「とにかく、祐巳ちゃんと同室になりたいのは誰と誰なの?」

 江利子さまの発言で手を上げる一同。

 「って、令ちゃんまでなんで手を挙げているのよ、この浮気者!」

 そう、なんと令さままで手を上げている!

初めての合宿16

 「浮気者って、それは由乃だって同じじゃないの。それに私はただ、一度ゆっくりと祐巳ちゃんとお話がしたいなぁと思っているだけで。」
 「お話って、令!まさかあなた、由乃ちゃんが嫌になって私から祐巳を奪うつもりなんじゃないでしょうね。」
 「そんなつもりはないって。ただ私は祐巳ちゃんからクラスでの由乃の事を聞こうかと・・・。」
 「そんな事、いつでも聞けるじゃない。ではそう言うことで令ちゃんの立候補は無効!皆さん意義はないですね。」
 「意義なぁ〜し!」
 「そんなぁ。(しまった、あんな言い訳するんじゃなかった。)」
 「満場一致で令ちゃんの立候補は取り消されました!(よし、これで一人消えた。)」パチパチパチ(拍手)

 満面の笑みを浮かべて拍手をする由乃さん。それに対して、ミスターリリアンと呼ばれているとは思えないほどの情けない顔をしながら、しかし由乃さんに逆らえない令さまは結局黙ってしまわれた。ちょっとかわいそうかも。

 「で、結局立候補しなかったのは江利子さまと蔦子さん、それと新婚ほやほやでアツアツべったりの白薔薇姉妹だけね。」
 「由乃さん、アツアツべったりって・・・。」
 「お姉さま、あんな事を言われてますよ。」
 「フフフ、そうね。」

 否定はしないのね。そう言いながら二人で笑っているし・・・。

 「あらカメラちゃんは立候補しなかったの?カメラちゃんなら祐巳ちゃんの寝顔を撮るために必ず立候補してくると思ったのに。」
 「祐巳さんの寝顔なら普通に学園で撮れますから。」
 「えぇ〜!」
 「だって祐巳さん、いつもベンチでお昼寝してるじゃない。流石によだれをたらしているのは武士の情けで撮ってないけど、普通の寝顔ならかなり撮っているわよ。」
 「し、知らなかった・・・。」

 まったく、油断もすきもないんだから。これからは気をつけないと、何処でどんな写真を撮られるか解ったものじゃないからね。・・・あれ?お姉さまがなぜか蔦子さんに熱い視線を送っている・・・。

 「(蔦子さん、解っているわね。)」
 「(はい、紅薔薇様、後程ファイルをお持ちします。)」
 「(頼みますよ。)」

 何か蔦子さんと目配せしたような?あっ、お姉さまが笑った。

 「コホン。え〜っと、こう言う事は参加するより見ていた方が面白いです。」
 「なるほど、そう言う考え方もあるね。」

 蔦子さんの言葉に視線を戻す。そう言えば、お姉さまからロザリオをもらった学園祭の時もこんな事を言っていたなぁ。基本的に蔦子さんは物事の中に入ってこないタイプなのかも。

 「それに、参加してしまうと写真が撮れませんし。せっかく山百合会関係者が競い合うのに、それをカメラに収めないなんて、そんなもったいない事は私には出来ません!」

 そう、蔦子さんはこう言う人。物事の行く末を楽しげに見守りながら写真を撮る。本当にカメラしか興味がないって感じなのよね。

 「それじゃあ、参加者はこれで決まりね。」
 「ちょっと待って。祐巳は私の妹。当然私と同室になるはずなのに、なぜその権利をあなた達と競わなければいけないの!?」
 「あら祥子、自信がないの?」
 「初めから逃げ腰だなんてねぇ。」
 「誰が逃げ腰ですか!」
 「おっ、お姉さま。」
 「祐巳は黙っていなさい!」

 ああ、戦闘モードに入ってしまわれた。いつもいつもこうして聖さまたちに乗せられているのに。それに今回は蓉子さままで敵に回っているのだから、お姉さまに勝ち目はないと思うのだけど・・・。

 「初めから勝負を回避しようとしている所が、私には逃げ腰に見えるけど。」
 「逃げ腰とかではなく、初めから祐巳は私と・・・。」
 「要するに祥子は自信がないんだね。」
 「そうね。負けるのが怖いわけだ。」
 「まさか私の妹が、こんな弱虫だったなんて。少しショックだわ。」

 あっ、追い討ちが始まった。そろそろ決着がつきそう。

 「自信がないわけでも負けるのが怖いわけでもありません!」
 「その割には一生懸命勝負しなくてもいいように持っていこうとしているように見えるけど。」
 「自信があるようにはとても見えないわよねぇ。」
 「無理しなくてもいいのよ、祥子。自信がない事を認めるのはそんなに悪い事ではないわ。」
 「だから自信がない訳ではないと何度言えば!いいでしょう。その勝負、受けますわ!」
 「はい、じゃあ決まりね。」

 あ〜、やっぱりこうなった。私としてはお姉さまと同室でいたかったのだけど、祥子さまが勝てないのに私が言い出してもすぐに丸め込まれるだけ。ここは諦めるしかないかな。

 「それでは第一回、同室権争奪、祐巳ちゃんをお部屋につれてって杯の開催をここに宣言します。」

 それはもう高らかに、そして楽しそうな江利子さまの宣言がリビングに鳴り響いた。

 「私の意見は聞いてもくれないわけね・・・。」


あとがき(H16/5月22日更新)
 という訳で次回からは祐巳ちゃん争奪戦です。1日かけてやるのですから、当然一種目ではありません。さて、どんな事をやろうかなぁ。

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