そして当日の朝がやってきた。いつもより少し早起きして準備をし、出発。幸い空は雲一つ無い青空で、3月とは思えないほど暖かい、絶好のディズニーランド日和(?)になった。

ブゥトン、ネズミの園へ行く 第2話

 電車を乗り継いで舞浜駅へ。改札を抜けると、すでにそこはディズニーランドへ向かう人たちのうきうきとした気分と笑顔でで満たされていた。ここに来るといつも、「夢の国の入り口に来たんだなぁ。」と思う。ほんと、この空気の中にいるだけで幸せな気分になるのは何故なんだろう?

 「やっぱり人の気分と言うのは伝染するのかな?」

 他の人たちのわくわくと自分のわくわくが相乗効果で気分を盛り上げているのかもしれないね。そんな事を考えながら改札をくぐると、他の人に遅れないよう待ち合わせより20分早い6時40分に着いたにもかかわらず、そこには見慣れた三つ編みがゆれていた。

 「ごきげんよう、由乃さん。早いね。」
 「ごきげんよう、祐巳さん。昨日は楽しみで眠れなかったわよ。」

 眠そうな素振りも見せずそう話す由乃さんの顔は満面の笑み。令さまが見たら崩れ落ちるんじゃないかと思う位のいい顔をしているところを見ると、本当に楽しみなんだなぁ。そう言う私も、きっと同じ表情なんだろうけど。

 「ごきげんよう。二人とも早いのね。」
 「ごきげんよう。もう来ていたのね。こんな事なら後30分早く来るんだったわ。」

 集合時間10分前の電車で志摩子さんと蔦子さんが到着。全員そろったところで朝の挨拶をし、お互い「楽しみだね。」なんて話をしていたら蔦子さんが、

 「はい、みんな注目。」

 なんて言うものだから、ついつられて振り向いた所をパシャリと今日最初の一枚を撮られてしまった。やられた、すっかり気を抜いてたよ。変な顔していなかったかな?

 「まったく蔦子さんたら。」
 「写真を撮る時は言ってくれればいいのに。」

 なんて抗議をしても、

 「あら、構えた表情を取るより、よっぽど記念になるものよ。みんないい顔していたし、きっといい写真になっているわ。」

 なんて言ってるし。

 この後、入り口前のディズニーストアーの壁にかかれたイラストをバックに3人並んで1枚撮った後、チケット売り場へ向かった。

 「わぁ〜。」

 途中、思わず声を上げたのは由乃さん。前もって聞いていてもこの光景は驚くよね。見渡す限り人の波なんだから。

 荷物検査の後、叫んでいるキャストのお兄さん(ディズニーランドではスタッフの事をキャストと呼ぶんだって。)の声にしたがって前売り券交換の列へ。普段は1時間くらいかかるチケット購入だけど、ここは本当に早いのね。30分と待たずに私達の番が回ってきた。

 「祐巳さんには散々脅かされたけど、思ったより楽だったわね。」
 「あれだけ楽しそうに話をしていれば、時間なんてあっという間に過ぎるわよ。」
 「あら、何のことかしら?」

 なんてとぼけているけど、まるで楽しくてはしゃぎまわる小さな子供みたいな顔をしてたわよ。

 「チケットは早く買えたけど、並ばなければいけないのは変わらないのよね。」

 蔦子さんの言うとおり、チケットが手に入っても開園時間までは入場列に並ばないといけない。そこで、その時間を使って作戦会議。

 「入り口前の広場にはディズニーキャラクター達がいるけど、どうする?」
 「先にファストパスを取った方がいいのではないかしら。」
 「私も志摩子さんの案に賛成。」

 と、私達が話し合っている横で頭に?を浮かべている由乃さん。いけないいけない、すっかり置いてきぼりにしてしまった。

 「ファストパスと言うのは・・・そうだなぁ、優先入場チケットと言うのが一番解り易いかな?」
 「そうね。これを取っておけば、ほとんど並ばずにそのアトラクションに乗れるのよ。」
 「そんなものまであるのね。」
 「でも一度取ると2時間取れなくなるから、取る順番も重要なのよ。」

 なるべく並ぶ時間は少ない方がいいのと、アトラクションによってはファストパスが午前中になくなってしまうものもあるから、キャラクターとの写真は諦めて先にファストパスをとる事に決定。その後も何処を先に取るかとか、空いた時間は何処へ行くか話をしていると列が動き出した。あれ?後30分はあったと思ったのに、いつの間にか開園時間が来ていたみたいね。う〜ん、これじゃあ由乃さんを笑えない。

 「わぁ、入り口にミッキーの花壇があるんだ。」

 入場すると、すぐに目に飛び込んでくる花壇やさまざまな飾りつけ、ディズニー音楽が気分を盛り上げてくれる。そして、ワールドバザールを超えたところで目の前に広がるシンデレラ城を中心のした景色を見た由乃さんは、

 「本当に来たんだ。」

 なんて、まさに感無量と言った感じでつぶやいた。今日は特に天気がいいから青空にシンデレラ城が映えて凄くきれい。しかしぼ〜っとその風景に見とれている訳にも行かないので、放心状態の由乃さんの手をとって一路ファンタジーランドへ。これは多分一番人気であろうプーさんのハニーハントのファストパスを取る為なんだけど・・・

 「40分待ちって、これ、ファストパスの列よね?」

 と思わずみんなの顔を見て確認してしまったけど、ここは間違いなくファストパスの列。ここから後何分と言う看板を持ったお姉さんの話によると、一般列はこの時点で200分待ちだと言うので迷わず並ぶことにした。でも、

