ほどなくしてリビングにみんなが集まり朝食となった。
「朝食と言ったら普通ご飯に味噌汁とか、トーストと牛乳を想像するよね。」
「そうよね。でも・・・。」
私たちの目の前には焼きたてのクロワッサンやデニッシュ、半熟卵などの洋食、ご飯と干物などの和食がずらりと並べられていた。
今日は昨晩と違い、席は決められていない。それは朝食が数種類用意されているから。私はと言うと、令さま、由乃さん、蔦子さんと4人で同じテーブルについている。因みにメニューはクロワッサンとロイヤルミルクティーをメインに洋食をチョイス。
「まるでホテルのバイキングのようよね。でも・・・。」
「バイキングではなく、メイドさんが運んでくれるなんて私たちの生活では有り得ないシチュエーションよね。」
祥子さまからするとあたりまえの事かもしれないけど、私たちにとってはとても考えられない状況で、まるでお姫様にでもなった気分。
「(サクッ)へぇ〜、焼きたてのクロワッサンって始めて食べたけど、こんなにカリカリサクサクなのかぁ。」
「普通は買って来たものだから、すでにしっとりしてしまって普通はこんな食感味わえないものね。」
「そう言う由乃さんはあまり感動していないみたいね?」
「フフフ、令ちゃんに焼いてもらった事があるのよ。」
「ああ、なるほど。」
令さま、クッキーやケーキを焼くのだから、パンを焼いていてもおかしくは無いわね。
「でも、いくら私でもこれは作れないよ。」
そう言って令さまが指差したのは半熟卵。あれ?令さまが普通の半熟卵を作れないなんて事は無いはずなのにと思って見てみると・・・。
「何か黒にソースがかかってる。」
「うん、これは黒トリフのソースだね。昨日の夕食のソースも凄かったけど、このソースもかなりの物だよ。」
令さまがそう言うのだから本当に凄いものなんだろうなぁ。私はただおいしいって事しか解らないけど。
「そう言えば今日は祥子さま、一緒のテーブルではないのね。」
「ほら、あそこ。蓉子さまたちと御一緒しているでしょ。」
そう、祥子さまは前薔薇さま方と一緒のテーブルで朝食を取っている。始めは私たちと一緒に朝食を取るおつもりだったようなのだけど、蓉子さまたちに連れて行かれてしまったのだ。ちょっと寂しいけど、普段は会えなくなってしまった蓉子さまにもお姉さまを貸してあげないとね、なんて聖さまに言われてしまっては我慢するしかないよね。あれ?でも聖さまだけいない。なぜだろう?
「さっきから聞こえてくる話からすると、祐巳さんの事を話しているみたいね。」
「うん、あまり嫉妬深いのはいけないよなんて話をしてるみたいだね。なにかあったの?」
「いえ、令さま。特に何があったということは無いはずですよ。」
「でも確かに嫉妬深い所はあるわよね、祥子さま。」
「こら、由乃。」
そんな話をしながら食事をしていると、私たちのテーブルへ瞳子ちゃんがやってきた。
「祐巳さま、瞳子もこちらのテーブルでご一緒してもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。由乃さん達もいいでしょ?」
「祐巳さんさえよろしければ。」
そう言いながら由乃さんは目で「瞳子ちゃんのお守りは任せた。」って言っている。二人とも似ている所があるから、ちゃんとお話をすればいいお友達になれると思うんだけどなぁ。
「私にも異存は無いよ。」
「被写体は多いに越した事は無いしね。」
令さまは笑いながら、蔦子さんはシャッターを切りながら同意した。しかし蔦子さんはホント食事中でもカメラを手放さないなぁ。
「ありがとうございます、では。」
そう言うと、私のとなりの席についた。
「そう言えば瞳子ちゃん、今までどこに行っていたの?」
「佐藤聖さまに呼ばれて、少しの間お話をしていました。」
「お話?」
「はい。祐巳さまの事や祥子お姉さまの事、そして瞳子が今山百合会の御手伝いをさせてもらっている事を御話した後は、山百合会の事も。」
そう言われて見てみれば、蓉子さまたちのテーブルにいつの間にか聖さまも座っている。
「なるほど、聖さまとしては新しい情報源を得ようとしたわけか。」
「もしかすると新たな獲物に目をつけただけかもよ?」
「獲物?」
「だって聖さまは・・・。」
「こら由乃。そう言う事は言うものではないよ。」
「は〜い。」
