始まりの日






 ブラのフロントホックに手をかける。

 その外しかたも、その鍵を外せば何が弾け出るかも、ちゃんと解っている。

 指先に力を入れると、パチッというプラスチック特有の軽い音をさせて鍵が開いた。

 カップを両脇へ滑らせれば、大好きなそれがまるでこぼれる真珠のように現れる。

 そのまま顔を埋めたら、昇天しそうな気分を味わえるだろう。

 トレジャーハンターが宝を探し当てた瞬間って、こんな気持ちだろうか。

 いや、こっちのほうが、ずっと気持ちいいに違いない。

 

 「いわゆる胸フェチってやつ」

 思わず力説してしまった俺に、椎−椎雅之(しい まさゆき)−は呆れた口調で言った。

 「なんだよ、その偏見に満ちた言い方は」

 大学から歩いて三分。

 混んでもいないし、空き過ぎてもいない、適当に人で埋まるこじんまりとした喫茶店で、

 俺−服部玲二(はっとり れいじ)−と奴はコーヒーを飲んでいた。

 「だってそうなんだろ?大好きなんだろ?」

 椎は、長い前髪と眼鏡の向こうにチラチラと見え隠れする瞳から、冷たい視線を送ってくる。

 冗談っぽく笑い飛ばしくれたほうがずっといい。

 「…普通男なら好きだろ?胸」

 俺はささやかな抵抗を試みたが、奴は、そう言う俺をさらに軽蔑するように見たあと、

 得意げな表情をした。

 「俺は足首のほうがそそられるけど」

 自分のほうが高尚だと言いたいらしいが、俺に言わせれば五十歩百歩だ。それに。

 「そっちのほうが断然少数派だって」

 と思うけど。

 「胸フェチだなんて、猫も杓子もって感じで節操がない」

 椎は、まったく寄り添う気配を見せないまま、話を続けようとする。

 俺は少々うんざりして、目の前のコーヒーを飲み干すと席を立った。

 お前に話したのがバカだったよ。ここでこんな時間にこんな話をしてること自体どうかとも思うし。

 俺は、眉を寄せた。

 そうだよ。なんだって、いつの間にこんな話になったんだ?

 …覚えてないけど…とにかく。

 ばかばかしい。

 俺はもう椎と話す気がなくなって、「またな」レジへ向かった。

 「待てよ」

 椎が立ち上がってついて来る。

 まだカップにはコーヒーが三分の一ほど残っていたのに、それをテーブルに置いたままだ。

 「なんだよ。ゆっくりしていけばいいだろ」

 「そう冷たくするなよ。ちょっと俺んち寄っていかないか? な?」

 奴が俺を自宅に呼ぶなんて初めてだった。

 俺はレジで財布から金を出して店員に渡しながら言う。

 「寄らねぇよ。用もないのに」

 「俺があるんだよ。見せたいものがあるんだ。これからどっか行くあてでもあるのか?」

 俺は今日一日の予定を思い出そうとした。が、何も思い浮かばない。頭の中は真っ白だ。

 「いや。別にない」

 自分の暇人ぶりに、密かにため息をつく。どこかへ遊びに繰り出そうと誘ってくれる友人もいない。

 デートに一緒に出かけるような彼女もいない。

 「じゃあ決まりだ。お前は俺の家に来る」

 こいつも相当暇人だな。

 断定口調で言われたことに、ちょっとムッとしたが、俺に続いて金を払い終えた椎は、

 そんなことお構いなしに、急かすように俺を後ろから押した。

 「分かった。行くから押すなよ」

 俺は観念した。

 本当言うと人の家に呼ばれて行くのは嫌いじゃない。

 初めて見る家は新鮮な印象で楽しめるし、いろんな家の構造を見るのが結構好きなのだ。

 どんな家だろう?俺と同じく一人暮らしだって言ってたような。

 「こっから近いんだっけ?」

 「ああ。川沿いに歩いて十五分くらい。散歩がてら行けばすぐだ」

 喫茶店を出て少し歩くと、桜並木の続く川沿いの細い道に出る。

 水の中を覗き込むと鯉が泳いでいるのが見えるし、猫が数匹近くの畑を横切っていくのが見えて、

 自然とのんびりした気分になる。

 「散歩するにはうってつけの道だろ」

 「…そうだな。横にいるのがかわいい女の子だったら最高だな」

 憎まれ口をきいてやったが、それは無視して、椎は少し俺の方へと近づいた。

 二人の間の距離が縮まって、俺は逆側へ離れた。するとまた少し寄ってくる。

 「ちょっ、来んなよ。気持ち悪い」

 狭い道でこれ以上寄られると、歩きにくくなってしまう。

 それにしても、明らかに分かるほど寄ってくるなんて、何考えてんだか。

 椎はおかしそうに「ふっ」と息を漏らした後、俺たちに覆いかぶさるように枝を伸ばす桜を見上げた。

 「花見の時期に、ここの桜見たか?」

 その問いに首を振る。

 「いや。他の場所のなら見たけど、ここには来なかったな。花見もしなかったし」

 「そうか。俺も花見はしなかったけど、なかなか綺麗だったから」

 「……」

 だったから。椎はそこで止めて、その後しばらく間を空けた。

 なんだ。もう言わないのかよ。ただの感想?

