ライク ア バトル4  ライク ア キャット


 つるりとした人間の尻から、手触りの良さそうな、しなやかなしっぽが生えている。

 本物の猫のように神経が通っているわけではないので、

 重みで下がってしまっているが、ビジュアル的には様になっていて、悪くない。

 そのしっぽの先を掴むと、四朗がビクッとした。

 振動が伝わって、感じたらしい。

 「ちょっ、先っぽ触るなっ!」

 こっちを振り返って怒鳴るが、俺は構わず奥へ向かって押し込むように力を加える。

 「あっ」

 反射的に、四朗の背筋が反って淫らな動きを見せ、それを見たら、

 「お、いいねー」

 思った事がそのまま口から出てしまい、物凄い目つきで睨まれた。

 だけど、それしきのことで怯む俺じゃない。

 しっぽをグッと握って、ツンツンと何度も軽く押し込んでみる。

 「あっあっ」

 その度に、四朗が体をビクビクと戦慄かせ、俺はニヤニヤしてしまった。

 

 しっぽ付きディルド、なんてものがあるのを知ったのは、昨日のことだった。

 「ねぇ、ヤっちゃんって、もうすぐ誕生日よねぇ」

 例の店に飲みに行ったら、ママが笑顔を浮かべて、そう切り出してきた。

 「あれ、なんで知ってんの。俺、言ったっけ」

 「何言ってんのよー。自分から何度もアピールしてたじゃない」

 自分では全くそんな意識がなく、ママに言われて初めて気づいた俺は、

 「そ、そうだった?」

 もしかしてイタい奴と思われていたかも、とちょっと焦ったが、

 ママは気にしていない様子で、壁に立てかけて置いてあった箱に手を伸ばした。

 細長い箱で、中は見えないようになっている。

 割と大きなそれを、色白の手で持ち上げて、俺のところまで持ってくると、

 「これね、ラブグッズなの」

 フフ、と笑いながら、耳打ちした。

 ラブグッズ…ってことは、あれだよな。

 つまり夜の、…大人のおもちゃってことだよな。

 頭にいろんな種類のそれらが浮かび、

 ママの妖艶な笑みに魅了されたこともあって、少し鼻息が荒くなる。

 「な、なんでそんなもの?」

 相好が崩れるのを抑えることが出来ないままに問いかけると、

 「なんでって、誕生日プレゼントよ」

 やぁね、という感じで、俺の肩にポンと手を置いた。

 ママが俺の相手をしてくれるのも含めての誕生日プレゼントかと、

 一瞬勘違いして喜びそうになったが、

 「ほら、いつぞやのネコちゃんと楽しい時間を過ごして欲しいなと思って」

 継いだ言葉を聞いて、なんだ、と思う。

 でも、ママの言う通り、四朗と楽しむのも、

 それはそれで悪くないかもと考えたら、またちょっとテンションが上がった。

 「開けてみてもいい?」

 「もちろんよ、どうぞ」

 ママの了承を得て、自分で開けようとしたが、なかなか開かない。

 フタが差し込み式になっていて、俺はこういう箱を開けるのが苦手だ。

 「ちょっと貸しなさいよー」

 もたもたしていると、ママが俺の手から箱を取っていき、速やかにフタを開けた。

 その流れで、中に入っていた物を取り出す。

 長く黒い物が出てきた後、続いて肌色の部分が顔を出した。

 肌色部分は、男性器をかたどった形をしていて、

 まだ早い時間から生々しい物を目にしたことに、俺は少しギョッとする。

 「見て、やらしー」

 ママが、それをつまむように持ち、嬉しそうに言った。

 「何これ…ディルド?」

 俺が多少気後れしつつ尋ねると、ママは、

 「そうよー。猫のしっぽ付きディルド」

 と明るく肯定した。

 黒い部分は毛が生えていて、猫のしっぽに似せてあり、

 ディルド部分がなければ、普通におもちゃ屋で売っていそうな造りだ。

 箱の中を覗き込んだママが、

 「これと、それからこれ付けてー」

 残っていた猫の耳付きカチューシャも取り出す。

 セットらしい。

 そんなのもあるんだ…

 その凝りように感心していると、ママはカチューシャを頭に付け、

 手で拳を作り、顔の前に持って行って、猫の動きをしてみせた。

