C'sトイ
椎の家に行くと、奴が出迎えてくれた。眼鏡はかけてない。
「おかえり」
首を傾げるようにしてそう言うと、歩み寄ってきて俺を抱き締める。
「ただいま」
気持ちよくて、俺も抱き締め返したが、
このままエッチに突入というのはなんとなく嫌なので、キスが来る前に奴を離れた。
椎も俺の性格はよく分かっているという感じで、
迫ってくることもなく笑って俺の着ている服を見る。
「そのシャツ、よく似合ってる」
俺が今着ているこのシャツは、実は椎の服だ。
着替えを持たないまま泊まってしまって、
着て来たシャツはあの行為で汚れていたし皺だらけになっていたので、奴に借りたのだ。
「ああ。助かったよ」
ちょっとだけ袖が長い。椎の方が腕が長いんだな。ま、身長差が6センチくらいあるし。
ふとソファに目をやると、俺のシャツがたたんで置いてあった。
手に取ると、いい匂いがして、なんだかパリッとしている。
「洗濯してくれたんだ。ありがとう」
「アイロンもかけといた。
あ、俺のシャツは脱いで洗濯機に放りこんでおいてくれればいいから」
借りた上に、洗濯してアイロンまでかけてもらってそれでは悪い気もしたけど、
俺はアイロンなどかけた事がなく同じ事は出来そうにないので、そうさせてもらうことにする。
「悪いな」
「いいって。それより飯、食うんだろ?」
「ああ」
椎は、台所の方へ行ってエプロンをつけ、急須にお湯を注ぎ始めた。
それから汁物や煮物を火にかけて温め直す。サラダを冷蔵庫から出してくる。
俺は、その手際の良さに呆気にとられた。
テーブルに、次から次へとおいしそうな料理が並ぶ。
「これ、全部椎が?」
「え?ああ、うん。今日は初めてだから気合入りすぎちゃって
…ちょっと作りすぎだったかな」
テーブルの上を見渡して、感心する。
見た目もセンスがあるし、匂いも相当うまそうだ。
なんか、できた嫁さんをもらったような気分になる。
シャツのことと言い、一体全体どんな育ち方をしたら、
こんなにキチッとすることができるんだろう。
「さあ、食べよう」
用意が整ったのか、椎が俺を食卓につくよう促した。
俺は椎の向かいに腰掛けて、「いただきます」と言った後、まずお茶をすすった。
熱くて苦い、俺好みのお茶が入っていて、俺は椎を見つめた。
『もう頑張らないことにしたから』
椎が言っていた言葉を思い出す。
どう見てもかなり頑張っているようにしか思えないのだけど。
「うまいだろ?」
奴が得意げに笑った。
「ああ」
俺はせっかくの椎の心遣いに水をさすべきじゃないと考えて、何も言わずにおいた。
「家にいた時も、料理をしてたのか?」
食べながら椎に聞く。
「ああ。うん。うち家政婦さんがいるんだけど、その人と一緒に作ったり、
一人のときにパパッと簡単なものを作って食べてた。割と好きかな」
「へぇ」
家政婦さん、か。金持ちは違うな。でも、今の言い方だと母親の存在を感じない。
「おふくろさんは?」
「俺を産んですぐに、離婚して出ていった」
「あ…そうなんだ」
悪いことを聞いたかと思ったけれど、椎は気にしないふうで、もっと衝撃的な事実を告げた。
「親父が悪いんだけどね。ゲイのくせに俺の母親と結婚したんだから」
「えっ!」
俺は驚いて、箸を持つ手の動きを止めた。
例の歯医者の先生が脳裏に浮かぶ。
物腰の柔らかな優しいあの先生がゲイっ!?
