「ああ、あれの事ね。確かにあれならいいかもね、1対1で争うと言う条件も満たしているし。」
 「なら決まりね。」

 聖さまが次の種目の提案を口に出した。それは・・・

初めての合宿33

 「次の対決はビリヤードにしましょう。」
 「ビリヤード?と言うと、あの棒でボールを突くあのビリヤードですか?」
 「そう、キューを使ってボールをつく、あれだよ。」

 何度かテレビでアイドルグループがゲストとやっているのを見た事があるけど、あれって結構大きな台を使うよね。あんなものが家にあるなんて流石小笠原家。

 「ビリヤードか、面白そうね。」
 「ビリヤード台ならうちにもありますけど、私はやった事は無いです。ちょっと難しそうだし。」

 上の発言は由乃さんで、下の発言は瞳子ちゃん。なるほど、お金持ちの家にはある物なのか・・・などと考えていると、

 「祐巳さん、ビリヤード台って20万くらいで買えるし、上に天板を置けばテーブルとしても使えるから、普通の人でも好きなら持っている人、案外多いのよ。」

 と、蔦子さんが教えてくれた。

 「と言っても、祥子さまの家のは本格的なものだろうけど。」
 「でしょうね。」
 「ところで、この案に反対の人は?」

 この対決の審判部長?江利子さまが問い掛けた、すると

 「練習はさせてもらえるのかしら?流石にいきなり本番と言うのは嫌よ。」
 「蓉子の言うとおり、流石に練習を少しはしないとあてる事も出来ない人が出そうね。誰か教えられる人はいる?」
 「あっ、それなら私が。」

 と、答えたのはなんと令さま。令さまが言うには剣道部の友人に好きな人がいて、その人に本格的に教わったらしい。

 「令なら教えるのも上手そうだし、大丈夫ね。」
 「それじゃあ、早速練習に移りましょう。」

 お姉さまに案内してもらってビリヤード台のある部屋へ。流石に台は1台だけだったけど、壁にはキューがズラリ。お姉さまがため息混じりに言うには

 「お父様が気に入った物があるとすぐに買ってくるものだから増える一方なのよ。」

 との事。それにしても、50本以上あるのだから恐れ入る。おまけに蔦子さんが

 「これ、ほとんどが50万以上するんじゃないかしら?」

 なんて言うものだから、さわるのも怖くなってしまう。下手にいじってもし折ってしまったらなんて考えてしまうとさすがにね。どうやらみんなも私と同じ気持ちらしく、なかなかキューに手を伸ばさない。それを見たお姉さまが、

 「そこのガラス棚の中の物以外ならどれを使ってもいいですよ、今お気に入りの物はそこに入っているはずですから。それに、そう簡単に折れたりするものでもないでしょうから、安心して使ってください。」

 と言ってくれたので、やっとみんなそれぞれ気に入ったキューを選び、練習を始めた。

 「案外難しいものね。」
 「でも、基礎さえしっかり覚えればすぐに真っ直ぐ打てるようになりますよ。」
 「そうそう、蓉子は物覚えがいいからね。すぐに出来るようになるよ。」

 などと言いながら聖さまは、窮屈そうなフォームの蓉子さまを横目に綺麗なフォームで球を突いている。

 「あれ?聖さまはやった事があるのですか?」
 「うん、と言っても大学の友人と一緒に数回だけどね。」

 なるほど、だからビリヤードにしようなんて提案をしたのか。

 「流石に本格的な事は出来ないけど、普通に遊ぶ程度は突けるよ。」
 「そうなんですか。」

 そう言いながら楽に突く聖さまの姿はとてもカッコイイ。スタイルがいいからなんだろうけど、何も知らない人が見たら凄く上手いと思ってしまうんじゃないかな?

 「瞳子ちゃんや、可南子ちゃんはどうなんだろう?」

 そう思って目を向けてみると、背が高くて運動神経のいい可南子ちゃんは飲み込みが早いらしく結構順調みたい。それに対して背の低い瞳子ちゃんはと言うと、キューが長すぎるのか、ちょっと悪戦苦闘中。そして、

 「思ったより由乃は悪くないね。」

 と令さまに言われて得意げになっているのが由乃さん。スポーツ観戦暦の長い由乃さんは何かをやる時もフォームが綺麗。多分そこをまず重要視するからなのだろうけど、運動神経がついていかない他のスポーツと違い、フォームが綺麗なだけで精度が増すビリヤードのような物は由乃さんにあっているんじゃないかな?

 「祥子は・・・やった事があるみたいね。」
 「やった事があると言っても、お父様や優さんに付き合わされて数回やっただけよ。」

 そう言っている割にはかなり綺麗なフォームで突くお姉さま。曰く、

 「お父様も優さんも教えたがりなのよ。」

 なるほど。男の人は得てして自分の好きなもの、得意なものは人に教えたがるみたいだしね。私のお父さんも何とか私にゴルフをやらせようといつも画策してるし。

 「それにしても、流石、山百合会関係者と言ったところかしら。」
 「えっ、なにが?」
 「ほら、もうみんなサマになって来てるわよ。」

 蔦子さんの言葉を受けて他のメンバーに目を向けてみると、最初のうちは苦戦していた蓉子さまや瞳子ちゃんまで、もうフォームが綺麗になって来ている。

 「祐巳さんじゃあ、こうは行かないわね。」
 「蔦子さん、それは言わないお約束。」

 でも、本当に凄い人たちだよね。こんな中に私なんかがいてもいいのかな?なんて、今でも思うもの。

 「でも、祐巳ちゃんには私達には無い、祐巳ちゃんだけの良さがあるのよ。」

 私の表情を読んだのか、江利子さまがそう言ってフォローしてくれた。(ほらそこ、百面相だから読み易いだろうなんて考えない!)

 「私達ではけして出来ない事をいくつもやってきてくれたから、今の山百合会があるのよ。」

 う〜ん、ここまで言われると流石に恥ずかしいなぁなんて考えていると、

 「まさかこんなに笑いの耐えない山百合会が見られるなんて、私達がつぼみだった頃には考えられなかったわ。あ〜あ、祐巳ちゃんが後1年早く生まれてくれていたらよかったのに。」

 と、ここまで誉めておいて最後にそう来ますか。はいはい、どうせ私はお笑い担当ですよ。


あとがき(H16/12月21日更新)
 次回で対決開始というところまで行くつもりだったのですが、思った以上に長くなってしまったのでここで切りました。

 対決とは違い、こう言う普通の風景と言うのは書いていて楽しいからどうしても伸びてしまうんですよね。本当なら瞳子ちゃんのセリフを入れたいとか、志摩子さんや乃梨子ちゃんも絡ませたいとか考えてしまうのですが、もしそこまでしてしまうと今回の最後まで行かなかったんじゃないかな?と言うくらい長くなってしまうでしょうね。

 実際入れてもいいのですが、そうすると今週中に書き終わらない。(笑)今週末はクリスマスのSSを書こうと思っているので、流石にそこまで伸ばしてしまうとそちらに支障が出そうなので今回はやめておきました。

 さて、先ほども書いた通り、クリスマスSSを書くつもりなので来週はお休み。また、その次もお正月と言うことでお休みします。(甥っ子とかが遊びに来るだろうから、とても書けないと思うので。と言う訳で、初めての合宿34話は来年の10日前後になると思います。(出来たら7日頃にアップしたいと思いますが。)でも、時間があれば正月のSSも書きたいと思っているので、SSページ自体は更新するかもしれませんけどね。

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