鬼と狼(ウルフ)と少年と5 後編


 

 やるべき事を全部やり終え、風呂も入ってからロッシュの部屋に行く。

 いつものようにドアをノックして、返事を聞いてから中に入った。

 ロッシュは、歯ブラシを片手に、歯を磨いている。

 彼ももう寝るばかりなのか、新月でない時期に訪れる時と同じパジャマ姿だったが、

 でも中身はその頃と違って人に近いので、ちょっと雰囲気が違った。

 満月の頃より似合っていて、なんだかじっと見てしまう。

 「どうした?」

 ふいに聞かれて、

 「う、ううん」

 慌てて、何でもないとごまかすように、首を横に振った。

 俺は、いつものように奥へと進み、ベッドの端に腰かける。

 「もう寝る?」

 と尋ねると、

 「ああ、先に寝ててもいいぞ」

 ロッシュがそう言い置いて洗面所へ消えた。

 でも俺は、一人で布団に入る気になれないまま、

 彼が歯磨きを終えるのを待っていた。

 やがて戻って来た彼が、俺を見て微笑を浮かべる。

 「横になっていても良かったのに」

 そうして布団をめくり、俺に寝るよう促し、

 俺が中に入って横たわると、ロッシュも隣に同じように横たわった。

 布団を肩までかけ、大きく息を吐いて、そのまま静かになる。

 俺は仰向けで寝ていて、ロッシュも同じように上を向いているようだった。

 盗み見るようにして、そっと顔を少し彼の方へ向けると、

 彼は目を閉じていて、俺はその横顔を見つめる。

 新月のロッシュが隣にいる。

 そう思ったら嬉しくなったけど、

 このまま眠ってしまいそうな雰囲気に、ちょっとだけ淋しさも覚えた。

 理由を聞くつもりだったのに、

 なんだか上手く切り出すタイミングが見つからない。

 ロッシュに、ソノ気はなさそうだし…

 ……。

 やっぱりするのは無理なんだよな。

 俺は彼の態度からそう思い、諦めて目を閉じる。

 そして、『この時期のロッシュと、夜一緒にいるだけでも、

 今までに比べたらずっといいじゃないか』と自分に言い聞かせ、寝ようとした。

 だけどなかなか眠れずに、それでも無理に寝ようとしていたら、

 逆にどんどん目が冴えてきてしまい、俺は観念して目を開け、

 ロッシュに向かって横から小さく問いかけた。

 「ロッシュ…寝た?」

 すると、ロッシュが目を開ける。

 「いや…」

 起きていたので、続けて聞いてみた。

 「…くっついてもいい?」

 それを聞いて、彼が笑いを漏らすようにして、俺の方へ顔を向ける。

 「なんだ。やけに控えめなおねだりだな」

 「だって…」

 抱いて、と言ったって抱いてもらえないのは、分かっている。

 だから、こんな言い方しか出来なくなる。

 返事を待ってじっとしていたら、

 ロッシュが顔だけでなく、体もこちらへ向けた。

 俺は、その動作に、くっついてもいいのだと判断して、

 自分も彼の方へと、もぞもぞと体を向け寄り添うようにした。

 「…あったかい」

 彼のぬくもりを感じ、目を閉じて呟く。

 向かい合う形でいると、彼の体に腕を伸ばしたくなったが、

 それをしたらもっとその先を望んでしまうと思い、やめた。

 そして、しばらくそうやっていた後、

 俺は、ずっと聞きたかったことを、ついに言葉にして発した。

 「ロッシュ。どうして新月は、するのを嫌がるんだよ」

 俺の質問に、ロッシュから伝わってくる空気が、

 ちょっとだけピンと張ったような気がした。

 今まで曖昧に済ませてきたことを追究されて、

 驚いているのかも知れない。

 でも俺は、もう彼に、ちゃんと聞く気になっていた。

 聞いて、ハッキリさせたい。

 新月のロッシュが例えヘタレだろうと俺は幻滅しないと思ったし、

 俺は彼のことを知っておきたいのだ。

 「力だけじゃなくって、夜の方も弱くなるから?

