
図1 突風モデル

図2 突風に突入
液体ロケットの機体構造は、大気中を飛行する時に発生する飛行荷重に耐えられるように設計されている。飛行荷重は①静的荷重および②動的荷重からなっている。①は高度10km付近を上昇飛行するときに偏西風(高度10kmで風速が最大90m/sec)の作用を受けてロケットが剛体運動をしたとき発生する荷重である。一方、②は風に含まれる擾乱成分(突風)によってロケットが振動したときに発生する荷重である。突風の発生は確率的であり、突風が作用したときに発生する動的荷重②を合理的に推算して①に加算する必要がある。液体ロケットを設計する場合に、考慮する突風モデルを図1に示す。ロケットが突風に遭遇した場合、図2に示すように飛行速度Vaで突風に突入すると、まずロケットの先端部分が突風の影響を受け、その後突風の影響を受ける範囲は機体後方に移動していく。すなわち、突風による外力は移動していく移動外力である。しかし、公表されている応答振動解析では、(1)ロケット全体が同時に図1に示す突風に包まれるものとし、突風による外力は移動外力として考慮されていない。(2)突風 を受けたときロケットの姿勢は基準姿勢からずれるため、ずれをなくす姿勢制御系がロケットには組み込まれているが、その影響は考慮されていない。そこで上記(1),(2)が、ロケットの振動応答にどの程度の影響を与えるかを検討しています。現在までに得られた成果は次のとおりです。(1)に関しては、従来の解析方法による方が大きい振動応答が得られことから、突風外力の移動を考えない従来の解析法は、設計上は安全側であるとことがわかりました。(文献[1])
(2)に関しては、振動応答に姿勢制御系を組み込んだ解析を現在実施中です。姿勢制御系の特性値によっては姿勢制御系を無視した場合よりもロケットの応答が大きくなる結果(文献[2])が得られています。
遷音速で飛行するロケットに発生するバフェッティング現象の簡易シミュレーション法を開発しています。この方法はバフェッティングが発生したときにロケットに働く非定常空気力モデル(文献[3])を用いることにより、数値流体力学(CFD)を使わずに時間領域でバフェッティングを再現させることを目的としています。このためバフェッティングが発生する時のロケットの曲げ振動応答を再現する方法を開発中(文献[4])です。
図3に示す従来の使い捨てロケット(Expendable Launch Vehicle: ELV)の大気中飛行荷重解析には、梁モデルを用いた簡易な解析法(文献[8])が適用でます。しかし、図4に示すようなRLVの場合には、胴体部については従来のELVに適用されている梁モデルが利用できますが、翼構造については板状の構造であり、胴体との結合が不静定構造となり、結合部に作用する荷重を求めるには、機体全体の弾性変形を求める必要があります。しかし、多くの機体候補案の中から最適な案を選定する設計初期(概念設計)では、機体全体の弾性変形を解析するための設計図はまだ準備されていません。そのため、機体全体の弾性変形を計算することなく翼構造から胴体構造に伝達される荷重を簡易に解析する方法(文献[9],[10])を開発しています。

