コンコン
「志摩子さん、起きてる?」
「あ、祐巳さん、おはようございます。」
「くぅ〜。」
そこには聖書を片手に朝の礼拝をする志摩子さんと、布団に包まりながら夢の中を漂っている乃梨子ちゃんの姿があった。
「おはよう志摩子さん。乃梨子ちゃんはまだおねむ?」
「ええ、昨日寝るのが遅かったから。」
そう答える志摩子さんも私たちと一緒に夜更かしをしたのだけど、そこは敬虔なクリスチャンの志摩子さんの事、日曜の朝の礼拝は忘れません。えらいなぁ、きっと私なら眠いから今週はお休みとか言ってサボっちゃいそう。
「おはようございます、白薔薇さま。」
「あら?おはよう、瞳子ちゃん。いつこちらへ?」
「昨日の晩、優お兄さまから聞いて、今朝早く伺いました。」
「そう。」
流石に由乃さんと違って穏やかな挨拶。二人とも美人だから朝の光につつまれて微笑んでいる姿をみると、どこか少女漫画の1シーンのよう。う〜ん、やっぱり絵になるなぁ。
「ううっ・・・」
「ん?」
あれ?乃梨子ちゃんが今うめいたような?
「ううぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
「ど、どうしたの!?」
ビックリしたぁ〜。だって乃梨子ちゃんがいきなり奇声を上げて起き上がったかと思ったら、そのまま志摩子さんにおびえたような顔をして抱きつくんだもん。怖い夢でもみたのかな?
「志摩子さん、ど、ドリルがぁ!鞭がぁぁぁ!」
「落ち着きなさい、乃梨子。」
「助けて、殺される!・・・って、はぁはぁ、夢か。よかったぁ〜。」
涙目になりながら心底ほっとした表情をしているところを見ると、本当に怖い夢だったみたいね。
「おはよう乃梨子さん、そんなに取り乱すなんて一体どんな夢を見たのですか?」
「っ!ど、ドリルだ!いや、来ないで!」
「ちょっと乃梨子さん、ドリルは無いでしょう、ドリルは。」
由乃さんに引き続いて、今度は友達の乃梨子ちゃんにまで。さすがにこうなると瞳子ちゃんがかわいそうになってくる。でも、友達の瞳子ちゃんにこんな暴言を吐くなんて、一体どんな夢だったのだろうか?
「乃梨子大丈夫よ、もう夢の中ではないのだから。」
「志摩子さん・・・。」
志摩子さんに頭をなでられて、やっと落ち着いたみたいね。
「ところで乃梨子ちゃん、一体どんな夢を見たの?」
「うっ、それは・・・。」
冷静になって、自分の奇行が恥ずかしくなったのか、うつむいて黙ってしまう乃梨子ちゃん。でも・・・。
「乃梨子さん、ドリル呼ばわりされたのだから、瞳子には聞く権利がありますわよね。」
流石にこう言われては黙っているわけにも行かないようで、恥ずかしそうに話し始めた。
「実は夢の中で私は紅薔薇さまの部屋にいたんですよ。」
「お姉さまの部屋に?」
「はい。そこでは紅薔薇さまと祐巳さまがお二人で寝ていたのですが、そこに忍び足で瞳子が入って来て・・・。」
「私が?」
「そう。そして祐巳さまを紅薔薇さまから奪い取ってしまったんです。」
ん?どこかで聞いたようなお話だなぁ。
「始めは寝ていた紅薔薇さまも、途中で祐巳さまが瞳子に取られたことに気が付いて怒り始めたんですよ。でも瞳子が・・・。」
「瞳子が?」
「ヒステリーな祥子お姉さまに祐巳さまは似合いませんわなんて言いだすものだから。」
「喧嘩になったと。」
うわぁ、まるでさっき起こった事を知っているかのよう。もしかして乃梨子ちゃん、超能力者?
「はい。でもそれが普通の喧嘩じゃなかったんですよ。」
「と言うと?」
「紅薔薇さまは何処からともなく鞭を取り出して、それこそ般若のような顔で瞳子に向かって行くんです。」
想像できてしまうだけに怖い・・・。でもお姉さまに鞭かぁ、似合いそうだなぁ。
「それに対して瞳子は髪の毛の巻き毛を取り外して左手にはめたんです。それが急速回転を始めて・・。」
「まるでドリルのように?」
「と言うより、本人が「ドリルアーム!」とか言いながら振り回してました。」
「そうか、乃梨子さんは瞳子の事ををんな風に見ていたのね。」
ドリルを振り回す瞳子ちゃん・・・こちらも似合ってるなぁなんて考えている私は不届き物?
「私はその二人の間でおろおろしている祐巳さまを見ていたのですが、それに気付いた二人が。」
「二人が・・・向かってきた?」
「そうなんですよ。二人とも「あなたも祐巳(さま)を狙っているのね、えぇ〜い、いまいましい。」とか言いながら。」
ううっ、それは怖い。私なら泣いてしまうかも。
「逃げても逃げても後ろから鞭やドリルが飛んでくるし、祐巳さまはおろおろしているだけで助けてくれないし、本気で殺されると思いましたよ。」
「で、うなされて飛び起きたと。」
「はい。壁に追い詰められて、もう少しで祥子さまの鞭と瞳子のドリルが体に食い込むって言う所で目がさめたんです。ああ、思い出すだけで怖くなる。」
そう言うと、また不安になったのか志摩子さんに寄りかかってしまう乃梨子ちゃん。でも、そんな夢を見たら仕方ないわよね。
「でも夢なんだから大丈夫よ、乃梨子ちゃん。そんなに怖がらなくても瞳子ちゃんもお姉さまもそんな事はしないから。」
「そ、そうですよね。」
ガタガタガタ
「ん?」
「どうしたの瞳子?」
今度は瞳子ちゃんが震えてる。
「どうしたの、乃梨子ちゃんの話を聞いて気分でも悪くなった?」
「い、いえ。(祥子お姉さま、まさか鞭を持って追いかけてきたりしないわよね。)」
「あっそうか、大丈夫よ、お姉さまは鞭を持って追いかけてきたりしないから。」
「ゆ、祐巳さま。」
瞳子ちゃんも心配性だなぁ。お姉さまがそんなことする訳無いのに。
「(でもあの部屋(外伝1話 秘密参照)の事を考えると実際にやりそうね、祥子さまなら。)」
「(そうですね、お姉さま。)」
能天気に笑う祐巳ちゃんと、すがるつくような目で祐巳ちゃんに抱きつく瞳子ちゃんを見つめながら、二人でこそこそと話し合う白薔薇姉妹であった。
「もしもの時は助けてくださいね、祐巳さま。」
「えっ!?そ、それはぁ・・・。」
「祐巳さまぁ〜。」(涙目)
あとがき(H16/3月29日更新)
当初は土曜日にアップするつもりでしたが寝坊して花見の場所取りに行く時間になってしまったので更新が遅れてしまいました。次回はちゃんと今週中にアップするのでお許しを。(本当か?)
さて、朝の風景、白薔薇編です。でも白薔薇編と言うより、乃梨子編ですね、これでは。
実際の所祥子さまが追いかけてきても祐巳ちゃんがなだめれば落ち着くでしょうね。「お姉さま、怖いです。」なんて言おうものなら、すごい勢いでやさしい顔を作る事でしょうきっと。
事祥子さまに関しては、身の危険を感じたら祐巳ちゃんに助けを求めると言うのは一番いい方法なんじゃないかなぁ。(笑)