 前から犬を連れた人がやって来たんで、道をあけて端に寄りつつ歩く。

 「へぇ…」

 仕方なく相槌っぽいものを返すと、続けた。

 「俺、実を言うと花見をするやつの気持ちって分からなくて。

 あと紅葉狩りとかも。花や木見て何が楽しいかと思ってた」

 「ああ。それは俺も思う」

 その、柴犬に似た白い犬を見送りつつ同意すると、椎は驚いた表情で俺の顔を見つめた。

 「なんだよ」

 「いや。あの、」

 椎は少し慌てた感じで、それからなぜかちょっと嬉しげにして、気を取り直して続けた。

 「でも、ここの桜がちょっと凄まじいくらいのボリュームで咲いてるのを見て圧倒されて、

 これなら、見る価値あるかもって」

 その時の風景を思い出しているのか、今は葉桜となった木々を、壮大なものを見るように見上げている。

 「そう思ったんだ」

 俺は桜の木に花が咲いているところを、ちょっとだけ想像してみた。

 この桜が満開だったころ、俺は今の大学に通い始めたばかりで、この辺りのことは、

 まだほとんど把握していなかった。俺のそれまでの生活圏から少し離れていたから。

 ここにこんな桜並木があることも最近になって知ったばかりだ。

 面倒くさがりな性格だから、誰かにまめに声をかけることもなく、

 入学したての花見の時期に誰かに誘われることもなかった。

 友達だって、まだ数えるほどしかいないし、未だに大学に馴染んだとは言いがたい。

 今いっしょに歩いている椎は知り合いだが、正直まだ友達と呼べるほどだとは思っていない。

 今日だって、飲みたくて奴と喫茶店でコーヒーを飲んでいたわけではないのだ。

 一人でゆっくり過ごそうと思っていたのに、ガラス越しに俺を見つけた椎が、

 店に入って来て図々しくも俺の隣の席に勝手に腰掛けたのだ。

 隣に来てペラペラ喋って、俺を不機嫌にさせて…話が合わないなら別行動でいいのに、

 またこうやって一緒に歩いている。

 …変な奴。

 椎と知り合ってからまだ日が浅い。

 だからどういうやつなのか、まだよく分からないが、

 サークル見学に行った先で声をかけられてアドレスの交換をした日以来、メールのやり取りをしている。

 長めの前髪と黒いフレームの眼鏡であまり表情が見えない奴は、着てる服もなんだか地味で、

 話しやすい気さくなタイプとは言えない。実際誰かに声をかけられているところを見たことがない。

 「俺、椎雅之。ここに知り合いっていなくて…服部くん、

 良かったらメアドと電話番号教えてもらえないかな」

 「ああいいよ。それと、俺のことは服部、でいいから」

 頼まれてるのに嫌と言えない俺は、言われるままそれらの交換をした。

 それからだ、行くとこ行くとこで俺は奴と「偶然」会うようになった。

 言葉づかいも、初めは下手に出ていて遠慮がちで丁寧だったのが、

 だんだん言うことは言うようになって…ちょっと憎たらしい、というかウザイ…。

 でもどうやら椎は、積極的に友達になろうとしてくれているようでもあるし…

 俺もそれくらいでないと、なかなか友達を作れないタイプだったりするから、

 とりあえずどんなやつか知るために付き合ってみるのもいいかと思っている。

 どうしても合わなけりゃ、そのときはそのときで考えればいい。

 