 た…勃たないって、ホント?」

 ストレート過ぎる質問かなと思ったけれど、思い切って口にする。

 すると、ロッシュが「えっ」と言う感じに口を開けて、その反応に、

 自分で聞いておいて、やっぱり恥ずかしくなり、かあっと頬が熱くなった。

 「だ、だって、そう聞いたんだ」

 恥ずかしさからムッとしたら、そのうち彼の表情が緩んで、

 挙げ句ふっと小さく笑いが漏れた。

 「なんだよっ。笑うなよっ」

 俺が喚くと、

 「わ、悪かった」

 慌てて謝る。

 「そうか…。そんなふうに言われてるのか」

 参ったという感じに呟いて、笑った表情のまま眉を寄せた。

 それから少し考えるようにした後、

 俺の恥ずかしい問いに対しての答えを聞かせてくれた。

 「ま、弱くなるという点については否めないかな」

 と認めつつ、

 「でも…イアンを前にして、勃たない、なんて事はないさ」

 その点については、キッチリ否定の言葉を返す。

 「ただ、人間に近くなってるから、満月の頃とはちょっと違うが…」

 そうして、自身の体を見下ろすようにして、

 自信なさ気な表情を浮かべ、ロッシュが心情を打ち明けた。

 「俺は…こんな中途半端な俺に抱かれるのは嫌かと思ってたんだ」

 「……」

 「ほら。狼男なのに狼らしくなく、人間にかなり近いのに人間でもない。

 …なんか、みっともないだろ」

 そう言われて、俺は彼の全体を見るようにする。

 今のロッシュは、薄めの毛に覆われていて、

 完全な狼男の姿に比べれば、確かに半端と言う気がしないでもない。

 でも、俺は人に近い姿の彼を見て、

 みっともないなんて一度も思ったことがなかった。

 それで、彼の言葉に首を横に振る。

 「そんなことないよっ。

 俺は、どんなロッシュも…どんなロッシュでも…す、す」

 思いがけず、また改めて自分の気持ちを口に出さなければならない状況に陥って、

 なんか焦る。

 そこまで言って、思わず口を閉じてから、

 恥ずかしさのあまり、ふいっと視線を逸らした。

 頬がどんどん熱く火照ってくるのを感じながらじっとしていると、

 頭の中に、満月の頃のロッシュの姿が思い浮かぶ。

 そして、しみじみ思う。

 本当に、ワイルドなロッシュも好きだけど、

 俺はこっちのロッシュもタイプで、どう考えても、その感覚は間違っていない。

 「俺は、今のロッシュもすごく好き」

 素直な気持ちで本音を口にしたら、一瞬後、さらにかあーっと顔に熱が上がり、

 次いで体全体も熱くなってきた。

 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうに感じていると、

 「イアン…」

 ロッシュが俺の名前を呼ぶ。

 様子を窺いつつ顔を上げたら、彼が自分の鼻の頭に手を持っていった。

 「その…あんまりかわいいと、抑えが効かなくなりそうなんだが」

 照れ臭そうにしながら言う。

 そんな彼を見ていたら、彼への想いが胸に湧いて溢れてきて、

 俺は、目をギュッと瞑って抱きついた。

 「ロッシュ…っ」

 抑えなんか効かなくていいのに。

 どんなふうにでもいいから、俺はロッシュと触れ合いたい。

 その気持ちのまま、

 「お願い」

 懇願するように呟くと、ロッシュの手が動いて俺の背中に回り、

 そこに張り付いた手の平が、ゆっくりと上下に動いた。

 「…満月の頃に比べたら、やっぱり物足りないかも知れないぞ」

 耳元で囁かれ、顔を上げる。

 「そんなこと…いいよ。

 俺はただ、いつでもロッシュと触れ合っていたい。それだけ」

 俺の言葉を聞いて、ロッシュが俺を見つめ、俺も彼を見つめ返す。

 視線を合わせれば、青い瞳に魅入られて、

 そのまま吸い込まれてしまいそうな気持ちになる。

 そうしてしばらく見つめあった後、

 優しく、力強く背中をさすっていたロッシュの手が、

 さらに下へと降りていった。

 さすられるだけでも、なんだか体が暖かくなって気持ち良かったのが、

 手の平で後ろからグッと、下半身を押し付けるようにされたら、物凄く感じてくる。

 ロッシュは、もう一方の手の平を、

 俺の頬に優しく当てるようにし、顔を寄せて唇を合わせてきた。

 「んっ」

 柔らかく俺の唇を包み込み、

 チュッと音をさせて一度離れ、すぐにまた合わせる。

 何度かそれを繰り返した後、少し上体を起こし、

 今度は、舌を差し入れてきて、俺の舌を絡め取った。

 「んっ」

 深く侵入され、舌の付け根を優しく舐められて、

 「ふっ…んっ…ロッシュ」

 フワッと気持ち良さが生まれ、もう自分の全部を預けてしまいたくなる。

 「んっ、んっ」

 新月はエッチが弱くなるなんて、本当だろうか?