言われてみれば、それっぽい色気のようなものは、あったようななかったような…
でも、しっかりしてる感じだったし、キリッとした表情でスタッフに指示も出してたし、
男前だったし、とても信じられない。
決してオカマっぽくはなかった。って、オカマとゲイは違うか。
「俺の爺さんに後継ぎを作るように言われて、手近な女性と一緒になったんだ。
しょうがない奴だろ?俺の母親は男と浮気する親父に、愛想尽かして出てったってわけ」
なんか漫画やドラマの世界のような話に、どう返していいか分からない。
「おふくろさんは、知ってて一緒になったのかな」
とりあえず湧いた疑問を口にする。
「さあ…でも、知ってたら一緒にならないだろう?普通」
「そうだよな」
俺は黙り、止まっていた手をまた動かした。
味噌汁の椀を手に取ってすする。
父親がゲイだったせいで、母親が出て行ってしまった。
ということは、父親のことは好きじゃないのだろうか。
好きじゃなかったとしたら、父子二人暮らしはキツイだろうな。
でも…。
俺は、食べながら椎を見つめた。
自分もこうして男と付き合って一緒に過ごしているのだし、歯医者を手伝っていたし、
継ぐかも知れないとも言っていた。
「じゃあ、椎は今まで親父さんと二人で暮らして来たんだ」
綺麗な箸使いでサラダのレタスを口に運んでいた椎は、
上目遣いで考えるようにしてから複雑そうに眉を寄せた。
「二人って言っても、家政婦さんもいたし、
親父の恋人も出入りしてたし…二人きりではなかったな」
「そうか。でも家政婦さんがいたのに、料理も洗濯も出来るようになるって、逆に凄いな。
俺なんか家にいた頃は何にもしなかったぞ」
「玲二はお母さんとお祖母さんとの三人暮らしだろ?なら出来なくても普通だよ。
俺は、なんでもやってみたがりだから」
またしても箸が止まる。
お前、そんなことまで調査済みなのか。
「母親がいれば、大抵の男は料理しないもんだろ?」
「ああ…そうかも知れない」
という事は、俺が早くに父親を亡くしてるってことも知ってるってことだな。
……。
まあいいか。それならそれで話もしやすい。
「椎は親父さんのことはどう思ってるんだ?」
奴は首を傾げた後、照れくさそうに笑った。
「嫌いじゃないよ。ゲイだってことだけは嫌だったけど、
仲良くやってきたし今でも結構仲いい方だと思う」
俺はそれを聞いて、相槌を打った。
そうか。そうだよな。
好きだから家を手伝ったり継ぐ気になれるのだろう。
あの先生は本当にいい人そうだったし。
おふくろさんとのことは、どうかなと思わないでもないけど。
それも人んちの事情で、俺が口を突っ込むことじゃない。
「ゲイだってことは嫌だったんだ?」
俺はそこにちょっと矛盾めいたものを感じて、聞いてみた。
今こうして俺と付き合ってんのに。
「うん。それはやっぱり母親が出てった原因だから…そこだけは反発してたな。
『遺伝』の一言でお前もそうだろ、みたいに見られるのも嫌だったし、
俺は自分は絶対ゲイじゃないと思ってた…思ってたっていうか思おうとしてた」
「…ふーん」
「だから結構早い時期から女の子と付き合い始めて…でも彼女達とヤってもよくなかった。
ちゃんと勃つんだけど、気持ちよくならないんだ」
「こらこら」
今、食事中。
生々しくて、またしてもこっちが恥ずかしくなってくる。
そう言えば、女の子と結構たくさんエッチしたことがあるって、言ってたよな。
椎は、『絶対ゲイじゃない』と意識しながら以前は異性と付き合っていたわけだ。
…ここ、妬くとこか?でもそんな気にはなれない。
そう意識して付き合ってること自体、変といえば変だし。
「それでもゲイだとは思いたくなかった。クリニックで玲二に会ってトキめいたときも、
最初のうち俺は自分の気持ちに気づかないふりしてた。