 たどり着いた場所には、立派なマンションが建っていた。まだ新しい。

 学校に近くて駅にも近い。

 便利で環境もいいこんなマンションに一人暮らしだなんて、椎はいいとこのぼっちゃんなんだろうか。

 「俺のアパートとは雲泥の差だな」

 俺は口を開けて、その建物を見上げた。

 「そんなこと…親の脛かじってるだけだし」

 椎がエントランスで暗証番号を入力し、一緒にエレベーターで5階まで上がる。

 部屋の前まで行き、

 「どうぞ」

 促されるまま中に入って、驚いた。

 「おお」

 かなり広い。それに、雑誌に出てくるような、白を基調にした洒落た部屋だ。

 親からの仕送りとバイトで稼いだ金で家賃を払い、

 ひと月ひと月をなんとかやりくりしている1DKの俺の部屋とは大違いだ。

 俺と比べると、椎の暮らしはよっぽど余裕があるように見えた。

 「すげぇな」

 大きな液晶テレビと、高そうなソファ。棚にはいくつかの置物と、本が数冊並んでいる。

 本は、新聞やテレビで話題になった、最近のベストセラー本ばかりだった。

 とりあえず流行を追っておくタイプなのだろうか。

 インテリアは洗練されていて、生活臭がない。

 「本当にここに一人で住んでんのか?」

 「そうだけど…?」

 なんかちょっともったいない気もしたけど、椎にとっては普通のことらしい。

 「すごいとこに住んでるんだな。ちょっと風呂とか見せてもらってもいいか?」

 小さい頃から雑多な印象の家で育った俺には物珍しくて、いろんな所を見てみたくなった。

 「ああいいよ」

 風呂とか、なんて言いながら冷蔵庫が目について、まず一番手近にあったそれのドアを開けて、

 中身チェックをする。

 それを開けると、中にあるものを容易に見渡すことができた。

 つまり、ごく少量のものしか入っていなかったのだ。

 結構大きな冷蔵庫の中に、ハムと漬物、それからきゅうり一本と缶ビール二本が転がっているだけだ。

 「何だ。この中身は」

 すごいご馳走が入ってるかと思ったら、生活ぶりと反比例してるじゃないか。

 「どうせ外で食べるんだからいいだろ。一人だと料理する気も起きないんだよ。

 お茶入れるから、その辺、適当に座って」

 「気ぃ遣わなくていいよ。それよりもうちょっと見たい」

 俺は風呂があるだろうと思われる方へ行ってみた。

 そこには洗面所があり、その奥に白と茶を使ってデザインされた風呂があった。

 バスタブは白で、一人で入るには十分過ぎる大きさだ。

 「どこもかしこも新しくて綺麗だな」

 台所にいる椎に聞こえるよう、大きめの声で言う。

 「建ったばかりだから」

 奴も大きめの声で返してくる。

 感心しながら風呂場を出ると横にドアがあった。どうやらもうひとつ部屋があるようだ。

 俺はそのドアを開けた。中には、でんっとベッドが置いてある。

 「おおっ、でかっ」

 驚いて声をあげる。

 すると、台所側の引き戸が開いた。

 どうやらこの部屋は廊下側と台所側のどちらからも出入り出来るらしい。

 台所にいた椎が、入ってくる。

 「これはいいベッドだよ。フランス製なんだけどすごく寝心地が良くて疲れも残らない。

 枕もテンピュールってやつで首にぴったりフィットする」

 俺は奴の説明を聞きながら、何よりもベッドの大きさに圧倒されていた。

 一人でダブルベッドって…贅沢だな。広々寝られて羨ましい。

 「確かに良さそうだ。大きいし。俺の部屋にこれ入れたら、きっと他のものが入らない」

 「寝てみてもいいよ」

 椎は言ったが、俺は遠慮した。

 「やめとくよ」

 他人のベッドだと思ったら、その気にはなれなかった。

 「なんで」

 「今ちょっとだけ寝てみたって、本当の良さは分からないだろうし」

 「じゃ、座ってみるだけでも」

 よっぽど自慢のベッドらしく、俺の肩を押さえて座らせる。

 「ああ。…なかなかいい感じ」

 座ったってあんまりよく分からなかったが、とりあえず感想を言う。

 「このベッドはエッチするにも最高だよ。服部は胸があるのがいいんだったよな」

 明るく冗談めかして椎が言うので、俺も笑って「ああ、まあな」なんて合わせる。

 だけどそれは好きなタイプというか、妄想においてという意味であって、

 実際にやってみての感想ではない。

 椎はこのベッドでそういうことをしたことがあるんだろうか。

 シーツに触れながら、そんなことを考える。

 ふいに椎が、座る俺の前に立った。それからしゃがんで跪くようにする。

 「俺は、お前の足首にそそられるけど…」

 え?

 椎がそう言って俺の足首を持った。靴下をずらして顔を寄せ…

 何をするんだろう。このベッドと何か関係があるのか?

 と思ったら、次の瞬間足首に愛おしそうに口づけをした。

 「うわっ」

 驚いて足を引っ込める。

 奴は、意外な反応だと言うように、顔を上げて不満げにこちらを見た。

 「なんだよ」

 「なんだよ、じゃないだろっ!変態かお前はっ」

 俺は怒鳴った。でも、椎はどうして俺が怒っているのか分からないような表情をして、

 「だって、こうしたいんだ」

 もう一度俺の足を引き寄せると、目にも止まらぬ速さで同じ箇所を、

 今度は赤い舌を出してペロリと舐めた。

 抵抗する間もない。ひっ、ともいっ、ともつかない声が漏れる。

 それから 奴は俺の足首をじっと見つめた。

 「綺麗だ」

 うっとりとした声色の呟きが聞こえて唖然とした。

 こいつ、何言ってんだ?

