廃墟2〜トレジャー・ガーデン〜4


 

 「ん、もう少し」

 引き続き耳の中を舐めていたら、

 そのうち駄目とかやめろとか言う言葉が聞こえてこなくなった。

 なんだかんだ言っても、ゾクッと来る感覚は悪くはないらしい。

 「ん…っ、ふっ」

 快感を耐えている表情で、ヒロが小さく声を漏らす。

 俺は、一度体を離して、奴をじっと見つめた。

 

 すると、ヒロも気づいて、俺を見つめ返してくる。

 「あー…なんかフワフワする」

 ちょっと甘えるような、欲しがってる瞳で俺を見上げて来て、

 俺の行為でヒロの体が気持ち良くなっているのだと思ったら、

 すっげぇ嬉しい気持ちになった。

 

 もっと感じて欲しくて、また耳を舐めまわし、

 「あっ、んんんっ」

 時々息を吹きかけたり、耳たぶを甘く噛んだりもする。

 「ああ…っ、んっ」

 だんだんいい声が出始めて、ヒロがものすごく色っぽく見えてきた。

 喘いでいる姿が、いつもとのギャップもあって、たまらなくやらしく思える。

 

 「挿れてもいい?」

 そのまま耳元で囁くように問うと、

 「ん…っ」

 ヒロは目をギュッと瞑ったまま、頷いた。

 指が入っているその場所は、耳への愛撫が効いたのか、柔らかくなっている。

 これなら、挿れても大丈夫だろう。

 

 俺は後ろから指を抜き、体を起こして、ズボンと下着を脱いだ。

 ビンビンになっている自分のモノにゴムを装着して、ヒロの足を持つ。

 いよいよだと思ったら、また緊張した。

 そろそろと先端を蕩けたすぼまりに持って行き、ヒタとそれを押し当てる。

 

 と、その途端。

 ビクッとヒロの体が反応して、次の瞬間には、ガツッと俺は頭に衝撃を感じた。

 目の前に星が飛び、視界が反転する。

 

 一瞬後には、俺はベッドの上に仰向けで転がっていた。

 何が起こったのか分からず呆然としていたら、

 ヒロの申し訳なさそうな声が、聞こえてくる。

 「悪ぃ。なんか今、体が勝手に動いて、つい蹴っちまった」

 「……」

 

 俺、蹴られたんだ?

 状況を把握するのと同時に、ちょっと血の気が引いた。

 体が勝手に動いて、って、それって、感じたってことだろ?

 ってことは、つまりお前が感じると、俺は、危険に晒されるのか?

 …なんかエッチすんのも、命がけだな…

 

 でも、ここでやめるわけにはいかない。

 

 俺は起き上がると、体勢を立て直し、

 もう一度ヒロの足を掴んで、グッと開いた。

 「力抜いてろ」

 言って、先端を入口に押し当て、再度挿入を試みる。

 俺は力を込め、そのとても俺のが入るとは思えない小さな孔へ、

 思い切って押し入っていった。

 「…っ」

 ヒロの体に、力が入るのが分かったが、今度は蹴られることなく、

 先端が呑み込まれていく。

 

 圧迫感のせいか、目をきつく瞑ったままでいるヒロの様子を見ながら、

 俺は、少しずつゆっくりと、奥へと進めた。

 「んん…っ」

 苦しさから逃れようとするようにヒロが首を振り、

 ちょっと心配になって、途中で動きを止める。

 でも、一度は俺を受け入れた場所で、

 今日はローションも使って、時間も十分にかけている。

 

 ヒロを、今度は自分の意志で奥までいっぱいにしたくて、

 俺は、奴を気遣いつつも、

 「全部挿れるから…」

 ググッと侵入して、残りを根元まで突き入れた。

 ヒロの体に俺のが収まり、

 そこから中の柔らかさと暖かさがじわっと伝わってくる。

 

 強く締め付けてくる、その感覚もすごかったが、

 俺のがヒロの中に入っているビジュアルもすごくて、思わずじっと見ていたら、

 「見んなっ」

 ヒロが気づいて怒鳴り、それと同時に中が一段と締まった。

 その締め付けに応えるように、一度グッと突いてみる。

 

