君が好き






 抱きしめられたまま、ぼんやりと天井を見つめる。

 「全部、俺のせいだな」

 椎が耳元で呟いた。

 「ん」

 「お仕置きされるべきは、俺の方だよ」

 「……」

 何が言いたいんだろう。

 俺は、眉間にしわを寄せた。よく分からなくて、

 「お仕置き、されたいのか?」

 と聞くと、椎が離れて、戸惑っている感じで、

 「えっ…したいの?」

 俺を意外そうに見る。

 俺は首を傾げた。それから、「お前は…」と切り出す。

 「もう人前でキスとかするな。お前はモテるんだから自覚を持て」

 突然何を言い出したんだろうという表情をした椎だったが、

 言われていることの内容に、少ししゅんとなった。

 「…そうだよな…今回のことだって、そのせいで怪我したようなもんだよな」

 申し訳なさそうな顔をして、謝る気配を見せているので、俺は間髪入れずに、

 「謝んなっ。謝らなくていいから、俺は、人前でキスとかそれ以上とか、

 しないって約束して欲しいんだよ。それだけなんだよ」

 と強く言う。

 「だいたいお前は、自覚が足りない。人前でキスとか、人前でキスとか、

 しないって約束して欲しいだけなんだよ」

 「……」

 「お仕置き、終わり」

 なんか嬉しくなってヘラッと笑うと、椎が驚いた顔をした。

 「え…今のお仕置き?」

 聞かれて、何かが変に思えて来て、むーっとしながら考える。

 あれ、お仕置き?お説教?何がしたいんだっけ、俺。

 「お説教だろ?」

 と言うと、椎は、キョトンとした後、おかしそうに笑って、

 「分かった。約束する」

 了承し、俺の手を掴んで指先に口付けた。

 「じゃあ、その代わりに家で、もっとしたいんだけど」

 「何を?」

 「キスとエッチ」

 そう言うと、椎は、唇を重ねてきた。

 「んっ」

 短いキスの後、椎が離れて、今度は俺の鎖骨の辺りに口付けを落とす。

 唇を押し付けるようにした後、ちゅっと音をさせて離れる。

 それを繰り返しながら、上半身全体に落としていく。

 「酔ってる玲二の肌、いい味」

 椎は、口付けしつつ、時々味わうように肌を舌で舐めた。

 感覚がいまいち鈍いけれど、それでも、ちょっとずつ気持ちよくなってくる。

 「ん…」

 首の近くを吸われて、くすぐったくて身をよじると、椎は今度は乳首を口に含んだ。

 それと同時に熱くてたまらなくなってくる。

 体も椎の口の中も熱い。

 「んー、熱い」

 目を閉じて眉根を寄せる。

 椎は胸から顔を上げ、離れてしばらく俺を観察するように見下ろしていたが、

 やがて俺から降り、隣に横になった。

 手を伸ばして、俺の左手を取って指を絡める。

 その後、椎はずっと俺の指先を握ったり摘んだり擦ってみたりして、弄り続けていた。

 なんだろう。指を触る感触が気に入ったのだろうか。

 …気持ちいいからいいけど。

 俺は、働かない頭で、されるがまま手を預けて横になっていた。

 

 

