未来人−miraibito−
「さよなら」
彼は背を向けて意を決したように歩き出す。
「どうしても駄目なのっ?行ってしまうのっ?ここにいることは出来ないのっ?」
僕は、引き止める。自分でも悲痛に聞こえる、卑怯とも思えるほどの大声をあげて。
「できないんですよ。飛鳥くん」
すがるような僕の気持ちが伝染したのだろうか、それとも本当にそう感じてくれているのか、
彼は横顔で寂しそうに呟いた。
「帰ります。僕は本当はここにいてはいけない存在なんです。
飛鳥くんは、僕のことなど早く忘れて幸せになってください」
彼は、未来から来た人だった。
もうずっと前にやって来て、壊れたタイムマシンを修理し続けていたのだ。
彼は隠しているつもりだったようだけど、僕は気づいていた。
そして今日。ようやく直ったマシンに乗って、彼は帰ってしまう。
「僕のことを好きだって言ってくれたの、あれは嘘だったの!?」
「嘘じゃありません…。でも、僕がここにい続けることは、歴史を狂わせることになるんです」
その口調から彼の苦悩が感じられた。僕はそれ以上何も言えなくなる。
「……」
彼がマシンへと乗り込んだ後、ドアが閉まりその姿は見えなくなった。
作動する機械音が辺りに響き渡った。
彼は行ってしまう。
やっと心も体も一つになれたのに。
初恋の思い出だけを残して。
あまりにもあっけなく。ちょっと冷たいくらいに。
「ひどいよ」
恨み言を漏らしたら、悲しみが胸に広がった。
「ひどいよっ!」
しゃがんでそこにあった鉄クズをつかんだ。マシンに向かって思い切り投げつける。
物凄い音がした。一瞬消えかかったマシンの影がまた濃くなる。
そして、機械音が止まった。
僕はちょっと焦った。思わずやってしまったこととは言え、これはやばかったかも。
ドアが開き、彼が出てきた。困惑の表情で。
「飛鳥くん…また壊れてしまいましたよ」
眉間にしわを寄せて首をかしげる彼。
「だけどおかしいな。
普通の人が物を投げつけたくらいで壊れるわけないのに…まだ他にどこか悪いところが…?」
幸い彼の思考は違う方向へ行ってくれたようだ。僕は、ほっと胸を撫で下ろす。
実は僕も未来人。
彼よりもっと先の未来からやって来たのだけど、
戦いで失った体の大部分に機械が埋め込まれている。
僕は、彼に向かって走り出した。
歴史なんて変ったっていいじゃない。だって好きなんだもん。
了
ここにも馬鹿力の人が…そして、恋愛至上主義…