 キスに限って言うなら、いつもと変わらない。

 どっちかって言うと今日の方が、いつもより情熱的で激しいくらいだ。

 「…も…あっ、んっ」

 口の中を蹂躙する長いキスに、だんだん足が痺れてきた。

 ロッシュがキスをしながら、俺の上衣のボタンに手をかけ、

 それを外して前を全開にする。

 唇を離して顔を上げ、露わになった肌を眩しそうに眺めてから、

 彼も上衣を脱ぎ、上体を倒して俺の体を覆うようにした。

 「イアン…」

 ロッシュが囁き、囁いた耳元に押し付けられた唇が、頬を、顎を辿り降り始める。

 首筋も伝ってゆっくりと降りていく間に、ふいに指先で胸の尖りに触れられて、

 「…っ」

 体がビクッと揺れた。

 その気持ち良さに、ロッシュの指を求めてもっと胸を突き出すようにしてしまう。

 あっと言う間に立ち上がり硬くなったそれを、

 ロッシュは指先でコリコリと転がした。

 「は…ああっ」

 強い疼きを感じ、首が反って、体が、中が熱くなってくる。

 唇が降りて行き、やがて胸に辿りついて、

 指に代わって乳首を愛撫し始めると、たまらない気持ち良さが体を駆け抜けた。

 隆起したそれの表面を舌で転がされ、強く吸われて、

 「あっ、んっ、や」

 その刺激に、腰がガクガクと揺れる。

 「あっ、あっ、ロッシュっ」

 乳首を舐めたり吸ったりし続けるロッシュの頭を、

 思わず両手でギュッと抱きしめた。

 このままずっと吸われていたいような、もう次へ進めて欲しいような、

 何とも言えない感覚に捕らわれ目を閉じる。

 と同時に、ロッシュに乳首を甘噛みされて、体がビクッと跳ねた。

 「はっ、あっ」

 眉を寄せ、声をあげる。

 その後も、執拗に隆起した乳首を攻められ、中がどんどん感じてきた。

 「ロッシュ、あっあっ」

 早く体を重ねたい。ロッシュと早く繋がりたい。

 先走った欲望が生まれ、俺のモノが勃ち上がり、先端に露が滲む。

 「ああっ」

 乳首に愛撫を受け続けるうちに、我慢が出来なくなってくる。

 ロッシュが欲しい。

 顔を上げたロッシュが、手で俺の股間に触れてきた。

 膨らんだそれの形を確かめるように触られて、

 感じたそれからまた先走りが溢れ、下着をみるみる濡らしていく。

 ロッシュが俺のズボンに手をかけ、下に引き下ろして足から抜き、

 嬉しそうに、そして愛おしげに言った。

 「こんなに濡らして」

 濡れた部分を見られて、恥ずかしくてたまらず、顔が熱くなり目を瞑る。

 俺は濡れやすくて、特にロッシュ相手だと、毎回びしょびしょになってしまう。

 ウリの時など、体液の分泌が多い体質は割と好まれて、

 わざと濡れた秘部を見せて煽ったりもするのだけど、

 それがロッシュに対してとなったら、とにかく恥ずかしいばかりで、

 とてもそんな余裕がない。

 ロッシュは、続けてその濡れて湿った下着も取り去り、

 自分も残りの衣服を脱ぐと、指を唾液で濡らし、

 俺の足を開いて後ろのすぼまりにあてがった。

 指をツプリと沈め、ググッと奥へ挿し入れるのに合わせて、

 俺のモノに顔を寄せる。

 空いた方の手で、俺の勃ちあがったそれをつまむように持ち、

