プロローグ






 「もし玲二が死んだら、俺は玲二のくるぶしの骨をどうにかして手に入れて、一生抱き続けるよ」

 椎(しい)が、俺の前髪をかき上げながら、言う。

 俺はもう、今すぐにでも眠りに落ちてしまいそうなほど疲れ果てて、されるがままになっていた。

 くるぶしの骨……。その趣味はどうだろう。それにしても本当に足首が好きだよな。

 俺は笑う。

 「墓泥棒」

 それを聞いて、奴は不満げな口調で言った。

 「ロマンチストと呼んで欲しい」

 奴の手が額から頬へとなぞるように動くその感触が気持ちよくて、ますます眠りに誘われる。

 墓泥棒とロマンチスト。

 どっちも職業として食っていくには厳しいな。

 「玲二…寝た?」

 椎が聞いてくる。眠る寸前だった俺は、重い口を開いて抗議した。

 「第一、なんで俺が死ぬんだよ」

 「だって人がいつ死ぬかなんて分かんないだろ。ひょっとして腹上死するかも知れない」

 …するかよ。

 もっと何か言ってやろうと思ったが、一度噤(つぐ)んだ口は、錠を下ろしたように重く、

 もう開くことは出来なかった。

 そう言えば、初めてくるぶしの話をしたのはいつだったっけな。

 確かこんな関係になる前。

 まだ知り合ったばかりで(そう思ってたのは俺だけだけど)、椎について何も知らないころだった。

 

 

 

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