目の前には茫然自失状態のお姉さま。

 「今はそっとしておいた方がいいわよ。」
 「それはそうだけど・・・。」

 私も由乃さんと同じ意見ではあるのだけれど、このようなお姉さまをそのままにしておいていいのだろうか?

初めての合宿22

 なぜお姉さまがこのような状態になったのかと言うと、実はお姉さま、先ほどやった蓉子さまとの試合でストレート負けをきっしてしまったのだ。しかし、これがただ普通に試合した結果負けたのならお姉さまもこのような状態になる事は無かったのだろうけど・・・。

 「う〜ん、よほどショックだったんだねぇ。」
 「聖さま!元はと言えば聖さまが原因なんですからね。」
 「あれぇ、そうだったかな?」
 「もう!誤魔化そうったって、そうは行きませんよ!」

 そう、事の始まりはお姉さまと蓉子さまの試合が始まってすぐの事だった。

数刻前

 「行くわよ、祥子。」
 「はい、お姉さま。」

 コイントスでサーブ権は蓉子さまに。そこから始まったゲームはラリーが続くかなり緊迫した展開になっていた。私もそのゲームに見入ってしまっていたんだけど、その時いきなり・・・。

 「祐〜巳ちゃん!」
 「ぎゃう!聖さま、いきなり何をするんですか!?」
 「いやぁ、祐巳ちゃんがあまりに真剣な顔で試合に見入っているからついね。」
 「聖さま!一体何をし・・・」

 スコーン!

 「お姉さま!」
 「フィフティーン、ラブ」

 私たちに気を取られて余所見をしたお姉さまの側頭部に蓉子さまのリターンが命中。痛そう・・・。

 「大丈夫?祥子。試合中に余所見をすると危ないわよ。」
 「はい・・・。」

 蓉子さまにたしなめられ、涙目になりながら立ち上がるお姉さま。しかしお姉さまの受難はこれで終ったわけではなかった。

 「行きますわよ、お姉さま。ハッ!」
 「聖さまが変な事をするから、お姉さまが大変な事になってしまったじゃないですか。」
 「ん?変な事って・・・こんな事?」
 「わっわっ!」
 「なっ!・・・」

 スコーン!

 「サーティーン、ラブ」
 「だから、余所見は危ないって言っているのに。」

 またも私たちのほうに気を取られたお姉さまにボールが命中。

 「大丈夫ですか?お姉さま。もぉ〜、聖さまのせいですよ!」
 「いやぁ、わるいわるい。」

 二度も蓉子さまのボールを頭に受けて本当に泣きそうなお姉さま。でも、私が助け起こすと笑顔で

 「大丈夫よ祐巳。心配かけたわね。」

 と答えて立ち上がった。

 「今度こそ何もしないで下さいよ、聖さま。」
 「解ってる解ってるって。」
 「聖さまを隣に置いておくと何をするか解らないから、私が間に入るわ。これでもう安心だから令ちゃん、始めて。」

 そう言って私と聖さまの間に由乃さんが入り、変な事が出来ないようにガードした状態で試合再開。これでもう安心と思っていたら・・・。

 「なぜ祐巳さまを守る役目が由乃さまなんですか。」
 「あら、だって私たちは親友ですもの。」
 「怪しいですね。そう言いながら由乃さまも聖さまと同じような事をしようとたくらんでいるのではないですか?」
 「なんですってぇ!?」
 「ちょっと由乃さん、瞳子ちゃんも喧嘩しないの。」

 こうなると我が強い二人の事、私の仲裁程度で収まる事は無く・・・

 「きゃっ!」
 「祐巳!?」

 スコーン!

 二度あることは三度ある。勢い余って由乃さんが私の腕を引っ張り、それに驚いてあげた私の声に思わず振り向いてしまったお姉さまの後頭部にボールが・・・。

 「フォーティー、ラブ」
 「祥子、これ以上ボールが頭にあたると本当に危ないわよ。」

 ・・・蓉子さま、もしかして狙って当ててません?流石に3発目と言うことで、すぐには立ち上がれないお姉さま。何とか助け起こすと弱弱しく笑い

 「大丈夫よ。」

 とだけ答えてくれた。

 「もう、由乃さんと瞳子ちゃんも喧嘩しないの!」
 「はい・・・。」
 「すみません・・・。」

 二人とも反省してくれたようなので試合再開。これでもう邪魔が入る事は無いだろうと思っていると・・・。

 「瞳子さん、あなたのせいで祐巳さまがお困りになったじゃないですか。」
 「うっ!」

 可南子ちゃんが瞳子ちゃんに突っかかってるし・・・。

 「祐巳さまも、迷惑なら迷惑と言って差し上げないと、この鈍い瞳子さんには解りませんよ。」
 「ちょっと、可南子ちゃ・・・わっ!」
 「なんですって!]

 可南子ちゃんをいさめようとした所で、瞳子ちゃんが興奮して私を突き飛ばすような形で可南子ちゃんに食って掛かっていった。そして・・・

 「あなた達、いいかげんにし・・・。」

 スコーン!

