バレンタインに乾杯






 シチューにビーフシチューに、ちょっと凝ってロールキャベツ(でもこれは不味かった)。

 ハンバーグにチャーハン、…そして、今日はカレーだ。

 俺が今までに作った料理だけど、こうして並べると、極端に偏ってる気がする。

 「玲二のカレーってニンニクが効いてるよなぁ」

 椎が一口食べて言ってきた。

 珍しいことだけど、ひょっとして文句を言っているのだろうか。

 「入れ過ぎだって言いたいのか?」

 俺はカレーを作るとき、必ずニンニクをすりおろして入れる。それも、結構多めに。

 「そんな事言ってない」

 「確かにお前のプロ並みの味覚にしてみたら、安っぽい味かも知れないけど、

 でも俺にはこれぐらいの方が美味いんだよ」

 「だから、入れ過ぎだなんて言ってないって」

 椎が、困ったような顔をする。

 それから、スプーンをご飯とルーにサクサクとさして馴染ませるようにしながら、

 楽しそうな顔をした。

 「誘ってるのかと思って」

 「あ?」

 「精力つけて、しようって」

 ぶっ。俺は噴き出した。

 もちろん椎の言うような思惑は全くない。

 なんで考えがそっちへ行くかなぁ。

 お前の一言で食ってるものの味が、よく分からなくなることがあるよ。

 すごいスパイスだな。

 「食ってるときの下ネタ禁止」

 俺は苦笑しつつそう言って、またカレーを口に運んだ。

 椎は、基本的に文句は言わない。俺の作ったものは大抵残さず食べる。

 不味かったロールキャベツでさえ。

 『一言アドバイス』のようなことを言ってくれるときもあるけど、

 下手だからと言って料理を教えようとしたりすることはない。

 自分が作りたいばかりの奴なので、もしかすると、

 俺が自分の腕に見切りをつけて台所を明け渡す日を待っているのかも知れない。

 でも、俺は俺で『男の料理』にちょっと憧れているので、

 もうちょっとそっち方面目指して頑張ってみようかと思ったりしている。

 

 夕食後、ソファに座ってテレビを見ていたら、バレンタインのニュースが流れた。

 そう。今日は2月14日、バレンタインデーだ。

 女性が、好きな男性にチョコレートを贈る日。

 もちろん、俺は女じゃないから贈らない。

 とはいえ、好きな男、は存在するわけで…

 実を言うと、ちらっと買いに行こうかと思わないでもなかったが、女の子たちがレジに並ぶ中、

 どんな顔して買ったらいいのか、考えただけで恥ずかしくなって、やめた。

 これといって、この日に印象に残る思い出もない。義理チョコを何個かもらったことがあるだけだ。

 テレビの中ではアナウンサーが、売れてるチョコの今年の傾向とか、どんな人がどれくらい購入するとか、

 いろんな方向からこのイベントを調査した結果を報告している。

 「また虫歯の人が増えるな」

 隣でニュースを見ていた椎がポツリと呟き、俺は奴を見た。

 バレンタインのニュース見て、考えるのはそれか?

