「それでは2回戦を始めます。」
「おっ、出番だね。」
「瞳子は負けませんよ。」
令さまの言葉で、聖さまと瞳子ちゃんがビリヤードテーブルの前に立った。
まずはバンキング対決。
「あちゃぁ〜。」
「やった!瞳子の先攻ですね。」
二人とも上手く突いたのだけど、球一つ分くらいの差で今回は瞳子ちゃんの勝ち。ブレイクショットの権利を勝ち取った。
「それでは行きますよ・・・。えいっ!」
ガコン。
勢いよく突かれた手玉は真っ直ぐ1番ボールへ。その衝撃で弾かれたボールたちはテーブルに散らばり、6番ボールがポケットへと吸い込まれた。
「やるねぇ。それとこの配置は・・・ちょっとピンチかな。」
聖さまの言う通り、手玉と1番ボールの先には9番ボールが。一直線と言うわけではないのでちょっと難しいけど、狙えない事も無いって感じだ。
「これで決めてしまいます・・・。えいっ!」
よく狙って手玉を突いた瞳子ちゃん。でも、初心者がそうそう狙った通りに突けるはずも無く、1番ボールが9番ボールにあたったものの、9番ボールはあらぬ方向へ。しかし、
カツン
その9番ボールが3番ボールにあたり、その3番ボールがコロコロとポケットの方へ転がっていった。
「あっ、これは入るかも・・・あぁ〜。」
残念。3番ボールはポケットの淵に弾かれ、落ちる手前で止まってしまった。
「危ない危ない。危うく一度も突かないまま負ける所だったよ。」
そう言ってキューを構える聖さま。その聖さまが突いたボールは1番ボールを捉えるもポケットは無し。続いて突いた瞳子ちゃんも、
「ダメですね。」
1番ボールに当てるも、ポケットに入れることは出来なかった。
「そろそろ入れないとカッコつかないわね。」
そう言って聖さまはキューを構えたんだけど、あれ?1番ボールを落とすにはちょっとキューの向きが・・・。
「お姉さま、2番ボールを狙ってるみたいね。」
「えっ?志摩子さん、1番ボールから落とさないといけないんでしょ?」
「何を言ってるのよ、祐巳さん。」
額に指を当ててあきれたように由乃さんが何か言おうとしたところで聖さまが手玉を突いた。そして、
ガコン。
手玉に弾かれた1番ボールは2番ボールを弾き、ポケットへと沈めた。
「志摩子が言いたかったのはこう言う事。解ったかい祐巳ちゃん。」
そう言って聖さまは私に笑いかけた。なるほど、1番ボールに当てて2番ボールを落とすのは問題ないんだよね。
「さて、続けて行きますか。」
そう言った通り、今度は1番ボールを4番ボールにあててポケットに入れた。でも聖さまの攻撃はここまで。1番ボールを直接ポケットに落とそうとしたのだけれど、ポケットの端に弾かれてしまった。
「普通は1番ボールで弾いて他のボールを落とす方が難しいのに、それには成功して普通に突いたのを外すなんて、聖さまらしい。」
「それはどういう意味かな?祐巳ちゃん。」
「ははは・・・。」
そう言うと、じろりと睨まれてしまった。その後すぐに笑顔になってくれたけどね。
この後はちょっとの間我慢の時間。何度か突くものの、どちらもポケットに入れる事が出来なかった。そんな時、あまりに入らないので力んだのか瞳子ちゃんが突いた手玉が勢い余ってテーブルから落ちてしまった。
「これはチャンスだね。」
ここで聖さまは1番ボールを7番に当ててポケットへ。しかし、続いてまたも1番ボールをポケットに入れそこなう。
「・・・。」
「祐巳ちゃん、何か言いたい事があるのかな?」
「いえ、別に。」
ほんと、何故難しいのは入るのに、簡単なのは入らないんだろう?
「これはチャンスボールですね。えいっ!」
と瞳子ちゃんが言う通り、聖さまがミスした1番ボールはポケットのすぐ前。ちょこんとあてれば入ってしまう位置に止まっていた。。そして、このチャンスに瞳子ちゃんはきちっと突いて1番ボールをポケットへ。しかし、
ガコン
なんと一緒に手玉まで入ってしまった。
「手玉の上を突いてしまったのね。」
「どう言う事です?お姉さま。」
祥子さまが言うには、手玉を突く時に上の方を突いてしまうと、手玉が他の玉にあたってもそのまま前に進んでしまうらしい。
「こう言う時は、手玉の下の方を突くと止まってくれるのよ。きっと瞳子ちゃんはチャンスで力が入ってしまって、キューが浮いてしまったのだと思うわ。」
「なるほど。」
こうなると俄然有利になるのは聖さま。さっきまで何度突いても落とせなかった1番ボールを落とし、続いて3番ボールをポケット。そしてなんと5番ボールまで落としてしまった。
「聖、このまま突ききってしまったら瞳子ちゃんがかわいそうよ。」
「蓉子、そう言われても勝負は非常なものだからね。」
そう言ってウインクする聖さまの目の前には8番ボールと9番ボール。そう、テーブルの上には聖さまの得意な一番若い番号のボールに当てて違うボールをポケットに落とすと言う配置が広がっている。
「これで終らせる。」
そう言って突いた手玉は8番ボールを弾き、そして8番ボールが9番ボールを弾き飛ばした。
「あっ、これは入るかも!」
そう思った9番ボールは惜しくもポケット横のクッションに弾かれ大きく外れてしまった。
「あぁ、残念!もう少しだったんだけどなぁ。」
「あっ、危ない所でした。」
心底ほっとした表情で瞳子ちゃんがそう言った。本当に今のはドキドキだったんじゃないかな?私も入ると思ったし。
「ここで何とか突ききらないと。えいっ!」
そう言って瞳子ちゃんが突いたボールは8番ボールを弾き飛ばしてポケットへ。いよいよ後は9番ボールだけである。
「これで決めます。えいっ!」
手玉に弾かれた9番ボールは真っ直ぐポケットへ。
「あっ、ダメ!」
しかし、非常にも9番ボールはポケットに嫌われ、左右に数度ぶつかってから、ポケット手前で止まってしまった。
「ああ・・・。」
目に見えて落胆する瞳子ちゃん。それはそうだ。手玉が離れているとは言え、9番ボールはポケットの手前。ちょこんとあてれば落ちてしまう位置にあるのだから。
「悪いね、瞳子ちゃん。」
そう言ってキューを構える聖さま。先ほど瞳子ちゃんが失敗したみたいに手玉の上を突かないように手玉の下を慎重に狙う。そして、
カッ!