 ぽかんと口を開けたまま動けずに、奴の行為に思わず見入る。

 椎は俺のズボンの裾をめくりあげながら、

 そのまま足の甲から続くすねの部分へと舌を這わせた後、少しずつ裏側へと移動していった。

 奴の舌が、足首の裏の骨を捕らえ下から上へとなぞるように動いたとき、

 我慢できずに身を縮め、ぎゅっと目をつぶった。

 足の指がひきつって、太ももと背中をゾクゾクする感覚が駆け抜ける。

 これは一体…椎は何してる?なにが起こってるんだ?

 椎は俺の反応を楽しむように、舌を上下させた。

 「いいだろ?前からやってみたかったんだ」

 顔を上げてそう言うと、また足首を舐めようとする。

 こいつ、本当に足首フェチだったんだ。それも、男の…?

 呆然としたまま、また呆然と考える。

 前から?ってことは、そういう目で見られてたのか、俺は…俺の足首は。

 「もうやめろよ」

 俺は、椎の頭に手を置いて、ぐっと押し返した。奴が顔を上げてじっと見る。

 今の行為を恥ずかしいと思っている様子はない。

 ただ、俺の気持ちを読み取ろうとするかのように、ひたすらにこちらの顔を見つめてくる。

 俺の方が恥ずかしくなって、目を逸らした。

 「なんでこんなことするんだよ」

 顔が火照ってきて、自然、怒っているような口調になる。

 椎は顔を上げて一つ息を吐くと、眼鏡のブリッジを押し上げた。

 「分からないのか?」

 「分かるかよ」

 「好きだから、に決まってるだろ」

 即答が返ってくる。

 へ?

 俺は、驚きすぎてその後なぜか笑ってしまった。

 「俺を?足首を?」

 「玲二を」

 笑いが消えて、目が点になる。いきなり名前呼びになってるよ。

 「好き…って、と、友達として…?」

 俺は自分で聞きながら、椎が首を縦に振らないだろうことを予感していた。

 「違う。これは愛だ」

 でもそんな言葉を言われることは予感しなかった。俺の想定の範囲を超えている。

 「……」

 それは生活の中で実際に使われていい言葉なのか?

 俺なら恥ずかしくて言えない。

 それより、それって男が男に向かって言うことなのだろうか。

 それでもって、俺って今告られたのか?ひょっとして、奴は告ったのか?

 「す、好きになったって言うけど、俺らって、まだ知り合って日が浅いし、

 数回しか会ってないだろう?」

 俺が喋ってる間も、足首を顔に近づけようとするので、焦って足を引き寄せる。

 すると向こうが引き戻す。それを繰り返す。

 「そう思うか?」

 「思うか?…って、そうじゃないのか」

 椎との俺の足の引き合いは、延々と続きそうで埒が明かないので、

 今度は足を握る手を外しにかかる。

 「だいたい足首に惚れてってのはどうなんだ。

 俺の人格とか性格の相性とか…それ以前に落ち着け、お前は男なんだぞ」

 手を外そうとするが、余計にぎゅっと握られてしまって外れない。しかも力がめっちゃ強い。

 「全く問題ない」

 なくないだろっ。

 「それに、俺の好きなのは足首だけじゃない。…尻もだ」

 ぎゃーっ!

 「って、今のは冗談っ。冗談だからっ」

 俺が逃げようとすると、慌てて否定した。が、小さく「…ってこともないか」と続ける。

 俺は青ざめた。

 こいつホモなんだっ。絶対そうだっ!このままここにいたらヤバイ。

 「離せっ!この変態!!」

 必死に叫ぶと、椎は今度はこれ以上ない程真面目な顔をした。

 「別に足首だけで好きになったわけじゃない。それに男とか女とかも関係ない。

 玲二だから好きになったんだ」

 そう言って、真剣に見つめる。

 俺はその目をじっと見返して、奴の真意がどこにあるのか、見極めようとした。

 と、顔が近づいて来て椎の唇が俺の唇に触れそうになる。

 俺は慌てて顔を逸らした。ところが椎も同じ側へ動いて…俺は椎とキスしてしまった!

