私はフランスの女王なのですから

 

前世に悪いことをすることによって、今の人生が悪くなる。私が精神病になったのは前世に物凄く悪いことをしたからだ。だいたいにして精神病になるような人間は最悪な人間なのだ。最低の因縁なのだ。当時28歳だった私は真剣にそう思っていた。
狭く不気味な部屋である精神病院の中の保護室という名の独房の中で、私は罪の意識にさいなまれていた。『そうだ、私の前世はマリー・アントワネットであったにちがいない。国民の税金を湯水のように使い贅沢をしつくした、悪い女。それが私の前世なのだ。私は罪を償わなければならない。』そう思っていた。
保護室には三度の食事が運ばれる。私は食事を全部食べた。嫌いなものでも無理をして食べた。そう。私の前世はマリー・アントワネットなのだから・・・贅沢な食事をしていたのだから・・・と私は病院食を食べたあと、皿をベロベロとなめつくした。
それを見ていた看護婦さんが
「マリさん、そんなことまでしなくてもいいよ。」
と言ったが・・・
「いいえ看護婦さん、私は前世で悪いことをしたのだからこうしなきゃならないの。」
と、私は皿をなめることがさも当たり前のように、そう返事をしたものだ。
 保護室に入っているような症状の悪い患者にとっては、監禁されている時間が長く感じられない。保護室というものは一般の人からすると、刑務所の独房にいるのと同じ時間の流れなのだが・・・

 

 朝、昼、晩の食事を全て食べて、夕方の6時ごろ私は毎日叫んでいた。
 「私はフランスの女王なのですから!」
 その叫び声はたぶん病院中に響き渡ったことだろう。今思うと自分ながらこっけいである。
私の前世がマリー・アントワネットだなんて今はもう思わないし、生まれ変わりもあまり信じていない。しかしネットをしているうちに、精神病の人が自分の前世が歴史上の人物だと思う人が多いということを知った。私もその中の一人だったのだ。
 今思うとマリー・アントワネットに対して悪かったかな?とも思う。マリー・アントワネットは、そんなに極悪人ではなかっただろうと思う。マリー・アントワネットは現代の人に例えれば、亡くなった元イギリス皇太子妃、ダイアナさんのような雰囲気の人かな?と思う。

 
マリー・アントワネットには謝りたいな。