話の途中で止められてしまったので何がなにやら解らず、かと言って黄薔薇さまである令さまが止めた話を聞く事も出来ない瞳子ちゃんは、かわいい瞳を所在なげにきょろきょろと動かしている。教えてあげたい気もするけど、世の中知らない方がいい事もあるしなぁ。
「瞳子ちゃん、聖さまと話をしてみた感想は?」
「つかみ所のない方ですね。先ほどはいきなり祐巳さまに抱きついたり、頭を抱えられて強引にリビングつれてこられたりしたのでただただビックリしたのですが、話をしてみると底が知れないというか、こちらの事を何もかも見透かしたように話をする、かなり頭のいい方という感じがしました。」
「ああ見えても、前白薔薇さまですからね。」
「由乃、ああ見えてもは余分だよ。」
そう言う令さまも笑っている所をみると同じ考えなんじゃないかな?そんな事を考えていたら・・・。
「志摩子、あと乃梨子ちゃんも。ちょっと。」
「あ、はい。」
あれ?聖さまが志摩子さんたちを自分たちのテーブルに呼び寄せた。
「何の話だろう?」
「昨日はばらばらの行動だったから、改めて乃梨子ちゃんと話がしたいんじゃないかな?聖さまは。」
「なるほど。」
でもその割にはこそこそやっているような?あっ、聖さまがこっち見た。・・・手なんか振っているし。
「あの顔は何かたくらんでそうね。」
「たくらんでるって、聖さまが?」
「だって祐巳さん、聖さまだけじゃなく、あの江利子さままでが満面の笑みを浮かべているのよ。何かあるに決まっているじゃない。」
「そう言えばそうね。」
「おいおい二人とも、お姉さまの事をどんな目で見ているの。」
「面白ければそれでいいと言う人。」
「人の迷惑より、自分の楽しさを優先させる人。」
私と由乃さんの言葉を聞いて頭を抱える令さま。ちょっと言いすぎだったかな?って感じもするけど、令さまも反論してこない所を見ると、そう思っているんだろうなぁ。
「でもターゲットは祐巳さんで、私たちには被害が及ばない話かも。」
「ええっ!わっ私!?」
「だって、志摩子さんがあそこに呼ばれていると言う事は私たち2年生全員にって事は無いだろうし、乃梨子ちゃんが呼ばれているから1年生ということも無い。」
「なるほど。でもそれでなぜ私なの?由乃さんか令さまかもしれないじゃないの。」
「たくらんでいるのが江利子さまだけならそうでしょうね。でも、今回の首謀者は聖さま。ならば祐巳さんがターゲットであると考えるのが普通じゃない?」
「うっ。」
「大丈夫だよ祐巳ちゃん。祥子があそこのテーブルにいるのだからそんな事は無いって。」
「そう言えばそうねぇ。」
確かに聖さまたちが悪ノリしようとしているのならお姉さまが反対するだろうし、そんな素振りが見えないところを見ると心配は無いかもしれない。
「でも、あの聖さまの笑顔は気になるなぁ。」
楽しそうに話す聖さまと江利子さまの隣にいるお姉さまの顔が何か諦めたような表情に見えて、令さまの言葉にも私は完全に安心しきる事が出来なかった。
あとがき(H16/4月17日更新)
前半、いらない事を書きすぎて、少し長くなってしまいましたね。でも楽しかったからいいや。
食事風景などを書くのは楽しいです。普通の小説では出てこないものだし、これも私のSSの特徴と思ってもらえると助かります。あと、甘党の祐巳ちゃんがデニッシュがあるのにクロワッサンを選ぶのは少しおかしいと感じるかもしれませんが、それはチャオ ソレッラ!でもパウダーシュガーのかかったクロワッサンを選んでいたので、クロワッサンが好きなのかなと思ったからです。それと、個人的には甘党の人でも、朝は普通のパンがいいのでは?と思っているから。やっぱり起き抜けにベタ甘のパンはつらくないですか?
さて、今回は完全に前フリの話でしたね。何かとんでもない事件が起こりそうな感じですが、SSページの解説にも書いてある通り、この連載には大事件は起こりませんから大して期待しないで次回を待っていてください。
でもこれによって、私はまた自分の首を閉めることになるんだよなぁ・・・・。
追記
今まで瞳子ちゃんの1人称が「私」であった所を「瞳子」に直しました。他にもおかしなところがあったら随時訂正していきますので、気が付いたら指摘してもらえるとうれしいです。(誰かBBSに書き込みしてくれないかなぁ。)