 さすが歯医者の息子…

 「そういえば、その後歯の具合はどう」

 椎も、俺を見て聞いてくる。

 「ああ。あれから丁寧に磨くようにしてるから、大丈夫。問題ないよ」

 「そうか。虫歯を侮るとひどい目に遭うからな」

 そういう例を知っているのだろう。

 椎が、眉間にしわを寄せた後、頷きながらしみじみ呟く。

 どんな例なのかは分からないが、椎の言葉はその様子と相まって、

 すごい説得力を持って俺に届き、俺は、絶対歯磨きを怠らないようにしよう、と心に強く思った。

 実際、俺が虫歯になったときも(左奥歯だったのだが)、

 診てもらったら自分が思うよりずっと進行していて、治療がとても大変だったし、

 時間も金もかなりかかったのだ。

 あれ以上の例が山ほどあるに決まっているし、それを思うと、ゾッとする。

 椎がすっくと立ち上がる。

 「いい機会だから、俺がちょっと見てやるよ」

 「えっ、いいよ」

 「遠慮するなって。ほら、口、アーンと開けて」

 俺の前に来て、見る気満々で言ってくる。

 「いいって」

 「虫歯になってたら大変だろ」

 う、そうだけど、歯医者でもない場所で口の中を見せるって、なんか嫌だ。

 「すぐ終わるから」

 躊躇していると、急かすように言われて、俺は仕方なく上を向いて口を開けた。

 開けた途端、何かが飛び込んでくる。

 「あがっ…!?」

 俺は、びっくりして口を閉じ、閉じていた目を開けた。

 何が起こったのかと思ったら、口の中にチョコレートの香りを感じる。

 チョコが口に入っていて、舌で触るとコロンと丸かった。

 椎が、ニッと笑う。

 「バレンタイン、おめでとう」

 俺は、じとっと奴を見た。

 それ、なんか違うだろ。

 それに、虫歯の話は、どうなったんだよ。

 さては、これをするための前振りだったんだな?

 と思っていたら、チョコレートが溶けて柔らかくなり、中からなんか出てきた。

 うわっ。

 「辛っ&苦っ」

 「酒入ってる」

 かなり度数の高い酒が入っていたのか、強烈な辛さと苦さが、口中に広がった。

 飲み込むと、舌から食道、そして腹の中まで、通ったとこ全部が熱くなるのを感じる。

 「お前、俺が酒苦手なの知ってて…」

 「酒飲めないんじゃ社会に出てから困るだろ」

 酒入りチョコ一個食ったとこで、何が変わるってんだよっ。

 俺は、体内の熱さを逃がすように、はあっと息を吐いた。

 もわっと酒の匂いが漂って、自分の酒臭さにげんなりする。

 すると、隣に座り直した椎が、

 「玲二の口、いい香りがする」

 俺の口から立ち上る酒の匂いを嗅ぐようにしながら、顔を寄せてきた。

 そのまま唇を重ねてくる。

 でも、すぐに離れて、俺の顔を見た。そしてすぐ、また唇を合わせる。

 ちゅっ、ちゅっ。

 まるで鳥がついばむような感じで、キスをしてくる。

 あれ。なんかいつもと違うな。

 と思っていると椎がなにげなく口にした。

 「玲二はこういうキスが好きなんだっけ」

 俺はドキッとして、自分からキスをした時のことを思い出した。

 ば、バレてる…のか?

