「祐巳さま。私を妹にしてください。」
「ほへ?・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!?」
注:この話は由乃さん視点です。
善は急げ。祐巳さんが可南子ちゃんにロザリオをかけてしまってからでは遅いので、昼休みの内に薔薇の館にいる祐巳さんを急襲した。
「えっと、どう言う事なの?」
案の定目を白黒させる祐巳さん。それはそうだ。いきなり私達全員が薔薇の館に入ってきたかと思うと、瞳子ちゃんが一人前に出て先ほどのセリフを言ったのだから。
「聞いてください、祐巳さま。」
そう言って瞳子ちゃんは祐巳さんと可南子ちゃんの話を聞いた時の絶望感、今の祐巳さんへの気持ち、そして昼休みの話し合いの顛末を祐巳さんに語った。
「う〜ん・・・。」
流石に即答は出来ないらしく、頭を抱えてしまった祐巳さん。そりゃそうよね。私だっていきなり妹を二人持てと言われたら戸惑ってしまう。でも、
「祐巳さん、そもそも今までずっと瞳子ちゃんと可南子ちゃん相手に結論を出さなかった祐巳さんが悪いんだから観念しなさい。」
「それとも瞳子は妹に出来ないと言うのですか!?」
私の意見に乃梨子ちゃんが追随する。
「いや、そういう訳じゃないけど・・・。」
「祐巳、即答する必要は無いからじっくり考えて結論を出しなさい。」
「お姉さま。」
触れてはいなかったけど、薔薇の館にいたのは当然祐巳さんだけではなかった。祐巳さんのお姉さまである祥子さま、そして私のお姉さまである令ちゃんも一緒にお弁当を食べていた。
「由乃もそんな言い方しないの。祐巳ちゃんが困ってしまうじゃない。」
「令ちゃんは関係ないんだから口を挟まないで。」
「由乃ぉ〜、それは無いんじゃないの・・・?」
いじけた令ちゃんはほって置いて話を戻す。
「確かに言われて急に結論を出せる話じゃないわね。返事は・・・」
「うん、決めた!」
「わっ!きっ決めたって何を?」
いきなり祐巳さんが叫ぶからびっくりしたじゃない。
「決まってるじゃない。瞳子ちゃんと可南子ちゃんの事よ。私も正直言って瞳子ちゃんがこう言って来たらどうしようと思っていたの。私にとっては可南子ちゃんも大事だけど、やっぱり瞳子ちゃんも大事だもの。」
「それじゃあ!」
「待ちなさい祐巳、こう言う事はちゃんと考えてから結論を出した方がよいのではなくて?」
唐突とも思える祐巳さんの結論に祥子さまが言葉をかけたのだけど、
「大丈夫です、お姉さま。あくまでその投票でOKが出たらですけど、未熟者ながら私、福沢祐巳は妹を二人持たせてもらいます。」
「そ、そう・・・。」
即答に近い状態ではあったけど、祐巳さんの決意が思いの外硬いと見たのか祥子さまは言いかけた言葉を飲み込んだ。そして、そんな祐巳さんの宣言を聞いて安心して力が抜けてしまったのか、その場でへたり込んでしまう瞳子ちゃん。でも、
「うれしい・・・。」
その顔は安堵の笑みで溢れていた。
流石に昼休みにそれ以上話は進められないので一旦解散して放課後、薔薇の館再集合。そこでもう一人の当事者である可南子ちゃんに祐巳さんから説明をしてもらった。これは他の誰が言うより、可南子ちゃんが一番すんなりと話を聞けるであろうと思ったから。
「どう?可南子ちゃん。」
祐巳さんの問いかけに最初は戸惑った可南子ちゃんだけど、
「解りました。祐巳さまが御決めになった事なら従います。」
「いいの?本当に。」
黙って頷く可南子ちゃん。その表情を見るに、可南子ちゃん自身も瞳子ちゃんに対する負い目があったんじゃないかな?どこか安心したようにも見えるし。
ガチャッ
「これで全ての障害はなくなったわね。」
そう言いながら三奈子さまと真美さんがビスケット扉を開けて入ってきた。絶妙のタイミングで入ってきたところを見ると、話の邪魔をしないよう扉の外で待っていたみたいね。
「それじゃあみんな、これを見てくれるかしら?」
そう言うと真美さんが得意げに一枚の紙を机の上に置いた。そこにはリリアン瓦版号外の文字が。
「私と真美の二人して大急ぎで仕上げて来たのよ。これを来週の月曜日の朝配布して、土曜日に投票してもらおうと思っているのだけど、どう?」
「これを見る限り、この号外では祐巳が妹を二人持とうとしている事と、それの是非を全校生徒に問いたい事だけが書かれているのね。」
手に取った祥子さまが一通り流し読みをして令さまに渡す。
「今回のは珍しく事実だけをそのまま書いているのね。」
「珍しくはないでしょう、珍しくは。今回は第一報だし、色々書くよりまずは全校生徒にこの事実を知ってもらう事が大事だと思ったわけよ。」
