後は蓉子さま達だけね。

 「それじゃあ瞳子ちゃん、次は和室の方に・・・」
 「おっはよう!ゆ〜みちゃん。」
 「うぎゃうっ!」
 「今日もかわいい怪獣の鳴き声、ありがとう!」

 朝っぱらから聖さまに抱きつかれてしまった。それも瞳子ちゃんの前で。恥ずかしいよぉ。

初めての合宿10

 こっ、ここは毅然とした態度を取らないと。

 「おはようございます、聖さま。ところでいつまで抱きついているおつもりですか?」
 「祐巳ちゃんのぬくもりで体が温まるまで。」

 そう言いながらほっぺをすりすりしてくるし。うう、恥ずかしいけど過剰反応するとエスカレートするだけだから我慢我慢。

 「耐える祐巳ちゃんもかわいいなぁ。そんな顔されるとますます離れがたくなってしまうよ。」

 ううっ、私はどうすればいいのぉ〜。

 「あのぉ〜。」
 「ん?誰かな、君は?」
 「あっ、聖さまは初対面でしたっけ?お姉さまの従妹の瞳子ちゃんです。瞳子ちゃん、こちらは前白薔薇さまで志摩子さんのお姉さまの佐藤聖さま。」
 「始めまして、松平瞳子です。祐巳さまにはいつもお世話になっています。」
 「はい、始めまして。祐巳ちゃんをいつもお世話している佐藤聖です。」

 私に抱きついたままで片手を上げて挨拶をする聖さま。行儀が悪いですよ、まったく。大体お世話しているって言うのはどう言う意味ですか。まぁ、そのとおりなんだけど・・・。

 「んっ、祥子の従妹?ああなるほど、この子が噂の祐巳ちゃんの妹候補、ドリルちゃんか。」
 「うう、またドリルと言われた・・・。」

 聖さままでその呼び方を知っているとは、もうすっかりドリルと言うのが定着しているのね。かわいそうな瞳子ちゃん。

 「って、瞳子は妹候補ではありません!」
 「うんうん、そう言っていることもよぉ〜く知っているよ。」

 そう言って笑顔で瞳子ちゃんの頭をなでる聖さま。流石の瞳子ちゃんも聖さまにはかなわないみたいね。

 「ところで祐巳ちゃんたちは何処へ行くの。」
 「ああ、今から聖さまたちを起こしに行こうと思っていたところなんですよ。」
 「そうなの?でももうみんな起きてリビングでお茶してるよ。」

 そう言いながら思い出し笑いをする聖さま。何が面白いんだろう?

 「と言うわけだから祐巳ちゃんたちもリビングに連行ね。」
 「わっ、聖さま、一人で歩けますって。」

 そう言って私と瞳子ちゃんは聖さまに頭を抱えられて本当に連行されてしまった。私は慣れているからいいけど、瞳子ちゃんは恥ずかしいだろうなぁ。

 「や、やめてください。」
 「いいからいいから。」

 だめだよ瞳子ちゃん、そんなに反応したら。おまけに顔を真っ赤にしているから聖さまがより一層楽しそうにしてるし。まぁ、わたしもこれに関しては同じような事をしているから、気持ちも解るけどね。

 結局私たちはリビングまで頭を抱えられたまま、つれてこられてしまった。そしてそこには優雅にお茶を飲む蓉子さまと江梨子さま、そして・・・。

「お姉さま。」

 そう、そこには蓉子さま達と一緒にお茶を飲むお姉さまが。そしてそれを確認すると一瞬ビクッとして、たちまち私の影に隠れる瞳子ちゃん。本当にさっきの話が怖かったのね。

 「大丈夫よ、瞳子ちゃん。お姉さまが怒っている訳無いよ。それに夢の中のお姉さまじゃないんだから、襲い掛かっても来ないから。」
 「本当に大丈夫ですか?」

 小声でそう問いかけながら、なお私の影から出ようとしない瞳子ちゃん。すると横にいた聖さまがいきなり大笑いを始めた。

 「大丈夫、大丈夫、祥子が鞭を振り回して瞳子ちゃんを追いまわすなんて事はぜぇ〜たいに無いから。」
 「そうですよね。ほら、聖さまもああ言っているから安心していいよ、瞳子ちゃん。」
 「はい・・・。」

 そう返事をしてやっと私の後ろから出てくる瞳子ちゃん。少しは安心できたかな?って・・・ん?

 「あれっ?聖さま、さっきの乃梨子ちゃんの夢の話、聞いてました?」
 「夢の話って?」
 「だって先ほどお姉さまが鞭・・・」
 「こほん。祐巳、そんな事よりこちらに来なさい。瞳子ちゃんも、お茶が入っているわよ。」
 「あっ、はい。」

 そう言ったお姉さまの顔、少し赤いような。それに蓉子さまたちもくすくす笑っているし。何かあったのかな?

 「お姉さま、何かあったのですか?」
 「あっ、祐巳ちゃんそれはねぇ・・・。」
 「聖。」
 「はぁ〜い。ごめんね祐巳ちゃん。話すと蓉子に怒られそうだから。」
 「はあ。」

 どうやら何か語ってはいけないことがあったらしい。う〜ん、何があったんだろう?

 ガタガタガタ

 また瞳子ちゃんが震えだしているし。

 「大丈夫よ瞳子ちゃん、もう怒っていないから。」
 「そうですよね、お姉さま。お姉さまはそんな事で怒ったりはしないですよね。」

 私がそう言うととたんに起こる大爆笑。あの蓉子さままでが目に涙を貯めて笑ってるし。おまけにお姉さまは真っ赤な顔でうつむいている。

 「どうしたんですか?私何かおかしなこと言いました?」

 お姉さまは複雑そうな顔をしているし、蓉子さまたちは笑い続けてるし、瞳子ちゃんは震えが止まらず、私にしがみついてくるし。一体何がどうなっているの?誰か教えてぇ〜!


あとがき(H16/4月3日更新)

 祐巳ちゃんは私のSSの中でも鈍いです。読んでいる方々は何が起こったか解りますよね。

 解らない人は居ないと思いますが、次回は番外編でこのネタ晴らしを。

 それでは皆様、また近いうちにお会いしましょう。ごきげんよう。

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