だけど、それからもどんどん惹かれていって…どうしようもなくなってからは、
もう仕方なく認めた。認めるのに一年くらいかかったかな」
「……」
「それからは親父にも話して、女と付き合うのもやめた。
それで実際ヤってみて、自分が玲二じゃないと気持ちよくなれないってことも分かった」
「……」
「でも俺は今でも、厳密にいうと自分はゲイじゃないとどこかで思ってる。
玲二以外の男にトキめいたことってないし、玲二だから好きになったんだ」
「ちょっと待て」
俺は、語りに熱がこもり始めた椎を制した。
だんだんムズムズして来て、食べてるものの味が分からなくなってくる。
このまま喋らせたら、何を言い出すか分からない。
下手すると食事を中断する事態になってしまう恐れがある。
椎は、喋りを中断させた俺が何を言うかと待っている。
本当は椎の喋りをやめさせたかっただけだけど、聞きたいこともあったので口にしてみた。
「親父さんに言ってあるのか?俺たちがその、そういう仲になったってこと」
椎は「え」という表情をした後、嬉しそうに笑顔を浮かべて、
「ああ」
首を縦に振った。俺は黙って俯いた。
うわぁ。あの先生に知られてるんだ。
「親父は俺たちのこと応援してくれてる。今では一番の理解者だよ」
椎は、心強い味方ができたように言ったけど、俺はあの先生に全部知られてると思ったら、
冷や汗が出る思いがした。
料理はみんなおいしくて、ほとんど全てが完璧なんじゃないかと思えた。
完食の俺の皿を見て、椎がすごく嬉しそうな顔をする。
「どうだった?」
「うまかった。料理屋にも負けてないと思う」
椎の目がこれ以上ないというくらい嬉しそうに、キラリと輝いた。
「と俺が言ったからって、さらに頑張るなんてことはしなくていいからな」
「え」
驚いたように俺を見る。
「だいたいそんなに頑張られたら、初心者の俺が交代で飯作れなくなるだろうが」
「そんな。玲二は作らなくてもいいよ。俺が作るから」
やっぱりこれからも頑張る気でいたらしく、肩透かしを食らったみたいな顔をする。
「俺もちょっとしたものくらい一人で作れるようになりたいんだ。
でも悪いけど、俺が作るときはチャーハンとかそんなもんだからな」
それだって、うまく作れる保証はない。
椎は、ものすごくがっかりしたような、残念そうな顔をしている。
そんなに作りたいのか。世話好きって言ってたけど、よっぽどなんだな。
尽くすタイプだよ。椎が女だったら良かっ…
そこまで考えて、その考えを打ち消す。
それは言っても始まらないし、言うべきことじゃない。俺も絶対言われたくないし。
「分かった」
沈んでいるように見えた椎が、急にキリッとした表情になって顔を上げた。
それから立ち上がって、空いた皿を重ね始める。
「俺、その分セックスで頑張るよ」
「なんでそうなるんだよ」
俺は、奴の突飛な考え方に思わず笑った。
何を言い出すかと思えば。まったく。
俺も椎に倣って立ち上がり、皿を重ね、シンクの方へと運んだ。
「洗うよ」
椎がやっていたようにエプロンを取って身に着け、洗剤をスポンジにつけて泡立てると、
「じゃあ、俺は拭いてしまう」
と言って、奴は布巾を手にした。
俺が皿を洗い、水切りカゴに置く。椎がそれを拭いて食器棚にしまう。
それの繰り返し。
やっているうちにだんだんリズムが出来てきて、二人でどんどん片していったら、
後片付けはあっと言う間に終わった。
家で一人分を片付けるとき、結構手間だと思っていたのに。なんか楽しかった。
俺がエプロンを外して、テーブルに置こうとしたら、椎がその手を掴んだ。
「な、なんだよ」
椎を見ると、真面目な顔で言う。
「今度裸にこれ着けて料理してよ」
俺は、奴が何を言っているのか瞬時には理解できなくてポカンとした。
裸にエプロン…?
