の名にちなんだ歌を書こうと歌を撰んでいたところ
のびやかな詠みぶりで開放的な意のこの歌と出会い感銘をうけ
書いてみました。
料紙は歌の意に沿い若草色と空色をそれぞれぼかし、
一部分に桃色のぼかしを入れ、銀の切り箔とかすみを撒き、
そこに蒲公英唐草の空刷りを施しました。
2012.3.20.
「大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲」万葉集巻第七
第58回栴檀社書展出品作
万葉集巻第七より十首撰び、
散らし書きで3mほどの巻物に仕立てました。
この大らかでゆったりとした歌に感動し書いてみました。
料紙は自作で白の具引きに銀の切り箔砂子を
散らしにあわせて撒きました。
2012.3.20.
「きさらぎの雨にぬれつつものの芽は人に知られずひそやかに伸ぶ」自詠
二月の雨はとても冷たく冬の厳しさを感じさせてくれます。
そんな時木々に目をやると木の芽たちも寒さに堪えながら
春を待ちきれなさそうにふくらみはじめていました。
2012.2.19.
「わが心坦として今明けそむる元旦の空を直(ただ)に望めり」自詠
元日の朝は神聖な心持ちになります。
新しい年のはじめの朝 空を望んだ時
平らかで真摯な気もちになり詠んだ歌です。
2012.2.19.
「まひちれる木の葉をおひて戯るゝ子猫のそばで寝(ゐ)ぬる母猫」自詠
わが家の周りの秋の一景を詠みました。
秋風に舞う枯葉にじゃれる子猫たちの様子が
あまりに可愛らしかったことを覚えています。
母猫がかたわらでねむっているという
ほのぼのとした光景でした。
2011.11.22.
「なくむしのこゑも ともしくなりゆきて木ずゑにかゝる 月ぞさびしき」自詠
気がつけば秋も過ぎ去ろうとするこの頃
虫の音もわずかになり
月は冴えるほど空にさみしく感じられます。
平明で淡々としたあじわいが出せればと書いてみました。
すすきの絵を描いてそえました。
2011.11.22.
「うるはしき海山の民 季節(とき)を愛で いささかのこと成し遂げんとす」自詠
青い海原にかこまれ、錦織りなす山をのぞむ。
この美しい自然をもつ国に生まれ育ち暮らして行くなかで
自分の進むべき道をひたすら歩み求めようと思った時に
フッとできた歌です。
多くの人に読んでいただけるように、書いてみました。
2011.9.25.