 「んっ」

 奴が唇を重ねて、舌を差し入れてくる。

 柔らかい舌が俺の舌を捕らえ、押し付けてくる感触に、ゾクッとする。

 そのとき、足を握っていない方の椎の手が、ふいに伸びた。

 どこへって、…股間。

 「あ」

 確認するように触られて、思わず声が出る。

 「何を…」

 俺は驚いた。そんなことをするなんて信じられない。

 椎の視線が、ますます熱を帯びてくる。

 「抱きたい」

 それを聞いて、顔がかあっと熱くなった。勢いをつけて素早く足首を引き寄せる。

 やっと奴の手が足から外れた。

 真面目に聞こうとした俺がばかだった。

 俺だから好きになったんだ、なんて甘い言葉をちょっと信じて真摯に受け止めそうになったりして…

 こいつはただ性欲を処理したいだけの変態だっ。

 「ふざけんなっ」

 なんとか理性を働かせて、椎を睨みつけ遠ざかろうとした。

 が、奴は手を伸ばして俺の足首を再度捕らえると、素早い身のこなしで俺の上に乗って来た。

 あっという間に、両腕を掴まれて押さえ込まれる。

 俺は万歳するような体勢でベッドに押し倒されてしまった。

 「なっ」

 「お楽しみはこれからだろ」

 「何の楽しみだよ。お前だけだろうがっ」

 焦って抵抗しようと掴まれた腕に力を入れるが、びくともしない。

 「そうかな?感じてるのに?」

 「あっ」

 椎が、下半身を密着させて押しつけてくる。ズボン越しに、奴のモノの状態が手に取るように分かる。

 奴のモノは勃っていて、俺のソコと擦れあうと、なんともいえない感触が伝わってきた。

 「う…やめろ」

 「感じやすいね。いいんだろ?自分でさわるのと他人にさわられるのじゃ、雲泥の差だろ?」

 その問いに、咄嗟には答えられなかった。

 俺が経験なしだって決めつけてる言い草でムカつく。実際ないんだけど…

 それに、感じるのはしょうがないじゃないか。

 健康な男で、性欲がないわけでもないんだから。

 他人に体をこんなふうに触られるなんて初めての経験なのだ。キスだって…

 「正直だな」

 椎が、ふっ、と息をもらすように笑う。俺は顔を背けて聞く。

 「こういう事、したことあるのか?」

 奴は、俺の問いに少しだけ驚いて、

 「もちろん。男とは初めてだけど、結構たくさんあるよ」

 自慢げにではなく、ごく自然なことだというように肯定した。

 それが当たり前のことだというなら、いまだ経験なしの俺は情けない。

 それにしても女の子とそんなに経験があるなんて…全然そんなタイプに見えないのに。

 「女の場合、この辺にクリトリスってのがあって、小さな突起みたいなもんだけど、

 そこを愛撫されると感じるわけだ」

 椎が俺の腕から手を放して、ペニスの付け根辺りを、人差し指で上下になぞった。

 「あっ」

 俺は女じゃないが、それだけで背中を電気が走ったようになって、思わず足を閉じてしまった。

 それを見た奴がおかしそうに笑う。

 「なんだ。女みたいなやつだな」

 俺は、ムッとした。

 「そんな言い方ないだろ。もうこんなことやめる。俺は遊びに来ただけなんだ。

 こんなふざけた真似をするなら、もう帰る」

 そうして上半身を起こそうとすると、椎は、俺の胸を押さえつけて再びベッドに押し倒す。

 そのしつこさにカッとなる。

 「なんだよっ!こんなのおかしいだろっ!?女みたいなやつで悪かったなっ。

 でも、俺は女じゃないんだ。モテるみたいだし、したいなら他の誰かとすればいいじゃないかっ。

 世の中にはそれこそ星の数ほど」

 「聞けよ」

 馬乗りになったまま、下から怒りをぶちまける俺の感情などどうでもいいかのように、

 椎は俺の言葉を遮って、さらに上をいく抑圧的な口調で言った。

 「俺は、何人かの女と付き合った。彼女たちを喜ばせることも覚えた。

 でも、するたびに何か違うと思った」

 「……」

 「誰としても、『俺が』良くないんだ。感じない」

 「……」

 「だけど、今すっげぇ感じてる」

 俺は言葉を失った。椎をただただ見つめた。

 恐怖と驚きで言葉が出ない。

 ここから逃げなければ―。

 真剣にそう思った。

 ところが、そんな考えなどお見通しのように、俺が動こうとした瞬間、椎は俺の腕を掴み、

 再び万歳の体勢にしてしまった。また押さえつけられて、身動き出来なくなる。

 見た目は細身で、そんなに力があるようには全然見えないのに、跳ね除けることができない。

 見かけによらない、といえば、大人しそうなフリしやがって、

 人畜無害という雰囲気を装って近づいて来やがって、こんなやつだったなんて、

 こんなやつだったなんて。

 奴を睨むと、眼鏡の奥の瞳から、氷のような冷たい視線を投げてくる。

 有無を言わせぬ圧力。まさに目は口ほどに物を言う。「抵抗は許さない」。そう言っている。

 俺は試しにもう一度力を入れてみたが、やはり奴の力は尋常じゃなかった。

 奴の下から自由になれない。

 目を閉じる。

 「頼む…から、やめろ。やめてくれ」

 無意識のうちに懇願するような声が漏れていた。

 恐る恐る目を開ける。と、椎が目を閉じてゆっくりと眼鏡を外した。

 そして、もう一度目を開けたとき、さっきまでの冷たさは消え、まるで別人のような瞳をしていた。

 え?

 その変わりように、ドキッとする。

 切れ長で、澄んだ目。

 いつもより表情もキリッとして、意外と綺麗な顔立ちをしていることに気づく。

 醸し出す雰囲気もいつもとは違っている。

 これが、椎…?