自分がその姿をしているところを想像して、頬がかぁっと熱くなる。
「バ、バカ。そんなのするわけないだろ」
「なんで。超興奮するよ」
言いながら、俺の手を引き寄せてそのままギュッと抱き締める。
「椎…っ」
「ヤりたい」
俺の耳元で囁いた後、首筋にフッと息を吹きかける。
俺は、ビクッとなって目を閉じた。
「まだ…食ったばっかだろうが」
「食ったばっかだから腹ごなしの運動するんだよ」
きっと、どう言おうと切り返されてしまうんだろうな。
そんなことを考えていたら、椎が俺の顎に手をかけて唇に唇を重ねてきた。
椎の舌が差し入れられて、俺の口中を舐め回す。
同じものを同じように食べて、同じように消化されているだろう椎の体と、俺の体。
俺の体だけ急激に熱くなっていってる気がするんだけど、椎もそうなのだろうか…?
「んっ、んっ。あっ、ふ…」
ねっとりとした長いキスに、唇を離そうとすると、また塞がれる。
「ああ…んっ、も、椎…ん」
自然、息遣いが荒くなり、体が痺れにも似た浮遊感に包まれた。
足から力が抜けそうになる。
「玲二、まだ始まったばかりだよ」
椎が少しかがんで、俺の膝の裏に手を入れたと思ったら体が浮いて、抱きかかえられる。
えっ、えっ。
「ちょっ、椎、自分で歩けるから」
これは俗に言うお姫様だっこ…?
俺はなんか恥ずかしくて焦ってジタバタしたが、奴は降ろしてくれなかった。
それにしても軽々と…俺、結構体重あるぞ。
「わっ」
椎がベッドの方へと足を踏み出した途端、つまづいてこけそうになり、
俺は思わず奴の首に抱きついた。
首に回された手と俺を、椎が企んでいた表情で見ながらニッと笑う。
なっ、今のつまづきは、わざと…?
俺は唖然とした。
だとしたら…ビックリだ。まんまとしがみつかされてる。
いろいろと参考になるよ…
そのままベッドまで連れて行かれ、降ろされる。
椎が上に乗って、俺の服を脱がして行く。
シャツの前を全部開くと、奴は首筋を眺めて、
「だいぶ薄くなってきたね」
そこに軽い口づけをした。
「あっ」
くすぐったさと気持ちよさに首をすくめる。
薄くなったって…
「キスマーク…?」
俺が聞くと、顔を上げた。
「そう」
ああ。良かった。
と思ったら、椎が不敵に笑う。
「また付けとこうかな」
「バ、バカ。これで襟付きのシャツ以外も着れるってのに」
「だって、俺のだから。印つけないと」
い。嘘だろ?
でも、奴は言い終わるが早いか、そのまま首筋に再び口づけをして、本当に遠慮なしに吸った。
「あっ!」
何度吸われても首筋だけは、感じるというよりくすぐったくて我慢出来ない。
俺は、その感覚から逃れようと、椎を押しのけようとしながら思い切り首を振った。
離れるものかという感じで、椎が余計に吸い付いて来て、体がブルブル震える。
「ほら付いた」
やっと首筋を離れて、それを見た奴が満足そうに呟いた。
俺はそれだけですごく疲れた気がしてゲッソリする。
バカ椎。
睨んでやると、愛おしいものを見る目で見返してきた。
「だって玲二は俺のだから。いいだろ?一つくらい」
何が『だって』だよ。ふざけんなよ。
と思いつつ、
「ん」
また唇を塞がれると、気持ちよくなってしまう俺も俺だよな。
椎が離れて、ベッドの下に手を入れ、いつものローションを取り出した。
中身を出して、俺の乳首に塗る。
「あっ」
指で転がされると、ヌルッとして、まるで口でされているような感じがした。
初めての感触で、こういう使い方もできるのかと頭のどこかで感心する。
椎は、そうして乳首に指での愛撫を続けながら、もう片方の手で俺のベルトを外して、
ズボンのファスナーを下げた。
俺のモノはすでに大きくなっていて、椎はズボンを下着ごと足から引き抜いて床に落とすと、
いつも通り靴下も脱がして、足首に口づけした。
それから自分も服を脱ぎ、ローションから新たに中身を取り出して手に馴染ませ、
俺の後ろのすぼまりに触れた。
ローションのついた指があてがわれ、ぐっと押し入れられる。
「うっ」
中指がそのままゆっくりと一気に奥まで押し込まれるのを感じたが、
その苦しさも椎が指を動かし始めると、そのうち気持ちよさに変わった。
椎が、何度か出し入れを繰り返した後、指を一度引き抜いて、
人差し指を添えて二本を同時に押し入れる。
そして、指を動かしつつ、今度は口で乳首を愛撫してくる。
尖らせた舌で、乳首の先をつつかれて、
「ああっ」
背中が仰け反り、後ろが指を締め付ける。
椎の口の中は暖かくて、ローションもいいけれどこの方がずっと気持ちいい、と思う。
「いい?玲二」
「んっ」
俺の後ろが解れてきた頃合を見計らって、椎が指を一気に引き抜いた。
「今日はコンドームはつけないよ。玲二の中に直接出したい」
椎が言ったが、俺は、コンドームの必要性についてよく分かっていなかった。
男と女じゃないんだから、別につけなくてもいいんじゃないかと前から思っていたのだ。
それとも病気予防なのか?