 「ニャンニャン、ってね」

 なんだかその仕草もカチューシャも、彼女(?)に、

 とても似合っていたので、俺は嬉しくなってパアッとトキめき、

 「ママ、かわいー」

 つい鼻の下を伸ばしてしまった。

 「あら、私を誉めてどうすんのよ」

 ママが笑いつつ言って、それからカチューシャを外すと、

 しっぽと一緒に箱の中に戻した。

 「例のネコちゃんにこれ付けたら、ますますかわいくなるわよー。楽しみねー」

 と言いながらフタを閉め、

 「お誕生日おめでとう。ネコちゃんといい時間を過ごしてね」

 俺に向かって、それを差し出す。

 「うん。ありがとう」

 すでに使う気満々になっていた俺は、嬉々としてそのプレゼントを受け取った。

 

 

 「これ何」

 次の日の夜。猫の日。

 ベッドインして、俺が早速使ってみようとしっぽを取り出して見せると、

 四朗は予想通りの反応をした。

 『物凄くいかがわしく下品な物』を見る目つきでそれを見て、

 そのあと、呆れたような色を表情に滲ませつつ、

 「どうしたんだよ、こんなもの」

 俺に視線を移す。

 「もらったんだ。誕生日だから、って」

 「誕生日は26日だろ?早くね?」

 「ああ…まぁ、そうなんだけど。

 どうも俺、だいぶ前から誕生日アピールしてたらしくって、早めにくれたんだ。

 あと、なんか猫の日だから、とかって」

 俺の言葉に、四朗はちょっと考えるようにした。

 今日が確かに猫の日であるのを思い出したようで「ふーん」と鼻を鳴らすと、

 「で、誰に」

 続けて贈り主を聞いてくる。

 「いつも行く店のママに」

 と答えると、

 「ああ。あの人か」

 小さく呟いた。

 低俗な俺を蔑むようだった表情が、ふっと緩み、

 今話題に出た相手に好感を抱いている瞳になったのを見て驚く。

 「え。会ったことあるのか?」

 びっくりして目を瞬かせつつ聞くと、四朗は「うん」と頷いた。

 「ヤっちゃんにいつも話を聞いてたから、

 どんな人か知りたかったし、挨拶がてら一回行った」

 まさかの事実に唖然とする俺に、

 「あの人は、ちゃんとした人だよ。ヤっちゃんと違って、彼氏一筋で」

 耳に痛い言葉を投げてきて、胸にグサリと突き刺さる。

 ……。

 また、そんなところから俺を責めなくても。

 予想外の衝撃を受け、なんだか、床に膝をつきたいくらいにガックリ来た。

 今んとこ、浮気してないんだし。

 凹んでいたら、四朗が元の口調に戻って言う。

 「で、それをどうすんだよ。お前が付けるのか?」

 聞かれて、顔を上げた。

 冷たい視線をよこす四朗と目が合って、思わず笑う。

 「は?何言ってんだよ。四朗に決まってんだろ」

 「何で決めつけるんだよ。嫌だよ。俺はぜってー付けねぇからな」

 奴は言って顔を背けたが、どう考えても、これは四朗がつけるべきだろう。

 誰が見ても、これをつけるべきは四朗の方だと思うに違いない。

 「俺、見てみろよ。これが様になると思うか?」

 俺は自分の顔を指差して、苦笑いを浮かべた。

 四朗は俺を一瞥して、

 「そんなの…意外と似合うかも知れないし」

 と呟いた後、向こうを向いて、プッと噴く。

 「…失礼な奴だなー。でも…な?自分でも自分の方が似合うと思うだろ?」

 「……」

 返事がない。ってことは、認めてるってことだ。

 ここまで拒否した手前、自分から付けるとは言えないんだろうけど、

 もうひと押しすれば…

 「俺、これ付けた四朗が見たいなー。かわいいんだろうなぁ」

 まだ黙っている。

 「よし。じゃあ、じゃんけんで負けた方が、これを付ける」

 それを聞いて、黙っていた四朗が口をきいた。

 「嫌だよ。やらねーよ」

 「なんで。負けるから?」

 「負けねーし」

 ムッとして、強気な発言をする四朗に、心の中でほくそ笑み、

 「じゃあ、じゃんけんな」

 俺はその会話の勢いのままに、四朗と向き合い、じゃんけんのかけ声をかけた。

 

