それは私達がまだ1年生だった頃のお話。蓉子さまたちがご卒業なされて、私達も後少しで春休みを迎えると言うある日の午後の事だった。

ブゥトン、ネズミの園へ行く 第1話

 事の始まりは由乃さん。

 「祐巳さん、志摩子さん、私と3人でディズニーランドに行かない?」

 私と志摩子さんが午後のホームルームの後、一緒に薔薇の館に来てお茶の準備をしていたところに飛び込んできて、開口一番こう言ったのだ。

 「ディズニーランド?と言うと、東京ディズニーランドよね?」
 「祐巳さん、何をあたりまえな事を言っているのよ。祥子さまじゃないんだからアメリカのディズニーランドに行きましょうなんてさらっと言える訳無いじゃない。」

 それはそうだ。だけど、何故いきなりディズニーランド?

 「えっと、どうしてそのような話に?」

 由乃さんのテンションに、私より付き合いの長い志摩子さんもちょっと戸惑い気味。でも、ちゃんと状況を把握しようとする所は流石だ。それに対して由乃さんは良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに、

 「実は私、ディズニーランドと言う所に行ったことが無いのよ。」

 と一言。そうか、行ったこと無いのか・・・って、

 「えぇぇぇぇ〜〜!?」
 「祐巳さん、それは驚きすぎよ。」

 だって志摩子さん、東京近郊に住んでいる高校生の女の子でディズニーランドに行った事が無いなんて普通、あり得ないじゃない。

 「確かに驚きすぎ。でも確かに私みたいな例はほとんど無いでしょうね。でもしかたがなかったのよ。」
 「あっ!」

 そうだ、今の姿からは想像もつかないけれど、手術をするまでの由乃さんは激しい運動どころか、遠足や修学旅行でさえ他の生徒とは一緒に行動できなかったんだ。

 「解ってくれたみたいね。でも手術後体力もついてきた事だし、これなら大丈夫だろうとやっと両親からの許しも得たので、この島津由乃、ディズニーランドデビューとなった訳よ。」

 そうか、良かったね由乃さん。あっ、でも・・・。

 「いいの?由乃さん。初めてのディズニーランドが私と祐巳さんで。令さまと一緒の方が。」
 「そうだよ由乃さん。令さまもきっと行きたがるよ。」

 由乃さんのグランスールであり、従妹でもある令さま。まるで本当の妹のように由乃さんを可愛がっている令さまの事だから、当然初めてのディズニーランドなんて一大イベントを他人に渡したくないだろう。

 「だめよ令ちゃんは。」
 「どうして?」

 令さまならいざと言う時も安心だし、特に問題は無いと思うのだけど。

 「だって令ちゃんと一緒だと、きっと「あれは体に悪い。」とか、「あれは心臓に負担が。」とか言ってろくにアトラクションに乗せてくれないに決まっているもの。」
 「なるほど、それはそうかも。」

 それは十分にありえる話だ。手術の時の令さまを考えるとものすごく過保護に接しそう。スプラッシュマウンテンみたいなジェットコースター系なんて、「とんでもない!もし何かあったらどうするの。」なんて言いそうな感じがする。

 「という訳で、どうせ行くなら私達3人で行くのがいいんじゃないかと思ったわけよ。」
 「そういう事なら喜んで。」
 「私もご一緒させていただくわ。」

 こうしてディズニーランドに行くことになったのだけど、ここで一つ問題が。

 「あっ、チケット代どうしよう。まさかディズニーランドに行くなんて考えてもいなかったから。」
 「ああ、そのことなら大丈夫。」

 そう言って由乃さんが差し出したのは日にち指定のディズニーランド前売り券。

 「どうしたの、これ?」
 「両親にディズニーランドに友達と行って見たいと言ったら買って来たのよ。」

 両親もよほどうれしかったんだろうな。大事な娘が友達と遊園地にいけるほど回復したのが。娘が友達とディズニーランドに行きたいと言い出したからと言って、わざわざチケットを買ってきてくれるなんてうちの親では絶対に考えられないよ。

