Cサイド






 

 それは、クリニックに着いて玄関の前に立ったときのことだった。

 彼がクリニックのドアから出てきて、ちょっと嬉しそうな顔で、初めてみる制服姿で、

 足取りも軽く俺の横をすり抜けていき、俺の体は動きを止めた。

 彼は、俺が誰かなど気づかず、また気にしない様子で、歩み去っていく。

 俺はゆっくりと彼を振り返りながら、治療が終了したのだと悟った。

 もう当分彼がここを訪れることはないだろう。

 『別に構わない。俺はゲイじゃないんだし』

 そう頭では思うのに。

 なんでこんな胸が締めつけられるような気分を味わっているのだろう。

 話しかけたい衝動にかられて、足を踏み出しそうになり、でも思いとどまる。

 声をかけて足を留まらせたところで、何を話せばいいんだ?

 その間にも彼はどんどん遠ざかり、距離が離れれば離れるほど胸が痛くなるのを感じた。

 本当は足首を見てハッとした日から、ずっと気になっていた。

 そんなところに惹かれる自分を不思議に思いつつ、

 彼が来るたびに彼のことを意識して見てしまっていた。

 その仕草や、笑顔を観察した。声や、話し方や話している内容に耳をすました。

 彼を知れば知るほど、いい印象を持った。

 それまで付き合った女の子たちとは、何かが違っていた。

 彼が男だから、とかそういうことじゃなく、彼とならやっていける、という予感がした。彼なんだ、と。

 そう感じていたのに、ゲイという言葉に反発して、これまで認められないでいた。

 『ああ。行ってしまう』

 彼の背中を見送りながら、俺は初めて認めた。

 自分は彼のことが好きなのだ、と。

 それを認めた途端、胸がスッキリしてそれまでのわだかまりのようなものがなくなり、

 気持ちがストンと落ち着いた。

 ああそうだったのか、と安心したくらいに。

 そして、

 『彼に近づきたい』

 自然にそんな想いが生まれた。

 じっとしていられずに、それからは、彼のことを調べてみたり、

 同じ大学を受けるための勉強をしたり、妄想に耽ったり…

 病み上がりだったけど、それらは全部すごく楽しくてどんどん元気になれる気がした。

 

 遠くから見ていた頃は、ただ振り向いてくれるだけでいいと思っていたけど…

 今は、俺が思うぐらい玲二にも俺を思っていて欲しい。

 それでいろいろ頑張りたくなるけれど、

 でも、玲二は俺が頑張り過ぎないように見張るつもりでいるようで…

 頼もしい、というか、かわいい。

 玲二はこれを言われるのが嫌いで、怒るから言わないけど、

 俺はもう数え切れないくらい心で呟いている。

 で、彼を見るたびに思うのだ。

 『玲二がいて、本当に良かった』

 

 

 

                                     了

 

 

 

 

 

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