 「嫌な思いをさせるためにしてるんじゃない。玲二を気持ちよくしてやりたいだけなんだ」

 え、いや、あの。もう充分嫌な思いしてるんですけど。

 奴が、眼鏡を傍の棚に置き、垂れてきた前髪を脇へ振る。

 そうして髪を分けると、椎はかなり男前だった。あまりの変わりように驚く。

 なんで。なんで大学では顔を隠し気味にして、地味な格好してるんだ?

 これなら、かなりモテるだろうに。

 そんな俺の疑問になど、まるで気づかないようで、椎は俺の上で気を取り直したような顔をする。

 「で、さっきの続きだ」

 「さ、さっき?」

 突然さっきと言われても、ピンと来ないしついていけなくて俺は聞き返す。

 「そう。クリトリスがここにあるって話」

 椎はそう言って、ふいに下腹を指でつついた。またしても、ビクッとする。

 くすぐったくて反射的に身をよじる。

 奴はこれ以上楽しいことはないと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 「なんだ。くすぐったがり屋だなぁ。でも、その方がいい。

 つまりは感じやすいってことだからな。…開発し甲斐がある」

 最後の言葉は、聞こえるか聞こえないかのボリュームでぽつりと口にしたのだが、

 それはしっかりと俺の耳に届いていて、俺は総毛立つ感覚に襲われた。

 か、開発ってなんだーっ!

 「ああ。もっと早くこうしていれば良かった。こんなに素質があるんだったら…

 ちょっと慎重になり過ぎてた」

 「ば、ばかにするなっ!!俺は、俺はそんな簡単に」

 全身に力を込め、椎を弾き飛ばそうとしたが、さっきまでと変わらずそれは無理なことだった。

 奴は押さえる腕に力を込め直し、近くにあった紐のようなもので、

 すばやく俺の両手首を重ねて縛った。その先がベッドの枠に結ばれる。

 椎が獲物を捕まえた目をして見下ろす。奴の顔が近づいて来て、キスをされそうになる。

 慌てて顔を背けると、一瞬後には首筋に口づけされていた。

 「あっ」

 そのくすぐったいような気持ちいいような、間逆のような妙な感触に体の力が抜ける。

 「首はっ…」

 目をぎゅっと閉じて、逃れられないその感覚を我慢しつつ首を振る。

 「感じやすいよなぁ、玲二の体。くるぶしの形といい、感じやすさといい思った以上」

 椎は、俺のシャツのボタンを上から順に外すと、

 その手で乳首に触れるか触れないかという距離を保って胸全体を撫で回した。

 声が出そうになるのを、必死に抑える。

 奴の唇が、皮膚の上を這うように少しずつ胸の方へと降りていく。

 それから椎は、胸の筋肉に軽く歯を立てて、

 「肉の固さもいい感じ。ずっと野球やってたんだっけ」

 満足げにそう呟いた。

 「なんで。どうしてそれを…俺は喋って、ないはず…」

 それとも、口にしたことがあっただろうか?

 乳首に触れそうで触れない愛撫を繰り返されて、頭がぼうっとする。

 息遣いが荒くなって、心臓の鼓動が激しくなる。

 椎は俺の疑問に答えないまま一度顔を上げて、俺の乳首に指で触れた。

 体に電気が走るような刺激を感じて声をあげる。

 「あっ」

 鳥肌が立って、乳首が硬くなるのが分かった。

 立ち上がった右の乳首を、椎は指で転がしたり潰したりする。

 縛られた手に力がこもる。

 「ほんと感じやすいな」

 「やめ…っ」

 「嫌じゃないだろ?待ってたみたいだぞ、ここ」

 やつが右側を手で弄びながら、左の乳首に顔を寄せる。

 息がかかるのを感じて身構えた次の瞬間には、乳首は椎の口の中だった。

 「ああっ」

 硬く立ち上がったソレを口に含み、チュッという音を立てて吸ってみたり、

 舌で先端を突いたり転がしたりする。

 「あ…はっ」

 この手が自由になったら、こんな恥ずかしい行為から逃れることが出来るのに。

 …あるいは無理かも知れない。なんだって、こんなに力が強いんだよ。

 「もっと待ってるとこがあるみたいだけど」

 椎は、上気した顔で俺のベルトに手をかけ、外し始めた。

 それからファスナーを下ろしてズボンを少し下げ、下着の中に手を滑りこませる。

 「あっ…」

 俺は自分のモノが、椎の手のひらに包まれるのを感じた。

 「ほらね。玲二のこれ、大きくなってる」

 そう言って、不敵に笑うと包んだまま手をゆっくりと上下に動かす。

 「あっあっ」

 腰がガクガクと揺れる。

 いやだ…なんでこんなこと…

 奴は俺のことを好きだって言ったけど、好きな相手にこんなこと、するだろうか。

 口先だけに決まっている。ヤルための口実だ。

 だけど、椎はなんでだか俺のことを詳しく知っているようだった。

 それって、どういうことなんだ?