 いつの間にか眠っていて、俺はトイレに行きたくて、目が覚めた。

 格好は、眠る前と同じで、上半身裸で下はズボンを履いている。

 隣に、椎はいない。

 トイレで用を足していると、自分の体と口から強烈な酒臭さを感じて、げんなりした。

 口の中をスッキリさせたくて、洗面所で歯を磨いてから居間に行ったら、

 椎がソファで本を読んでいた。

 置いてあったシャツを着て、椎の後ろを抜け、台所の冷蔵庫のところまで行き、お茶を飲む。

 椎の方を見ると、奴もこっちを見ていて、唐突に、

 「酔ってる玲二って、絡みにくい」

 と言った。

 そんなこと言われても、知るかよ。

 だいたい、どんな受け答えをしたかも、よく覚えてない。

 ただ、目覚めはスッキリしていて悪くない。

 酔っ払っても割りとすぐ酒が抜けるようで、自分がそういう体質なんだって分かったことは収穫だったかも。

 「俺は酔わせろなんて言ってないし、勝手に人に酒を勧めておいて、文句言うって、どうなんだよ」

 俺が返すと、

 「でも面白かったし、念願叶って一緒に飲めたから、嬉しかったな」

 椎は笑みを浮かべて、感想を口にする。

 それを聞いて、俺は苦笑いを浮かべた。

 お前は、酒酌み交わしたくて、息子が二十歳になるのを心待ちにする親父か?って、俺、まだ十九だし。

 あー、ほんと、まだ二十歳前なのに、酒飲んで酔っ払って…駄目だろ。

 自分で駄目出ししていると、椎が、読んでいた本を俺に見せるようにして高く上げた。

 「今度旅行行こうか。玲二の誕生日の記念に」

 奴の手にしている本に目を凝らすと、それは旅行ガイドだった。

 「神戸、行ったことある?」

 パッと見では分からなかったけど、どうやら神戸のガイドブックらしい。

 俺は首を振った。

 「ない」

 「神戸で宿とってもいい?」

 「…いいけど」

 旅行なんて、初めてだった。

 よく考えてみれば、なんでもやりたがりの椎と、まだ旅行に行ってないなんて、

 ちょっと不自然に思えるくらいの遅さだ。

 なんで今まで、行こうと思わなかったんだろう。

 「日にちを決めないと。二人が二日間フリーになれる日は…」

 椎が自分の手帳とカレンダーを持ってくる。

 旅行は一泊二日のようだった。

 お互いに休めて、宿が取れそうな日にちを探したら6月下旬に決まる。

 「でも、梅雨時だから雨に降られるぞ」

 「大丈夫だよ。俺、昔から行事とかで雨に降られたこと、ほとんどないから」

 椎が自慢げな口調で言う。どうやら、天性の晴れ男らしい。本当だろうか?

 思い返してみれば、確かに椎と出かけたとき、雨が降っていた記憶がない。

 「だけど、なんで神戸なんだ?」

 「俺は、玲二と歩けるならどこでもいいんだけど…ちょっと綺麗な街とかいいかなぁと思って。

 玲二が他に行きたいとこがあるなら、そこでもいいよ」

 俺は、今行きたい場所を考えてみたが、これといって浮かばなかった。

 「神戸でいいよ。どんなとこか知りたいし」

 椎は、笑って頷くと、本の続きを読み始めた。

 「楽しみだなぁ。旅行」

 嬉々としてそう呟くと、そのうち立ち上がって、パソコンでも神戸のことを調べ始める。

 「下調べを完璧にして行くと、旅行はつまらなくなるって、この間テレビでやってたぞ」

 こういうときの椎の集中力の半端なさを知っている俺は、余計なことかもと思いつつ、声をかけた。

 「ほどほどがいいんだって。土地の人に聞いたりして探しながら歩いた方が印象に残るから」

 椎は、俺の言葉に、パソコンの画面から目を離して、ちょっとだけ何か考えるようにしたが、

 「じゃ、観光情報はほどほどにする。…でも、泊まる場所にはこだわりたい」

 そう言って、結局、その後もパソコンと向かいあっていた。

 

 