俺が、よく分からないまま返事をせずにいると、奴は俺の足を持って広げ、
後ろに自分のモノをあてがった。
椎が力をこめると、入り口を押し広げながら、奴のモノが入ってくる。
ズッ、ズッと少しずつ進入し、そのほとんどが入ったところで、
椎は一度動きを止めて、俺の体を折り曲げるようにした。
顔を寄せて、俺の唇を塞ぎながら突きを再開する。
後ろで、俺の中と椎のモノが滑るように擦れあう刺激と、
口中で舌が滑りあう両方の刺激に、何も考えられなくなる。
「んっ、んっ」
椎の動きに合わせ、俺も奴のモノを求めるように腰を動かしてしまった。
椎も気持ちがいいのか顔を上気させて、息を荒くしている。
唇が離れ、そのまま突きのスピードを早めていくかと思ったら、
一定のリズムで、今までとは違う角度で突いてくる。何かを探しているような動きだ。
そのうち内壁の、上の方のある部分を奴の先端が擦ると、
イく直前の気持ちよさに似た感覚に襲われて、
「フッ…うっ、あっ」
自然にそれまでとは違う声が出た。
「ここか?」
椎が、宝物でも見つけたみたいな表情をして、何度もそこを穿(うが)つ。
「あ…はっ」
ものすごい快感の波がやってくるのを感じた。
揺られるたびに気持ちよさが背中を駆け抜けていく。
椎は、俺の体をもう一度グッと折り曲げて、
抱え込むようにしながら俺の感じるところへ向けて突いた。
「ああっ!」
大きな声が出てしまうのを止められない。
「痛いか?」
聞かれて、首を横に振る。椎が嬉しそうにする。
「そうか」
奴の動きが激しさを増した。
痛みは全く感じなかった。ただただ気持ちよさだけ感じる。
初めてのときはあんなに痛かったのに。
激しい突きは続く。俺が感じる箇所を、一回一回きっちりと外すことなく決めてくる。
「そこ、フッ…うっ、もっと、あぁっ!」
いつもより早いスピードで絶頂のときが近づいてくるのが分かる。
俺は気持ちよさの階段を猛スピードで駆け上がっていた。
「う…キツイ」
突然椎の動きが止まった。
止めないで欲しい。もうすぐ…もうすぐでイケそうなのに。
「悪い。イク」
次の瞬間、奴のモノが大きくなって弾け、俺の中で脈打つのを感じた。
椎が余韻を味わうように目を閉じている。
俺は、置いていかれたようで、空しい気持ちになり言葉もなく天井を見つめた。
「ごめん。我慢できなかった。こんなの初めてだ」
奴が、申し訳なさそうにする。
俺は横を向いて、咳払いをする人のように口に手を当てた。
「早漏…」
小さな声で呟く。
それを聞き逃さなかった椎は、信じられないという表情で俺を見た。
顔を赤くして俺を指差し大声をあげる。
「俺は早漏じゃないっ!!玲二の締まりが良すぎるんだ!」
俺は、もう一度ボソッと言った。
「どうかな」
俺に向けられた椎の指がわなわなと震えている。
「この間まで処女だったくせにっ。
…『もっと』とか言って欲しがるから感じたんだっ。
畜生、すぐに気持ちよくしてやるっ!」
「処女とか言うなよ」
椎が奮起した様子で、俺の手を引っ張って起こす。
「何」
「うつぶせになって」
言われてうつぶせになると、椎は俺の腰をつかんで引き寄せた。
自然、椎に向かって尻を突き出すような形になる。
「これ…恥ずかしい」
「いいポーズだ。すげぇエロい」
きっと、奴には全てが丸見えになっているに違いない。
あまりに無防備な格好だし、まるで、入れてくれとせがんでいるみたいでもある。
その格好で何気に下肢に力を入れたら、椎の出した精液が後ろから流れ出た。
「わっ。ちょっ」
びっくりして慌ててティッシュを取って押さえようとしたら、奴にその手を掴まれた。
「このままで」
「何言ってんだよっ!気持ち悪いっ」
それに、恥ずかしいっ!