 ひょっとして、あの時点で、舌を入れないキスをする、という俺の意図は気づかれていたのだろうか。

 「ちが…」

 否定しようとする俺の口に、しつこく軽いキスを続けてくる。

 いつもと違って舌を入れずに、唇だけを押し付けたり、ちうっと吸ったりする。

 「椎、あの」

 これじゃ、まともに喋れない。

 確かに、あの時はディープじゃないキスがしたかった。

 でも、正確にはこういうキス『が』好きなんじゃない。こういうキス『も』好きなんだ。

 それに、もっと言うなら、どっちかって言うとやっぱりディープの方が…

 がしっ。

 俺は、喋る隙も与えてくれず、キスを一向にやめようとしない椎の頭を、両の手の平で挟むようにした。

 唇ばかりをついばむようにしていた椎の唇に、自分の唇を合わせ、こじあけるようにして舌を差し入れる。

 驚いた椎の舌は、萎縮するようにしてそこにあったが、

 それを絡めとって思い切り吸うと、すぐに応えて俺の舌に絡んできた。

 「んんっ」

 椎が、短くも艶かしい声をあげ、なんだか興奮してくる。

 ところが、長いキスをするうちに、

 「んっ、んっ、あ、ん…」

 形勢逆転、勢いと力のある椎の舌に組み伏されて、いつの間にか俺の方が声をあげてしまっていた。

 「や、もう」

 怖いくらいに口中をかき回されて、たまらず離れようとすると、椎が体重をかけて来て、そのまま押し倒される。

 荒い息遣いで、奴が上から俺を見下ろす。

 「玲二」

 俺の名を呼んで、首筋に顔を埋める。

 「しよう」

 耳元でそう呟いて、耳たぶを噛んでくる。

 「んっ」

 続けて首筋に口付けしつつ手をシャツの下から滑り込ませる。

 その手は胸元へスルリと移動し、乳首の周辺で大きく円を描くように動いた。

 椎の手がランダムに突起を擦るごとに、電気が背中を駆け抜けるような感覚を感じて、

 「あっ」

 体がビクッと揺れる。

 エッチはここのところずっと寝る前にしていた。

 でも今は、まだ八時を少し過ぎたばかり。寝てしまうには、早すぎる時間だけど…

 「椎、俺まだ寝たくない。風呂も入りたいし」

 なんて今更言ったところで、もう突入しちゃってるし、椎が「はい、そうですか」と諦めてくれるわけがない。

 それに今日の場合、仕掛けたのは俺の方ってことになるのだろうし。

 「玲二、何考えてる?」

 椎に、乳首をキュッとつままれて、

 「んっ」

 その刺激が腰に来た。

 「ちゃんと俺を見ろ」

 奴が、もう片方の手を俺の股間に伸ばし、下着の中へと差し入れる。

 俺のそれはすでに立ち上がっていたが、握られると、さらに怒張して大きくなった。

 「こんなにしてるくせに、途中でやめるなんて、玲二が無理だろ?」

 えっ、なんで俺の考えてる事分かるんだよ。

 「玲二の考えなんて、お見通し。風呂も今日はいいだろ?いつもいつも風呂上りで、

 清潔な石鹸の匂いだなんてマンネリだ、ってちょっと思ってたんだ」

 そうなのか。ま…別に一日くらいいいけど。汗もかいてないし。

 「たまには汗びっしょりの玲二とか、体臭がムンムンしてる玲二とか抱いてみたい」

 「……」

 お前は、またマニアックだな。俺は、そんな俺で抱かれるのは嫌だよ。

 綺麗に越したことはないと思うぞ。

 「いつか一週間くらい風呂に入らずにいてよ。もっとでもいいよ」

 「そんなこと出来るかっ」

 考えただけで痒くなってきそうだ。

 「それから、まだ寝るのに早いってんなら、明日早起きして時間を有効に使えばいいって話だし」

 「そうだけど…って、お前は一体何者なんだ」

 椎は俺の考えなんてお見通しと言ったけど、俺は奴の考えが全然見通せない。

 「玲二が分かりやす過ぎなんだよ」

 そう言って、椎が俺の下唇を自分の唇で挟むようなキスをしてくる。

 なるほど、確かにお見通しだな。

 どうでもいいけど、椎に握られたモノが、ただ握られているだけなのに、気持ちよくてたまらない。

 だんだん高まってくる疼きを、でも悔しいので必死にこらえる。

 「ねぇ、バレンタインの返事、今聞かせてよ」

 「えっ」

 「さっきチョコやっただろ?」

 言われて、俺はさっき食った酒入りチョコを思い出した。

 あれって、そんなに重要なチョコだったのか?

 「だって、もうこうして付き合ってんのに、どんな返事を聞かせろってんだよ」

 「今も変わらず俺を愛してるか。エッチの最中に言わせるのは簡単だけど、序の口の今聞きたい」

 言わせる…って、俺、言わされてるのか?なんか操られてるみたいだな。

 「あ、愛してなかったら、毎日するかよ」

 俺は少し照れくさかったが、早く続きをしたくて、そう言った。

 だけど、俺のを握りながら聞いてくるって、ちょっと卑怯だと思う。

 ますます気持ちよくなって来て、先走りが溢れてしまっているのを感じる。

 これも、言わされてる、のうちに入らないか?