 俺は、今回のことで、ちょっと気になっていることがある。

 それは、椎が、自分に想いを寄せてくれる人に対して、ちょっと冷たいんじゃないか、ということ。

 先輩はともかく、畠中に対して、とか。

 高校時代のことは知らないけど、告白してきた女の子たちに優しくしてるところも、あんまり想像できない。

 以前『平気で断ってた』みたいなこと言ってたし。

 誰かを想って、その相手に対して告白するって、すっごい勇気のいる事だって気がするのに。

 夜。俺は、ベッドに入って来た椎に聞いてみた。

 「俺、モテないから分からないけど、告白されるってどんな感じ」

 すると、椎が笑う。

 「告白、されたじゃん。俺に」

 「そ、そうだけど…って、俺の気持ちじゃなくて、お前がどう思うのかが聞きたいんだよ。

 高校の頃とか、告られてどうだった?」

 俺が言うと、椎は「うーん。そうだな」と思い出すように上目遣いをして、

 「好みの子なら、まあ嬉しかったし、そうでなければ別にこれと言って何も思わなかった、かな」

 と簡潔に答えた。

 「何も思わないんだ。相手の子、ものすごい勇気を振り絞ってるかも知れないのに?」

 椎が目を丸くする。それから、目を細めてふっと息を吐いた。

 「相手の気持ちを考えろってこと?俺、女の子に告られて断るときは、優しく断ってたけど」

 「じゃあ、畠中には?」

 「あいつにだって、忘れてはいたけど、そんなに冷たくした覚えないよ」

 「でも前、告白を平気で断ってた、みたいなこと言ってたよな」

 「あれは言葉の綾で、別に切り捨てるみたいにして断ってたわけじゃない。

 それに、断る相手に、そんなに優しくしたってしょうがないだろ?」

 俺は、それを聞いて黙った。

 なんか、目からウロコって言うか、ハッとした。

 そうか。…言われてみれば、そうかも。

 断るのに、優しくする方が酷なのかも知れない。

 下手な期待持たせても、応えられるわけじゃないんだし。

 俺の考えは経験が足りない、浅はかな考えだったのだろうか。

 そんなことを頭で巡らしていると、椎が横から俺を見つめて、

 「玲二は、俺が他の誰かに優しくしてもいいんだ?」

 と聞いてくる。

 「そ、そういうわけじゃ」

 それも嫌だけど。…それも嫌だ。

 って、うわっ、俺、すげぇ勝手かも。

 自分の身勝手さを痛感していると、

 「俺も聞きたいことあるんだけど」

 と椎が言う。

 俺は、「え」と椎に顔を向けた。

 「どうしたら、玲二は俺に焼きもち焼いてくれるんだろう」

 は?

 「焼きもち焼く玲二が見たいんだけど…浮気したら、焼いてくれんのかなぁ」

 俺はポカンと口を開けて、奴の顔を眺めた。

 悪いけど、その思考は俺には理解不能なので、なんとも答えようがない。

 「う…浮気って」

 なんでこいつは、わざわざ二人の仲を危うくするようなことを考えるんだ?