 

 

 「それにしてもよく出来てんなぁ。

 触り心地も良くて、本当に猫のしっぽみたいだ」

 俺は、しっぽを握って前から後ろへと撫で擦るように繰り返し手を動かした。

 「や、やめろ…っ」

 やっぱり感じているのだろう、四朗は四つん這いの姿勢で固まったまま、

 ブルブルと悶え震えている。

 俺は手を動かし続けながら、言った。

 「抜けないように、ちゃんと締めてろよ」

 思わず顔がニヤける。

 「んっ、…やっ」

 言われた通りに締めているようで、四朗の腕に力が入って血管が浮き、

 ピアノを弾く人のように指先が丸まっている。

 本当に猫みたいだ。

 そして、撫でるうちに、だんだん奴の体がピンク色に上気して、

 いい感じになってきた。

 こういうとこ、変にバカ正直なんだよな。

 面白いけど。

 「ああ…んっ」

 四朗の口から、猫の鳴き声のようにかわいく艶めかしい声が漏れ始め、

 一物が上を向いてきている。

 「何、四朗ちゃん、気持ちいいんだ?」

 それに目をやりつつ、しっぽを一度引き抜く方向へ引っ張り、

 それからまた奥へとグッと押し込んだ。

 「あ…はっ」

 四朗の体がビクッと反応し、俺はそれを繰り返し楽しんだ後、

 しっぽから手を離して四朗の前に回った。

 そうして蕩け始めた表情を、ジッと見つめる。

 「ヤっちゃん…」

 濡れた瞳ですがるように見つめ返してくる四朗に、自然と笑みが浮かんだ。

 「なるほど。かわいい猫ちゃんだ」

 言って、その顎に手をかけた。

 顔を上向かせて唇を合わせ、柔らかなそれを貪りながら、

 乳首に手を伸ばし、弄る。

 「んっ、んっ」

 四朗が目を閉じて、鼻から色っぽい声を漏らしつつ体を揺らす。

 隆起して尖った乳首を、指先でコリコリ摘まんだり転がしたりするうちに、

 「ああ…あ、んんっ」

 どうにもたまらなくなって来たらしく、四朗が腰をくねらせ、

 それを見ていたら俺も感じて挿れたくなってきた。

 でも、四朗の後ろ、俺がいつも挿れている場所には先客(ディルド)がいて、

 あれを抜かなければ挿れられない。

 俺は中に入ったそれを抜く為に、再び四朗の後ろに回ろうとした。

 ところが、

 「やっ、抜いちゃ駄目っ」

 奴は俺の腕を掴んで、止めた。

 「え、でも抜かないと挿れられないだろ」

 驚いて四朗を見ると、頬を火照らせて、はぁはぁと喘いでいる。

 四朗は既に中を満たされて、気持ち良くなってしまっているようだった。

 「そんなにいいのか?…ソレ」

 聞くと、ちょっと恥ずかしそうにしつつ、ふいと横を向く。

 相当いいらしい。

 「……」

 確かに、安定させる為か結構デカいし、素材も形もいい感じだった。

 中にぴったりフィットし始めて、体も気持ちも昂り、

 抜かれたくなくなってしまったのだろうか。

 だけど…

 どうしろってんだよ。俺も挿れたい。

 そうして眉を寄せていたら、四朗の目がキラリと光った。

 「孔なら、もう一つあるよ」

 言って、フッと笑う。

 不敵な表情を浮かべた奴の視線が、俺の尻の方へと向かい、

 「え」

 俺はドキッとした。

 四朗が、獲物を狙うような目つきで見てくる。

 「俺が、ヤっちゃんに挿れる」

 奴がハッキリ宣言し、それを聞いた俺はたじろいだ。

 「な、なんでだよっ」

 思わず防御するように、手を後ろに持っていった。

 「俺に挿れるとかどういうことだよっ。俺が、挿れたいんだよっ。

 俺の孔とか関係ないだろっ」

 今日、俺が使う機能は前であって、断じて後ろではない。

 「お前がしっぽを抜いて、挿れさせてくれれば問題ないだろうが」

 俺の言うことを聞いて、

 「それじゃあ、いつものセックスと一緒だろ?」

 四朗が指摘して返す。

 そして、

 「付けろとしつこく言ったのは誰だっけ。あんだけ言っといて、

 抜けって言われても簡単には抜けないなぁ。

 それともヤっちゃんがこれ付ける?」

 後ろを振り返るようにして長く伸びたしっぽに目をやり、

 俺はそれを付けた自分の姿を想像して顔を歪めた。

 俺が付けたって、似合うわけないだろうが。

 それに、それって結局挿れられるって事だろ?

