人皇三十一代、用明天皇時代、丁未の年（西暦５８７年）に、わが国未曾有の大飢饉が襲った。 而も疫病が非常に流行したゝめ、人類鳥類に至るまで、被害を受け、おびただしい死者を出した。 そのため聖徳太子は、この悲惨な状況を憐れみ、身丈一尺二寸の薬師如来の座像を彫刻され、江州志賀の里（現在の大津市付近）に一堂を建立して安置された。 この本尊を拝した人々は、現当二世のご利益を蒙り、如何なる疫病も平癒し、所願満足すること、鏡で姿を写すかのようにあらたかであったので、 九百八十余年の長きに亘って、老若男女、貴賎貧富の別なく、信仰の的となった。

越えて人皇百六代正親町天皇の元亀二年西暦１５７１年、織田信長が叡山を焼き討ちした際、僧東��坊は、難を免れるため、この本尊を背負い、 郷里奥州田村郡三春の里へ下る途中、尾州志賀の里にあった仏堂（現在の当山所在地）までたどりついたが、はからずも病に侵されたので、 この郷の医師平手桃庵（平手政秀の孫）は、あらゆる良薬と手当てを施したが、その効なく、ついに元亀二年十月五日、この本尊に向かい合掌し、 称名もろとも五十三才を一期として、不帰の客となってしまった。よって法名を霊雲東��沙弥と号し、桃庵はねんごろに追善供養を営んだ。
このうわさが、近郷近在に伝わり、桃庵の邸は門前市をなす有様で 、一度治療を受けに来た病人が、この薬師如来を信心するときは、 病たちどころに平癒し、殊に乳米と称して本尊に供える仏餉米を少量借り、粥にして食事にすれば、忽ち乳がほどばしるほどだった。 このようなあらたかな、霊験に感激した人々は、信心益々厚く、志を一にして別堂を建立し、本尊を安置して、志賀薬師如来と称えた。 これを見た桃庵は、感ずるところあり、医業を捨てて仏門に入り、先の住職実渓真公首座（永録元年没）を草創開基とし、 自らは、薫庵芳公和尚と号し、開基二世住職となり、寺を天醫山東高寺と名づけた。

次いで寛永十七年（西暦１６４０年）開基三世祝公牛泉時代に別堂を三間半に改築して、無縁の人々へ結縁のため、同年八月八日より百日間の開帳を行ったが、 天明元年（西暦１７８１年）鉄叟田牛大和尚時代に、五間半の本堂が建立され、内外の面目が一新されたので、この和尚を中興の開山とし、世代を改め一世とした。 これを記念するため、天保十四年九月八日より六日間、大正三年六間半の本堂に改築のため同年五月四日より七日間、十九世大正十五年四月二日より七日間、何れも開帳を行った。

その後昭和二十年五月十四日戦禍を蒙り、本堂並びに付属建物一式は、鳥有に帰したが、本尊薬師如来のみは、安泰を得たので、 二十世弘範和尚により、礼拝堂を建立し、昭和二十四年十月十五日、十六日の両日に大本山永平寺不老閣禅師を迎え、入仏、晋山式を挙げ当山復興記念の開帳を行った。
更に、昭和四十年現在の鉄筋コンクリート造りの近代様式による本堂が再建され、この時も不老閣禅師を迎え、入仏、落慶記念の開帳を行った。

当山は、平成九年五月現住職により、現本堂地下の改装並びに庫裡全面改築した。また、平成十九年度には本堂の機能向上・耐震工事が完了した。
　今日、檀信徒教化に邁進し、本尊を当郷に安置し正身の薬師如来を目前に拝することができるのも、 ひとえに東高坊がこの地まで本尊にお供えした根熟因縁によるものといわねばならない。