朝食が終ったあとはフリータイム。

 「合宿と言う話だったから、なにか山百合会の仕事もするのかと思ったら遊んでばかりね。」
 「確かにそうだけど、元々は祥子さまが祐巳さんと一緒に過ごしたいだけで企画したお泊り会なのだから、仕事をしないなんてあたりまえなんじゃないの?」

 そう言えばそうだね。

初めての合宿12

 「ところで祐巳さんはどうするの?祥子さまは家の用事で少しの間はなれているのでしょう?」
 「う〜ん、特に何をしようとは考えてないのよね。」

 朝食が終ったあと、前薔薇さま方は志摩子さんと乃梨子ちゃんを伴なってどこかへ行くってしまい、お姉さまも御用事が出来てここにはいない。残ったメンバーでは令さまが一番上なんだけど、何をしましょうかと聞いた所で由乃さんはなにがしたいか聞くだけだろうなぁ。

 「祐巳さま、何もご予定が無いのでしたら瞳子とテニスをしませんか?ここのお庭にはテニスコートもあるんですよ。」
 「テニスかぁ。でもやった事無いし、私、ラケット持ってないよ。」
 「大丈夫です、シューズからテニスウェアーまでそろってますから。」
 「ラケットやお姉さまとサイズが同じシューズならともかく、なぜテニスウェアーまで?」
 「だって祥子お姉さまの家ですから。」
 「????」

 なぜお姉さまの家なら私にあったサイズのテニスウェアーがあるのだろう?しかもみんな、さも納得したようにうなずいているし。

 「なら私も令ちゃんも動き易い服持ってきているから、いっしょにテニスをしましょう。」
 「えぇ〜、由乃さまたちも来るのですかぁ〜?(せっかく祥子お姉さまがいなくなって二人きりになれると思ったのに。)」
 「何か不満でもあるの?」
 「いえ別に・・・。」
 「そうだね、みんなでやったほうが楽しいよね。ところで蔦子さんはどうするの?」
 「私はパス。自分でプレイするよりテニスをしている祐巳さんたちを写真に収めた方が、私にとっては有意義だわ。」

 そう言ってカメラを見せる蔦子さん。おまけにまた貴重な写真が撮れるわなんて小声で言っているし。

 「それじゃあ、各自着替えたら庭に集合、いいわね?」
 「は〜い。」

 令さまの指示で全員部屋に戻って準備。さっきの話通り、なぜか私のサイズにぴったりのテニスウェアーとシューズをメイドさんが持ってきてくれて少しビックリしたけど、とにかくそれに着替えて庭へ。

 「って、なぜ由乃さんがテニスウェアーを?」
 「チッチッチッ、祐巳さん、お金持ちの家の庭と言ったらテニスコートがあるに決まっているじゃない。だから持ってくるのは当然よ。」

 そう言う由乃さんは真新しいテニスウェアーとシューズ、ラケットを持ってご満悦なようす。でもその横にいる令さまは・・・。

 「どうりでやたら大きな荷物を持ってきていたんだね。」

 と言っている通り、普通の動き易い格好。由乃さん曰く「何処でも素振りが出来るよう格好。」なのだそうだ。

 「皆さん、早いのですね。」
 「わぁっ!ビックリしたぁ。瞳子ちゃん、足音を立てずに後ろまで来ていきなり声ををかけないでよ。」

 毎回毎回、わざと私を驚かす為にやっているとしか思えないんだよね、この子は。

 「あれ?瞳子ちゃんのウェアー、祐巳ちゃんとおそろい?」

 そう言われて見てみると、確かにピンクのラインとワンポイントの刺繍が入った私と同じデザインのウェアーを着ていた。おまけにシューズも同じもの。

 「はい。これと同じ物を祥子お姉さまも持っているんですよ。」

 なるほど、お姉さまとおそろいのウェアーと言う訳か。なら瞳子ちゃんが持っていてもおかしくは無いよね。

 「そんな事より、早く始めましょう。私、テニスは初めてだから楽しみ!」

 そう言いながらラケットをぶんぶん振り回す由乃さん。今までは体が弱くてテニスなんてとても出来なかったからホント楽しそう。

 「そうね。でも私も初めてだからちゃんと打てるかなぁ。」
 「大丈夫だよ祐巳ちゃん。試合をするわけじゃないんだから、そんな事は気にしないで楽しもう。」
 「そうそう。祐巳さんの空振りする姿はばっちりこのカメラで取らせてもらうから大丈夫。」

 カメラをコート脇にセッティングしていた蔦子さんのこの一言でコートに笑いが起こったところで、一台のタクシーが玄関の所に横付けられた。

 「あれ?どなたか観えられたのかしら?今日は叔父様たちはお留守だからお客様は誰も観えられない筈なのに。」
 「そう言えばそうね。」

 タクシーから降りてきたのはどうやら若い女の人。遠いので誰かまでは確認できないけど、背が高くて長い黒髪が印象的な人。

 「あ、あれは!なぜあんな人が祥子お姉さまのお宅に!?」
 「どうしたの瞳子ちゃん、お知り合い?」
 「はぁ〜、知り合いも何も祐巳さまもよく知っている子じゃないですか。」

 何を言っているの?この人はって感じのため息をついた後、ジト目でそう答える瞳子ちゃん。でも私も知っている人って・・・・

 「私の知っている長身で長い黒髪と言ったら・・・・可南子ちゃん!?」
 「そう、あのいまいましい細川可南子ですわ。」

 そう言われて見れば、あの後姿は確かに可南子ちゃんだ。

 私たちは玄関のチャイムを押し、メイドさんに迎えられて家の中に入っていく可南子ちゃんを、ただ不思議そうに見送るだけだった。


あとがき(H16/4月24日更新)
 とうとう最後の主要メンバーである可南子ちゃんを出してしまいました。

 因みにこれ以上はメンバーは増やしません。築山女史も、真美さんも、静さまも出ません。この時点でもすでに自分の許容範囲を越えてますから。

 さて、このあとの展開は決まっていますがこのエピソードのオチをまだ決めていません。とりあえず、ダイスでも振って決めるかな?(意味不明な前フリ(笑))

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