 「あっ、あああっ」

 ヒロが何かに翻弄される感じで、背を反らし、眉を寄せた。

 ちょっと心配になって、

 「痛い?」

 と声をかけたら、少しの間の後に、

 「痛い…っつうか、痛く…はねぇけど、なんか、たまんね」

 目を逸らして答える。

 

 ヒロが侵入される感覚をたまらないと感じるのと同様、

 俺にとっては、ヒロの中が、俺のを内壁全体で包んでくる感触がたまらず、

 「動かすよ」

 じっとしていられなくて、腰を前後に動かし始めた。

 

 最奥を目指すように挿出を繰り返せば、

 摩擦でどんどん良くなってきて、快感が背筋を駆け上がる。

 「はっ、あぁ…」

 スピードを上げながら、気持ち良くて思わず声が漏れた。

 自分ばっか良くなって先にイってしまってはマズいと思い、

 ヒロの胸に手を伸ばし、突起を弄る。

 「あ…っ、んっ」

 ヒロが背筋を反らして眉根を寄せ、それを見てますます感じてくる。

 ああ。ヤバい。イってしまいそうだ。

 

 でも、自分がイく前に、ヒロのイく顔が見たい。

 先にイったら怒られそうだし…ってか、

 とにかく奴のイく顔を見てからイきたい。

 そうでなければ、自分の気が治まらない。

 俺は、後ろに意識が行っているせいか、

 少し萎えた感じになっていたヒロのペニスを握った。

 

 「あっ」

 その感触に、ヒロがビクッと体を震わせる。

 忘れていたその存在を思い出したかのような大きな反応で、

 俺はそれをそのまま扱きあげた。

 

 「あっ、あっ、あっ」

 強く早く擦りつつ、腰も動かし続けたら、ヒロのモノが固さを取り戻し、

 中がビクビクと蠢いて、奴が確実に感じていることが伝わってきた。

 よし、このまま、ラストスパート…

 と思ったところで、ヒロが言葉を発した。

 

 「んっ…ショーゴ…っ」

 え。

 俺は、驚いて腰の動きを止めた。

 むちゃくちゃ感じてきて、焦る。

 わっ、それ、ちょ、反則っ。

 そんな口調で名前なんか呼ばれたら…

 

 ああ…っ、イくっ。

 

 もう動きは止まっているのに、

 どんどん感じてきてしまって、その感覚を止められず、

 「ぅ…っ」

 俺は、どうすることも出来ないまま、中で達した。

 ……。

 ゴムの内に放出して、射精感を味わうのと共に、

 すごく情けない思いに捕らわれる。

 

 「…イった…のか?」

 ヒロが確認するように聞いてきて、

 「…ゴメン」

 俺は謝った。

 「名前呼ばれたら、我慢できなかった」

 と告げるとヒロは不思議そうな顔をする。

 

 「なんで」

 俺は分かっていないらしいことに唖然とした。

 「なんで…って、あんなふうに呼ばれたら、盛り上がるだろっ」

 そう返したが、ヒロはピンと来ていない感じで

 「ふーん」と鼻を鳴らす。

 

 「ふーん…って…」

 その態度に、ガクッと肩を落とした。

 ヒロと同じ感覚を共有するのは、なかなか難しそうだ。

 けど、そんな奴が好きなんだから、しょうがない。

 

 「名前呼ばれて、嬉しかったんだ」

 ハッキリ口にしないと伝わらないかと思い、そう言った後、

 俺は自分のモノを引き抜き、ゴムを取って中身ごとティッシュに包んで捨てた。

 それから、ヒロに了承を得て、もう一つゴムを使わせてもらう。

 

 俺はイったが、ヒロはまだイってない。

 俺のペニスは、出して萎んでいたけれど、自分で少し扱いて、

 再度硬くしてからゴムをつける。

 ヒロの足を持ち上げ、先端を入口にあてがい、グッと力を込めたら、

 「ん…ぁっ」

 挿れられることに馴染んできたのか、ヒロのソコは、

 さっきよりスムーズに俺のモノを呑みこんでいった。

 