令さまの言葉に苦笑しながら三奈子さまが答える。そしてその言葉に続いて今度は真美さんが、
「最後に書かれている通り、毎日号外を出して今までの経緯やお姉さまの手記、祐巳さんたち当事者のインタビューを載せていこうと思います。これでよければ早速印刷に回したいと思うのですが?」
と、祥子さまと令ちゃんに許可を求めた。
「特に問題もないみたいだし、いいんじゃない?」
「そうね。」
令ちゃんと祥子さまが承認。そして他のメンバーも一通り読んだ後、それに同意した。
次の月曜日、リリアンは朝配られたこの瓦版の話で大騒ぎ、当然のようにどの教室でも賛否両論が飛び交った。でも、廻りの声を聞くに、この第一報ではどちらかと言うと反対意見の方が多かったように思う。
「まぁ当然と言えば当然よね。人と言うのは今までの決まり事を変えようとは思わないもの。」
昼休みは質問攻めにされるのが解っているので、三奈子さまたちも含む関係者全員が薔薇の館に集合。
「確かに由乃さんの言う通りだと思うわ。でも、ここからが私達の腕の見せ所よ。見ていて、最後までちゃんと盛り上げるから。」
「瓦版でどちらかの意見に誘導はしないように。あくまで瓦版は中立の立場でね。」
「あら、それは無理よ。事の顛末を全て書いたら当然瞳子さん寄りの記事になってしまうもの。」
釘をさす祥子さまに笑いながらさらっと返す三奈子さま。それを聞いて、
「(小声で)流石に今回は、ねっ。」
「(小声で)そうね。」
と、つい祐巳さんと頷きあってしまった。そして他のメンバーも三奈子さまの言葉を聞こえない振り。普通ならここで誰かが三奈子さまに再度釘をさすのだけれど、今回ばかりはみんな同じ意見みたいね。
「もう。」
そんな他のメンバーを見て諦めたのか、祥子さまも黙ってしまわれた。でも、今回ばかりは仕方がないよね。
反対が多かった意見も2枚目の号外で少し様子が変わってきた。それは三奈子さまの手記が載っていたから。そう、あの友人二人と一人のお姉さまの話である。これを読んだ人たちの中に、
「そう言えばそんな事もあったわよね。」
と言う3年生と、
「もし私がそんな立場になったら・・・」
と言う1・2年生の声が聞こえ始め、それが追い風となって徐々に賛成意見が増えてきたのだ。
そして3枚目での瞳子ちゃんのインタビュー、4枚目で可南子ちゃんのインタビューが載り、5枚目の祐巳さんのインタビュー記事が載った時にはリリアン全体の意見は賛成反対、丁度半々くらいになっていた。
こうして向かえた土曜日。この時点で3年生は実際に三奈子さまの書いた話を知っている人が多いからか賛成意見が、1年生の間では瞳子ちゃんへの反発からか(結構根強いみたいね、この反発。)反対意見が多かった。
「後は2年生がどう転ぶかね。」
「そうね、藤組でもどうしようか悩んでいる人、結構いるみたいだったし。」
私と志摩子さんが投票の準備をしながら話ている横で、当事者である祐巳さんたちはどのような結果が出るか気が気ではなく無口に・・・
「まぁ、なるようになるわよ。瞳子ちゃんも、どんな結果が出たとしても気にしないでね。」
「はい、祐巳さま。」
「私はちょっと複雑な気分です。」
「あら。可南子さんは結果がどうあれ祐巳さまの妹になれるのだからいいじゃないの。」
・・・ぜんぜんなってないし。
「もしもし。なんか物凄ぉ〜く気楽な空気が漂っているような気がするのだけど。」
「気楽では無いですよ。これで私の命運が決まるのですから。」
つい呆れて声をかけたら瞳子ちゃんが真顔で返してきた。そしてその手は微妙に震えている。
「なるほど。いつもの強がりだったか。」
「由乃さん。」
これまた真顔でこちらを見る祐巳さん。こちらは瞳子ちゃんの緊張をほぐすように気を使っていた模様。解ってなかったのは私だけみたいね。
「でも瞳子ちゃん。そんなに緊張する必要は無いんじゃない?もうここまで来たらじたばたしても仕方が無いし、何より、これに敗れたからと言って祐巳さんとの関係は変わらないでしょ?」
「そ、そうですね。」
もうやるだけの事はやったのだから、後は運を天に任すだけ。
「それではそろそろ投票受付を始めたいと思います。」
そして三奈子さまのこの一言で投票は始まった。
なかがき(H18/1月5日更新)
今回の話は2本オチがあります。それは本来考えていたものと、可南子ちゃんシリーズの3作目に進むにはこの方がいいだろうと思うものが少し違ったから。と言う訳でこの下に二つ選択肢があるので、好きな方から読んでやってください。因みに、私としては正規ルートより本来こうするつもりだったルートの方が個人的に気に入っています。それではそれぞれのあとがきでまたお会いしましょう。