ユウウツなお祭りの日
あれは何年前だろうか。そのとき私は20代前半だったと思う。私と同じ精神の病気を患っている友達から電話があって、「七夕祭りがあるから家に遊びに来ないか。」とのこと。
七夕祭りというのは愛知県一宮市で盛大に催される、お祭り。その規模はものすごく大きい。距離の長いアーケード街にきりこが色鮮やかに飾られる。お祭りのない普通の日でもこの一宮市は、織物の街ということで最新流行の服であふれている。地方都市といえども都会を感じさせる街である。友達の家は、そういう都会のアーケード街の裏道にあった。
「まりちゃん、家に泊まりにこやあ」とのことで私は喜んで遊びに行った。友達の家に行き、四方山話などした。しかし友達の口から「さあ、このくらいでお祭りに行かないか」という言葉がいっこうに出ない。私は内心、いつになったらお祭りに行くつもりなのだろう・・・と思ったが、自分からは口に出せないでいた。
「まりちゃん、お祭りに行こうか」という言葉が、友達の口からもれたのは夜の10時過ぎで、お祭りに行ったらもうアーケード街のライトアップは消えていた。
友達の家をすぐに出た場所で、たこ焼きやが売れ残りのたこ焼きをさばこうと、ひっそりとお店を開いていた。私たちはそのたこ焼きを買った。たこ焼きは冷たくてまずかった。
「もう行こうか」と友達が言う
結局お祭りはまったく見ずに終わった。なんだか私はとってもみじめに感じた。友達を責めはしなかったが、なんのためにお祭りに来たのかわからないまま友達の家で床につくことになった。
あくる日。友達の家ですごし、お昼ご飯をいただいてすぐ、友達が
「まりちゃん、もう帰りゃあ」と言う。本当はあまり帰りたくなかったのだけれども、帰れと言われて居座ることもできずに、帰ることになった。友達がバス停まで送ってくれる途中,アーケード街を通った。
アーケード街ではちょうどパレードが始まろうとしていて「ミス七夕がオープンカーに乗り、そのまわりをブラスバンドが音楽を奏でながら歩く」といったことがアナウンスされていた。私はそのパレードが見たかったが、友達が「もうバスが来るよ」と冷酷に言う。
結局お祭りは何も見ずに終わった。私にはわけが解らない。お祭りに誘っておいて、まったくお祭りを見させてくれない友達・・・だが友達も私と同じ精神の病だったので、なんとか友達の行動が許せたのだが・・・
この友達の“奇行”ともいえる行動は、今の私には良く解る。本当はお祭り気分にひたりたいのにひたりきれない気持ち。皆が楽しそうにお祭りを楽しんでいるのに、自分の心が沈んでいて、お祭りを楽しめない、病気の症状。ユウウツなお祭りの日・・・