Cサイド2 行為の後の行為


 (※ローターH直後のお話です。椎視点)

 





 「玲二…」

 行為の余韻でまだ胸を上下させているのに、すでに意識のない玲二の頬に、俺はそっと手を沿わせた。

 その寝顔を見ながら、心の中で話しかける。

 

 もう夢の中だなんて、俺はせつないよ。

 

 玲二の中から自分のモノを引き抜き、埋められたままのローターのスイッチを切って、取り出した。

 ローターと一緒に、俺の出した精液がこぼれ出る。

 それをティッシュで受けて拭き取り、玲二の腹の上の精液も拭く。玲二が起きる気配は全くない。

 それからベッドを降りて洗面所へ行き、タオルストッカーから大判のガーゼを取り出すと、

 湯で洗うように濡らしてからギュッと絞った。

 一度広げて折りたたみ、それを持って玲二のところへ戻り、まず玲二の頬に残っている涙の跡を拭く。

 玲二を取り戻しに行ったときも、頬には涙の跡があった。

 拭きながら、それを思い出したら、同時にあの『かっぱ』のことを思い出してしまった。

 勝手に玲二に触れて、玲二を泣かせたかと思うと、腸(はらわた)が煮えくり返るような気がしてくる。

 

 今日の夕方。

 抜糸が済んだ玲二と、久しぶりに外で食事しようと思った俺は、クリニックから、気持ち急いで家に帰った。

 ところが、いる筈の玲二の姿は、そこにはなかった。

 不安になって、玲二の携帯に電話をかけてみたら、藤沢が出てふざけたことをほざき、

 俺は怒り心頭に発して奴の家に向かった。

 着いて呼び鈴を押すと、あいつが出てきて俺を見て、嬉しそうにした。

 俺がどんな気分で何をしに来たか、分かっているはずなのに、奴は歓迎して家に招きいれたのだ。

 「やぁ、ようこそ。何、今日は眼鏡なしなんだ。服装もいつもと違うね。俺の為に?」

 その時点で、俺はどうやら勘違いをしていたらしいということに気づいた。

 奴はてっきり玲二を好きなんだと思っていたが、そうではないようだった。

 でも、とにかく玲二を取り戻すのが目的だった俺は、「うっせぇよ」と呟いて、

 無断で靴のまま中へと上がりこんだ。

 「俺の下」

 なんて超ふざけたことを抜かしやがって、玲二を下に組み敷いていいのは、俺だけなんだよっ。

 と、かなり頭に来てムカついていた俺は、

 ためらうことなくズカズカと奥へ入って行った。

 すると、玲二がソファの上で眠っていて、もうそれを見ただけで何があったのかだいたい察しがついて、

 俺は自分の指先が冷たくなっていくのを感じた。

 さすがに奴が挿入したかどうかまでは分からなかったけれど、とにかく玲二が触られ、

 おそらくはイかされたと思うだけでふつふつと怒りが湧いた。

 振り向いて、奴に近づき胸倉を掴んだ。

 「俺のものに勝手に触んな」

 俺は睨みつけたが、藤沢は恐れる様子もなく不敵にニッと笑った。

 「しごいてイカせてやったら、すぐに寝ちまって揺すっても何しても起きやしない」

 それを聞いて、カッとなったところに加えて、奴は聞き捨てならないことを言った。

 「こんなつまんないののどこがいいんだ?」

 感情がザワッと波立ち、俺は掴んだ手をぐっと引き寄せ、奴を睨みつけたまま見下ろすようにした。

 こめかみに力が入る。

 「何だって?」

 「だから、これのどこがいいのかって」

 ブチッ。

 キレた。やつが全部を言い終わる前に手が出ていた。

 拳を握って、藤沢の頬を殴りつける。

 「お前に玲二の何が分かるって言うんだっ!」

 やつの体を揺らしながら、言い聞かせるように怒鳴る。

 「お前なんかに玲二の良さが分かってたまるかっ」

 言葉でどんだけ言ったって、分からせることなんかできない。

 それは承知していたけど、言わずにいられなかった。

 「玲二がどんなにスゲェか分かるのは俺だけなんだよっ」

 だけど、気づいたら藤沢は一発のパンチですでに気を失っていて、

 俺の言うことなんか全く聞いていなかった。聞けなかった。

 思いっきり殴ってしまっていて、ぐらんぐらんになっている藤沢に、俺は心の中で、あーあと思う。

