浜辺のバリアフリー

 

一生砂浜は歩けない

たぶん死ぬまで私は水着が着られない

私は夏になる度泣いたの

だって・・・私には足がない

私は身体障害者なの

でも海へ行きたいわ

水着も着てみたいわ

 

でも・・・恥ずかしいの・・・

みんなが私を好奇の目で見るかもしれないわ

だって私には足がない

でも波の音ききたいの

日焼けしてみたいわ

貝殻ひろいたいわ

でも私には足がない・・・

 

私は一生懸命勉強して

医者になりました

一人で生きていくためよ

志を強く持って

私はひとり立ちしました

でも波の音きいたことない・・・

夏になる度泣いたの

 

そんなある日

私の前に一人の男性が現れた

 

「君は名医だね

ボクは君には脱帽するよ」

同じ医局のドクターだった

 

「ボクの恋人になってくれませんか?

ボクは君のバリアフリーになってあげます。

君・・・どこか行きたいところはありますか?」

 

彼の強引な誘いには戸惑ったけれど

彼の瞳は澄んでいました

 

「海へ行きたいわ。夏の海へ行きたいわ!」

と自分で言ったら

涙がポロポロと流れました

時に今は8月です

 

「じゃあ日曜日にボクと一緒に海に行きましょう!」

彼は微笑んだ

「ダメよ!!!私。足がないの・・・

砂浜歩けないの

水着にあわないの・・・」

「君。なぜ泣くの

君はとっても美しいよ

泣かないで・・・

ボクはずっと君を見ていました

君の悲しい心も知っていました

確かに君には足がない

でも君の肩には天使の羽根がある

ボクはそれに憧れていました

夏の海に行きたかったのですね・・・」

「私は天使なんかじゃないです。

買いかぶりだわ。そんな。」

「いや君は天使だ。

君の患者さんは君に癒されて

笑顔を取り戻していきます

ボクと一緒に海へ行きましょう

君に似合う水着は

僕に選ばせてください。」

 

私はあっけにとられたけど

悪い気はしませんでした。

 

そして日曜日には

デートの約束をしてしまいました・・・

 

彼の車に乗って

海へ向かいました

 

「君。これを着てください」

 

まっ白な水着

私の短い足のたけまで

ヒラヒラとした

レースがほどこしてありました

彼の私に対する深い思いやりを感じました

 

「でも、私は砂浜を歩けないわ」

「君。失礼かもしれませんが

僕が肩車をしてあげます。

ボクと一緒に砂浜を歩きましょう

これからはずっと僕の足跡が

君の足跡になれるといいな・・・

と僕は思いたいです。」

 

彼はてれくさそうに言った

 

そして私は彼と一緒に波の音をきいたの・・・