 「はあ…う…」

 絶妙な力加減でしごかれて、次第に快感の波が高まって来る。

 椎の手でイかされるなんて絶対イヤだ。

 そう思うのに、押し寄せる波を止められない。

 「はっ…はっ…ああっ」

 イクっ。イッてしまうっ。

 そう思ったとき、椎が手を放した。

 「まだイカせない」

 イク寸前だった俺は、苦しくてどうしようもなくて、思わずすがるように椎を見た。

 「心配するなって、ちゃんとイカせてやるから」

 俺の顔を見ながら笑うと、椎は俺のズボンと下着を全部おろして足から抜き取った。

 靴下も脱がして床に投げる。

 それから、スルスルと自分も脱いで裸になると、ベッドの下に手を伸ばし、なにか容器を取り出した。

 ピンクがかった液体が入っている。

 あれは…本物は初めて見るけど…ローション…?

 椎は片手で器用に蓋を開けて、それを指先に取ってなじませると、

 俺の後ろのすぼまりに素早く中指を押し当てた。

 そのまま有無を言わさぬ勢いで押しいれる。驚きで声も出なかった。

 痛みと、普通出すべき所に逆に入れられる違和感に息が止まる。

 抵抗しようと力を入れると、指をさらに押し込まれた。

 「いっ…あ…」

 ローションのせいかヌルリとした感触と共に指が奥の方へと入ってくる。

 そうして一気に最奥まで入れてしまってから、椎は指を半分ほど引き抜いた。

 内側の壁をめくられるような感覚に、背筋がゾッとなる。そしてすぐにまた挿入される。

 「ああっ」

 寄せては引く波にいいように翻弄される。

 「玲二…」

 椎は、指を入れたまま、下半身を押し付けてくる。

 それはでかく、硬く勃ち上がっていた。俺は焦った。

 椎は、もしかしてこれを入れようとしているのだろうか。

 こんなものが入る筈ないっ。

 体の芯、一番奥まで貫いてあまりある大きさに思えて、息を呑んだ。

 椎が甘いため息を漏らす。

 「入れたい」

 奴が耳元で囁き、俺は後ずさろうとした。が、すかさず押さえつけられ、首筋を吸われる。

 「うっ」

 俺は、これ以上ないくらい必死に目をぎゅっとつぶって首を振った。

 場所を少しずつ移動しながら首筋ばかりを何度も何度も吸われる。

 「ああああっ!」

 我慢しきれず、思わず大声が出てしまった。と同時にアナルが収縮し、奴の中指を締め付ける。

 押し付けられる奴のモノがますます硬くでかくなった。

 「玲二、好きだ」

 「頼むっ。頼むからもう」

 椎が中指を抜いて、もう一度入れ直した。

 「ああ…っ」

 指が入っている、という感覚に次第に慣れてきて違和感が遠ざかりつつあったのが、

 また感覚が戻ってくる。

 でも痛みはほとんど感じなくなっている。

 椎が、もう一度中指を抜く。そしてまた入れ直す。

 指と内側の壁が擦れあうときの刺激が、さらに強くなる。

 

