夕食も食べ終わり、前を通るナイトパレード用のグッズを売っているワゴンに群がる子供達をほほえましく見守ったり、「後15分でパレードが始まります。」と言うアナウンスに興奮したりしているうちに時間はあっという間に過ぎ、

 「あっ、電気が。」

 辺りの電飾や街灯が消え、それを見た由乃さんの言葉が合図だったかのように周りのスピーカーから楽しげな音楽が鳴り始めた。

ブゥトン、ネズミの園へ行く 第9話

 「もうすぐ来るわね。」
 「う〜、楽しみぃ。」

 志摩子さんの言葉につい気分も盛り上がり、首を伸ばしてパレードがやってくる方を覗き込んだ。

 「木の枝の隙間から先頭が少しだけ見えるわね。」
 「うん、水色の光が動いているね。」

 そんな事を志摩子さんと話していると、不意に由乃さんが驚いたような声を上げた。

 「あれ?蔦子さん、カメラは構えないの?」

 その言葉に目を向けると自称写真部のエースともあろうお方が、確かにカメラを持つ手をひざの上に下ろしている。

 「あら、由乃さん達はパレードの来る方ばかり向いているでしょ。後頭部だけ撮っても面白くないじゃない。」
 「いやそうじゃなくて、パレードは撮らないの?」

 これは当然の疑問だと思う。私がカメラを持っていたら、きっと写真に収めようと思うもの。

 「エレクトリカルパレードはファインダー越しに見るより自分の目で見たほうが綺麗じゃない。それに、こう言う電飾のパレードを撮ろうと思うとフィルムから変えないと上手く取れないのよ。低感度のフィルムだとシャッタースピードを落とさないといけないからどうしてもブレてしまうし、かと言ってストロボをたけば余計な配線まで写ってしまうでしょ。」

 なるほど、よくは解らないけど、写真部のエースが撮るには納得できない程度の画しか取れないから撮らないと言うわけか。好きな事だけあって、やっぱりこだわりがあるのね。 

 「それに、パレードを写すフィルムがあるなら、私は祐巳さんたちを撮りたいしね。」
 「本音はそっちか。」

 そう言えばそうだった。このお方の被写体は風景ではなく人物。それも女の子に限定されているんだった。

 「そんな事よりいいの?ほら、パレードの先頭が来たわよ。」
 「えっ!?わぁ〜。」

 蔦子さんの言葉に慌てて振り向いた由乃さんは驚嘆とも感嘆とも取れる言葉を漏らした。

 「凄い、飛んでるみたい。」
 「うん、綺麗だね。」

 由乃さんの目線の先にはローラーブレードで走り回るティンカーベルの姿が。その暗闇に浮かぶ楽しそうな姿は、まるで本当に飛んでいるかのよう。そして、

 「・・・すごい。」

 続くまばゆい光に包まれたパレード車。由乃さんが言葉を失うのもわかる気がするよね。大きさ自体は昼間のパレードと同じくらいだけど、夜になって廻りの景色が見えにくくなる事によって、目の中には流れる光の嵐のようなパレード車しか写らなくなるし、最前列だけあってその迫力はかなりの物。

 「ほら由乃さん、あれ見て。」
 「へっ、?なにあれ?」

 パレード車の後ろからはダンサーの人たちが電飾を付けて踊っているのだけれど、その中に変なものが。

 「とうもろこしよね?あれ。」
 「そうね。」

 そこに現われたのは、電飾をちりばめた厚化粧のとうもろこしだった。そのコミカルな姿に由乃さんは大はしゃぎ。

 「光る花とか蝶はわかるけど、光るとうもろこしって。」
 「でも、少しかわいくないかしら?」
 「あはは、志摩子さんもそう思う?」

 変だ変だと言いながら、ここまでのパレードでは一番のお気に入りらしい。

 「アレのぬいぐるみ、売ってないかなぁ?売っていたら令ちゃんのおみやげに買って帰るのに。」

 なんて言ってるし。そのとうもろこしの後にも色々と変わったパレード車やダンサーが通り過ぎて行き、

 「芋虫やてんとう虫までいる。」
 「白鳥の親子もいるわね。」

 なんて通り過ぎるパレードを見ながらあれやこれやと騒ぎながら楽しんでいると、前方から怪しい影が。

 「あれ、ちょっと不気味じゃない?」
 「ああ、あのフード姿に目だけが光っているキャラクターね。」

 ディズニー悪役ゾーンに入ったみたい。そのほかにも骸骨のような格好の人や竹馬に乗っているのか、かなり大きな人までいて、

 「ほらあそこの女の子、怖がってお父さんにしがみついているわよ。」

 由乃さんに言われた方を見てみると、小さな女の子にはちょっと怖かったのかお父さんにしがみついて不安そうにパレードを見つめている。

 「あの子には悪いけど、可愛いよね、ああいう姿。」
 「そうね。由乃さんも怖かったら私にしがみついてもいいのよ。」
 「何よ志摩子さん、そんなことする訳無いじゃない。」

 くすくすと笑いながらおどけるように言う志摩子さんと、それにちょっと拗ねた振りをしながらはしゃぐ由乃さん。それを見ながら笑っていると、

 「祐巳さん、前。」
 「えっ?わぁっ!?」

 蔦子さんの言葉にパレードの方に目を向けると、目の前20センチほどの所に不気味な顔が。先ほどのフード姿の悪役の人が私の顔を覗き込んでいて、思わず叫んでしまった。

 パシャ!