精液が垂れて太ももを伝い始めるのが分かる。
椎は掴んだ手を放そうとせず、じっと俺のソコを見ている。
「むっちゃエロい」
目の前の光景に興奮したのか、椎の鼻息が荒くなっている。
奴のモノが、また勃ち上がって大きくなってきた。
「ちょっとそのままでいろ」
動こうとする俺を、椎は手の平で制した。
すぐに入れてくるのかと思ったら、ベッドの下に手を突っ込んで何か探している。
下には物入れが置いてあるらしく、ローションやコンドームなどが入っているのだが、
見たことがないので、他に何が入っているのか知らない。
ごそごそやっていた椎が何か取り出した。
それを見て、俺はビビった。
「ちょっ、何だよそれ!」
椎が俺の反応を見て、楽しそうにニッと笑う。
「何って、大人のオモチャだよ」
奴が手にしていたのは、奴のモノより明らかにでかいナニを模した、
雑誌なんかでは見たことあるけど、実際には初めて目にする大人のオモチャだった。
「まさかそれを…」
呆然としながら言うと、奴は悪びれた様子を全く見せることなく首を縦に振った。
「それしかないだろ?他になんに使うんだよ」
嘘だっ。
椎のモノだって、苦しくて壊れるかと思うくらいなのに、そんなでかいのが入るわけないっ。
「あそこが壊れたらどうするんだよっ。ユルユルになったらどうすんだよっ」
「大丈夫だって。玲二のそこはこんなもので壊れたりしない。
いつだって感じればグイグイ締めつけてくる」
椎はローションの蓋を開け、
「俺の出したので滑りはよくなってると思うけど一応」
それをたっぷりと手に取って、オモチャにまんべんなく塗りつけた。
ど、どこでそういうの買ってくるんだよ。
「ああ。なんかもう俺の入れたくなってきた」
興奮してきたのか、椎が上ずった声を出す。
じゃあ、お前のを入れればいいだろうが。
「俺はお前のがいいよ。なんでそんなのがいるんだよ」
椎は、その言葉にハッとしたように顔を上げて俺を見た。
俺はまだ尻を上げたままの格好で、なんとも恥ずかしい。
「玲二からそんな言葉が聞けるなんて」
感動した、という表情をした後、俺の後ろへ回る。
奴の手が俺の尻のすぼまりの近くに置かれて、ビクッとする。
椎はそこを左手の指で軽く広げて、中心に右手の中指を当てた。
そのままぐっと力がこもり、
「あっ…」
ローションがついていたらしいのと、奴の出したので滑りが良くなっていて、
スムーズに入ってくる。
椎は、何回か出し入れを繰り返したり、
本数を増やして俺が感じる側を擦るように動かした後、指を抜き取った。
次いで、冷たく固いものが同じ場所にあてがわれるのを感じる。
「えっ、ちょっと待ったっ」
俺は焦った。振り返ると、椎がさっきのオモチャを手にしている。
「なんでそれ入れるんだよっ!」
俺はお前のがいいって言って、お前も感動した風だったのに、なんでそれなんだ!