図3 ELVのモデル化

図4 スペースプレーンのモデル化
有翼再使用型ロケットの機体質量推算法を開発中です。推算法の考え方は、[2-1]に示した方法により求めた飛行荷重を使って、機体の主要構造体について簡易な強度検討を行い、必要な板厚を求めて機体構造質量を推算するという基本的・正統的な方法を用いて開発しています。
図4に示したような形態のRLVを対象にして、胴体構造と翼構造の簡易振動モデルを用いて振動特性を簡便に求める方法を開発しています。胴体構造には、従来の梁モデルを発展させた非対称梁モデルを開発(文献[12],[13])しました。翼構造に、Mindlin理論に基づくBatheの4節点板要素を用いたモデル化によるRLVの初期設計用の簡易振動解析法(文献[15])を提案済です。一般に主翼構造のコード方向の断面形状は上下非対称ですが、4節点板要素は対称要素であり、現状では主翼構造の非対称性を考慮することができません。そこで、4節点板要素を発展させた非対称板要素を開発中(文献[16])です。現在、開発中の非対称板要素をスペース・シャトルの主翼構造に適用して振動解析を行って精度を検証中です。
| 学 歴 | |
|---|---|
| 昭和47年 | 名古屋工業大学 生産機械工学科卒業 |
| 昭和49年 | 名古屋工業大学 生産機械工学専攻修士課程修了 |
| 学 位 | |
| 平成11年 | 東京工業大学 博士(工学) |
| 職 歴 | |
| 昭和49年 | 三菱重工業(株)名古屋航空機製作所 入社 |
| 平成 3年 | 同上 名古屋航空宇宙システム製作所(名称変更) 宇宙技術部 構造設計課 課長 |
| 平成 8年 | 同上 ヘリコプタ技術部 構造装備設計課 課長 |
| 平成 9年 | (株)ロケットシステムに出向 技術部 担当次長 |
| 平成11年 | 同上 技術部 担当部長 |
| 平成12年 | 三菱重工業(株)退社 |
| 研究歴 | |
| 平成12年 | 宇宙開発事業団入社 技術研究本部 招聘研究員 |
| 平成15年 | 宇宙航空研究開発機構(組織統合) 総合技術研究本部 システム評価技術グループ 主任研究員(招聘) |
| 平成17年 | 宇宙航空研究開発機構退職(招聘契約期間5年満了) |
| 職歴2 | |
| 平成17年 | 有人宇宙システム株式会社 入社 |
| 平成18年 | 有人宇宙システム株式会社 退社 |
| 平成18年 | 九州大学 大学院工学研究院 航空宇宙工学部門教授着任(12月) 現在に至る |
| 受 賞 | |
| 平成8年 | 日本機械学会 宇宙工学部門 平成7年度 業績賞 受賞 |
| 所 属・職 責 | 機 種 | 主 要 担 当 業 務 | |
|---|---|---|---|
| 昭和49年4月 | 三菱重工 名古屋航空機製作所入社 第一技術部 宇宙機器設計課配属 |
N-Iロケット | 1/2段分離解析、SOB(1)分離解析 |
| 昭和50年7月 | 同上、第二技術部 宇宙機器設計課 (所属部変更) |
N-Iロケット N-IIロケット |
同上、打上げ時の風の影響解析 全段システム設計、SOB分離解析、1/2段分離解析、大気中飛行荷重解析、全機振動解析、Coupled Loads Analysis、 強度解析、POGO安定性解析 |
| 昭和56年5月 | 同上、宇宙機器部(部新設) 設計課 | N-Iロケット N-IIロケット H-Iロケット |
同上 同上 同上、構造体開発設計(1/2段 段間部、ガイダンス・セクション、第2段エンジン・セクション) |
| 昭和58年4月 | 同上、設計二課(課新設) | N-IIロケット H-Iロケット |
同上 同上、環境条件解析 |
| 昭和60年4月 | 同上、構造設計課(課新設) グループ主任 |
N-IIロケット H-Iロケット |
同上 同上 |
| 昭和62年1月 (平成元年7月) |
同上、宇宙技術部(部名称変更) 構造設計課 (名古屋航空宇宙システム製作所に所名変更) |
H-Iロケット H-IIロケット |
同上 全段システム設計、構造体開発設計(第1段エンジン部、中央部、1/2段段間部、第2段機器搭載部、第2段タンク) |
| 平成2年4月 | 同上、構造設計課 主務 | H-Iロケット H-IIロケット |
同上 同上 |
| 平成3年4月 | 同上、構造設計課 課長 | H-IIロケット JEM(2)、HOPE-X(3) OREX(4) |
構造系全体 LE-7エンジンの不具合対策 |
(1),(2),(3),(4)の略語は表末の(注)に示す.
| 所 属・職 責 | 機 種 | 主 要 担 当 業 務 | |
|---|---|---|---|
| 平成6年4月 | 同上、計画課 主務 | JEM | プロジェクト管理 |
| 平成6年9月 | 同上 | HTV(5) | プロジェクト管理、システム設計 |
| 平成8年4月 | ヘリコプタ技術部に移動 構造装備設計課 課長 |
ヘリコプタ全機種 | 構造・装備全般 MH2000:機体構造不具合対策 SH60J改:SH60J大型化国産開発計画 |
| 平成9年4月 | 株式会社ロケットシステムに出向 技術部 担当次長 |
H-IIAロケット | 商業衛星打上げに関わるインタフェース技術調整 商業衛星用衛星分離部の開発管理 |
| 平成10年4月 | 同上、技術部、次長 | H-IIAロケット | 同上、管理全般 |
| 平成11年10月 | 同上、技術部、担当部長 | H-IIAロケット | 商業衛星打上げに関わるインタフェース技術調整 商業衛星用衛星分離部の開発管理 |
| 平成12年4月 | 宇宙開発事業団に入社 技術研究本部 システム評価技術グループ招聘研究員 |
H-IIAロケット、HTV, 衛星 | 衛星、ロケットの構造系要素技術の研究 ロケットの構造システム解析技術の研究 H-IIAロケットの独立検証、独立評価(プロジェクトから独立した設計検証、設計評価) プロジェクト(μ-Lab Sat, HTV, GX)支援 特別研究員(ポスドク)の指導 |
| 平成15年10月 ~平成17年3月まで |
宇宙航空研究開発機構に統合改組 総合技術研究本部 システム評価技術グループ主任研究員(招聘) |
H-IIAロケット、HTV, GX(6)ロケット、衛星 | |
| 平成17年4月 | (株)有人宇宙システム入社 熱・構造解析研究チーム、主幹技師 |
HTV, スペース・プレーン |
JAXA/HTV構造開発支援(コンサルタント) スペース・プレーン初期設計用の振動解析法の開発 |
| 平成18年4月~ 平成18年10月 |
(株)有人宇宙システム 宇宙エンジニアリング部、主幹技師 |
HTV | JAXAのHTV構造開発支援(コンサルタント) JAXAのシステムズエンジニアリング標準作成支援 |
(5),(6)の略語は表末の(注)に示す.
(注)
(1) SOB : Strap on Booster(固体補助ロケット)
(2) JEM : Japanese Experimental Module(宇宙ステーション日本実験モジュール)
(3) HOPE-X : H-II Rocket Orbital Plane Experiment(H-IIロケット軌道実験機)
(4) OREX: Orbital Reentry Experiment(再突入実験機)
(5) HTV : H-II Rocket Transfer Vehicle(宇宙ステーション補給機)
(6) 株式会社Galaxy EXpressが開発中のロケット