 「でもいいの?もらってしまって。」

 確かに安いものじゃないし・・・、

 「いいのいいの。ここでお金を払うなんて言われたら余計に誘い辛くなってしまうじゃない。誘ったのは私なのだから、黙って受け取って。」
 「そういう事なら。」
 「そうね、お言葉に甘えましょう。」
 「どうぞどうぞ。」

 折角の申し出なので、志摩子さんとうなずきあって由乃さんのご好意に甘えることにした。おこずかいもピンチだし、ディズニーランドに行くのならお買い物もしたいからこの申し出は正直言ってありがたい。

 「あら、でもこれ4枚あるわよ。」
 「それはそうよ、令ちゃんの分も入ってるもの。」

 よくよく考えるとそうか。親御さんからすれば、もしもの事を考えて令さまにご一緒していただいた方がいいと考えるもの。

 「でも令ちゃんには渡さない。両親もさっき言った事と同じ事を話して了解は取ったしね。」
 「でも、よく許してくれたわね。」
 「現白薔薇さまもご一緒すると話したから。」
 「現ロサ・ギガンティアって、私!?」

 由乃さんって、たまに驚くことをする。始めて会った頃は、こんなたくましい子には見えなかったんだけど。

 「あら、嘘はついていないわよ。」

 なんて言いながらしれっとしてるし。でも、それが可愛く見えるのだから美少女と言うのはつくづく得だと思う。

 「ところでもう一枚はどうするの?このままではあまってしまうわよ。」

 確かにその通りだ。日にち指定だから後日改めてと言う訳には行かないし。

 「その事だけど、蔦子さんをよんではどうかと思うのよ。折角のディズニーランドデビューだし、ちゃんとした写真をとって欲しいじゃない。」
 「それはいい考えだね。蔦子さんなら喜んでくるよ、きっと。」

 よだれをたらさんばかりにね。自称写真部のエース、女子高生の一番輝いている姿を残すことを己の使命と思っている蔦子さんがこんな機会を逃すわけが無いもの。

 「じゃあ決まりね。」

 こうして私達のディズニーランド行きが決定!由乃さんのディズニーランドデビューはチケットが指定している3月27日の日曜日だ。

 次の日に蔦子さんにも了解を取り、(二つ返事どころか、飛び上がらんばかりに喜んでくれた。)誰もその日は予定が入っていない事を確認してほっと一安心。ここまで決まってから「その日は用事があるから行けない。」と誰かが言い出すのは悲しいからね。

 「集合時間だけど、7時に舞浜駅でいいかな?」
 「えぇ〜、開園は8時なんでしょ?」

 そうか、由乃さんは初めてだから知らないんだ。

 「あそこは入るまでが大変なのよ。まずチケットを買うのに1時間くらい並ばないといけない。」
 「そうなの?」
 「私も初めて行ったときはびっくりしたわ。凄い行列ですもの。」

 確かにかなり驚くよねあれは。

 「あっ、でも私達は前売り券があるんでしょ。」
 「それが、ディズニーランドは前売り券をチケット売り場に持って行って、当日券に変えてもらわないといけないのよ。」
 「でも、今回はそのおかげで普通の人より早くチケットが手にはいるから楽よね。」
 「そうなんだ。」

 前売りの列は別だから普通の列よりはかなり早く変える事が出来るのだけど、

 「あ、でも由乃さんはチケット交換した後に合流した方がいいのではないかしら?」
 「そうか、そうだよね。」

 志摩子さんの言うとおり、いくら元気になったと言っても長時間立ちっぱなしは大変だしね。

 「私は最初から参加するわよ。そうじゃないと意味が無いじゃない。」
 「でも、」
 「でもじゃないの。参加すると言ったら参加する!はい、この話はおしまいね。」

 しばらく付き合ってみて、由乃さんはこうなるとてこでも動かない事は解っているし、これ以上言っても逆効果よね。まぁ、いざとなったらどこかで休んでいてもらえばいいから大丈夫か。