そんなの入れて何がしたいんだ!!
「大丈夫。ローション塗ってあるし慣らしたから、きっと楽に入るよ」
「そういうことじゃなくて!」
「じゃあ、入れるよ」
人の話を聞け。
次の瞬間、椎の手にしたものが、押し入れられる。
「ああっ」
それは入り口を大きく押し広げながら進入してきた。
「や…いやだ、そんなの、入らない」
俺は、尻を突き出したまま額を枕に押し付けて圧迫感に耐えた。
椎は、いったん動きを止めて、少し引き抜いた後ぐっという感じで打ち込んでくる。
「はっ、ああっ」
同じことを何度も繰り返す。
そのうち、途中で進まなくなる箇所があったが、奴は焦ることなく、
他の場所を愛撫しながら徐々に徐々に丁寧に進めることを試みた。
時間をかけた行為に、次第に体がじっとりと汗ばんでくる。
そしてとうとう、俺はそれをほとんど飲み込んだらしい。
「入った」
椎が嬉しそうに呟くのが聞こえた。
後ろが大きく開かれて、でかい異物を咥えこんでいるのが分かる。
「あ、ああ。もう、ふ…ぅ…」
すさまじい圧迫感に、息をするのも苦しいくらいだ。
「はっ、う…」
自然、腹に力が入って、咥えているモノを押し出してしまいそうになる。
それを椎が押し留め、手で押さえたまま横に来る。
空いた手で俺を抱きかかえるようにして、うつぶせから仰向けに寝返らせる。
仰向けになって足を閉じると、押し出してしまいそうになる感覚がいくらか薄らいだ。
「玲二…」
椎が優しい声で俺の名を呼び、俺の前髪をかきあげた後、唇を塞いだ。
「んっ。んっ…」
奴の舌が俺の舌を探す。
それに応えて舌を絡めると、自分の熱い塊を俺の腰に押し付けてきた。
後ろの中はどんどん熱くなって、さっきまで冷たかったモノも温もりを持ち始めている。
唇が離れ、椎は俺の上に跨った。それもお互いの頭を逆にして。
つまりシックスナインの体位だ。
目の前に、すでに硬く大きくなった奴のモノがある。
「咥えて」
椎が言い、腰を落とす。
そそり立ち、先端には先走りが光っていてはちきれんばかりだ。
苦しそうなそれにそっと舌を伸ばしたかけたとき、奴が俺のモノを口に含み、思い切り吸い上げた。
「うっ」
快感が体を駆け抜ける。後ろが締まってそこに入っているモノを締め付ける。
後ろのそこを、椎は見ている。
大きな玩具を飲み込み締めつけるそこを、見ながらフェラを…
そう思ったら感じて来て、俺は目の前のモノにしゃぶりついた。
夢中で吸ったり舐めたりする。
それは硬く大きく、頬ばると口の中がいっぱいになった。
「んっ。んっ」
唾液が溢れ、よだれが口の端から流れ落ちる。
それを拭って、その手で椎の尻に触れた。
奴のすぼまりに中指を当て、そのままグッと力を込め挿入する。
「ん、あぁっ」
椎が聞いたことのないよがり声をあげ、それを聞いた途端、俺は奴の口の中に射精した。
ビクッ、ビクッとペニスが脈打つのに合わせて、後ろが、
飲み込んだモノをこれまでにない強さで締め上げる。
「ああーっ!!」
その感電したような刺激に、大声をあげてしまう。
次の瞬間、今度は奴が俺の口の中に放出した。
注ぎこまれる精液を、どうすることも出来ずにゴクリと飲み込む。
俺の上から降りた椎が、体の向きを変えて頭をこちらへ向けると、隣にゴロリと横になった。
俺は心臓の激しい鼓動を感じながら目を閉じた。
ふと椎が横から寄り添う気配を見せる。
手を俺の腰に回し、俺を抱きしめて後ろを向かせると、
抜けかけた俺の中のオモチャをもう一度ぐっと押し入れた。
気持ちよさと苦しさに同時に襲われて、身震いがする。
初めて見たときは大きすぎると思ったのに、今では抜いて欲しくない気持ちが強くなっている。
