「ところで、罰ゲームは安来節でいいの?」
 「それはちょっと難しいんじゃないかな。」
 「なぜ?」

初めての合宿31

 「まず、あれって覚えるのに結構時間が掛かるのよ。」
 「ふむふむ。」

 由乃さんの質問に、さっきその安来節の案が出た時に頭をよぎった理由を説明する。

 「それに、ザルや五円玉、手ぬぐいはともかく、安来節の音源が無いと踊れない。かと言ってお姉さまが持っているとは・・・。」

 そう言ってお姉さまの方を見てみると、その視線に気付いたお姉さまは首を横に振って答えた。

 「ああ、なるほど。それはそうだね。」
 「祐巳ちゃんは歌えないの?」
 「無理言わないでくださいよ。」

 踊りは一生懸命覚えたけど歌までは覚えてないし、何より音楽が無いのにアカペラで歌うなんて恥ずかしくて出来ないよ。

 「そうなるとちょっと無理そうね。」
 「ドリルちゃんの安来節、ちょっと見たかったんだけどなぁ。」

 流石にそれでは無理だろうと、江利子さまと聖さまは残念そうにつぶやく。

 「では、祐巳さまに嫌いって言われるのは?瞳子にはかなり効くと思いますよ。」

 えっ?(ドキッ!)

 「それはダメよ。」
 「どうしてですか?」

 乃梨子ちゃんの提案を、蓉子さまがすかさず却下する。

 「もしその案を実行するとしたら当然、祐巳ちゃんには笑いながらとかふざけながらとかではなく、真剣に言わせなければいけないでしょ。」
 「そうなりますね。笑いながらでは意味が無いでしょうし。」
 「としたら、言われる瞳子ちゃんにもダメージがあるだろうけど、言った祐巳ちゃんにはそれ以上のダメージがあるのではなくて?」
 「あっ!」

 ただ嫌いと言うだけなら易しい。これが舞台の上でなら真剣な顔でも言えるだろう。でも・・・。

 「わたくしも祐巳に、心にも無い事を言わせるのは反対です。」
 「何も罰ゲームで傷つけるようなことをする必要も無いからねぇ。」
 「そうですね。」

 お姉さまと聖さまも反対してくれて正直ほっとしている。もしそれが冗談だとしても、瞳子ちゃんに、いえ、たとえそれが誰であっても、山百合会のみんなに嫌いだなんてとても言えそうに無いから。

 「それに、祐巳ちゃんに無理やり何かをさせると言うのは気が引けるからね。」
 「そう言う割には、私にこんな格好をさせてますけどね。」

 と、じと目で聖さまを見ながら言ってみる。もうお忘れの方もいるかと思いますが、私はこの対決の景品としてゴスロリの格好をさせられています。頭にリボンまでつけられて。

 「まっ、それはそれ、これはこれと言う事で。」

 はぁ、これに関しては何を言っても無駄だと言う事は解っているんですけどね。

 「あら、可愛いからいいじゃない。さて、それはさて置き、こうなるとまた振り出しにもどってしまったわ。」
 「そうね。う〜ん、罰ゲームを考えると言うのは本当に難しいわね。」

 江利子さまと蓉子さまが二人して頭をひねっている場面なんて、かなりレアな状況なんじゃないかな?などと考えていると聖さまが、

 「そうだ!今日一日祐巳ちゃんに触れないって言うのはどう?スキンシップ禁止。」
 「あのねぇ、聖。あなたじゃないんだから、それを罰ゲームにしても・・・。」
 「ちょっと待って!それって案外いいかも。」

 聖さまの発言に蓉子さまが文句を言おうとした時、江利子さまが何かを思いついたようにその言葉をさえぎった。

 「スキンシップ禁止がいい案なの?」
 「いえ、そうじゃなくて、その逆。」
 「スキンシップ禁止の逆ですか?」

 どう言う意味なんだろう?そう思って周りを見渡しても、みんな首を振るばかり。どうやら誰も江利子さまが言っている意味が解っていないみたい。

 「前に令に聞いた事があるんだけど、祐巳ちゃんって聖が祐巳ちゃんにしているみたいに、よく瞳子ちゃん達に抱きついたりしているのよね?」
 「ええ、まぁ。聖さまほどではないと思いますが。」
 「えっ!そうなの?いいなぁ祐巳ちゃん、今度私にも抱きついてよ。」

 何を言い出すんですか、この人は。

 「聖、話の腰を折らないの。で、それがどうかしたの江利子?」
 「そこで思いついたのだけど、祐巳ちゃんが瞳子ちゃんに・・・。」


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 「瞳子ちゃん、入ってもいいわよ。」
 「あっ、はい。」

