武道館の更衣室。3学期になってからほとんど訪れることがなくなった場所にこうしていると、なにやら不思議な気分。そんな久しぶりな場所に何故私がいるのかと言うと・・・。

びっくりのツケは番外編、令×由乃の場合

 「あっ、令ちゃん、もう来ていたんだ。早いね。」
 「由乃、学校ではお姉さまでしょ。」
 「いいじゃない、他に誰もいないんだし。」

 そう、今日は可愛い妹、由乃に呼び出されて待っていたのだ。

 「で、何のようなの?」
 「解ってて聞いているんでしょ?顔にやけてるし。」
 「当然!って、にやけてるは余計だよ。」

 今日はバレンタインデー。そんな日に呼び出されたら、わざわざ教えてもらわなくても用件なんて解ろうと言うものだ。それにしても姉に向かってにやけてるは無いでしょう、にやけてるは。まぁ、実際に頬が緩んでしょうがないのだけど・・・。

 「令ちゃんもお待ちかねみたいだし、焦らすのも悪いから早速贈呈式と参りましょうか。」
 「はい、ありがたく頂かせてもらいます。」

 由乃の言葉に、つい両手を前に出してお辞儀をしながら答えてしまったので、それを見た由乃が大爆笑。ああ、こんな由乃を見ていると、本当に幸せだなぁと思ってしまう私はやっぱり妹バカなのだろうか?

 ひとしきり笑った後、由乃は目の涙をぬぐいながら私に綺麗にラッピングされた長方形の箱を手渡してくれた。

 「ふっふっふ、今年は去年の祐巳さんに習って当たりはずれのあるチョコにしてみました!」
 「去年の裕巳ちゃん?と言うと、祥子の言っていたあれかな?」

 そう言えば先日、祥子が去年祐巳ちゃんは当たり付きのチョコを用意して、当たりを引いた祥子とデートしたって言ってたっけ。と言う事はここで当たりを引けば、由乃からデート券がもらえるということなのかな?

 「ささっ令ちゃん、早く食べて、食べて。」
 「そうせっつかないでよ。」

 内心ドキドキしながら包装紙をはがし蓋を開ける。

 「う〜ん、見た目はどれも同じね。」

 そう言えば祥子は、ハズレを引いたけど当たりだと言い張ってデート券をもらったんだっけ。なら私もハズレだったとしても当たりと言わないと。由乃とのデートの為に。

 「よし、じゃあこれにしよう。」
 「ドキドキ。」

 パクっ。さて、どちらかな・・・・。

 「っつ!?」
 「ねぇどっち?当たり?ハズレ?」

 こっこれは・・・いや、無理をしても当たりと言わないと・・・でも・・・。

 「由・・・ぐっ、ゲホゲホゲホ。ごめん由乃、やっぱり無理。」

 我慢しようとしたけど、あまりの事にむせてしまい言葉にならなかった。

 「なによ令ちゃん、祥子さまは祐巳さんからもらったハズレのチョコを食べても当たりと言ったんでしょ!」

 何故知っているのよ?そっそれにしても祐巳ちゃんはここまでの物は作ってきてないと思うよ。

 「由乃、でもチョコの中に・・・これは流石にちょっと・・・。」

 あまりの事に、喉がやられてしまった言葉が上手く出ない。おかげでフォローも出来ないから、由乃がどんどん不機嫌になっていくのが解っているのに何も出来なかった。

 「それを我慢するのが愛情ってものでしょ!」
 「いや、でも・・・。」
 「もういい!知らない!令ちゃんのバカ〜!」

 そう言うと由乃は走り去ってしまった。

 「でも、チョコの中にハバネロが大量に入っていたら、いくらなんでも我慢できないよ。」

 走り去っていく由乃の姿と、口に残る大量のハバネロの辛さで目の前が涙でかすんで行くバレンタインの午後だった。

 「後でチョコレートケーキを持ってあやまりに行かないといけないなぁ。」

おまけ

 2月14日夜、島津家

 「なによ?薄情なお姉さま。可愛くない妹に何か御用ですか?」
 「由乃ぉ〜、そろそろ機嫌直してよ。」
 「ふんっだ。」

 うう、由乃がそっぽを向いたまま、こっちを向いてくれない・・・。

 「由乃ぉ〜。」
 「ああ、鬱陶しい!何の用なの?用がないなら帰って、勉強しないといけないんだから。」

 何とか機嫌を取らないとロザリオを壁に投げつけそうな勢いだ。とにかく怒らせないように・・・、

 「由乃、ちょっと私の家まで来てくれないかな?」
 「令ちゃんの家に?」
 「そう、由乃に見せたいものがあるんだよ。」
 「いいけど・・・。」

 怪訝そうな表情で聞く由乃をなだめすかし、何とか自分の家に招き入れる。そこは勝手知ったる他人の家、どんどん私の部屋に向かって歩いていく由乃。しかし今日の目的地は違うので、