 「お前はどうなんだよ」

 「俺は、もちろん愛してるに決まってるだろ」

 椎がそこだけは、これ以上ないほど真面目な顔をして言う。

 夏と秋を二人で過ごして、今は冬。

 椎は今も毎日、俺を求めてくる。

 それは嬉しいことだけど、椎を好きになるほど、いつか飽きられてしまうんじゃないかと不安になる。

 いや、そんなこといつもいつも考えてるわけじゃないけど。

 胸の辺りをまさぐっていた手を降ろして、椎がシャツを捲り上げる。

 「玲二が目に見える範囲にいるときは、いつも触りたいって気持ちが働いてる。

 実は見えない触手伸ばして触ってるんだけど、感じない?」

 おいおい、本当に何者なんだよ、お前は。

 「スケベな宇宙人め」

 言ってやると、椎が笑って俺を見てから、俺の乳首に吸い付いた。

 それと同時に、握った手を動かして俺のモノを扱く。

 「あっ、んっ」

 快感が体中を駆け巡って、椎のモノが欲しくてたまらなくなる。

 ソファの上じゃ狭いけど、今から移動もしたくない。

 椎も同じようで、その場で俺のズボンを下着ごと降ろして、俺のモノを露わにした。

 握っていた椎の手が、雫で濡れそぼっている。

 奴がもう一度俺のモノを握りなおし、鈴口に親指をあてて割り込ませるようにすると、

 クチュッという音が響いた。

 「こんなに涎垂らして」

 椎は、零れ落ちる雫を右手の指で掬い取ると、俺の足を持ち上げ、

 後ろのすぼまりを左手の指で開くようにして、そこに塗りつけた。

 塗り広げながら、指をゆっくりと沈める。

 「んんっ」

 中がビクビクと蠢いて、待ちわびたように椎の指を飲み込んでいく。

 椎が、出し入れを数回繰り返すと、すぐに何の抵抗もなくなった。

 「一本じゃ足りないよな」

 椎が指を抜いて、二本同時にグッと押し入れる。

 「ああっ」

 後ろを広げられる感覚に、背中が反る。

 ゆっくりと奥まで挿入した後、椎が二本の指の間を開くようにして抜き差しを始めた。

 少し乱暴とも思える動きで、中をかき回すようにされる。

 「玲二のここ…熱くて、すげぇ柔らかい」

 椎が、指の間をさらに広げようとして、力を入れる。

 俺はキツくて、眉根を寄せた。

 「椎…何を…?」

 「玲二の中、見てる」

 「えっ」

 俺はビックリして椎を見た。

 「ピンク色」

 「ば、バカっ、変態っ」

 叫んでいる間に、二本の指の間に、左手の中指を入れられる。

 「ひ…ぁっ」

 指先がダイレクトに内壁に触れて、物凄く感じて仰け反った。

 椎が、そのまま指を奥まで入れて、指先で感じる箇所を強く擦る。

 中が指を締めつけようとして締まり、

 「あっ、あっ、あっ」

 痙攣するようにビクついて、イッてしまいそうになる。

 嫌だっ。まだイきたくないっ。

 そう思ったとき、椎が勢いよく指を引き抜いた。

 すんでの所でイくことを免れ、でも今の強烈な刺激の余韻に、呆然として天井を見つめる。

 じわっと涙が浮かぶ。

 椎が俺の顔を覗き込みながら、

 「俺、やり過ぎた?」

 と聞いて来て、俺は手の甲で目を拭った。

 あと一歩遅かったら、イってしまっていた。

 お前のでイきたいのに。

 イったら、終了だって、お前だって知ってるのに。

 「嫌だったらもうしない。でも玲二を気持ちよくさせたかったんだ」

 椎が俺の前髪をかき上げて、目尻にキスをする。

 「き…気持ちは、良かった」

 俺は、目を腕で覆ったまま正直な感想を口にした。

 これだけ抱き合っていても、まだ初めての刺激というものはあって…

 セックスって深いなぁ、とぼんやり思う。

