病気


     こんな病気ってあるのだろうか。

     私は、リードを握る手に力を込めた。

     陽の光の中、ちぎれたいくつもの蜘蛛の糸が、

     空中をフワフワと飛んでいく。

     この季節、犬を連れて外を散歩していると、

     よく見られる光景だ。

     ウォーキングに勤しむトレーニングウェア姿のおじさんが、遠くに見える。

     自転車に乗った若い男の人がやって来てすれ違い、行き過ぎる。

     その後ろ姿が遠ざかるのをぼんやりと見送って、もう一度思う。

     こんな病気って、あるのだろうか。

     『周りにいる人の顔が、みんな彼に見える』

     私は、早く行こうと催促するような犬の視線に気づいて、

     リードを引いて歩きだした。

     寂しさに、ちょっとだけ鼻がツンとする。

     彼は今ごろ、外国の空の下。

     彼も…

     彼も同じ病気だといいのに。

 

 

 

                                        了

 

 

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