 またも蓉子さまのリターンが祥子さまの頭へ。ぜったい狙っているでしょ、蓉子さま。

 「ゲーム、蓉子さまの勝ちです。」
 「いったぁ〜い・・・って、えっ!?」
 「だって、4球続けて祥子が頭に受けたのだからあたりまえでしょ。」
 「そ、そんな・・・。」
 「おっ、お姉さま!」

 何度もボールを頭に受けるわ、訳もわからないうちに負けてしまうわとまさに踏んだり蹴ったりの状態で、ついにへなへなと座り込んで放心状態になってしまったお姉さま。こうして最初の場面にいたったと言うわけ。

 「聖、あなたわざと祥子の邪魔をしたでしょ?」
 「えぇ〜!」

 と、ここで私たちの元へ蓉子さまが近寄ってきてとんでもない事を言い出した。

 「う〜ん、流石に蓉子の目は誤魔化せなかったか。」
 「じゃあ、本当なんですか!?」
 「私の方が祥子より組みやすいと考えた訳ね。」
 「流石に祥子とテニスでまともにやりあうのは不利だったからね。」

 まさか本当にそんな事考えていたなんて・・・。

 「でっでも、ここでそんな事を言い出すと言う事は、蓉子さまは初めから解っていたんですか?」
 「流石に最初から解っていたわけじゃないけど、聖が祐巳ちゃんにたしなめられている時にわざと由乃ちゃんの近くに移動して話に加わり易いようにしたのを見てピンと来たのよ。」
 「流石に3度同じ手は使えないからね。」

 まさかそんな事までしていたなんて!?かわいそうなお姉さま。蓉子さまと聖さまに共同戦線を張られてしまってはお姉さまでも太刀打ちできる訳がない。。

 「でも、それはちょっとずるいんじゃないですか!?」
 「結果だけ見ると確かにそう見えるけど、祥子がテニスに集中していたら違った結果になっていたかもよ。」
 「そうそう。私はあくまで祐巳ちゃんにちょっかいを出しただけで、祥子そのものに何かした訳ではないからね。」
 「それはそうですが・・・。」

 お姉さまでもかなわないのに、私ごときがこの二人に太刀打ちなんてできるわけも無く・・・。

 「それよりも、早く祥子のもとへ行ってあげたら?いつまでもあのままでは可愛そうでしょ?」
 「そうそう、今の祥子には祐巳ちゃんが一番の薬だからね。早く行った行った。」

 なんか釈然としないものが残りながらもお二人に背中を押されて祥子さまの元へ。確かにこのままには出来ないものね。

 「お姉さま、大丈夫ですか。」
 「あっ、祐巳。」
 「頭とか、痛みませんか?」
 「大丈夫。ちょっとショックだっただけだから・・・。」

 このような結果では確かにショックだろうなぁ。

 「で、でもまだこれで終ったと言うわけではないのですから、気を落とさないで下さい。」
 「そうね、まだチャンスはあるのですものね。」
 「そうです、それでこそお姉さまです。」

 よかった、少し元気になったみたい。

 「ありがとう祐巳、もう少しで全て諦めてしまう所だったわ。次こそ勝って祐巳との同室を勝ち取って見せるから、見ていてね。」
 「はい!期待しています、お姉さま。」

 お姉さまも復活したし、蓉子さまと聖さまの陰謀の事は話さない方がいいよね。また落ち込むといけないし。やっぱりお姉さまにはがんばって欲しいからね。


あとがき(H16年7月21日更新)
 かなり苦労はしましたが、最後には本当に力技で書ききってしまいました。

 最初にダイス目を見た時はどうしようかと思いましたよ、本当に。何せ蓉子さまのストレート勝ちなんですから。これが祥子さまのストレート勝ちなら、このSSの設定上祥子さまはテニスがうまいと言うことだったので何とかなるのですが、この場合はまったくの逆。すっかり途方に暮れてしまいました。

 蓉子さまの精神的な揺さぶりでって言うのはすでに瞳子ちゃんの時に使っていてもう使えません。かと言って祥子さまに怪我をさせると、今度はその後の展開が大変です。で、結局最後に思いついたのが今回の話と言うわけです。

 でも結果的にこのテニス編(?)の中では一番気に入った話になってしまいました。(笑)何より書いていて面白かったですからね。ただ、最後のワンポイントは上手い方法が思いつかず、ちょっと強引過ぎたのと、まるで可南子ちゃんが本当に嫌な奴のような書き方になってしまったのは、心残りですけどね。まぁ、私の文才ではこれが限界でしょう。

 さて、次回は決勝です。蓉子さまと聖さま、どちらが勝つでしょうか。実はもうダイスは振ってあるので私は解っているんですけどね。(笑)因みに今回のダイスの目は以下の通りです。(祥子さまに+1のハンディ、修正後)

蓉子さま 10 9 7 8
祥子さま 6 5 3 6

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