 そんなことを考えていると、椎が服を全部脱いで、俺の足を持った。

 そのまま持ち上げて、椎の目の前に晒されているだろうそこに、奴が自身のモノを押し当てる。

 「入れるよ」

 俺が頷くと、ぐっと力をこめた。

 椎が腰を前後に動かすごとに、奥へと入ってくるのを感じる。

 俺のそこが、椎のモノを全部受け入れると、

 「玲二の中、安心する」

 目を閉じて具合を味わうような表情で奴が呟いた。

 それから、手を伸ばして俺の乳首をいじる。

 「あっ」

 ものすごく感じて、突起は、またすぐに硬く隆起した。

 「今日、いつもより感じてる?ここ、スイッチみたいだ」

 椎は、立ち上がって硬くなっている乳首を人差し指で押し潰すようにした。

 「あっ」

 「ほら、こうすると」

 押したまま、指先に力を入れてゆっくりと転がす。

 「あっ、あっ」

 「後ろ、俺のを欲しがって押し付けてくる」

 中は満たされて、いっぱいなのに、俺はさらに飲み込もうとするように、

 そこを椎の下腹に押し付けてしまっていた。

 もっと椎のモノが欲しい。

 「もう全部飲み込んでるのに」

 体が、勝手に反応するんだから、どうしようもないだろ。

 俺は、睨んでやりたい気持ちになったが、実際にはそんな余裕はなくて、

 それどころか欲しいという切実な目で椎を見てしまう。

 椎が俺を愛しそうに見て、それから何か思いついたような表情をする。

 「俺はいつも見てるけど、玲二にも見て欲しい」

 「え」

 「玲二からは見えにくいだろうし、玲二いつも目を閉じてることが多いから」

 椎は、俺の体を折り曲げ足を高く持ち上げて、結合部が俺から見えるようにしてから、

 「玲二」

 俺に見るよう促した。

 俺のそこは、椎の陰毛で塞がれていたが、奴が少し自分のモノを引き抜くと、

 入っている様子がモロに見えた。

 「ほら、俺のを飲み込んでる」

 そこには、椎のモノが入っていた。俺のそこは、大きく口を開けて、それを咥え込んでいる。

 俺は、目の前の光景を、言われるままにじっと見てしまった。

 これを、椎はいつも見てる。見てるんだ。

 もう感触だけでも、たまらなく感じるのに、そんな視覚効果まで加わって、

 どうしていいか分からなくなって目を閉じる。

 「いい光景だろ?」

 椎が言って、

 「あっ」

 自身のモノをグッと入れ直した。

 奴が吐息を漏らし、

 「ああ…さっきよりキツくなった」

 嬉しそうにして、顔を寄せてくる。

 「やらしい体」

 耳元で、ちょっと意地悪っぽくそう呟くと、俺の唇を塞いで、そのまま突き始める。

 「んっ、んっ」

 いきなりの快感に、目をギュッと瞑る。

 椎が、数回突いてから、唇を離して、一定のリズムでグッグッと打ち込んでくる。

 「はっ、ああっ、椎」

 「玲二…」

 擦れあうそこがどんどん熱くなって、気持ちよさが高まってくる。

 「俺の、いい?」

 椎が、太ももに手を置いて、今までより奥に届かせようとするようにして腰を強く打ちつけ続ける。

 「あっ、い…いいっ、はっ、あっ」

 ハッ、ハッという二人の荒い息遣いと、出し入れの繰り返されるその部分から聞こえる水音が、部屋中に響く。

 「玲二、もっと?」

 「あ…ああっ、もっと……もっと…」

 突かれて、揺られるうちに何も考えられなくなってくる。

 俺は、足を椎の背中で絡め、手を首にまわしてしがみついていた。

 後ろの中が、椎のモノをぎゅうっと締め付ける。

 「くっ」

 椎が歯を食いしばるようにして小さく声をあげ、動きを一旦止め、眉根を寄せた。

 「玲二の中…どんだけ…」