 中をいっぱいにした後、足を持ち上げ、上から突き入れる。

 「あっ、んっ」

 ゆっくりと奥から入口まで出し入れを繰り返したら、

 イきたくなってきたのか、ヒロが自分のモノに手を伸ばした。

 握って扱き始める。

 

 俺は、それを見ながら、だんだん挿出のスピードを上げていった。

 ヒロの手の動きもどんどん激しくなる。

 「あっ、はっ、ああっ」

 俺は、グッグッと最奥を突くようにしつつ、ヒロに顔を寄せ、

 「ヒロ」

 小さく囁いて唇を合わせた。

 舌を入れてヒロの舌を思いっきり吸うと、

 「んっ、んっ」

 ヒロもそれに応え、後ろがキュウッと狭くなる。

 

 俺は、これ以上は頑張れないというくらい激しくヒロを突き上げた。

 ヒロが、背中を仰け反らせて、

 「あっあっ」

 声を上げる。

 その後すぐに中がビクビクと収縮して、

 「ん、ぁ、イく…っ!」

 達するのを感じた。

 自身で握ったヒロのモノの先端から、白濁が飛び出して腹に散り、

 中がキツく締まる。

 

 そのまま、俺が体の動きを止めると、

 部屋が静まり返り、妙な雰囲気に包まれた。

 二人とも何も言わない。

 お互いの息遣いだけがやけに耳につく。

 ヒロが、目を隠すように腕を顔の上に持っていって、

 俺は勃ったままの自分のモノをゆっくりと引き抜き、ゴムを外した。

 

 なんとなく顔にかけたい衝動にかられたけど、

 それはさすがにやめて、ティッシュを取り自分で扱く。

 治まらない高まりを、手の中のティッシュに出して、

 行為は終わりを迎えた。

 

 終わった途端、なんだかすごく疲れた気がして、ヒロの隣に横になる。

 頭が急速に冷えて行き、思考がクリアになって、

 とんでもないことをしたような気分に襲われた。

 

 ヒロはどうなんだろうと思っていたら、奴がポツリと呟く。

 「ムッツリ」

 その言葉に衝撃を受け、

 「何だよ、ムッツリって」

 俺は横からヒロを見たが、奴は動かず、上を向いたままで答えた。

 「だって、ムッツリだろ。

 大人しそうで真面目そうな顔しといて…ギャップあり過ぎなんだよ」

 

 言われて俺は、初めて自分がそうなのかどうかを考えてみた。

 それから、認めて肯定した。

 「そーだよ。ムッツリだよ」

 どっちかと言われれば、確かにムッツリなんだろう。

 「だけど、そんなこと言うなら、

 ヒロだってギャップあり過ぎだと思うけど」

 ヤる前の奴の態度や、最中の嬌態を思い出して、俺は指摘し返す。

 照れると饒舌になるとか、最中は意外とかわいいとか…

 いつものイメージからは、全然想像できなかった。

 

 奴が不服気な顔をして、

 「俺が?」

 と声をあげ、

 「ああ」

 頷いたら、

 「どこが?」

 説明を求められたけど、

 「…どこって…言えないけどさ」

 口にしたらぶっ飛ばされそうだから、言わないでおいた。

 

 ヒロは黙って何か考えるようにし、

 思い当たって少し恥ずかしくなったのか、

 それとも面倒くさくなったのか分からないけれど、

 小さくフンと鼻を鳴らすと、目を閉じた。

 

 ヒロは…

 ヒロは、俺とこんな風になってしまって、良かったんだろうか。

 俺が好きだと告げたから、意識したようだけど、気がするだけで、

 本当の本当には好きじゃないのかも知れない。

 したい気持ちに負けてヤってしまったものの、

 奴が冷静になって考えたとき、俺はやっぱり振られるんじゃないだろうか。

 その可能性を捨て切れず、不安な気持ちになる。

 

 そうしたら、俺はもう相手にもされないんだろうな…

 そんなことをつらつらと考え、自分も目を閉じる。

 シングルベッドに二人は狭かったけど、

 そうしてお互いに動かないままでいた。

 

