膝枕
なんか知らないけど、目覚めたら友達の洋平(ようへい)に膝枕されていた。
俺の頭の下に、奴の太腿がある。
細いから骨ばっかりかと思っていたが、意外に肉づきが良くて気持ちいい。
…じゃなくて。なんでこうなってんだ?
授業をサボって屋上に来て、一人で寝ていたはずだった。
洋平が来てるってことは、昼になったのだろうか。
俺は、俺の顔を無言でじっと見下ろしている奴に「おい」と声をかけた。
すると、洋平は俺の唇に右手の人差し指を当ててなぞるように動かして、
俺は眉を寄せた。
「何やってんだよ」
その表情のまま聞くと、
「浩史(こうじ)寝てたから、膝、貸してあげた」
ニッコリ笑って言う。
言いながらも指先は、俺の唇をなぞり続けている。
「で、それは何してんだよ」
「浩史の唇に触ってる」
「…なんで」
「触りたかったから」
何度も下唇の上を滑るように指を動かされて、
だんだんそこが、なんとなくムズ痒くなってきた。
「ちょっ、やめろよ」
思わず手で払いのけたら、洋平はその指を自分の唇に持っていき、
俺の唇をなぞったのと同じようにして、下唇の上で滑らせた。
それからフッと笑う。
「間接キス」
それを聞いて、顔を歪めた。
「意味分かんね」
呟いたら、
「分からないフリしてるだけでしょ」
と真面目な顔で指摘してくる。
「分かってるくせに」
ちょっとだけ曇った表情の向こう側に、
ピカピカの青空が広がっていて、眩しかった。
「弁当、一緒に食べよう」
洋平が気を取り直したように言って、
大きめの弁当らしき包みを持ち上げて、俺に見せる。
奴は以前、自分で弁当を作ると言っていた。
今日も、手作りなのだろうか。
腹は減っていた。でも、今はそれより…
「もう少し寝かせろよ」
俺は、洋平の太腿に頭を押し付けた。
「これ、気持ちいい」
目を閉じると、奴の手の平が額の少し上辺りに置かれる。
そのまま優しく撫でるようにされて、すごく安らいだ気分になった。
「あと五分だけだよ」
「…ケチ」
「だって浩史の頭重いんだ」
「我慢しろよ」
「やだよ」
「自分からしたくせに」
と言ったら、撫でていた手が止まった。
それから、しょうがないなという感じで笑って、
「…じゃあ、十分」
奴は、時間を延長した。
了
2011.06.24
膝枕、されたいなーと思っていたら、こんな話を…っ。