 「祐巳さん、40分も並んだっけ?」
 「う〜ん、実際は25分ほどじゃないかな?」

 表示より時間がかからないように、少し長めに書いてあるのかな?とにかく早く列から開放されたのは良いことだ。

 「それじゃあ、これからどうする?入り口に戻ってキャラクターと写真を撮る?」
 「当然!折角来たのにキャラクターとの写真が一枚も無いなんて意味が無いじゃない。」

 長時間並んだと言うのに由乃さんは元気いっぱい。ほって置いたら走り出してしまいそうな勢いだ。

 「写真もいいけど、すいている内にショップにもよってみない?」
 「えっ!?」×3

 今の発言をした以外の3人が思わず絶句したのは無理も無い。なにせこのセリフをはいたのが、誰あろう蔦子さんだったのだから。

 「なっなによ、そこまで驚かなくてもいいじゃない。」
 「だって、ねぇ。」

 思わず顔を見合わせ、頷きあうブゥトン3人。(内、一人は薔薇さまだけど。)だって蔦子さんが「写真もいいけど。」なんて言うとは思わないじゃない。

 「わ、私だって写真以外のことも話すわよ。」

 なんて、耳たぶまで真っ赤にして怒る蔦子さん。失礼しました、確かに蔦子さんも女の子、私達と同じようにディズニーランドは楽しいよね。

 「でも蔦子さんの言う事にも一理あるわね。混んでからだとゆっくり見ることが出来ないし。どうする?由乃さん。」
 「アトラクションを多く回りたい気もするけど、確かにどうせ後で行くことになるのならすいている内に選んだ方が時間も節約できるかもしれないわね。」

 今日の主役のお許しが出たのでワールドバザールへ。開園したばかりだから誰もいないかなと思っていたのだけど、思ったよりお客さんがいてびっくり。でもそれにはちゃんとした理由があった。

 「私はミッキーね。で、祐巳さんはプーさんかティガので決まり!」
 「えぇ〜、他のは選ばせてくれないの?」
 「だって、祐巳さんにはこの二つが一番似合いそうじゃない。」

 お客さんのお目当ては、キャラクターの耳の付いたカチューシャとキャラクターをかたどった帽子。これを身に付けるとディズニーランドに来たと言う気分がより一層盛り上がるのよね。

 「由乃さん、せめてミニーにしない?ミッキーは男の子じゃないの。」
 「何を言っているのよ祐巳さん、ミッキーの方がいいじゃない。魔法使いの帽子まで付いているのよ。」
 「そこまで言うのなら仕方が無いけど。」

 私としてはこのプリンセスクラウンのついた期間限定ミニーのカチューシャか、チップとデールの髪どめ型の耳かのどちらかをつけて欲しかったんだけどなぁ。特にリスの耳は可愛くて由乃さんに似合いそうなのに。

 「ところで志摩子さんはどれがいいと思う?」
 「えっ?私はいいわよ。」
 「そう言わないで、これなんかどう?」

 そう言って蔦子さんが手に取ったのはバンビの耳。でもこれって・・・

 「頭につけると耳が変な位置に来ない?これ。」
 「そう言えばそうね。」

 耳と言うより、とんがっている分、角みたいに見えてしまう。子供が着けたら丁度いいのかもしれないけど。

 「解ってないなぁ、志摩子さんにはやっぱりこれよ、これ。」

 そう言って由乃さんが自信ありげにあるカチューシャを志摩子さんの頭につけた。

 「こっ、これって・・・。」パシャッ

 つい蔦子さんがシャッターをきったファインダーの先には、ダンボの耳をつけて真っ赤になった志摩子さんがいた。


あとがき(H17/4月17日更新)

 ブゥトン、ネズミの園へ行く第2話、いかがだったでしょうか。長々と書いている割には、いまだ一つもアトラクションに乗っていません。本当に4話で終るのか?この話。(6話くらいになってりして。(笑))

 さて、今回、私のSSでは始めて挿絵が入りました。3月28日の日記で、資料写真を撮っていたというのは、実はこの絵を描く為だったりします。その割に手抜きの絵だけど。(笑)。

 ディズニーランドでこのSSを思いついた時に、同時にこの耳付きカチューシャを付けた誰かの絵は描きたいなと思ったのでいくつかの写真を撮っておいたんですよ。と、同時に道行く人の観察もしてきました。すると商品だけ見ては解らない所が結構でてくるんですよね、チップとデールの耳は頭の中心に来て変とか、バンビの耳は角みたいとか。その中でも意外と可愛かったのがダンボの耳。そこで誰かにつけさせようと言うことになったのですが、どう考えても祐巳ちゃんはプーさんかティガです。それ以外考えられません。

 そこで由乃さんはどうかなと思ったのですが、由乃さんの気性ではまず間違いなくミッキーでしょう。なら蔦子さんは?蔦子さんは写真に収まらないし、何よりシャープなイメージの蔦子さんにはダンボの耳は似合いません。どちらかと言うとミッキーのプリントされたキャップが似合いそうですよね。

 という訳で志摩子さんにつけることにしました。始めは期間限定プリンセスクラウン付きのミス・バニー(このキャラ、私は知らないのですが何のキャラなんだろう?)か、スティッチ(リロアンドスティッチ)の耳にしようと思っていたんですけど、思いのほか合っていたので良しとします。(笑)

 ところで、この挿絵の服は暫定的に決めたものなので後で書き直すかも。一応最終話には全員そろった絵を描くつもりなので。(写真と言う設定なので、蔦子さんだけどうしても嫌がって載ってないかもしれないですが。)

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