 「ちょっと待って由乃、そっちじゃなくてこっち。」
 「あれ?令ちゃん何処へ行くの。令ちゃんの部屋はこっちでしょ?」
 「いや、部屋じゃなくてリビングに来て欲しいんだよ。」

 この為にわざわざお父さん達をリビングから追い出したんだから。

 「いったい何があるって言う・・・えぇぇぇぇぇぇ〜!?」
 「いや、そこまで驚かなくても。」

 リビングに入った由乃がいきなり奇声をあげたので、何事かと見に来たうちの両親(その顔には解って見に来ていると言うのがありありと出ていたけど。)を追い返しながら由乃に返事をする。

 「でも、これは流石に驚くでしょ。って言うか、バカじゃないの、令ちゃん。」
 「バカはひどいよ・・・。」
 「これをバカと言わずして何をバカって言うのよ!」

 そう言いながら由乃が指差した先には高さ60センチ(25センチ、20センチ、15センチの3段重ね。)、一番下の台の直径70センチの巨大チョコレートケーキが置かれていた。

 「前から毎年チョコレートケーキが大きくなるなぁなんて思っていたけど、去年の事があったからこんなの想像もしてなかったわよ。」
 「えっ?毎年大きくなってたっけ?」
 「はぁ、やっぱり気付いてなかったのか。」

 ああ、由乃が頭を抱えてしまった。

 「でも、一体どうやって作ったのよ。こんな大きなケーキ、令ちゃんの家のオーブンでは作れないでしょ。」
 「ああ、これは簡単だよ。下ふたつの台は4分の1の大きさの、扇形の型を4つずつ作って繋げただけだし、一番上のは30センチだから普通にオーブンに入るよ。」

 私がそう言うと、由乃はあきれたような困ったような顔をした。

 「はぁ〜、にしてもどうするのよ、いくらなんでも食べきれないわよ、こんなに。」
 「あっ!?そうか。」
 「まったく、考え無しなんだから。」

 そう言いながらもケーキの端を横においてあったフォークで少しだけとって

 「うん、やっぱり令ちゃんのケーキはおいしい。」

 由乃は一口食べて笑ってくれた。

 「令ちゃん、にやけてないで食べるのを手伝う!もう、ゆるゆるな顔をしてぇ。ファンが見たら泣くよ。」
 「はいはい。」

 そう言われても頬が緩むのはとめられないよ。でもよかった、機嫌が直って。

あとがき(H17/3月13日更新)

 実際に作ったらどれくらいの時間がかかるだろう?このケーキ。後、原価だけでも多分2万くらいするだろうなぁ、この大きさだと。まぁ、SSなのでそんな細かい所は目をつぶってください。

 びっくりのツケは特別編、令×由乃の場合、いかがだったでしょうか?本編同様、この令×由乃編もウァレンティーヌスの贈物がヒントになっています。と言うか、それを元にしようとしたから結構苦労したんですけどね。なにせあちらでは由乃さんのチョコの事がほとんどふれられてないから使えない。と言う訳で私のSSでは初めて1人称が令さまのSSが出来上がった訳です。でもちょっと令さまらしくない言い回しもあるんだよなぁ。そこは私の文章力の限界と言うことで目をつぶってください。(今回は目をつぶってもらってばかりだ。)

 由乃さんと令さま、この二人はいつも喧嘩している(と言うか、由乃さんが一方的に怒っている。)けど、一番深く繋がっている姉妹ですよね。だから安心して喧嘩がさせられるのがいいです。でも、次書くときはべたべたのラブラブの話も書いてみたいなぁ。でも結局最後は由乃さんが「令ちゃんのバカぁ〜!」なんて叫ぶことになりそうだけど。好きなんですよ、このセリフ。だから今回は散々バカバカ言わせました。

 でもちょっと令さまがかわいそうだったかな?

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