熱戦だったり、そうでなかったりしたテニス対決もついに決勝戦。

 「いよいよね、聖。」
 「負けないよ、蓉子。」

 決勝に残ったのはともに前薔薇さま。やはりと言うか、流石と言うか、このお二人は本当に凄い。

初めての合宿23

 「前紅白薔薇さま対決か、どちらが勝つかな。」
 「ほんと、蔦子さんは気楽でいいわよね。」
 「それはそうよ。これによって私の部屋割りが決まるわけではないのだから。」

 別にこれで決まってしまうわけではないのだけれども、この試合に勝ったほうが有利なのには違いない。

 「悔しいわ。本来ならあそこに立っているのは私だったはずなのに。」
 「由乃さんも、後少しでお姉さまに勝てると言う所まで行ったものね。」
 「そうよね。でも、そこで盛り返すのが聖さまの凄い所なのよね。」

 志摩子さんの言うとおり、正直言って私もあのまま由乃さんが勝つと思ったもの。でも見事にそこから逆転してしまった。

 「お姉さまは、ピンチなように見えてもさらっと受け流してしまう、そんな所があるものね。」
 「あせるって事、なさそうだものね。」

 そうなのだ。どんな時でもあせらず冷静に事を進めて、いつの間にか自分のペースにしてしまう。

 「でも、冷静に物事を進めると言う点では蓉子さまも同じですね。」
 「あっ、瞳子ちゃん。うんそうだね。」

 冷静沈着と言う言葉は聖さまよりむしろ蓉子さまの方が当てはまる。

 「瞳子も蓉子さまの作戦にはまってしまいましたから。こちらの精神を揺さぶる、あの方の話術にはかないませんわ。」
 「それはそうよ。お姉さまのお姉さまで、前紅薔薇さまなんだから。まだ1年生の瞳子ちゃんが太刀打ちしようと言う方が無茶ってものよ。」

 蓉子さまは何でも出来るスーパーマンみたいな人。確かに瞳子ちゃんも優秀だけど、蓉子さまのレベルまで行くにはまだまだと言う感じは否めない。

 「前薔薇さま方って話には聴いていたけど、本当に凄い方たちだったんですね。」
 「そう、お姉さま方はそれぞれタイプは違うものの、全員がかなり高いレベルでいらっしゃるものね。」
 「あっ令ちゃん。」

 審判席に向かう令さまが、私たちの話に気付いて話に入ってきた。

 「見ている方が面白そうだから参加していないけど、お姉さまも参加されていたらまた違った結果になっていたかもしれないね。」
 「江利子さまがですか?」
 「うん。お姉さまは面白そうな事なら何でも手を出す方だし、テニスもきっとやった事があると思うよ。」
 「そうね。もしやった事が無かったら、テニスが面白そうと言う理由だけで参加してたと思うしね。」

 さすが黄薔薇ファミリー。令さまも由乃さんも江利子さまの事をよく見ているなぁ。

 「さて、そろそろ試合開始だし、審判席に着かないと。」
 「あっ、私もですね。乃梨子、位置に着きましょう。」
 「はい、お姉さま。」

 そう言って令さま達はそれぞれの位置についた。いよいよ決勝が始まるのだ。ところが、ここで江利子さまがとんでもない事を言い出した。

 「さて、決勝を前に一言。この試合の勝者には優勝特典として祐巳ちゃんとツーショットの写真を撮る権利と、祐巳ちゃんの熱ぅ〜いキスが送られます。」
 「なっ、なにを言い出すんですか江利子さま!」

 どよめく会場。聖さまなんか、この言葉に反応してガッツポーズまでしてるし。

 「あら、こんなにがんばって決勝まで来たのだから、何かしらご褒美はあるべきでしょ。これで部屋割りが決まるわけではないのだから。」
 「でもですねぇ。」
 「それに、そんなセレモニーのためにその服を着せてるのよ。」
 「楽しいからだけじゃなかったんですね・・・。」
 「もちろんそれもあるけどね。」

 もうみんな忘れていると思うけど、私はロリータ服を着せられている。髪にリボンつきで。まさかそんな思惑があって着せられていたとは・・・。

 「でも、キスだなんて・・・。」
 「なに言ってるの祐巳ちゃん、前に私に・・・。」
 「わぁわぁわぁ!聖さま、いきなりなにを訳のわからないことを言い出すんですか!」

 こんな所で発表されたらとんでもない事になってしまうじゃないですか!

 「とにかくこれは決定事項だから。解ったね祐巳ちゃん。」
 「ううっ・・・。」
 「わたくしも反対です!ゆ、祐巳のキスなどと、姉として許せるわけがありません!」

 助けてドラえもん!じゃ無かったお姉さま!私じゃ江利子さまには太刀打ちできないし、お姉さまだけが頼りです。

 「別に唇にするわけじゃなく、ほっぺにチュッ!程度でいいんだから、そこまで目くじら立てなくてもいいじゃないの?」
 「しかし!」
 「祥子、がんばった者には当然それなりの報酬があるべきよ。それともキスはやめてこのテニス大会で部屋割りを決めてしまう?」
 「おっ、それもいいねぇ。」
 「それは・・・。」

 ああ、また旗色が悪くなってきた。やはりお姉さまでも、この御三方相手ではさすがに・・・。

 「祥子も異存は無いみたいね。他に反対できる立場の子はいないからこれで決定ね。」
 「写真は任せておいて下さい。決定的な瞬間をばっちり押さえますから。」

 蔦子さん、追い討ちかけないでよ・・・。

 「さて、気合は言ってきたぞ。蓉子、祐巳ちゃんの唇はもらったからね。」
 「う〜ん、祥子には悪いけどおばあちゃんとして祐巳ちゃんに一度くらいはキスしてもらいたいし、私もがんばらないといけないわね。」

 なんか妙に盛り上がっているし、いまさらやめましょうとはとても言えない雰囲気。あ、なんでこうなるのよぉ〜。だれかぁ〜、た〜す〜けぇ〜てぇ〜。(泣)


あとがき(H16年7月29日更新)
 かなり難航した今回のSS、やっと書きあがりました。

 次回決勝と書いておきながら、結局始まりませんでしたね。う〜ん、困ったものだ。こんなんだからだらだらと続いてしまうんですよね。本当は最初に優勝特典の話だけをして決勝まで書くつもりだったのに。

 まぁ、こうなってしまったものは仕方が無い。と言う訳で次回は本当に決勝です。でも、今週末は出張だから書けないんですけどね。

 でも連載とは関係ない小ネタを一本アップするつもりではいますが。(笑)

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