 溢れ落ちる雫ごと、下から上へと舐め上げた。

 「ンッ」

 舐め上げたその口で、今度は上から覆うようにして、

 俺のモノをスッポリと咥えこむ。

 「あっ…」

 熱い口の中に包み込まれ、

 「ああっ、ロッシュ」

 彼に対する好きと言う想いが湧きあがるごとに、

 それに合わせるように先走りが先端から溢れ出る。

 その湧き出す鈴口を、ロッシュが舌で弾くようにしてペロペロと舐めた。

 「あっ…はっ」

 ロッシュの指が入れられた部分が、どんどん気持ち良くなってくる。

 快感がゾクゾクと背筋を駆け上がり、

 「あっ、あっ、や…だ、イっ、ちゃう」

 俺が思わず首を横に振ると、ロッシュが口を離して顔を上げる。

 後ろに入っている指を引き抜き、

 零れ落ちる先走りを指先に馴染ませてから、今度は二本同時に差し入れた。

 「ああ、ぅん…っ」

 グッと挿入し、押し開かれた中が、

 感じて吸い付くようにして、彼の指を締め付ける。

 俺のそこはもう十分解れていた。

 早く欲しくて、

 「ロッシュ」

 名前を呼んで、請うように彼を見る。

 すると、彼は後ろから指を引き抜いて、俺の足を持ち上げた。

 ロッシュのモノに目をやれば、

 勃たないという噂はやっぱりガセだったようで、

 すでに完全に勃起して上を向いている。

 俺の解れて潤んだすぼまりに、彼がそれを押し付け、

 力を込めて先端を少し沈めた。

 「んっ」

 そのまま覆いかぶさるようにして、腰を押し進める。

 「ああっ」

 そして、ロッシュがゆっくりと出し入れを始め、

 俺の中は、突かれるごとに彼のモノを飲み込み、

 やがて最奥までいっぱいに満たされた。

 いつもなら、ここでモノの一部がコブのように丸く膨らむのだけど…

 でも、今日は俺の中に根元まで入った後も、

 それが変化を見せることはなかった。

 さっきロッシュが、

 満月の頃に比べたら物足りないかもと言っていたのは、

 このことだったのかも知れない。

 けれど、狼の特徴が影をひそめただけで、人や他の種族と同じ、

 普通のそれで、十分感じる。

 それに、いつもの獣のような本能のままのエッチと違って、

 なんだかムードを大事に、一つずつをじっくり味わえる気がする。

 「ロッシュ」

 俺は、満たされているのが嬉しくて幸せで、

 彼の名を呼んで彼の背中に腕を回した。

 すると、彼も俺を抱きしめ返す。

 お互いの肌に触れ、ぬくもりを確かめ合った後、

 どちらからともなく唇を重ねた。

 「んっ、んっ」

 舌を絡め合っていると、後ろの中がビクビクと蠢き、

 どんどん熱くなってくる。

 長いキスの後、ロッシュが、止めていた腰の動きを再開した。

 「あっ、んっ」

 繰り返される摩擦に、だんだん強い快感が生まれ始める。

 次第に滑りが良くなり、

 入口から最奥までを出入りするロッシュのモノを、中がキュッと締め付けて、

 「あっ、はっ」

 内壁から、気持ち良さが体中に広がっていく。

 突き入れながら、彼が俺を見つめてくる。

 俺も見つめ返すと、何故だかちょっと泣きたいような気分になった。

 ずっとずっと。

