「蔦子さんはどれにするの?」
 「私?う〜ん、カチューシャや帽子をかぶると写真が撮りにくくなるし。」
 「ならこれは?」

 そう言って由乃さんが取り出したのは、髪どめ型のチップとデールの耳だった。

ブゥトン、ネズミの園へ行く第3話

 どうして買い物をしているとあっという間に時間が経ってしまうのだろう?それぞれのカチューシャを決めた後もつい「これが可愛い。」とか、「この箱、欲しいなぁ。」なんて言いながらグッズやお菓子を見ているうちに貴重な1時間が過ぎてしまった。

 「ねぇ、そろそろキャラクターたちと写真をとらないと、ファストパスを取る時間がきてしまうわよ。」

 と、蔦子さんが言ってくれなければ後1時間くらいいたかも、なんて考えてしまうほど買い物の魔力と言うのは恐ろしい。

 「そうね。でもこれどうしよう。持って歩く?」

 そう言う由乃さんも買い物の魔力に犯されていたらしく、手にはもういくつかの袋が握られていていた。

 「何を他人事みたいに。祐巳さんだって一杯持っているじゃない。」

 ハイ、その通りです。だってしょうがないじゃない、綺麗なクッキーの箱とか見ちゃうと、ねぇ。

 「持って歩くのは大変だから入り口広場横のコインロッカーに入れておきましょう。コインロッカーはあらかじめ取っておかないとすぐに一杯になってしまうから丁度いいわ。」
 「へぇ、コインロッカーなんてあるんだ。」

 これは初耳。志摩子さん曰く、今の時期はずっと寒いからいいけど、昼は温かいけど夜は寒いなんて季節の時は朝一番にコインロッカーに服を入れておいて、夜のパレードの時に出すと便利なんだって。志摩子さんの場合は、12月とか1月の一番寒い時期に来る時は毛布とかまで準備して入れて置く事まであるらしい。

 「それに途中で買い物した時も、あらかじめ取っておかないと荷物を入れることが出来なくて困ってしまうのよ。」

 なるほど。確かにここはエリアごとに売っているものが違うから、私も遊んでいる最中に欲しい物が見つかって買っている内に両手一杯に荷物を持ってパークを回っていたなんて事があったけ。

 買ったおみやげをロッカーにしまい、(なんと、まだ10時過ぎだというのにロッカーの半分近くは埋まっていた。)入り口前広場へ。この時間でも外から続々と人が入ってくるせいか、まだキャラクター達も一杯いて、

 「どのキャラと写真を撮ろう?」

 なんて悩むほどだ。

 「ドナルドダックとかもいいけど、やっぱりミッキーと撮りたいよね。」

 という由乃さんの提案でミッキーの居る場所に向かうとそこには長蛇の列が。前に来た時は列なんて無くて群集の中にミッキーがいるって感じだったけど、今はキャストの人が一組ずつ写真を撮ってくれるシステムになっているみたい。

 「どうする?結構並んでいるけど。」
 「でも、他じゃミッキーと写真を撮れないでしょ?」
 「いやそうでもないよ。トゥーンタウンにミッキーの家というのがあって、そこに行けば撮る事ができる。」
 「でも、あちらは1時間以上並ばないといけない事があるのよね。」

 ここで30分くらい待つか、ミッキーの家で1時間待つか。ミッキーの家は他に見るところがあるから単純に時間では比べられないけど、ここはやはり由乃さんの、

 「なるべく多くのアトラクションを回りたい。」

 と言う鶴の一声でこの列に並んで撮ることにした。そしてこの選択は大当たり。最初見た時はずらっと並んでいるから凄く時間がかかるのかな?と思ったのだけど、キャストのお兄さんたちの手際がいいからか20分も待たずに順番が来て写真を撮る事が出来た。

 「ミッキーゲット!」
 「由乃さん、あっちにティガがいるよ。」
 「あれはピノキオかな?」
 「プルートもいるわね。」

 などと言いながらあっちへ行ったりこっちへ行ったりして、いろいろなキャラクターとパチリ。今まで何度も来たけど、こんなに何人ものキャラクターと写真を撮ったのは初めてじゃないかな?

 「あら、いけない。祐巳さん、次のファストパスを取る時間がもう来ているわよ。」

 夢中になっていてすっかり忘れていたけど、もう2時間たっていたんだ。と言うわけで後ろ髪を引かれながらファストパス取りへ。次のアトラクションは由乃さんの

 「ジェットコースター系に乗りたい!」

 と言うたっての希望でスプラッシュマウンテンに決まった。厳密にはジェットコースターではないのだけれど、

 「私はコースター系の乗り物は、少し苦手なのよ。」

 と、志摩子さんが遠慮しようとしたのを、

 「そんな事言わないで、折角来たんだし一緒に乗りましょうよ。」

 という由乃さんの説得で強制参加させたので、スペースマウンテンやビックサンダーマウンテンなどの純粋なコースターではなく、途中はアトラクションで進むスプラッシュマウンテンにしたと言う訳。

 「・・・・・。」

 スプラッシュマウンテンに決まった事で蔦子さんも何か言いたそうだったけど、由乃さんの顔を見て言葉を飲み込んだみたい。蔦子さんもコースター系、苦手なのかな?