 俺は、なんだかムッと来て椎を見た。

 「そんなことが理由で浮気したら、俺、許さないからな」

 俺は、そういう実験みたいな、人を試すようなことは好きじゃない。

 椎が笑って、

 「分かってる。しないよ。…それくらい好きだってこと」

 そう言いながら、でも何かが足りないような、ちょっと寂しげにも見える表情を浮かべる。

 それを見て、俺は思った。

 どうして俺より賢くて、しっかりしてるように見えるのに、そういうことを考えるのかな。

 時々すごく不思議に思えるようなことを言ったり考えたりするよな。

 ひょっとして、どんだけ言っても分からないのは、椎の方なんじゃないかと思える。

 俺は、フーッと一つ大きく息を吐く。

 「俺、素っ気なく見えても本当はそうじゃない、ってお前は知ってるんだろ」

 畠中は知らなくても。

 俺の言葉に、椎が不満げに返す。

 「そうだけど、でも、俺の場合、玲二に誰かが近づくのを見ると、本当に焼け焦げるんじゃないかと思うくらい、

 アツくなるのに、玲二はちっともそういう感じじゃないから」

 椎がそう言うのを聞いて、俺は笑った。

 焼け焦げちゃうのか、お前は。

 俺は、体を椎の方へ向ける。

 「バカだな。焼きもちなんかぜんぜん焼く必要ないのに」

 手を伸ばして、椎の前髪をかき上げる。

 「椎が思ってるより、俺、ずっと椎のこと好きなんだけど」

 少し照れくさいけど、言ってしまう。

 「椎の記憶がなかったときの自分と、記憶が戻って俺のなかに椎がいる今とでは、

 俺、自分が別人かと思うぐらい違う」

 髪をかき上げた手を、椎の頬に持っていき、俺は続けた。

 「今の方がずっといい。椎がいると思うだけで、嬉しくてあったかい気持ちになる」

 ひょっとしてムズがゆいこと言ってるかも、と頭のどこかで思いつつ、

 「これって、椎のこと、すごく好きってことだよな」

 椎を見つめつつ告げる。

 椎は、俺の顔をじっと見た後、ギュッと抱きしめてきた。

 「俺、玲二のことスッゲェ好きなんだけど、知ってた?」

 「その質問は、前にもしただろ」

 「うん。で、知ってた?」

 「…知ってる」

 しつこいよ。

 とちょっと思っていると、

 「じゃあ、玲二のどこが好きか、知ってる?」

 と続けて聞く。

 俺は、椎が先輩の前で言ったことを思い出して、顔を歪める。

 「俺に、言えってのか?」

 椎が嬉しそうに「うん」と頷く。俺は目を逸らした。

 「ぜ、全部…なんだろ」

 言わせんなよ。恥ずかしい。

 なんか顔が熱くなってきて俯く。

 椎は、笑いながら「当たり」と呟いた後、

 「この口が好き」

 と言って、俺の顔をグイッと自分の方へ向けさせ、唇を重ねてきた。

 舌を差し入れられ、

 「ん…ふっ」

 絡めあっているうちに、気持ちよくなってくる。

 口が、と言うより、キスが、好きなんじゃないか?

 と、思いつつ椎の舌の動きに応えていると、離れて、奴が言った。

 「上手くなったよね」

 椎は前に、経験を重ねて欲しくないようなことを言っていた。

 ということは、上手くなったから嫌だと言いたいのだろうか。

 それとも、俺の方がやらしいってか?