 

 そんなに長い時間じゃなかったものの、いつの間にか微睡(まどろ)み、

 起きたら、ヒロがベッドから落ちかかった格好で、

 うつ伏せで足を床に着いて寝ていた。

 なんだか寝苦しそうな体勢だ。

 

 「…なんつー寝相だよ」

 俺は顔を顰め、

 「ヒロ」

 奴に呼びかけ、海で溺れた人の救助よろしく、

 ヒロの体をベッドの上に引き上げた。

 

 力が入っていなくてデロンとした体は、重くて上げるのに苦労する。

 ヒロは目を覚ますことなく、無防備に眠りこけている。

 「もう、重いんだよ。いつもいつも」

 俺は、奴をおぶって歩いた夜のことを思い出して、一人呟く。

 考えてみれば、あれからまだそんなに経っていない。

 

 なんだかてんこ盛りな夏休みで、

 自分がヒロとこんなことになっているなんて、信じられない。

 …でも。

 「すげー嬉しい」

 感極まって、気持ちが言葉になって、口から出た。

 

 廃墟でのことがあるまで、

 俺は、ヒロには触れることさえ出来ないと思っていたのだ。

 あの日空に浮かんでいた月のように、

 手の届かない高い場所にいる気がしていた。

 

 俺は、廃墟の中を臆することなく進んでいったヒロの姿を思い浮かべた。

 すると、隣から唸るような声が聞こえてきた。

 ヒロに目をやると、起きたらしく、眠そうな顔で、

 目を開けてボンヤリと天井を見ている。

 「ケツいてぇ」

 ポツリと呟き、それを聞いた俺は苦笑いを浮かべた。

 エッチの感想は、それしかないのか?

 

 そう思いつつ黙っていたら、

 しばらくして、ふいに奴が口をきいた。

 「俺のこと嫌だって言っても、逃がさねぇからな」

 その言葉に驚いて、奴の顔を横から凝視する。

 「今回のは、取り憑かれたわけでもなんでもなくて、

 お互いに自分の意思で寝たわけだからな」

 なんだか照れたようにしていることも、

 自分の決意を示してくれたことも、思いがけなくて、

 言葉の意味をよく考えるようにしてから、

 「あ…ああ」

 俺は声を絞り出して返事をした。

 

 それって…

 俺とこれからも、ってことだろうか。

 俺はヒロを、諦めなくていいのだろうか?

 俺を好きだと言ってくれた、あの言葉を信じても…?

 

 

 「俺のこと嫌だって言っても、逃がさねぇからな」

 もう一度ヒロの言葉を頭の中で繰り返す。

 すごく嬉しい気がするけれど、もしかすると、ただ単に、

 またこの先いろいろと付き合わされるってことなのかも知れない。

 そう考えたら、ちょっとだけ逃げたい気もしてきた。

 

 …でも。

 やっぱりヒロといるのは面白いし、ヒロのことが好きなのも確かで。

 俺は嫌々ながらも、これからもヒロのやる事に多分付き合ってしまうんだろう。

 

 「ヒロは、これで良かったのか?」

 聞いてどうなるもんでもない気がしたけど、つい聞いてしまった。

 その質問に対して、

 「問題ないし、後悔もしてねぇ」

 ヒロがキッパリ言い切って、俺はまたちょっと驚いた後、思わず笑った。

 

 「そっか…」

 笑って、頷く。

 はっきりしてるよ。

 俺みたいにグダグダ悩んだり迷ったりしないんだよな。

 なんかいろいろ考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 俺はただ、ヒロを好きな気持ちに正直に、ヒロについていけばいい。

 

 ふと視線を感じてそちらに目を向けると、ヒロがじっと見ていた。

 奴は俺と目が合うと、不敵に微笑み、その強い目力に、ドキッとする。

 これはもう、運命というやつなんだろう。

 逃れられない。

 

 女の子のかわいらしい笑顔、なんてものもこの世にはあるのに、

 俺は、捕らわれてしまったのだ。

 

 

 

                            了

 

 

 

 

 

                          

 

2014.01.21

 

 

 

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