 「ここはあまり並んでなかったね。」
 「やっぱりジェットコースター系が3つあるからかな?」

 スプラッシュマウンテンのファストパス取りは10分弱であっさり終了。さて、ここで中途半端に時間があいてしまった。

 「ハニーハントの時間までもう少しあるし、何か乗らない?」
 「と言っても、30分くらいしかないわよ。」

 確かに蔦子さんが言う通り、ここで30分と言うのはかなり微妙な時間。アトラクションに乗るにはどうしても時間がかかってしまうから、1時間くらいないとなかなか次へ行き難いのよね。

 「それならいい所があるわ。」

 そう言って志摩子さんが連れてきてくれたのはアドベンチャーランドの魅惑のチキルーム。

 「ここって、足が疲れた時とかに来ない?普通。」
 「そう?私は好きでよく来るのよ。」

 やっぱり志摩子さんは変わってる。ここは鳥達が喋って歌うショーみたいなものだけど、1回の時間が長い上に他のアトラクションの方が正直面白いから疲れた時に休みに来るくらいにしか入ったこと無いのよね。

 「でも志摩子さんの言う通り、30分くらいでは入れるアトラクションはここくらいよね。」
 「私は何処も初めてだからいいわよ。」

 と言う蔦子さん、由乃さんの意見で中へ。

 「祐巳さん、意外と面白いじゃない。」
 「確かに面白いのは面白いのよね。」

 ここやイッツ・ア・スモールワールドはどちらかと言うとディズニーランドにおける箸休めみたいなイメージがあるんだけど、じゃあ楽しくないのかと聞かれれば楽しいの。ただ、どうしても他のアトラクションの方が楽しくて、ついそちらに行ってしまうからなかなか訪れる機会がないだけなのだ。だから入りたくないと言うことは無いし、今回は由乃さんが喜んでくれたから入ったかいはあったと思う。

 パシャッ
 「祐巳さん、なに難しそうな顔しているのよ。まぁ、その顔もいいのだけれど。」
 「えっ!?」

 チキルームを出た後もそんな事を考えながら歩いていたら、蔦子さんにそう言われてしまった。確かに何もこんな難しく考えることじゃないような?いけない、いけない、思考が変な方向に向かってしまっているぞ。ここは気分を変えてっと。

 「さて、次はいよいよプーさんのハニーハントね。楽しみだなぁ。」
 「これが一番人気のアトラクションなのよね?」

 そう、まだ新しいと言うこともあるけど、このハニーハントはファストパスが午前中になくなることがあると言うくらいの人気アトラクション。

 「私も乗るのは2回目なのよ。」
 「へぇ、そうなんだ。」

 前来た時はファストパスが終了していて、一般列も180分待ちだったから諦めたのよね。

 「どんなアトラクションなんだろう?楽しみ。」
 「由乃さん、ハニーハントはアトラクションだけでなく、乗るまでも楽しいのよ。」
 「乗るまでも?」

 志摩子さんの説明が良く解っていないようだったけど、ファストパスをキャストのお姉さんに渡して中に入ったとたん全てを理解したみたい。

 「わぁ〜!」

 そう、そこはプーさんの絵本の世界。英語で書かれたプーさんの絵本のページが壁になって(それも紙がめくれたからのような作り方の壁で。)通路を作っているものだから、その中にいるだけで気分が盛り上がっていってしまう。

 「こんな事なら辞典持って来れば良かったわね。」
 「流石にいちいち訳している時間は無いわよ。」

 実は私も前に来た時に同じ事を言って祐麒にこう言われたのよね。考えることはみんな同じなのかな?

 「それはそうか。ねぇねぇ蔦子さん、このページの前で写真撮ってよ。」

 なんて由乃さんが振り返ると、

 「ん?」パシャ!

 もう撮ってるし・・・。

 蔦子さん曰く、私が気付いていなかっただけでもうすでに40枚取りのフィルム2本を使い切っているそうな。恐るべき蔦子さん。

 「いつの間にフィルムを入れ替えたのよ?」

 と聞いたところ、

 「最初はここのファストパス取りの時かな?次はミッキーの列に並んでいる時。で、先ほどのチキルームで入れ替えて、これが3本目ね。」

 そう言って見せてくれたカメラのフィルムカウンターも、すでに10枚以上減ってるし。まったく、いつの間に。

 「あら、祐巳さん気付いてなかったの?」
 「お買い物している時も結構撮っていたわよね。」

 知らなかったのは私だけですか・・・。


あとがき(H17/4月24日更新)

 ブゥトン、ネズミの園へ行く第3話、いかがだったでしょうか?やっと一つ目のアトラクションに乗ったところとは、本当に展開が遅いなぁ。と言う訳で4話で終るのは絶望的です。まだ一つ目のパレードさえ出てきてないのに終るわけが無い。(笑)

 さて、今回の話にはコインロッカーが出てきます。これって実は私がディズニーランドに行く時はいつも気をつけていることなんですよ。あそこに行くと場所取り用のビニールシートや、夜のパレードの時用の上着などが必要な事があります。私の場合、ある程度の人数で行く時は車で行くので荷物置き場には困らないような気がするのですが、案外駐車場までが遠いのでコインロッカーが重宝するんですよね。

 でも、初めに行った時は必要だと思った時にはすでに一杯。と言う訳でわざわざ車まで戻る羽目になってしまって、それからはかならず入った時に一つ確保するようになりました。それだけにディズニーランドで午後からのパレードを荷物一杯で見ている人をみるたびに「コインロッカーを確保しておけばいいのに。」などと思ってしまうんですよ。

 皆さんももしディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンに行かれる時は覚えておいたほうがいいですよ。両手が開いているというのは本当に楽ですから。(笑)

 ところで蔦子さんがスプラッシュマウンテンに乗ると言うところで少し難色を示した理由、行った事がある人は解りますよね?

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