 イくのをこらえているのか、目を固く閉じていたが、耐え切れなかったらしく奴のモノが脈打って、

 精液が中に注がれるのを感じた。

 「ごめん」

 気持ち良さそうな、でも面目なさそうな表情で、俺を見る。

 「言うなよ。早漏って」

 それから、ちょっと睨むみたいにして苦笑した。

 「玲二の締まりがいいんだから」

 息を乱したまま、決まりが悪そうに、そう付け足す。

 俺も上下する胸を抑えられないまま、椎を見た。

 「言わないよ」

 椎が我慢できないくらい感じたんなら、それはそれで構わない。

 前に椎が一人でイってしまった時は、自分だけ置いて行かれたような気がして嫌だったけど、

 今は嫌じゃない。

 どころか、その方がいいと思うくらいだ。

 俺がイったら、もう出来ないけど、椎が何回イっても出来るんだから。

 「いいよ。何回でもイって。朝までしよう」

 椎が、俺をじっと見て手を伸ばし、俺の前髪をかき上げた後、

 「玲二…好きだ…」

 俺の足首を掴んでくるぶしの骨を舐めた。

 「本当に、ベタな言い方かも知れないけど、心が見せられるんだったら、

 どんだけ好きか見せてやりたいくらい好きなんだ」

 それから爪先へ向かって舌を滑らせる。

 俺の足の親指を口に咥えて、吸ったり軽く歯を立ててみたり、

 まるでペニスを愛撫するようにした後、次は人差し指に移って同じようにする。

 こんな愛撫を、普通の人はするだろうか…

 足首フェチの段階で、もう普通じゃないといえば普通じゃない気もするけれど。

 なんて思いながら、椎の表情がなんだか色っぽくて視線を逸らせないまま見てしまう。

 俺は、椎とこういう事をするまで、エッチの最中に男が色っぽい顔をするなんて知らなかった。

 外で見せる顔とは全然違う。

 まだ抜かれていなかった俺の中のモノが、次第に復活するのを感じる。

 「玲二の全部、見たいし触りたい」

 舐めながら、そんなことを言って来て、俺はドキッとした。

 触る…って、ひょっとして舌で?

 そう考えたら、感じてきて、俺の中は大きくなった椎のモノをまた締めつけた。

 椎が左足首を掴んで高く上げ、足の指を舐め続けつつ、復活したモノをグッと入れ直す。

 「んっ」

 床に膝をつき、ソファの高さを利用して最奥まで満たしたそれを、

 椎は少し引き抜いては打ち付け、また引き抜いては打ち付けながら、少しずつスピードを速めていく。

 「あっ、あっ、マサユキ…」

 「玲二…」

 椎が腰を強く動かしながら、俺の足を抱きしめるようにして言う。

 ぐっぐっと突きながら、

 「ああ、このまま時間、ここで止まってくれないかな」

 感じて来たのか、イきそうな表情をしている。

 「今、ここ、最高」

 イく寸前のここは、確かに最高に気持ちいいところかも知れない。

 体が揺れるごとに、突かれているそこを、痺れるような快感が襲う。

 「あ、ああっ…俺、もう」

 「うん、俺も」

 椎が唇を重ねてくる。

 気持ちよさがさらに高まって、次の瞬間、

 「ああっ!」

 俺は精を放ち、椎も俺の中に注いで果てた。

 椎がティッシュを取りながら、言う。

 「玲二…ずっとそばにいて欲しい」

 もうどれくらい繰り返されたか分からない言葉を聞いて、俺は笑った。

 笑いながら、切なくてちょっとだけ泣きたくもなる。

 いつまでそう思ってくれるだろうか。

 「でももし、俺より好きな人が現れたら、そう言っていいよ」

 え。俺は思ってもみなかった言葉に驚いて、椎の顔をじっと見た。

 「俺は、玲二が幸せになれるベストな道を考えるから」

 それは、自分が身を引くってこともありえるってことか?