 「何が言いたいんだよ」

 ちょっと睨むようにして見ると、

 「深い意味はないよ。ただ、気持ちいいなぁと思って」

 と笑って言い、

 「ねぇ、俺の舌、吸って」

 と舌を俺の方へ向かって出してくる。

 俺は一瞬戸惑ったが、目を閉じて顔を寄せ、それを吸った。

 「んっ、ん」

 なんだか、椎のモノをしゃぶっているような気がして、興奮して来る。

 まるでフェラをするように椎の舌を咥えたり、舐めたりしていたら、すごく感じてきた。

 舌を放して唇を合わせ、椎の頭を抱えて舌を入れ、奴の口の中を舐める。

 椎が俺の舌を追うようにして、自分の舌を押し付けてくる。

 「ん…ふっ」

 どちらからともなく声が漏れる。長いキスの後、椎が、はあっと甘い吐息を吐いてから、

 「ここも好き」

 そう言いながら俺のパジャマのボタンを外し、胸元を開けて乳首に指で触れてきて、ビクッとする。

 「あっ」

 キュッと摘まれて、刺激が腰にくる。

 「ここも」

 と、今度は首すじに吸い付いてくる。

 くすぐったさと気持ちよさの混じった感覚が背筋を駆け抜けて、

 「んっ」

 首を竦める。

 「くすぐったい?」

 椎は笑った後、残りのボタンを外して前を全開にすると、

 触られたせいで立ち上がった胸の突起に顔を寄せ、唇で挟むように咥えて、表面を舌でチロチロと舐めた。

 「ああっ、んっ、あっ」

 甘い疼きが体を駆け巡って、背中を反らすと、椎が手を俺の股間へと伸ばす。軽く触れて、

 「いいの?」

 椎がそう聞いたそこは、とっくに硬く勃ち上がっていて、それだけで腰がガクッとなった。

 「ここも好き」

 「あ」

 スルリと手が下着の中へと入り込んで来て、それを握られ、ビクッと体が揺れる。

 次から次へと、あちこちを愛撫され、体が疼いて我慢できなくなってくる。

 「…欲しいの?」

 「あ、んっ…欲しい…っ」

 それを聞いて、椎が俺のモノから手を放して、ズボンと下着を脱がした。

 「すごいね。もうこんなになってる」

 椎は、先走りの溢れる俺のモノを見て嬉しそうに言うと、俺の足を持ち上げて、足首にキスをする。

 「ここも、大好き」

 「あっ、ああっ、椎、早く」

 それから、椎は自分の着ているものを全部脱ぐと、俺の体を覆うように乗ってきて、

 自分のモノを俺のモノに押し付け、耳元で囁く。

 「触って欲しい?入れて欲しい?」

 触られたら、イってしまう。

 こうして体が合わさっているだけで、どんどん気持ちよくなってきているのに。

 後ろの中が熱くなって来て、椎のモノを狂おしいほど待ちわびているのを感じる。

 「は、早く…」

 「早く、何?」

 椎が、俺の口から言わせたいのか、さらにグッと押し付けてくる。

 「や、ああっ」

 それだけで、イってしまいそうな感覚が背筋を走り、椎が慌てたように腰を浮かせた。

 「今日、すごく感じてるね」

 驚いた顔でそう言った後、ローションを手に取って指に馴染ませ、その指を俺の後ろへと挿入した。

 奥までググッと進められて、

 「んっ」

 俺のモノがヒクヒクと震える。

 椎が数回出し入れをした後、指を抜き、

 「入れるよ」

 自分の既に勃ち上がっているそれを、俺の後ろのすぼまりにあてがった。そして、

 「ここも、すっげぇ好き」

 そのままグッと力を入れ、押し入ってくる。

 「はっ、ああっ!」

 俺の中を押し開き、奥までいっぱいにしてから、椎が腰を前後に振り始める。

 「どこもかしこも、全部好き」

 椎が俺の肩口に手をついて、上から見つめる。

 結合部から、俺と椎が繋がっていることを知らせる卑猥な音が聞こえ始める。

 「あっ、あっ、椎」

 椎のモノに貫かれながら、たまらなくて

 「好き」

 と言うと、椎が顔を寄せた。

 「玲二、もう一回言って」

 ハッ、ハッと荒い息を吐きながら突き入れつつ、椎が要求してきて、俺は椎の首に腕をまわした。

 「好きっ。ハッ、ああっ」

 「俺も、大好き」

 椎が俺を抱きしめて、突きのスピードを速くする。

 「マサユキ、ああっ!」

 体中を快感が満たして、後ろが椎のモノを締め付ける。

 「あっ、あっ、イくっ」

 「玲二、俺も」

 気持ちよさで何も考えられなくなり、次の瞬間、俺は大声をあげて達していた。

 同時に椎のモノも中で弾けてビクッビクッと脈打ち、

 椎は俺の方へと上体を倒して体を重ねるようにした。

 少しの間そうしていた後、椎が自分のモノをゆっくりと引き抜いて、隣に横になると、

 ティッシュを取って、俺の腹の上の精液と後ろからこぼれ出るそれを拭いた。

 「椎」

 処理が終わって、もう一度横になった椎に呼びかける。

 「ん?」

 棚に置かれた椎の眼鏡を指差して、

 「旅行の時、眼鏡かけること」

 と言うと、奴は「えー」という表情をした。

 知らない土地だからって、眼鏡外して羽根伸ばす気でいたな。

 「お前は、モテるんだから、自覚を持て」

 軽い眠気に襲われつつそう言うと、椎がちょっとつまらなそうにしながらも、

 「分かった」

 了承して抱きしめてきた。

 そうして、俺の左手に自分の左手の指を絡める。

 俺の指を触りながら、

 「俺は玲二にだけモテればいいんだけどな。…玲二がいてくれれば、それでいい」

 まるでモテることが残念なことであるかのような口調で言って、その後絡めた指に力がこもった。

 「椎…」

 俺も、同じようにして力を込め、重ねた手を胸に押し当てる。

 愛しさが湧いてきて、なんだか泣けてきそうになった。

 眠ってしまって、力が緩んでも、ずっとこの手を握っていて欲しい。

 「愛してる」

 椎が呟くのが聞こえ、俺は押し寄せる眠気を感じながら笑って答えた。

 「俺も」

 一度に何度もの絶頂を迎えられないもどかしさを感じながらも、

 一回ずつ大事に抱き合って、この日々は続いていく。

 「おやすみ、玲二」

 「おやすみ、椎」

 俺は、手を胸に押し当てたまま、安らかな、そして幸せな気持ちで、目を閉じた。

 

 

 

 

                      了

 

 

 

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 あとがき

 

 この作品はフィクションです。

 実際にはあり得ないシーンが、多々描かれているかも知れませんが、

 ツッコミを入れることなく、ゆるーい目で読み流していただけると大変ありがたいです。

 「一人きり…」を書き終えたとき、上手い具合にまとまったので、続きを書く気はなかったのですが、

 しばらくして「これを投入すれば、この二人、もっと盛り上がるかも」と、例のアレを使用することを思いつき、

 「一人きり…2」を書き始めました。

 でも、事件解決後のまとめ方に迷いまくって、後の方はかなりキツかったです。

 長いことお待たせしましたが、とりあえず、完結出来て良かった…(ホ)

 また気が向いたら番外編等を追加するかも知れませんが、これで「一人きり…」シリーズは完結です。

 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 besten dank(サンキューベリマッチ)。

 2010.06.25 web拍手です 押していただけると励みになります    番外編「トラベリング」前編へ