 と、すかさず真横からストロボの光が私を照らした。

 「祐巳さん、その顔最高。」
 「蔦子さん、こんな所撮らないでよ。」

 今更言っても後の祭り。蔦子さんはきっとこう言う場面を想像して最高のタイミングになるように私に声をかけたのね。

 「蔦子さんがフードの人を呼んだのはこう言うことだったのね。」
 「へっ?」

 志摩子さんが言うには、私が志摩子さんたちに気を取られている隙に、近くにいたフードの人にカメラを見せながらゼスチャーで私の前に来て覗き込んで欲しいと頼んでいたらしい。解っていたのなら教えてくれればいいのに。

 「あら、教えてしまっては面白くないもの。」
 「うぅ〜。」
 「祐巳さん、怖かったら私にしがみついてもいいのよ?」
 「由乃さんまでぇ〜。」

 しっかりとからかわれてしまった。でも楽しかったからいいや。

 そうこうしている内にパレードは進み、今度は舞踏会のような一団が。ディズニーのプリンス&プリンセスゾーンね。

 「あれ?あの王子さまってなんだっけ?見たことある気がするけど。」
 「え?祐巳さん、どの王子さまの事を言っているの?」
 「ほら、白雪姫やシンデレラと一緒の車に乗っている王子さま。」
 「あの人?誰かしら?眠れる森の美女でもないし・・・。」

 志摩子さんも首をひねっている。う〜ん誰なんだろう?あの服、見た覚えはあるんだけどなぁ。

 「ああ、あれ?確かにあの姿ではわかりづらいわね。これがいつもの姿なら誰でもすぐ解るキャラクターなのに。」
 「蔦子さん、解るの?」

 二人で頭をひねっていると、ちょっと予想外の所から答えが返ってきた。

 「当然。髪型にも特徴があるし、服もそのままだからね。」
 「何々?誰なの?」

 由乃さんも解らなかったらしく蔦子さんの回答に耳を傾ける。すると蔦子さんはウインクしながらこう言った。

 「美女と野獣。」
 「あっ!」
 「そうね。確かにそうだわ。」
 「なるほど。」

 言われてみればその通りだ。あの髪型といい、タキシードといい、いつも見慣れているものと同じ。でも、良く解ったわね。

 「人間観察はカメラマンの基本だからね。」

 ちょっと関心。でも解ってよかった。このまま解らずに帰ったらずっと気になっていそうだったし。

 この後も光る馬車やキャラクターに合わせた車、ダンサー達が前を通り過ぎていき、そして最後のキャラクター、ミニーマウスが私達に幸せの魔法を掛けてパレードは終わりを告げた。

 「なに言っているの祐巳さん。最後は提供の宣伝車だったじゃない。」
 「由乃さん、いい気分に浸っているんだから、そう言うことは言わないの。」

 まったく、一番楽しんでいたのに最後にそんなこと言うんだから。でも、そう言う由乃さんの顔には大満足と書いてあるけどね。


あとがき(H18/5月21日更新)
 ブゥトン、ネズミの園へ行く第9話如何でしたでしょうか?去年の9月以来の続きです。本当にお待たせしました。

 しかし、まさかエレクトリカルパレードがまだ終っていなかったとは。てっきり書いたものと思っていましたよ。なにせこの話の原案はかなり前からも出来上がっていたし。単純にサボっていただけだと言うのがまるわかりですね。(苦笑)

 さて今回のパレードですが、実は連載開始当時のエレクトリカルパレードとは少し違っています。美女と野獣も前のパレードでは野獣のままだったし、厚化粧のとうもろこしもになかったように思う。(変わりにサボテンやラフレシアがいたような?)で、どうしようかな?と少し悩んだのですが、やっぱり今のパレードを書いたほうがいいだろうと言う事でこのような形になりました。

 次はいよいよ最終回!かと思うのですが、蓋を開いたら11話まで行ったりして。なにせまとめるのが苦手なもので。後、この本編が終ったあと、外伝っぽいものもあります。とりあえずそこまではなるべく早く書こうかな?などと思っていますが、まぁ前回もそう言いながら半年振りの更新になってしまったわけですので、絶対とは言い切れませんね。(汗)。しかし、次回はこんな事はないと思うのでもうしばらくお待ちください。

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