 俺は、迫ってくる眠気の中、なんだか椎らしくない言い方に、ちょっと不安になった。

 椎が、俺の頬に手を当てる。

 「でも、たとえそうなっても、俺はずっと玲二を見続けるけど」

 ……。

 それは究極のストーカーだ。どっちにしろ、どうなるにしろ、俺は、一生椎に見られ続けるんだ。

 椎に見られながら誰かと付き合うなんて…。むちゃくちゃ落ち着かないに違いない。

 「心変わりなんて、しない」

 俺は、ふっと笑って言った。

 「お前じゃなきゃ駄目なんだ」

 ずっと見てて欲しい。俺も見てるから。

 

 眠ってしまいそうになったとき、ふいに椎の言った言葉を思い出した。

 「玲二の全部、見たいし触りたい」

 そういえばさっき、椎はそう言わなかったっけ?

 ああいうことを言ったとき、奴はいつも律儀にそれを実行するのだ。

 これまでの経験から、『ひょっとして、寝てる間に体中全部舌で舐められるのでは…』

 という考えに及んで焦ったけれど、時すでに遅く、タイムリミットはやって来て、俺は眠りに吸い込まれていった。

 

 

 「玲二、風呂入ろう」

 朝早くに目覚めると、それと同時に椎に言われた。

 ソファからベッドに移されて寝ていた俺は、部屋に漂う匂いに顔を歪める。

 「なんだよ、この匂い」

 なんか部屋が酒臭い…

 「風呂から匂ってくるんだよ」

 俺は体を起こして、風呂の方を見た。ドアが開けっ放しになっている。

 なんで風呂から酒の匂いが?

 「酒入れて、酒風呂にしたんだ」

 な。

 「なんで」

 俺は起き抜けで、まだうまく頭が回っていなかったが、嫌な予感にむーっとして椎を見た。

 「したかったから」

 椎は悪びれない様子で、ニッと笑う。俺は額に手をやった。

 選りによって、酒って…しかもこの匂い、そうとう入れてる筈。

 どんよりした気分で時計に目をやると、朝の四時だった。

 げっ、マジかよ。朝の四時から酒風呂。一日の始まりから酒臭いなんてしゃきっとしなさ過ぎ。

 そう思ってから、ハッとして体を確かめる。

 俺は裸で寝ていたが、幸いなことに体中舐められた、というような形跡はなかった。

 ほっとしていると、椎が服を脱いで寄ってきて俺の手を掴み、強引に風呂場へと連れていく。

 「ちょ」

 拒む間もなく、湯船に浸かることになってしまった。

 「まったくもう、なんだよ」

 湯船からあがるむせ返るような蒸気で、喉の奥が痛くなる感じがする。

 「酒の匂いの玲二とヤりたい」

 椎が言い、それを聞いて俺は、昨日奴が言ったことを思い出した。

 『いつもいつも風呂上りで、清潔な石鹸の匂いだなんてマンネリだ、ってちょっと思ってたんだ』

 俺はようやく合点がいった。

 なるほど、そういうことか。

 そこで、何がいいかと考えて酒風呂にしたわけだ。

 石鹸の香り、なんて清楚なもんじゃなく、大人の匂い、に。

 ふーん。でも、やっぱり…

 「なんで酒なんだよっ」

 「俺が好きな玲二を俺の好きな酒でコーティングしたらおいしくなるに決まってるからだよ。出たら、しよう」

 「今からっ!?」

 俺は驚いて声をあげたが、確かに今からヤってもまだ早いからいろいろと間に合う。

 って、おい。そういう問題か?

 その後鼻腔にずっと酒の匂いが残ったまま、もうなんか香りに酔った感じになりながら、

 風呂を出て俺たちは体を重ねた。

 だけど、椎は酔っ払ってんだかなんだか、(ひょっとして俺が寝てる間、一人で飲んでたのかも)

 グダグダなセックスで、

 「バレンタイン、おめでとう」

 椎がまたそんな言葉を高らかに口にして、フィニッシュを迎えたような気がする。

 そして、いつの間にか二人とも寝てしまっていた。

 

 酒の印象しか残ってない。そんなバレンタイン。

 バレンタインって、…酒の日だったんだな。

 

 

 

                                     了

 

 

 

 2010.01.26

 この後玲二は全身舐められてることでしょう^▽^

 

 

 

 

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