「おっ幸先いいねぇ。」
聖さまが蓉子さまから引いたカードが手持ちのカードとそろい、山へ捨てた。
ババ抜きと言うものは、不思議と一人そろうと続けて他の人もそろうようで、祥子さま、由乃さんと、続けて引いたカードがそろい山に捨てる。
「よ〜し、それなら瞳子も。・・・ダメ、そろわない。」
後に続けとばかりに由乃さんからカードを引いたものの結局そろわず、それが伝染したのか続く可南子ちゃんもカードがそろうことは無かった。
「ツキのない方の後ろにいると、私までツキに見放されそうだわ。」
「なんですってぇ!」
「こらこら、喧嘩しないの。」
可南子ちゃんの言葉に爆発しそうな瞳子ちゃんを優しくたしなめながら、蓉子さまが可南子ちゃんからカードを引く。
「あら。」
その一言に、一瞬可南子ちゃんの持っているジョーカーが蓉子さまのもとへ渡ったのかと思ったけど、あの蓉子さまがそんなへまをするわけも無く・・・。
「本当に今日はついているわね。ほら聖、引いてちょうだい。」
「えぇ〜、もうそろったんですかぁ!?」
なんと可南子ちゃんから引いたカードが蓉子さまの手持ちのカードとそろい、後1枚になってしまった。
「また蓉子の勝ちかぁ。」
「はい、おしまい。」
聖さまが蓉子さまの持つ最後のカードを引き、早々と一位が決まってしまった。
「まさか続けて蓉子が勝つとはね。この場合を想定しておいてよかったわ。」
「そうですね、お姉さま。」
驚きながらも、江利子さまと令さまはあらかじめ用意していた案があったので、ほっと胸をなでおろしていた。確かに何の準備もなくこんな状況になってしまったら悩んでしまうものね。
この後、2巡目で祥子さまが後2枚に。続いて3順目で由乃さん、4順目で瞳子ちゃんがそれぞれ後2枚になるものの・・・
「何でそろわないのよ!」
「由乃、癇癪起こさないの。」
「だってぇ。」
ババ抜きってなぜか最後の一枚がなかなかそろわないのよね。心なしかお姉さまも不機嫌そう。
「祐巳さん。お姉さまがジョーカーを引いたわよ。」
「えっ!」
「こらこら。」
「そう、ジョーカーは今、聖さまが持っているのね。ありがとう、祐巳。」
ついつい、志摩子さんの言葉に反応して聖さまを見てしまい、みんなにばれてしまった。聖さまには苦笑しながら怒られるし、お姉さまには誉められるし、その上瞳子ちゃんや由乃さんにはあきれられるしまつ。うう、穴があったら入りたい。
「ふっふっふ。これで私も後2枚。」
「私も後2枚になりました。」
ジョーカー騒ぎの後、次の一巡で聖さまと可南子ちゃんが続けて引いたカードがそろい、後2枚に。これで全員が後2枚で並んだ事になる。
「本当に中々そろわないものね。」
最初に後2枚になった祥子さまがふと一言漏らした。志摩子さんが言うにはジョーカーを引いたそうだ。しかしそのジョーカーをそのまま由乃さんが引いてしまう。
「うぅ〜。」
唸りを上げる由乃さん。でも、由乃さん自体、今までそろわないことに不満を漏らしていたから傍目には変わらないのよね。これはある意味強みかも。
「私が2位です。」
唸りを上げる由乃さんと、それをなだめる令さまをほほえましく見ていたら、可南子ちゃんがそう言った。瞳子ちゃんから引いたカードが手持ちのカードとそろったみたい。
「おめでとう可南子ちゃん。」
「ありがとうございます。でも1位じゃないですから。」
御礼を言うものの、ちょっと悔しそうな可南子ちゃん。でも2位なんだから、もっと喜んでもいいと思うけどなぁ。
「2位じゃ祐巳さんからご褒美がもらえないでしょ。」
なるほど、ご褒美がもらえないからか。って、志摩子さん。まさか本当にこのトランプ対決でもする事になるのぉ。
「祐巳ちゃん、後でね。」
私の表情から考えている事を見抜いたのか、すかさず蓉子さままで声をかけてくるし。やっぱりまたする事になるのね・・・。
「3位は何も無いのね。」
その会話を聞いていたのか、聖さまから引いたカードが自分のカードとそろって最後の一枚になったカードを由乃さんに引いてもらいながら、祥子さまがつまらなそうにつぶやいた。
それから一巡するも誰もそろわず、瞳子ちゃんが由乃さんからカードを引いたところで今度は瞳子ちゃんが・・・。
「もうっ!何でそろわないんですの。」
と、癇癪を起こした。自称女優の瞳子ちゃん、確かに演技は上手いけど案外感情は外に出やすいのよね。いつだったか、祐麒がかわいいと言っていたけど、その意味がこの頃なんとなく解るようになった気がする。きっとこう言う一面がある事に気付いていたんだろうなぁ。
「瞳子ちゃん、リラックス、リラックス。顔に出ると不利だよ。」
「祐巳さまにだけは言われたくありません。」
そう言うと瞳子ちゃんはぷいと横を向いてしまった。
「祐巳さん、実は・・・。」
なんと、先ほどジョーカーを引いてしまって、それで癇癪を起こしたみたい。それじゃあ私の事、笑えないよ。瞳子ちゃん。
後になって考えると、この癇癪が瞳子ちゃんからツキを奪ったのかもしれない。
「よかった。0点だけはまぬがれたみたいね。」
「くやしい!後一歩だったのにぃ。」
続けて聖さま、由乃さんがそろい、手札を山に捨てた。
「と、言うことは・・・。」
「罰ゲームは、瞳子ちゃんに決定!」
「そ、そんなぁ〜。」
そう、さっき引いたジョーカーが他人に渡る事無く、そのまま瞳子ちゃんの負け。
「点が入らない上に罰ゲームなんて、踏んだり蹴ったりじゃないですか!」
「ゲームを始める前から決まっていた事だから、諦めようね、瞳子ちゃん。」
笑いながらそうたしなめるお姉さまと、シュンとうなだれる瞳子ちゃんを見て、みんなに笑いの輪が広がった。
あとがき(H16/10月7日)
やっとアップできました、第28話。いかがだったでしょうか?登場人物が多いだけに、どうしてもほとんど出番のない人がいるんですよね。(乃梨子ちゃんとか、乃梨子ちゃんとか、乃梨子ちゃんとか。(笑))別に嫌いとかではなく、出すスペースがないだけなのでご容赦を。
今回のトランプも蓉子さまが勝ち、まさかの2連勝です。う〜ん、困った。本編でも江利子さまたちがほっとしているように、あらかじめこのことを想定してはいたのですが、いざそうなるとやはり困りますよね。次の対決もダイスを使うつもりだけど、これで蓉子さま3連勝なんて事になったらどうしませう。
あと、瞳子ちゃんの最下位も決まりました。さてさて、罰ゲームはどうするかな?あまりひどいのはやれないしなぁ。何かいい案があればwab拍手等で送ってもらえるとうれしいです。