美紀

 

 

その女の子のことはかすかに覚えている

人がみんな行きたくはないが仕方ないから行く

歯医者で美紀は歯科助手として働いていた

 

美紀の顔は忘れてしまったが

髪型は覚えている

ボブと言えば褒め言葉であるが

美紀はおかっぱ頭の女の子

それは記憶している

 

おかっぱなんてその当時は流行ってなかったから・・・

美紀は若い女の子なのに

はつらつとしたところなど全くなく

美紀がいる空間はいつも

「どよ〜ん」

としていて美紀は亡霊のように暗かったことを覚えている

「どよ〜ん」

という言葉は美紀のためにあると言っていいくらい

美紀は暗くて不幸そうだった

 

そこの歯医者にいる歯科助手は

なぜか妙に派手な女の子ばかりで

厚化粧をした歯科助手たちの中で

美紀は化粧っけがなく

地味で浮いていた

 

美紀は歯科助手としては優秀でなく

とても要領が悪くて

失敗ばかりしていた

 

そんな美紀のことはずっと忘れていたんだけど・・・

 

 

私はある男の子に恋をして

その男の子の話を聞いている限り

男の子が以前女の子と同棲をしていたことがわかってきた

私はそのことについてなんとも思っていなかったのだけど

私が恋する男の子がかつて同棲していた女の子が

例の美紀だったことがわかった

 

私はそれがわかってとても嫌な気持ちになった

あのような亡霊のように暗い美紀が

私が今恋をしている男の子と

同棲していたなんて・・・

 

「美紀はねアイスクリーム犬をしていたよ」

男の子は言った

変な女の子だと思った

誰だってアイスクリーム犬をするような女の子なら

セクシーな女の子だろうと思う

いやセクシーな女の子だって

するだろうか?

 

それが・・・

あの美紀がアイスクリームを陰部につけて

犬になめさせる・・・

 

想像するだけで嫌だ

美紀は陰気な雰囲気を漂わせているのに

していることは

淫乱で気持ち悪い

私はぞっとする

 

今はもう美紀は歯医者さんにはいない

歯科助手も辞めたそうだ

 

「僕は同棲しているとき喧嘩して

女の子の髪の毛をハサミで切ったよ」

と私の恋する男の子は悪気もなく言った

物凄くひどい話だと思った

恐ろしいとも思った

でもその話を聞いた当時は

男の子と同棲していたという女の子が

あの美紀だと知らず

同棲していたと言う女の子は物凄いあばずれで

どうしようもなく

腹が立ってそのような行為をした・・・

と思った

男の子はどちらかと言うと

派手な感じの男の子だから

相手の女の子も派手でおうちゃくな女の子で

もうどうしょうもない気持ちを抑えきれなくて

女の子の髪を切ったんだ・・・

とか思っていた

 

それが・・・

あのような陰気な雰囲気を漂わせている美紀が

おかっぱだったのは

男の子に腹を立てられて

髪を切られるはめになった結果だったとは・・・

それはちょっと想像がつかない

髪を切る方も切る方なら

髪を切られる方も切られる方だ

と私は想像の域で思うのだけれど

私は男の子が好きだからひいき目も確かにある

 

 

時間が流れて

私の恋する男の子が

怒ると半端じゃないほど怖いことがわかってきた

 

私はずっと男の子とメールのやり取りをしていた

怒った男の子がこんなメールを私に送った

 

「俺が美紀と暮らしていた時

よく美紀を殴った

お前なんかと暮らしたら

お前のことを殺しそう

まあ、一緒に暮らすこともないだろうからいいのだが」

 

私は思った

『この男の子は自分にコンプレックスを持っている

美紀を殴ったり髪を切ったり・・・

ドメスティックバイオレンスとでも言おうか?

女に対して酷いことをしてしまう自分を

とても恥じている

いや劣等感を持っている・・・』

 

男の子は私と同じ精神障害者で

美紀は健常者だ

美紀は歯科助手をしているくらいだから

人に対して面倒見が良かったのだろう

と今は思う

病気があまりにもひどくて

親に見捨てられたと言う男の子は

美紀に面倒を見てもらっていたのだ

それに対して男の子は

とても美紀に感謝をしていると思う

 

 

ある日またメールのやり取りで

こんなメールをもらった

「おまえは美紀と同じようにクズだ!」

 

クズと言われていい気がする人間などいない

しかし人のことをクズと言えば

自分だっていつか誰かにクズと言われる

私はそう思った

 

男の子と美紀が破局したように

私と男の子の恋も破局した

 

というより物凄くひどく

私は恋する男の子に言葉の暴力を受け

捨てられた

でも今思うに私だって

男の子に対して

言いたい放題言っていた



男の子に言葉の暴力を受けていたとき

あまりにも恐ろしかったので

私は生理でもないのに

毎日少量ずつ

出血する日が続いた

 

 

それでも・・・

今なお私はその男の子のことが好きだ

恐ろしく激しい性格ではあるが

彼はまた恐ろしいほどの魅力の持ち主だ

 

未練たらたらと

今でも私は片思いをしている

 

そして

男の子と一緒に暮らしていたという

美紀に対して

物凄くジェラシーを感じている

 

そして美紀に対してジェラシーを感じたり

捨てられた男の子のことをいじいじと忘れられない自分も

きっと

「どよ〜ん」

とした雰囲気をかもしだしているのではないか?

と思う今日この頃だ