 少しでも長い時間、ロッシュとこうして体を重ねていたい。

 その想いとは裏腹に、体を満たす感覚はどんどん悦くなって、

 フィニッシュが近づいてくる。

 ロッシュが俺の足を持ち上げ、高く上げた。

 そうして、上からグッと深く打ち込み、

 「あっ」

 次第にスピードを上げていく。

 「あっ、は…っ、んっ」

 俺の勃ち上がったモノからは、透明な液が伝い落ち続けている。

 最奥を穿つ激しい律動に、むちゃくちゃ感じてきた。

 「ああっ。ロッシュっ、イくっ、イく…っ」

 「ああ、俺もイく」

 体の芯を快感が駆け上がり、

 「あっあっあっ」

 肌と肌のぶつかる音がするほど、

 腰を強く打ちつけられたら頭が真っ白になり、

 「あああっ!!」

 俺は、背中を仰け反らせながらイった。

 俺の先端から白濁が飛び出す。

 それに合わせるように、すぐに俺の中の熱い肉棒が、

 ドクッと精子を吐き出した。

 脈打つそれが放った液が、俺の奥に溜まっていく。

 開かれた中が、これ以上ないほど感じて、

 ロッシュを締め付けながら、びくびくと震えた。

 「ロッシュ…っ」

 ロッシュを恋う強い気持ちが湧いてきて、

 繋がっているのに、思わず切羽詰った口調で名前を呼んでしまう。

 それを聞いて、ロッシュが笑みを浮かべた。

 「どうした?」

 見つめられると、繋がったままの後ろの内側が、

 彼のモノをさらに強く締め付ける。

 イった感覚が体に留まっていて、まだ離れたくない。

 ロッシュが返事を待っている。

 でも、俺は今の気持ちを何と表現していいか分からずに、

 「ううん」と首を横に振った。

 「…なんでもない」

 そして、目を閉じる。

 

 新月のロッシュと、抱き合うことが出来た。

 最初から、ちゃんとこうして聞けば良かったのだ。

 じわじわと嬉しさが、溢れてくる。

 新月ロッシュは、力や生命力が弱くなって、

 エッチもいつもとはちょっと違う。

 だけど、俺にとってはどっちも変わらず魅力的で…

 「俺は…こんな中途半端な俺に抱かれるのは嫌かと思ってたんだ」

 ロッシュの言葉が頭をよぎり、ふっと小さく笑いが漏れた。

 俺のこと、分かってないな、と思う。

 そんなことを嫌がるわけがないのに。

 でも、ロッシュも俺と同じように、

 俺にどう思われるか不安になったりするのだと考えれば、

 なんだかホッと安堵するような、嬉しいような気分にもなったりして…

 とりあえず、もっとロッシュと分かりあいたいし、

 一つずつ分かりあっていくしかない。

 「イアン」

 名前を呼ばれて、目を開ける。

 ん?と口に出して問うことはしないまま、

 ただ見つめれば、ロッシュが少し照れ臭そうにして言った。

 「あの…もう一回、したいんだが」

 その言葉に驚き、でもすぐに笑って返す。

 「俺も、同じこと考えてた」

 それを聞いて、ロッシュも驚いたような表情をした後微笑んで、

 俺たちは、どちらからともなく顔を寄せ合い、唇を重ねた。

 こんなにもロッシュが好きで…

 ロッシュを想うと、心から幸せな気持ちになる。

 それは、時々ちょっと怖くなるくらいに―

 