 頭に血がのぼると、自分が馬鹿力だってことを忘れてしまう。

 俺は、奴の胸倉から手を離して、握っていた拳を開いた。

 大きな肉の塊が、ゴトリと床に転がる。

 こんなやつ、どうなったっていいと言いたいところだったが、俺は、一応奴が無事か確認して、

 無事だと分かると転がしたまま玲二を抱き上げて奴の家を後にした。

 奴のケアなんかしてやらない。俺の玲二に悪さをしたのだから、自業自得だ。

 俺はそう思いながら玲二を一階まで運び、車に乗せて、あの時家まで連れ帰ったのだ。

 帰る間、いつもはピクリともしないのに、玲二はうなされているみたいに時折俺の名前を呼んでいた。

 俺は運転しながら、胸が締め付けられるような想いを味わった。

 

 玲二の涙を拭き終わった後、俺はガーゼを裏返して、

 新しい綺麗な面で玲二の首筋を、それから胸の周辺を拭いた。

 そのあとまたガーゼの別の新しい面を表に出して、右腕に着いていた体液を拭う。

 階段から落ちたときに出来た擦り傷の痕に目が行き、玲二の手を取ってそこをそっと舐めた。

 なんで落ちたりしたんだよ。

 もうこんなことがないように、本当はどこかに閉じ込めてしまいたい。

 拘束して、一生俺のそばに置いて二人だけで暮らしたい。

 そこまで考えて、思わず笑う。

 思考がディープな方へ流れてしまった。

 そんなことが出来るわけない。

 それは、玲二にとって幸せなことじゃないに違いない。

 俺は、洗面所でガーゼを洗いなおすと、戻って玲二の足を拭く。

 玲二との行為が終わった後は、大抵玲二をこうして綺麗にするのだが、例のあの映画を見てから、

 この行為が儀式のように思える。

 ほら、あのアレだ。おくりびと。

 玲二に言ったら、いい気はしないだろうな。

 足を拭いている途中でいつも足首に口づけをしたくなり、両の足首に唇を何度も押し付ける。

 なんでこんなに、この足首が好きなのか分からない。分からないが、好きでたまらないんだ。

 早く夏にならないかな。そしたら玲二はくつ下を履かなくなって、素足解禁で靴もサンダルに変わって、

 毎日足首が見たいときに見られるのに。

 ただ、他のやつらにも見られるから、それがちょっと…玲二の足首は俺だけのものだ。

 いや、足首だけじゃなく全部だけど。

 

 俺はもう一度、ガーゼを洗って来て、今度は、玲二の腹から下を拭いた。

 汗や唾液や体液、そして精液で汚れたそこをゆっくりと丁寧に拭く。

 起きていたら反応してしまう箇所も、このときは変化を見せない。

 後ろのすぼまりの近くに、小さなほくろのような点がある。

 たぶん玲二からは見えない場所で、これを見るたびに俺は、玲二より玲二の体をよく知ってる、と思う。

 俺以外を知らない玲二が、玲二の体が、震えるほど愛しくなる。

 全部を拭き終わると、玲二にそっと布団をかけてやる。

 ガーゼを洗濯機に放り込んで、ベッドに戻って玲二の隣に潜り込み、玲二の前髪をかき上げる。

 玲二の髪は、少しかたくて真っ直ぐで、手にしっかりとした質感を与える。

 行為の最中には潤んで、俺を欲情させる瞳も今は静かに閉じられている。

 なかなか思い出してくれなくて、あんまり悲しくて、もう一度無理矢理…と考えたこともあったけど、

 やっぱりそれをするのは憚られて、

 出来なかった。

 

 玲二…思い出してくれて、本当に良かった。

 

 俺はのぞいた額と、それから唇に順にキスをしてから、玲二の方を向いて横になり、

 「おやすみ、玲二」

 満たされた気持ちで目を閉じた。

 

 

 

                                     了

 

 

 

 2010.05.13

 

 

 

 変態注意!!

 病気だ…

 おくりびとに関わった人と、おくりびとが好きな全ての人にスイマセンッ。

 これ、玲二が読んだら、卒倒するだろうなぁ。 web拍手です 押してくださると励みになります

 

 

 

 

 

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