下を狙いすぎた為か、聖さまの突いた球が少しジャンプ。そしてそのジャンプが全てだった。
「ああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
「やった!」
これぞまさしく致命的なミス。このジャンプによって手玉はそれて9番ボールにもあたらなかった。こうなると自由な位置に手玉を移動させられる瞳子ちゃんが圧倒的に有利。そして
ガコン。
今度はきちっと突いて9番ボールポケット。
「負けてしまった・・・・。」
「祐巳さま、勝ちました!」
「うん、おめでとう、瞳子ちゃん。」
9番ボールがポケットに落ちたのを確認した後、真っ直ぐ私の前まで歩いてきて瞳子ちゃんは嬉しそうに報告してくれた。それに対して聖さまは茫然自失。それはそうだよね、ほとんど手中にしていた勝ちが逃げていったのだから。
「こう言うこともあるわよ。」
「仕方が無いじゃないの、聖。勝負は非情、なんでしょ。」
「はぁ〜。」
蓉子さまと江利子さまが慰めているけど、ちょっと立ち直るには時間がかかりそう。その気持ちも解るけどね。
「ねぇ祐巳さん。普段は仲悪そうだけど、よく似ているわね、あの二人。」
「えっ?」
祥子さまの方に瞳子ちゃんが行った後、由乃さんが私に話し掛けてきた。
「気付いてる?可南子ちゃんが勝った時とセリフ、まったく一緒よ、あの子。」
「そう言えば。」
テンションはちょっと違うけど、確かにその通りだ。こうして見るとあの二人、いがみ合ってはいるけど案外打ち解けあえたらいい友達になるんじゃないかな?
「でも、祐巳さまを取り合っている間は打ち解けあう事は無いんじゃないですか。」
「わっ!」
いつの間にか後ろに乃梨子ちゃんが立っていた。ところで乃梨子ちゃん、何故私が考えている事が解ったの?やっぱり乃梨子ちゃん、エスパー?
「エスパーじゃありませんよ。祐巳さまは考えている事が、その・・・お顔に出やすいので。」
「なるほど・・・。」
うう、乃梨子ちゃんにまで言われてしまった。どうせ私は顔に出易い百面相ですよ。などと落ち込んでいると、
「祐巳さま!絶対に優勝して、祐巳さまと同室になって見せますから。」
「わっ!うっ、うん、がんばってね。」
と、今度は瞳子ちゃんがいつの間にか後ろに立っていた。ドキドキ、こんな時まで気配を消して近づかなくても・・・。でもまぁ、今日はいいか。そんな風に思えるほど、その時の瞳子ちゃんの笑顔は嬉しそうだった。
あとがき(H17/9月5日更新)
エスパーかと思った事まで顔に出ていたのだろうか?(笑)
さて、初めての合宿第38話、いかがだったでしょうか?今回の話で聖さまが脱落。う〜ん、ちょっと残念なような気もするけど(聖さまならSS書き易いだろうし。)仕方が無いですよね。ダイスの結果だし。
さて、今回の実際にビリヤードを自分でやった結果をSSにしているのですが、前回と少し違うのがミスが多いと言う事。これは前回と違い、1人だけでやった4ゲーム目の試合だから集中力がかなり切れてきている回だからです。ちゃんと集中力がある時なら狙った球と一緒に手玉まで同じポケットに入れてしまうなんて事も無いし、球の下を狙ってジャンプさせてしまうなんて事はありません。まぁ、強く突きすぎて手玉をテーブルの外に弾き飛ばすと言うのはやってしまう事もありますが。(笑)
それと、実はこの回はやたら長い試合なんですよ。ミスがやたらと多かったので。でも、それまでちゃんと書いていたら話にならないので結構はしょってます。本編に書いた他にも直接9番を狙う場面が数回あったり、チャンスボールを凡ミスで外したりしているのですが、そんな場面とかを全部入れたらこの倍以上のボリュームになるんじゃないかな?でも、あまりダラダラと続けても仕方が無いので、ちゃんとポケットに落とした所と、話の流れでここなら大丈夫だろうというミスだけ入れておきました。
うちのHPもこの話でもしかすると10万Hit行くかな?とりあえず、10万Hitを踏んだ方はSSリクエストを受け付けるので報告してもらえると嬉しいです。また、10万Hit以外でも受け付ける条件があるので詳しくは8月28日のマリみて日記を参照してください。後、この日記の感想ももらえたら嬉しいなぁ。