コンコン!
「由乃さん、起きてる?」
「令ちゃんのバカ!」
「・・・・」
朝から喧嘩してるよ・・・。
「あっ祐巳さんおはよう。って、なぜドリルがここにいるの?」
「由乃さま、ドリルは無いでしょ、ドリルは。」
「瞳子ちゃんは、柏木さんから私たちが泊まりに来ていると聞いて今朝来たそうよ。」
「ふ〜ん。」
「ところでどうしたの由乃さん?令さま、部屋の隅っこで死んでるよ。」
死んでいると言うのは的確な言葉ではないかもしれないけど、壁の隅の方を向いて体育座りしながら影を背負っている令さまを見ると、ついそう表現してしまいたくなる。
「聞いてよ祐巳さん、令ちゃんったら朝5時からこの部屋で素振りとかするのよ。」
それはまた令さまらしい。
「その音で私も起きてしまったの。昨日は12時過ぎまで遊んでいたからその後お風呂入ったりして寝たのは1時半頃だったのによ。」
「睡眠時間3時間半かぁ、それは少し辛いね。」
「その上、私が文句を言ったなんて言ったと思う?「由乃も剣道を始めたのだから、たまには早起きして素振りとかした方がいいよ。」なんて言うのよ。」
「でも由乃さま。黄薔薇さまの言われることにも一理あると思いますよ。」
「ドリルは黙ってなさい!」
「いや由乃さん、ドリルは止めようね、ドリルは。」
このままだと瞳子ちゃんとまで喧嘩になっちゃうよぉ。
「大体、いつもなら早起きして素振りもいいわよ。でも祥子さまのお家に伺った時くらい剣道から離れられないのかしらね。」
「まぁまぁ。そんな毎日の努力を忘れないと言うのも令さまのいいところでしょ。」
「それはそうだけど・・・。」
「あのぉ〜、ちょっとよろしいですか?」
流石に黙れドリルと言われたからか、今度は控えめに発言しようとする瞳子ちゃん。
「何?瞳子ちゃん?」
「さっき由乃さまは朝5時に素振りの音で起こされたとおっしゃってましたよね?」
「ええ、そうよ。」
「で、今の時間は?」
そう言われたので時計に目を向けてみると・・・。
「7時半・・・って、まさか由乃さん5時から今までずっと令さまを怒っていたの!?」
「そうよ。」
そうよって、よくもまぁ2時間半も。それでは令さまでなくても壁の方を向きたくもなるよ。
「由乃さん、それは流石にかわいそうなんじゃ?」
「あら祐巳さん、朝5時に起こされた私はかわいそうではないのかしら?」
「でもそろそろ許して上げなよ。令さま、本当に落ち込んでるじゃない。」
由乃さんの事だから本当に罵詈雑言をずっと浴びせつづけたんだろうなぁ。かわいそうな令さま。
「そうね。いいわ、もう許してあげる。」
「由乃ぉ〜。」
あっ、令さまが少し復活した。
「令ちゃんも情けない声出さないの。まったく。」
「まぁまぁ。」
「黄薔薇さまも大変ですねぇ。」(ぼそっ)
「聞こえてるわよ。」
ああ、由乃さんと瞳子ちゃん、どうしてこんなに相性が悪いんだろう。
「こらこら、二人とも喧嘩しないの。」
「は〜い」×2
二人とも返事だけは素直だけど、お互いが威嚇しあってるし。でも傍目から見てると、子犬と子猫がいがみ合っているような感じだけどね。二人ともとてもかわいいから。
「それじゃあこれで私達は行くけど、ちゃんと仲直りしてよ。令さまがこんなんじゃあお姉さまも心配するし。」
「はいはい。祐巳さんの大事な大事な祥子さまのためにも、ちゃんと令ちゃんを元の状態の戻しておきますか。」
元々仲のいい二人だからそれほど心配してないけどね。
「それじゃあ、私達は志摩子さんたちを起こしてくるわね。」
「うん、また朝食の時に。」
「黄薔薇さま、由乃さま、失礼します。」
「またあとで。」
部屋からでた後・・・
「黄薔薇さまって、本当に由乃さんに頭上がらないんですね。前からそんな感じはしていたけど、まさかあそこまでとは。」
「う〜ん、あそこまでの事はめったに無いんだけど、由乃さんが暴走を始めると、令さまは元々甘いところがあるから反論出来なくなってしまうのでしょうね。」
「あの二人、瞳子が入学してくる前に一度破局しているんですよね?あれでよくよりが戻せましたね。」
「ああ見えて、二人とも心の底で強く結びついてるからね。」
「そう言うものなんですか。」
「そうそう。」
私もお姉さまとあの二人のような関係が築けたらいいなぁ。
瞳子も祐巳さまとあの二人のような関係が築けたらいいなぁ。
並んで歩きながら、思い人は違えど二人とも同じ事を考え・・・
いつか私も令さまのようなお姉さまの立派な僕(しもべ)に!
いつか祐巳さまを令さまのような瞳子の立派な僕に!
訂正、どうやらまったく違っていたようです。でもどちらにしても祐巳ちゃんは僕な訳ね。
あとがき(H16/3月20日更新)
朝の風景、黄薔薇編でした。
私の中では、令さまは由乃さんに頭が上がらない人になってます。と言うか、奴隷?(爆)まぁそれは冗談としても、かなり甘々ですね。そして由乃さんもそんな令さまに甘えきってます。(でも、令さまは締める所はちゃんと締めるけど。)私としてはそんな関係の二人が好きなんですけどね。
ところで今回の瞳子ちゃん、ちょっと影が薄かったですね。祐巳ちゃんの横にいるのだからもっと前面に出してもよかったのですが、そうすると由乃さんと二人で喧嘩を始めそうだったので出番が大幅に減ってしまうことに。まぁ、今回は黄薔薇姉妹が中心の話と言う事なので仕方がありませんけどね。
さて最後に、いくら令さまでも部屋の中で素振りはしないのでは?という突っ込みは無しの方向でお願いします。(笑)
それでは次は朝の風景、白薔薇編でお会いしましょう