 俺は、ほどよい硬さで気持ちのいい素材を使ったデカいディルドが、

 四朗の中からズルリと引き抜かれ、

 自分のアナルに挿れられることを想像してみた。

 なんか共有チンポって感じで、それはそれでエロい気もして、

 疼きを感じることを禁じ得なかったが、でもだからって、

 自分から進んで受け入れる気にはやっぱりなれない。

 俺が黙った隙を突いて、四朗がたたみかけてくる。

 「ヤっちゃん、この間、後ろもだんだん良くなって来たって言ってたよね」

 「えっ、そ、そんなことっ…」

 言ってた。かも知れないが。

 俺は、なんとか言い訳しようと言葉を探しながら、

 先日四朗に掘られたときのことを思い出した。

 四朗は、このところ毎回挿れられるより挿れたがって、

 俺を説き伏せようと知恵を絞るようになってきた。

 頭の良さでは俺は四朗に敵わないし、でも大人しく挿れられるわけにもいかず、

 必死で言い返し、また時には力で組み伏して、なんとかこれまで数回で済んでいる。

 でも、奴が挿れることに慣れていくのと同様に、

 俺も挿れられるのに慣れて、以前ほど抵抗がなくなっているのも事実だ。

 正直言って、かなり気持ち良くなったりすることもある。

 ……。

 だけど、男のプライドっつうか何つうか、やっぱり「すんなりと」受け入れるのは嫌なのだ。

 「と、とにかく、じゃんけんで負けたんだから、観念して今日は俺の好きにさせろよ」

 俺が言うと、

 「じゃんけんで負けたからって、その効力が及ぶのは、しっぽに限ってのことだから」

 四朗が厳しい口調で言い聞かせるようにして言葉を投げてきて、俺は黙った。

 「すっげー嫌なの我慢してしっぽつけたんだから、俺にもしたいこと一つさせてよ」

 それから、頼み込むようにされて、それ以上何も言えずにいたら、四朗がのしかかって来る。

 「わっ」

 押し倒され、上に乗られた。

 発情期の獣みたいな息遣いで押さえつけてきて、

 俺は思わずたじろいで、奴を見上げた。

 「し、四朗…」

 俺は今、デカくてエロい猫に乗られている。

 なんか妙に迫力があって、圧倒されるうちに、

 四朗が俺のズボンに手をかけて来た。

 四朗はすでに全裸だが、俺はまだ下を履いている。

 それを引き下ろされて足から抜かれ、下着も脱がされて、四朗と同じ姿になった。

 挿れたくなっていたのだから、俺のモノは勃っていたが、

 四朗は見て見ぬふりをして、そばに転がっていたローションに手を伸ばした。

 挿れたいのに、挿れる孔はなくてどうしようもなく、四朗に後ろに指を入れられたら、

 「んっ」

 もう観念したような気持ちになり、体から力が抜ける。

 時間をかけて四朗に解され、中が少しずつ気持ち良くなり、欲しくなってくる。

 俺のモノから雫が零れ始め、それを見た奴が指を抜いた。

 「ヤっちゃん、いい具合に蕩けてきたよ」

 四朗が言って、俺の足を高く持ち上げる。

 体を折り曲げるようにしてから、

 「行くよ」

 後ろに自分のモノをあてがい、グッと腰を落とした。

 「あっ、ああっ」

 中が開かれ、押し入られる圧迫感に、思わず目をきつく瞑った。

 入って来る時のこの感覚は、何回味わっても慣れない。

 上から体重を乗せる感じで突き入れられ、奥まで侵入される。