 「後は敷物とかを誰が用意するかね。」
 「敷物?」
 「ああ、ディズニーランドではパレードがあるんだけど、そのパレードを見るためには場所取りをしないといけないの。」
 「それにパレード中は座って見なければいけないから、敷物はどうしても必要なのよ。」
 「そうなんだ。」

 由乃さんも納得してくれたところで、敷物係は私、福沢祐巳に決定。カメラは当然蔦子さんが担当するから、これで前準備はOK。後は当日を待つばかりね。

 「なんかドキドキしてきたわ。」
 「由乃さん、今からそれじゃあ先が思い知らされるよ。」

 解らないことも無いけどね。私だって、当日の事を考えるとわくわくするもの。


あとがき(H17/4月12日更新)

 チャオ ソレッラ!に影響にされて始めてしまった旅行記、ブゥトン、ネズミの園へ行く第一話、いかがだったでしょうか?と言っても、まだディズニーランドに行ってないから、この話は旅行記ではないんですけどね。

 今回のシリーズは、一話一話がちょっと長めです。と言うのも、いつもの長さで切ると10話くらいになってしまいそうだったので。(笑)大体いつもの1、5倍くらいなんじゃないかな?まぁ、元々私のSSはさらっと読めるように1話が短めだから、やっと他の人の1話分なのかもしれないけど。

 さて、今回のSSを読んであれ?っと思った方もいるんじゃないかな?いつもの私のSSとは少し書き方が変えてあります。普段のSSは祐巳ちゃんと由乃さんが中心になって話を進めるのですが、このSSではどちらかと言うと祐巳ちゃんは由乃さんからすこし距離をおいて、祐巳×志摩子、由乃×志摩子といった組み合わせの会話が中心になっています。と言うのもこの話が1年生の時の話で、祐巳ちゃんにとっては祥子さまの妹になって薔薇の館に入り、黄薔薇革命を経て仲が良くなったとは言え、まだクラスメイトの志摩子さんの方が話し易そうなイメージがあったし、由乃さんもどちらかと言うと付き合いの長い志摩子さんの方がまだ話し易いんじゃないかな?と思ったからです。。

 実際、祐巳ちゃんと由乃さんが本当に親友と呼べる関係になったのは、パラソルをさしてで由乃さんが祐巳ちゃんに「山百合会と一緒に私を捨てたりしないで。」と言った時からじゃないかな?と思っているんですよ。あの事件があったからこそ、祥子さまだけでなく、由乃さんとの関係も固まったのだと私は思っています。

 それだけに、その前の話を書くときはなるべくそれを頭に入れて書こうと努力だけはしているんですよ。ただ、最後までこのペースでいけるかどうか、自信は無いですが。(笑)

ここからは追記です。

 これはどうしても書かないといけないと思っていながら忘れていたのですが、今回のSSには前売りチケットと言うものが登場します。でもこれ、私が知っている限り期間限定か、当日東京駅で買う以外には無いはずなんですよ。(前はコンビニで売っていたけど、今は見かけないから多分無いと思う。)

 期間限定というのは、たとえば今年の2月頃にあった東海地区優遇の物。これは毎年同じ時期かどうかは解らないけど、一年に1回のペースで、1ヶ月半くらいの間販売されます。その期間は東海地区(なぜか三重県でも買えたけど。)のJRやサークルKでいつもより安い前売りチケットが買えました。確か大人4800円だったかな?

 次に東京駅での前売りチケット。これは当日の朝、枚数限定で買える物で、値引きはありません。

 今回の場合は、どこぞかの期間限定前売りを由乃さんの親が手に入れたとでも考えてくれるとありがたいです。でも、春休みに割引は無いよなぁ、やっぱり。(笑)

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