「いいだろ?玲二のここは、もう喜んでる。そのうち、もっと大きいのが欲しくなるかも知れない」
椎は言いながら、オモチャの出し入れを始める。
「そんな…あ…もう」
心臓の鼓動がまた激しくなってくる。
気持ちよくて、下半身全体がこれ以上ないほどの疼きを感じる。
こんなに良くなってしまうなんて、俺はいったいどうしてしまったんだろう。
どうなってしまうんだろう。
後ろの中が快感で満たされて、体が爆発してしまいそうだ。
椎が、少しずつスピードをあげる。
「はあ……ああ…」
「玲二…気持ち、いい?」
「ん…」
何故か素直に返事をしてしまった。
これで気持ちよくないなんて、とても言えない。
「玲二、こっち向いて」
言われて後ろを振り返ると、唇を吸われた。そのまま舌を絡める。
「ん、んんっ」
椎の右手が胸に触れ、突起を探し当てる。
立ち上がったそれを指先で転がす。
快感に快感が重なって、どんどん膨れ上がっていく。
心臓が波打って、何も考えられない。
チュッ、という音を立てて唇が離れた。
「はっ、あっ、椎、俺もう…」
限界、と言おうとしたら、椎が手を伸ばして俺のモノを握った。
「あっ!」
同時に首筋も吸われる。一瞬頭が真っ白になり、あっという間に、
「ああああーっ!!」
俺は、中のオモチャを目いっぱい締め付けながら、また達した。
体の力が抜けて、頭がぼーっとする。
椎は俺の中からオモチャをゆっくりと引き抜いて、代わりにその場所に自分のモノを押し当てた。
俺のソコは、痺れていてあまり感覚がなかった。
「もっと…もっと玲二と、いいことしたい。
だけど、ごめん。今日はやりすぎだったよな」
椎が、珍しく殊勝なことを言い、俺の首筋に顔を押し付けて、抱きしめる腕に力をこめる。 俺は目を閉じた。
どうしてか、いつも事が終わると、すぐに猛烈な眠気に襲われてしまう。
今日は昨日と違って、ちゃんと寝たのに。
「玲二…?」
すぐにも眠りに落ちてしまいそうな感覚に襲われて、返事もできないでいると、
椎は俺の尻に押し当てていたせいか復活した自身のモノを、痺れているソコにあてがった。
やりすぎだったと言った、その舌の根も乾かないうちに入れようとしているのだろうか…
まったく、どんだけ元気なんだよ。
奴が挿入しようとする。やがてゆっくりと入ってきた。
それが分かったが、されるがままになっていた。
ローションの効果がまだ残っていたのか、さっきまでもっと大きなモノに広げられていたせいか、
それとも力が抜け切ってしまっているからなのか、ほとんど抵抗もなく、
ゆっくりとだが完全に飲み込んでしまう。
奴のモノが奥まで入ったことは感じたけれど、じっとしていた。
何をしようと好きにすればいい。第一、体が動かない。
どうぞご自由に。
中が暖かくなって、じわっと気持ちよさが広がる。
でも椎は、入れた後、そのままの姿勢で動かなかった。
「何もしないよ。ずっと、こうして入れたまま眠ってみたかったんだ」
安心したような、穏やかな声で言い、胸を背中にピッタリと密着させる。
俺は椎の言い草がおかしくて、ふっと息を吐いた。
何もしない、って、これはしてることにならないのか?
「あったかい」
嬉しそうだから、いいか。
でも勃ったまま、出さずにいるのは辛いだろうに。
「玲二…」
「ん」
「ずっとそばにいて」
俺はまた笑った。なんだよ、しおらしいな。
でも…
そうだな。悪くないかもな…
俺の中は椎のモノで満たされている。背中に感じる奴のぬくもり。
ああ。もっと俺を、いっぱいに…いっぱいにして欲しい。
そんなことを考えた後、気を失うように意識がすっと遠ざかり、俺は深い眠りに落ちていった。