 祥子さまのお許しの言葉を合図に部屋に入ってくる瞳子ちゃん。

 「さて、瞳子ちゃん。罰ゲームの件だけど。」
 「はい。」

 いったいどんな罰ゲームが待っているのだろうと、ドキドキしたような面持ちで江利子さまの言葉を待つ瞳子ちゃん。そこへ、

 「乃梨子ちゃん、可南子ちゃん、お願いね。」
 「はい。(×2)」
 「えっ!?」

 瞳子ちゃんに微笑みかけながら出した江利子さまの合図で、乃梨子ちゃんと可南子ちゃんが瞳子ちゃんの両腕をがしっと抱え込んだ。

 「なっ何をするんですか!?」
 「何って、罰ゲームよ。」

 何を当たり前の事を聞くの?って言うような顔をして答える江利子さま。そして今度は蓉子さまが、

 「それじゃあ祐巳ちゃん、お願いね。」
 「は〜い!」

 今度は蓉子さまの合図で、私がいきなり瞳子ちゃんに抱きついた。

 「ゆっ祐巳さま!いいいっいったい何をなさるおつもりですか!?」
 「何って、さっき江利子さまも言ったでしょ。罰ゲームだよ。」
 「でっでも・・・。」

 今この状況が飲み込めず、大きな目をきょろきょろさせてうろたえている瞳子ちゃん。心なしか顔も赤いみたい。

 「これが罰ゲームですか?」
 「ふっふっふ。ここで終る訳無いでしょ。罰ゲームはこ・れ・か・ら・よ。」

 そう言った後、私が始めた事はと言うと・・・。

 「ゆっ祐巳さま、なっなにを!?やめてください!」
 「やめないよ、罰ゲームなんだから。」
 「だっダメですって、そっそんな、はぁはぁはぁ・・・、くっ!くくくっ・・・きゃははははは。」

 わきの下、くすぐりの刑だったりする。瞳子ちゃんにはものすごく効くんだな、これが。

 「やめてっくっくださいってっば・・・くっくっくっ・・・きゃははははは。」

 ああ、瞳子ちゃんがあまりにかわいいリアクションをするものだからつい、

 「ういやつよのぉ〜、ほれほれほれ。」
 「はぁはぁはぁ・・・・、くっ、きゃはははははははぁ、はぁはぁはぁ・・・あはっあはっあはっはははははぁ。」
 「祐巳さん、おやじみたいよ。」

 なんて事を由乃さんの言われてしまうほど、ノリノリになってしまう。

 「ギブッギブッギブッ!はぁはぁはぁ・・・、もう・・・むっ無理ですって・・・ばぁ・・・、くくくっ、きゃはははははははは。」
 「瞳子さん、いくら暴れても離しませんよ。」
 「薔薇さま方にもきつ〜く言われていますから。」

 必死に私の手から逃れようと暴れる瞳子ちゃんだけど、それをこれまた必死に乃梨子ちゃんと可南子ちゃんが押さえに掛かる。こうなっては小柄な瞳子ちゃんではどうにもならず、結局はただひたすらくすぐられる運命に甘んじてしまうわけだ。

 「これは面白そうだなぁ。祐巳ちゃん、私も混ぜて。」
 「あっ、聖!」
 「そうね、見ているのにも飽きたし、私も参加させてもらおっと。」
 「江利子まで。」
 「そっそんなぁ〜。」

 結局3人がかりでくすぐられる運命になってしまった瞳子ちゃん。その笑い声はいつまでもリビングに響き渡っていたそうな。


あとがき(H16/11月29日更新)
 予想以上に長くなってしまった。今まで出一番長いんじゃないかな?今回が。

 さて、今回も前回同様、今までwab拍手で送られてきた案を入れて話を作らせてもらいました。複数案が来てくれてくれたおかげでちゃんとした話に出来てよかったのですが、調子に乗って書いてしまったのでちょっと長くなりすぎましたね。いつもなら、ここまで長くなったらもう少し肉付けして2話に分けるのですが、今回は次回で罰ゲームまで行くと書いたので最後まで書いた次第であります。とか言いながら、今まででも最後までいけなくて次回に続きますとか書いているんですけどね。(笑)

 さて、今回の話の原案になったのは、ともに9月20日の日記に書いた匿名の方からの意見です。と、ここまで書いて思ったのですが、wab拍手できた案を発表しないほうがよかったかな?まぁ、今更何を言っているんだという話になるのですが、元々来た案は全てSSに入れようと決めていたんですよ。だからそれぞれにちゃんとボツの理由をつけたのですが、前もって理由を書いてしまっていた為に、今回の話が日記で書いた事をキャラに言わせているだけって感じになってしまっています。

 発表をしていなければそんなことも無かったんだけどなぁ。まぁ、今更言っても仕方が無い事ですけどね。

 さて、最後にこれまた9月20日の日記で触れた、プレゼさんの「いっそ罰ゲームをすごく良いものにしてみては?」という意見ですが、流石にこれを盛り込むことは出来ませんでした。でも、瞳子ちゃんが祐巳ちゃんに抱きつかれて一瞬幸せになっているので、それでご勘弁を。(笑)

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