 俺はもうクタクタだった。

 力ずくで押さえつけられ縛られた上に、今まで経験したことのない刺激を、

 一度にこれでもかと味わわされているのだ。

 心臓がドキドキして、長距離を走ったランナーみたいにふらふらだった。

 椎は何かを見計らったようにまた中指を抜いた。

 「もう一本増やすから」

 耳元でそう言って、奴がそこにもう一度指をあてがうのを感じた。

 そのまま二本の指が挿入され、さっきよりもアナルを広げられる感覚に、背中が自然と仰け反った。

 「ううっ」

 声をあげた次の瞬間、唇を塞がれた。

 「ん、んっ」

 椎の舌が俺の舌を絡め取り、唇も舐めまわす。入れられた二本の指が何かを探るように中で動く。

 「んーっ!」

 上も下も同時に攻められて、俺はおかしくなりそうだった。

 舌が絡み合い唇がいやらしい音を立てると、腰が疼いてたまらなくなる。

 なんとか奴のキスから逃れようとするが、執拗に唇を捕らわれて逃げられなかった。

 諦めの感情に似たものが、湧いてくる。

 多分、俺は椎の力にもテクニックにも敵わない。逃れることなど出来やしないのだ。

 そのうちに涙がポロポロとこぼれた。何故かは分からない。

 抑圧に耐えかねると、人は泣けるのだろうか。

 ふと椎の動きが止まった。涙でぼやけた視界越しに、奴が俺をじっと見つめているのが分かる。

 「椎…?」

 呼びかけるが奴は何も言わなかった。

 何を考えているのだろう。

 やがて、その唇が、涙の跡を伝い始めた。俺の頬に流れた涙を唇で掬いとるように…そっと優しく。

 さっきまで闇雲に俺の唇を追って吸ってきていた同じ唇とは思えない優しい動き。

 左手を俺の頬に沿わせる。

 まるで愛しいものに愛情を注ぐような仕草。俺は、目を閉じた。そのまま数秒の沈黙があった。

 許してくれるかも知れない、と思う。

 「だけど…欲しいんだ。玲二が」

 そんな言葉が聞こえた後、奴は体を起こした。

 それから俺の股間に顔を埋めて、勃起した俺のモノを口に咥える。

 「ああっ!」

 新しい刺激だった。本来それは、男にとって一番の快感をもたらすはずの場所への愛撫で、

 俺のそこはあっという間にはちきれんばかりになった。そのまま椎が口を上下させる。

 「あっ…」

 気持ちよかった。奴の指を飲み込んだままの後ろの方も、

 その気持ちよさに気がいって圧迫感による苦しさを感じなくなる。

 「はっ…あっ」

 なんだって俺は、どうして気持ちよくなってしまっているんだろう。

 わけが分からなくて、混乱した。

 気持ちよさに流されてしまうなんて嫌だと頭では思うのに、止められない。

 「玲二、イって」

 そう言うと、奴は口の動きを早めた。チュッ、チュといういやらしい音が響いてくる。

 どんどん気持ちよくなるのと同時に後ろも感じてくる。

 そのうち前も後ろも痙攣するようにヒクつき始めて…

 「はっ…あっ、あっ」

 女性との経験がないとは言え、自慰くらいはしたことがある。

 でも、そのときの刺激は当然のことながら、いつも前だけだった。それも自分の右手だ。

 こんな風に口でされたことなんてなかった。しかも後ろも一緒に…

 「自分でさわるのとさわられるのじゃ、雲泥の差だろ?」

 椎の言葉が脳裏をよぎる。

 「あっ、ああっ」

 確かに、これは自分一人では得ることのできない快感だった。しかも段違いの…

 椎の口の中は暖かくて、少し締め付けるような絶妙な動きに、俺はすぐに昇りつめた。

 「うっ」

 椎の口の中で果てた。入れられたままの後ろは、イった後しばらく奴の指を締め付けていた。

 椎の口の中に出してしまったことに、猛烈な恥ずかしさと、ちょっとだけ罪悪感を感じる。

 「はぁ…はぁ…」

 だけど。だけど、こんなことをする椎の方が、おかしいのだ。

 椎が俺の精液を飲み込む、ゴクリという音が聞こえる。指が引き抜かれ、その感触に鳥肌が立つ。

 抜かれたそこには、異物感が残って…でも抜かれたことに少し安堵する。

 目を閉じて大きく息を吐くと、ひどい疲れを感じた。

 このままベッドに沈み込んでいきそうだ。体が熱い。

 椎の動く気配がして、俺はハッとした。両足を無言のまま掴まれ、血の気が引く。

 これで終わりなんじゃない。椎はまだヤル気なのだ。

 椎は、俺の体を開いて、後ろのすぼまりに自分のモノをあてがった。

 そして、ぐっと腰を沈める。

 「あああっ!」

 激痛が走る。その痛みは指が入ったときの比じゃなかった。

 「いた…っ…やめっ、ひっ…あっ」

 椎は、俺の言うことなど聞く気がないようで、ぐっぐっと勢いをつけながら、

 少しずつ進み俺の中を広げていく。

 ローションが残っているせいか、ものすごい圧迫感と抵抗を感じるのに途中で止まることもなく、

 奴のモノが入ってくる。

 「あっ、いっ…」

 「たまらない」

 頭がだんだん痺れてきた。

 「も、やだ」

 涙がこぼれる。体がさらに熱くなり、じっとりと汗ばんでくる。

 「安心しろ。中途半端で終わらせやしないから。無茶苦茶気持ちよくしてやる」

 嘘だ。無茶苦茶痛いだけじゃないか。

 髪が首筋にはりつく。

 椎のモノが打ち込まれる。少し引き抜かれる。また打ち込まれ、引き抜かれる。それの繰り返し。

 とてつもない圧迫感と痛みを感じ、目をきつく閉じる。

 「あー、スッゲェ…いい」

 やがて最奥まで到達し、だんだん滑りが良くなってくると、椎は俺の足を高く上げて、

 リズミカルに腰を動かし始めた。スピードが加わり、意識が飛びそうになる。

 「はっ…あっ、うっ」

 「すごい、締め付けてる」

 「あ、ああああ…」

 もう抗う気力も力もなく、惰性でもれ続ける声を止めることもできなかった。

 「玲二…いい…」

 どれくらい揺られていただろうか。椎が、小さく唸ってイった。

 奴のモノがビクッビクッと脈打って精液を中に放出するのを感じる。

 余韻を味わうように動きを止めた後、ゆっくりと奴が俺の中から自分のモノを抜いて、

 隣にゴロリと横になった。

 俺は激しい行為からくる疲れと痺れるような痛みの中で、目を閉じた。

 「玲二」

 名前を呼ばれるのが聞こえたが、返事は出来なかった。

 

 

 

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