 

 「じゃあ、新月のロッシュと出来たんだね」

 「う…うん」

 アシュレイが、盛り上がった口調で嬉しそうに言い、

 俺は、恥ずかしくなって小さく頷きつつも、

 彼をちょっと観察するような目線で見た。

 最近のアシュレイは、頻繁に血と精液を摂取出来ているせいか、

 常にキラキラと輝いて、眩い感じすらする。

 頬にはいつも赤味が差し、半ズボンから覗く、足も膝小僧もすべすべだ。

 病弱な体質も、少しずつ改善されてきているように思える。

 「良かった」

 まるで自分のことのように喜んでくれる彼に、俺は礼を言う。

 「ありがとう。アシュのおかげだよ。

 あの…もし俺に何か出来ることがあったらなんでも言ってよ」

 俺の言葉に、アシュレイは笑って答えた。

 「うん。でも、もう十分してもらってるよ」

 そして、自分の首筋に人差し指を当てて、

 ツンツンとつつくようにする。

 どうやら血と、それから精液のことも含めて言っているようだ。

 「最近、すごく体の調子がいいんだ。

 おかげで、今僕はおじさまとすごく上手くいってるよ」

 彼が、あっけらかんとした口調で、照れた様子もなく告げるので、

 いつものことながら、俺は少しの間、ポカンとしてしまった。

 どうして、普通にサラッとそういうことが言えるのだろう。

 「そ、そっか」

 隠そうとしても動揺が挙動に出てしまう俺とは、大違いだ。

 アシュレイの態度に感心したのと、思わぬ報告に当てられて、

 俺が黙って紅茶を口に運んでいたら、彼が静かに呟いた。

 「二人が上手くいっていてくれれば、僕とおじさまも上手くいく…

 僕は、二人を応援するよ」

 その言葉に、俺は手を止める。

 「え…」

 アシュレイが俺たちを応援するのは、

 そういう思惑があってのことだったのか?その為に?

 俺は一瞬戸惑った。

 少なからず打算の匂いを感じて、ちょっとガッカリしそうになる。

 でも。

 よく考えてみれば、体の弱い彼が、

 そう思うようになるのも無理のないことなのかも知れなかった。

 確かに、俺たちが上手くやっていれば、

 彼は美しく元気でいられて、伯爵に愛してもらえる。

 そういうことなのだろう。

 俺が、なんとも言えない気持ちでアシュレイを見つめていると、

 彼が視線を上げ、空気を切り替えるようにしてクスッと笑った。

 「まあ、僕が二人を応援する理由は、

 もちろんその為だけじゃないけどね」

 アシュレイが続けてそう口にして、

 その表情と口調に、なんとなく嫌な予感がして身構えれば、

 「だって面白いし」

 彼が本当に楽しんでいる様子で、言葉を発した。

 「アシュ…」

 何気に上を見上げると、今日も二匹が待機している。

 それを見た後、俺はアシュレイに視線を戻して、苦笑した。

 みんなまとめて、いい性格してるよ。

 俺の引きつった笑みに、彼が「フフ…」と満面の笑みを返す。

 これからも、俺はからかわれるんだろうな。

 ……。

 だけど、そんなことでアシュレイが機嫌よく、

 元気よく過ごせるのなら、まあそれもいいか、

 とも思ったり思わなかったり…

 

 とにかく。

 取り立てて悪いこともなく過ぎていく日々なら、

 多分それでいい。

 そうして俺は、笑ったり怒ったりしながら、

 みんなと、これからも暮らしていくのだ。

 

 

 

 

                       了                             

                     

 

 

 

 

                               

 

 

2014.06.02

                          

 

  BACK      web拍手です 押して下さると励みになります

  HOME     NOVELS