 「んぅ」

 体を思いっきり開かれ、ちょっと泣きたい気分になった。

 俺が挿れられる側になりたくない理由の一つには、

 この格好になるのが嫌だってのもある。

 なんかおかまになったような気がするし。

 「ああ、入ったよ」

 気持ち良さを感じているのか、四朗が言って顎を上げ、

 はあっと吐息する。

 それからすぐに、腰を前後させ始めて、

 「あ、はっ」

 ゾクッときた俺は、背筋を反らした。

 四朗が、活き活きした表情になって、俺の中を出入りする。

 「凄い。これ、前も後ろも気持ちいい」

 しっぽが外れないよう、後ろを締めながら攻めているらしく、

 良さそうに喘いで笑みを浮かべた。

 それがどれくらいいいのか分からないが、

 とにかく今俺は、自分のことで手一杯だ。

 「あっ、あっ」

 摩擦で、次第に中が熱くなってきて、やがて快感が生まれ始める。

 体中が気持ち良さに包まれつつある中で、四朗が唇を合わせてきた。

 「んっ、ん…っ」

 舌を絡めながら奴が俺の体に手を回し、俺も奴の首に手を回すと、

 ギュッと抱きしめるようにして、腰を動かすスピードをさらに上げる。

 「ああ。俺、後ろも気持ち良くて…もう出そう」

 耳元で囁くのと同時に、四朗が腰の動きを止めた。

 中で奴のモノが震え、次の瞬間、弾けて白濁を放つ。

 「あ、ああっ」

 奥へと注がれるのを感じた俺もすぐに達して、

 勃ちあがっていたペニスから体液を吐き出した。

 

 

 次に店を訪れたとき、ママが話の途中で、

 プレゼントを使った感想を聞いてきた。

 「アレ、どうだった?」

 俺が、あの夜のことを思い出し、

 「うん。良かった。ありがとう」

 と礼を言うと、

 「でしょう?アレ、なかなかよねぇ」

 満足げに微笑み、俺はそれを聞いて、動きを止めた。。

 なかなかよねぇ…って、なんでママがアレの使い心地を知っているのだろう。

 「え。まさか、アレ使い回し…」

 俺が思ったことを口に出すと、ママは、満面に笑みを浮かべて言い放った。

 「大丈夫よ〜。ちゃんと洗浄消毒除菌したからぁ」

 「……」

 そんなこととは知らなかった俺が呆然とすると、少しの間の後、

 気配を察したママが慌てた様子を見せ、俺の腕を掴んで申し訳なさそうに謝った。

 「ごめん、嫌だった?悪気はないの。

 あんまり良かったから、幸せな時間をおすそ分けしたかっただけなのよー」

 あんまり良かった…ってことは、ママはママで、彼氏とあれで楽しんだのだ。

 頭に、その画がポワンと浮かんで、鼻血が出そうになる。

 それを誤魔化すようにして、鼻に軽く手をあて、

 「いや、いいよ。うん」

 俺は笑い返した。

 まあいいか。確かにかなり楽しんだし。

 「ねぇ。ヤっちゃんの誕生日って、22日だった?」

 

 俺の誕生日は、26日。

 間違えないで欲しい。26日だから。

 

 

 

                                     了

 

                                 
2014.02.23

 

 

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