世襲制美女

 

 

その国の名を

「魔女の王国」

と異邦人たちは呼ぶ

 

ゾルズハイル王家の

宮殿の壁いっぱいに飾ってある絵は

全て絶世の美女の肖像

それは代々と歴史ある王家の血筋を持つ

女王たちの肖像画

 

それなのに・・・

現ゾルズハイル王国の

世界一の美女の誉れ高いルシア女王の

産んだ皇女は

目を覆いたいくらいの

醜い少女だった

 

 

ゾルズハイル王家の家系は

全て女系

ゾルズハイル王家の女王の配偶者はただ

美しい子孫を残すことだけを追求するために

容姿が美しいというだけの基準で選ぶ

ゆきずりの男

ゾルズハイル王家では

女王が最初に産んだ皇女を

次の世代を担う女王にする

王子が生まれたら殺す

そして皇女が一人生まれたら

女王の配偶者をも殺す

それがしきたりだった

 

 

『我が王国の恥・・・』

とルシア女王は悩んだ末

醜い皇女を地下牢に幽閉した

新しい配偶者を得て

産んだ皇女を

第一皇女ということにした

 

 

女王となる絶世の美女たちは

自分の外見を美しく保ち

そして

自分の産んだ皇女に

ゾルズハイル王家に代々受け継がれている

絶世の美女となるための

立ち居振る舞いと

いついかなる時も美しく着飾る術

美容術を教えるためだけに

自分の一生を費やし

そのために国民の税金を

湯水のように使った

美貌を保つために生きるゾルズハイル王家の

代々の女王

彼女たちは本当の愛を知らずに美しい肖像画になる・・・

 

 

ルシア女王の

新しい第一皇女は

まるで真珠のように

白く美しく光り輝く皇女だった

新しい皇女の名前は

真珠にあやかって

メロウと名づけられた

ルシア女王はメロウ皇女を

それは目に入れても痛くないほどに

愛しく可愛がった

 

 

ゾルズハイル王家の皇女は

17歳になったら

配偶者を選ぶ

そして皇女を産んだ時に女王の座につく

そして

代々ゾルズハイル王家に使える画家に

女王の位についた時の肖像を描かせるのである

 

 

メロウ皇女が

17歳になったときには

すべて絶世の美女である

ゾルズハイル王家のかつての女王のなかでも

一番の美女となった

しかし

ただひとつ

メロウ皇女がゾルズハイル王家の

掟をやぶったことは

自分自身よりも

ゆきずりの男を深く恋してしまったことである・・・

 

 

メロウ皇女が選んだ

ゆきずりの男は

ゾルズハイル家一の美女であるメロウ皇女が

どんな色香を使っても

決してメロウ皇女のものにはならなかった

ゾルズハイル王家一の美女であるメロウ皇女の失恋は

ゾルズハイル王家一の醜聞であった

メロウ皇女は

25歳になっても

女王の座につけなかった

メロウ皇女が女王になる日を夢見るルシア女王の

悩みは深刻で

顔に深い皺をつくった

その事実もルシア女王のいらだちの種であったのだ

ルシア女王は

世界中からありとあらゆる

宝石を集め

ありとあらゆる

美しい布地を集めて

メロウ皇女を飾りつけた

しかしメロウ皇女は

初恋の青年にこだわって

病になるほどの片恋の思いで

毎晩泣き崩れているのだった・・・

 

ゾルズハイル王国の財政は

苦しくなる一方

国民達は

重い税金で贅をつくす王国に怒りを覚え

とうとう

革命が起こった

革命の党首はなんと

メロウ皇女が恋した青年だった・・・

 

ゾルズハイル王国の宮殿に

ズタズタと国民達が進入してきた

先頭になっていたのは

革命の党首

メロウ皇女が恋する青年であった

メロウ皇女は勘違いをした

「ああ、愛しいあなた。

とうとう私のもとへ参られたのですね。」

と言ったと同時に

革命の党首

すなわちメロウ皇女の

片恋の青年は

メロウ皇女の首をはねた

 

「おまえのせいで私の妹は飢え死にをしたのだ!!!」

 

叫び

さらに

メロウ皇女を八つ裂きにした

その恐ろしい様を見て

ルシア女王は気を失った

革命の党首は

ルシア女王の心臓に

一撃

剣を指した

革命の党首の命令の元

国民達は

宮殿にある全ての肖像画を焼き払った

 

宮殿の全てが焼き払われる寸前に

激しい叫び声が聞こえた

「助けて!!!助けて!!!」

それはとてもあわれな声であったが

それでいて何か人を惹きつけるものがあった

革命の党首は

その声のそばまで行ってみた

 

そこには檻の中で

汚い服を着て

何年も櫛を通していないような

ゾロゾロとした汚い髪を振り乱した醜い女がいた

それはゾルズハイル王家の

本当の第一皇女であった

 

「お前はこのゾルズハイル王家の者ではないね」

と醜い本当の第一皇女は

革命の党首に

地下牢から開放され

ゾルズハイル王家という

美しくとも狂気に満ちた花が咲き乱れる異常な花園から

逃れて

やがて平凡な女としての

幸せを得た